いつもと同じ青空……なのにどうしてこんなに寒々しく見えるのだろう

いつも満たされていない空虚感……与えられなかったモノ……捨てられた子供

自分は捨てられた……あの時からそれを認める事が出来なかった 今でも……



「ミドリ……どうしたんだね」

私はホテルの窓際の椅子に座って窓の外の風景を見て物思いにふけっていた。

「なんでも無いの……おじいちゃん」
なんでも無い……そう……そう思い込むしか私には残されてないの


僅かに開かれた窓から 通勤途中の人々が踏みしめるアスファルトの音を聴いていた。
みんな……どうしてるかな」私は椅子から立ちあがって窓を閉めた



裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 11A

第11話【別離】Aパート




その頃、碇家では……

「アネキ ふりかけ無い?」

「はい、玉子ふりかけ」

家族の誰もが、必要最低限の事しか喋っていなかった……
昨夜、ミドリが手紙を残して姿を消した事を母さんが皆に伝えてからである……

「ローラちゃん……まだ降りて来ない?」アヤさんが心配そうに階段の方角を見つめた。

「僕……見てきましょうか」

「そっとしておいてあげなさい 今日、保育園には休むと伝えてあるから」母さんが下を見たまま言った。

「ローラちゃんのお母さん戻って来るの、明日よね……」ミライがそっと口を開いた。

「ミドリちゃんの両親も明日、戻って来るんだけど……」母さんが箸を置いた。

「あ、もうこんな時間よ 早くいかなくちゃ」ミライが急に席を立った。

「あ、ほんとだ それじゃ行ってきます」

「気をつけてね


その頃・・第三新東京都内のホテル「Occident

「ミドリ……朝食はもういいのか?」
「うん……食欲があまり無いの……おじいちゃん」
「そうか……なぁミドリ……」
「なに?おじいちゃん」
「本当に空港に行くつもりは無いのかい?」
「……ごめんなさい」
「いつかは解りあえる時も来るだろう……だが、親というものはいつまでも生きていてはくれん……
 その時になってから後悔するような事の無いようにな……わたしはセカンドインパクトで親を亡くしたんだが……
 これから孝行しようかという時期だった……海の底に沈んだ旧東京に花束を投げ入れる事しか出来んかった……」
「…………」
「ま、明日までに良く考えておきなさい……」


