裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 12B

第12話【戦士の休息】Bパート




「災難だったわねぇ……」アヤさんはミライに服を手渡して言った。

「なんて事無いわよ……こないだにくらべたらね」服を受けとりながらミライの肩は小刻みに震えていた。

「ローラちゃん 美味しい?」

「ウン!」明石焼きの汁を口元に付けたままローラは微笑んだ。

「更衣室はそこの角を曲がった所にあるから」
「じゃ、ちょっと着替えて来るね」

「……」僕はローラちゃんの横に座って、明石焼きを食べはじめた。

「あ、シンイチ君は飲み物何にするの?」アヤさんが仕切りから顔を覗かせて言った。

「ジンジャーエールは無いですよね」

「あるわよ」

「じゃ、お願いします」

2−Aを改装した店内は客もまばらであった。

「はい、どうぞ」
旧世紀にとあるレストランが採用したと言う制服を着たアヤさんが左手にトレイを持って現れた。

「似合ってますよ」僕は肩の力を抜いて、アヤさんに声をかけた。

「ありがと けどスカートが短いし、胸元も開いてるから、なんか落ち着かないけどね」
アヤさんは僕の前にジンジャーエールを置きながら言った。

「はい、ミックスジュース あとでケーキもって来るからね」

「わーい ありがとぉ」

「助かったわ けど、私が私服着ちゃっていいの?」

「今 交代要員が食事に行ってるから、帰って来たら私、フリーになるから着替えて出ようと思ったけど……」

「その服似合ってるじゃない その服で出ればいいのよ」

「ちょっと恥ずかしいけど、そうしようかな……あ、ミライは飲み物何にする?」

「私はグレープフルーツジュースね」

僕はミライの緊張を解きほぐす為、ケーキを食べながら世間話をしていた。


「あ、遅くなってゴメンね アヤ」交代要員の洞木ミユキが現れた。

「あら、ゲンちゃんは、今日はフリーでしょ?」
ミユキさんと一緒に現れた六分儀ゲンさんを見てアヤさんは声をかけた。

「もう……アヤったら……一緒にお昼してたのよ」
「そうだったの……私全然知らなかった」
「クラス内で知らなかったのはアヤだけよ……親友なのに黙っててゴメンね けど、普通気づくと思ったの」