二年A組

試験を明後日に控えて、今日も半日で授業が終わり、ホームルームを残すだけとなっていた。

扉が開き父さんが端末を持って現れた。

「起立・礼・着席」

鈴原委員長の号令の後、父さんが話を切り出した。

「え〜君達と一緒に勉強していた、樹島ミドリ君だが……御両親の都合で急遽転校する事になりました」

「またかよ……このクラス転校が多いな……」
「今年に入ってから二人目だっけ……」


「みんな、授業中よ!私語は慎みなさい」鈴原さんが注意してやっと教室のざわめきが収まった。

「えー明後日から試験も始まる事だし、悔いの無いように勉強する事 それでは、HRを終わります」

僕たちは帰り支度を始めて、終わったものから教室を出て行っていた。

「シンイチ、帰ろうよ」ミライが声をかけて来た。

「うん……机の引き出しの中を整理しとかないと……明後日は試験だし」

「まだ終わって無かったの? 私は昨日やったのに」

「昨日は、ムサシ達に誘われて終わってすぐ、図書室で勉強会だったから……」

「まぁ、いいわ 手伝ってあげる……」ミライが微笑んだ。

「いや、僕の方はいいんだけど……ミドリさん、もう学校に来ないんだよね」
僕はとなりのミドリさんの机を見た。

「私物でも残ってるの?」

「うん……けど勝手に触るのも……」

「まぁ、大事な物とかあるかも知れないし、私がミドリさんの机を片づけるわよ」

「うん そうだね お願いするよ」


「ねぇ……ミドリさんは、どうしてこんなに急に転校になったのかしらねぇ」

「うん……ご両親が明日帰って来るのは解ってたと思うんだけど……」

「あら、ミドリさん端末置いて行ってるわね……」

「え? あ、けど返却するからじゃ無いかな……」

「あら、ランプが点滅してる……サスペンドモードみたいね まだバッテリーが入ってるのかしら」
ミライはノートタイプの端末の蓋を開けた。

真っ暗だった画面に灯が点り、画面では作業中だったのか、エディターが立ち上がっていた。

「あまり見ちゃ悪いよ……ミライ」

「ちょっと黙ってて……」

「どうかしたの?」
画面に釘付けになっているミライを尻目に僕は自分の机の引き出しの中を片づけていた。

すでに他の生徒は帰り、僕たちだけが教室に残っていた。

僕はようやく片付けを終えて、ミライが見ている端末に目をむけた。

「駄目……シンイチは読まないほうがいい……これを読んだら、きっとシンイチは傷つくもの……」

「ミライ……」

「利己的な女だと言われてもいい……この文書はシンイチには見せられない……」


「ミライ……見るかどうかは、シンイチに委ねたまえ」

父さんが扉を開けて教室に入って来た。

「父さん……」

「パパ……」

「シンイチ……おまえが選びなさい……」

「読ませて下さい……」僕はミドリさんの椅子に座って、端末の画面のミドリさんの手紙を読んでいった。

「ミドリさんも僕と同じなんですね……異能が故に両親に捨てられた子供……」
僕は端末の蓋を閉じて立ち上がった。

「勘違いしてはいかん……レイはおまえを捨てた訳じゃ無い……私達に預けて行っただけだ……」

「預けたのは、1歳にもなって無かった頃なんでしょう? もう、僕は14歳ですよ!
 引き取る気があるんならとっくに迎えに来てもいいじゃないですか」

「それは……事情があるからだ……その時がくればおまえに全てを話す事を約束するよ……」

「シンイチ……」ミライが心配そうに僕を見つめていた。


父さんと僕とミライは歩きながら家路についていた。

「言い忘れていたが、その事は、ローラちゃんには言うなよ……」

家までもう、少しの所で、父さんが口を開いた。

「解りました……」

「ただいまぁ〜」
家のドアを開けて、僕たちは中に入っていった。

「あ、おかえりなさい、今からお昼御飯の仕上げをするから、ローラちゃんとお母さん呼んで来てね」
アヤさんの声がキッチンの方から聞こえた。

「じゃ、僕が呼んで来るよ……」

「あ、じゃこの鞄、部屋の前に置いといてよ」

「うん」

僕は自分とミライの荷物を手に持って、階段を上がっていった。

自分の部屋の中に入り、鞄を置き、ミライの部屋のドアに鞄をたてかけて、僕はミドリさんの部屋の前に立った。

「ローラちゃん……お昼御飯だよ……」

「食べたくないの……」

「気持ちは分かるけど、一人でそうしてたって、気分は晴れないよ……」

「開けるよ……」僕はドアを開けて中に入った。

「入っていいって言ってないのに……」ローラちゃんは目元を泣き腫らしていた。

「ほら、僕もついていってあげるから、お顔を洗って、御飯食べようよ……
 そんな顔してたら、明日お母さんが迎えに来ても、心配するよ」
 
「そんな……そんな事言ったって」

「ローラちゃんには、迎えに来てくれるお母さんがいるじゃ無いか
 ……お母さんを心配させちゃいけないよ」

「……シンイチ……ごめんね……」ローラちゃんは僕に抱き着いて来た。

「いいんだよ……ここにいる、みんなが家族なんだから……」

「例え……ミドリさんと離れていても、お互いの事を信じあっていれば、家族なんだよ」

「うん……私、ミドリお姉ちゃんを信じる……きっとまた会えるよね……」

僕は返答の代わりに、ローラちゃんを力強く抱きしめた。


そして、翌日

「ミドリ……もし行く気になったのなら……第三新東京空港に2:45分着だから……
 弁護士さんのところにも行くから、もう夕方まで戻らないからね……」

今日は曇ってるのね……今にも雨が降り出しそう……
私は右手を握ったまま、窓の外を凝視していた。




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どうもありがとうございました!


第11話Aパート 終わり

第11話Bパート に続く!



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