「あ、シンイチ君 ミライちゃん いらっしゃい」

「どうも」

「あ、ミユキさん おひさしぶりです」

「あ、ミライちゃん 前欲しがってたあのCD借してあげるから今度いらっしゃい」

「ホントですかぁ? ありがとうございます」

「それじゃ、アヤ いってらっしゃい」

「じゃ、後片づけまでには戻って来なさいよ」

「じゃ、いって来るわね」アヤさんはエプロンだけを外して、教室改造の模擬店舗を出た。

「さぁ、どこから行きたい?ローラちゃん」アヤさんは学内の見取り図を取り出して言った。

「うーん バザールにする」

「じゃ、体育館ね 行きましょ」

「あ、アヤさぁ〜ん」渡り廊下に面する中庭で模擬店をやっていた男子生徒がアヤさんを見つけて声をかけて来た。

アヤさんはにこやかに手を振って答えていた。

「一年生?」ミライがアヤさんに声をかけた。

「ええ、いつも声をかけてくれるのよ」

「もてるのね アヤお姉ちゃん……焼き餅焼いちゃダメよ?シンイチお兄ちゃん」ローラちゃんは僕のズボンの膝の付近を引っ張った。

「もう、ローラちゃん 年相応の事言わないと可愛げが無いわよ」ミライが笑いながら注意した。

「可愛げが無くてもいいもん 私が愛想を振りまくのは一人だけで充分なの」そう言いながらローラちゃんは僕に抱っこをせがんだ。

「人が増えて来たし、体育館までだよ」僕はローラちゃんを抱えた。

「アヤお姉ちゃん……羨ましい?」ローラちゃんは僕の腕の中からアヤさんに話しかけた。

「あぁ〜いいなぁ じゃ、私は背負って貰おうかな」アヤさんは笑いながら僕の背中にしがみついた。

ふにっ (c)加藤喜一 アヤさんの温もりを一瞬感じたが、ローラちゃんが頬を膨らませて言った 

「ダメぇ 今は私が借りきってるんだから」

「えぇ?ダメなの?ローラちゃんのけち……今晩プリンを作ってあげようと思ったのに……」

「プリン? 食べたぁい……アヤお姉ちゃん 作ってよぉぉ」

「じゃぁ、私にもシンイチ君を分けてよ」

「それはダメぇ だけどプリンは食べたぁい」

「もぉ〜アネキも何やってるのよ……恥ずかしいなぁ」

困った顔をして哀願するローラちゃんの顔を見て、僕達は笑いを堪え切れず笑いだしてしまった。

「何笑ってるのぉ?もぉ……」ローラちゃんは僕の腕の中で困惑していたが、つられてローラちゃんも笑いだした。

胸のつかえも無く、こんなに腹の底から笑えたのは、久しぶりであった。

ようやく笑いがおさまった僕達は体育館に歩いていった。


「うわぁ凄い人ねぇ」出店等で腹を満たした人々の多くが体育館のバザール会場に集まっていた。

「あ、お手洗いに行きたい……」体育館の入り口でローラちゃんが言ったので、ローラちゃんを降ろした。

「私もお化粧直したいし、一緒に行こうか?」

「ウン!」

「じゃ、中に入ってるから、もし迷ったら校庭のもみの木の前で待っててね 大きい木だからすぐ解るから」アヤさんはミライに声をかけた。

「じゃ、入ろうか……」僕は体育館の方を向いて言った。「そうね……」アヤさんの返事を確認してから僕は歩きだした。

だが、体育館入り口の辺りは凄い人込みで、中に入るのに苦労していた。

僕はそっとアヤさんに手を差し伸べた
「……」アヤさんはすこし経ってからおずおずと僕の手を握った。

僕はアヤさんの腕を引きながら出来るだけ人の少ない方へ進みながら中に入った。

体育館の中は広いので、手を繋ぐ必要が無くなったので、僕は手の力を緩めたが……

「……(もうちょっと……繋いでていい?)」アヤさんの微かな思念を感じ取った僕は手に力を入れた。

「……(ありがと)」

大勢の人の喧騒の中、僕はアヤさんの思念と左手の温もりだけを感じていた。

ふと人込みを避ける為、出店の側を通っていた時、僕はアクセサリーを売っている店の店先に並んでいる商品に目がいった。

「ちょっとここ見ていこうか」僕はアヤさんに声をかけてそっと手を離した。

アヤさんは目を輝かせながら可愛いアクセサリーを見ていた。


(アヤさん……テントウ虫好きだよな……テントウ虫のブローチを持ってたし……)
僕はさりげなく……のつもりだったが、角をそっと曲がって店員にぎくしゃくしながら問いかけた。
「すみません……あれ下さい」
アヤさんが見ているコーナーの横にあるテントウ虫が羽を開いたデザインの刺繍が施されたスカーフを見えないように指差した。

「包装……お願い出来ますか?」
「プレゼントかい?兄ちゃんやるねぇ」
男子生徒が気を効かして、商品を並べ替える振りをして、そっとスカーフを手に取ったので、アヤさんには気づかれていなかった。
「あ、包装は別で、その小さいピンクのハンカチと、レース仕立てのヨットの刺繍入りの普通サイズのハンカチも下さい」
僕はローラちゃんとミライにプレゼントする分も買い込んだ。

「沢山買ってくれてありがとよ 3600円だけど、3000円でいいよ」

「ありがとうございます。」僕は手さげ鞄に包装紙を入れて、アヤさんのいる方に周っていった。
アヤさんの父親である父さんに貰ったお金でアヤさんにプレゼントをしたく無かったから、
ムサシと時折学校に隠れてバイトしたのも無駄にならなかったと僕は思った。


「何かいいのある?アヤさん」

「ハンカチは私一杯持ってるから……」

アヤさんと手が触れた時、アヤさんの方から僕の手をそっと握った。

(こんな時でも無いと……手繋げないから……いいでしょ?)

「じゃ次、行こうか」僕はアヤさんと手を繋いだまま、いろいろ店を回って行った。

あちこちに足を止めて、冷やかしたりちょっとした物を買っていたが、ミライとローラには出会わなかった。

「ミライ達、どうしたのかしら」

「うーん 広いから別の所周ってるのかも知れないね」

「じゃ、迷った時に待ち合わせ場所に行きましょうか」

「そうだね 待ってるかも知れないし」

人込みもだいぶ緩和していたので、僕達は難なく体育館を出る事が出来た。

僕はアヤさんが指差した、校庭隅にある大きいもみの木まで歩いて行った。

「近くから見たら、凄く大きいなぁ……」太陽の明かりが木の葉の間から漏れて眩しさに目を細めた。

「私、ここが一番落ち着くの」アヤさんはもみの木に背中をあずけたまま目を閉じていた。

「へぇ そうなんだ……」僕はアヤさんの斜め横に歩いていって、アヤさんと同じように背中を木に預けて目を閉じた。

校庭の中央付近や体育館の人の声も自然と耳に入らなくなり、僕は安らいだ空間の中で身体の力を抜いていた。

(今日はありがと……一緒に手を繋いで買い物して……嬉しかった)

モミの大木を伝わり、アヤさんの思念を僕は受けとった。

(僕も嬉しかったです……今日は……何と言っていいか解らないけど……心が安らぎました)

僕は木から離れ、鞄から一回り大きいスカーフのラッピングされた包み紙を取り出し、アヤさんの前に立った。

「その……、プレゼントなんだけど……」僕はアヤさんに可愛いラッピングが施された包み紙を差し出した。

「プレゼント?」アヤさんは目の前の包装紙を見入っていた。

「私に?」

「ちょっと早いけど……来月はアヤさんの誕生日だから……」

「あ、ありがと……開けてもいい?」

僕は黙って頷いた。

「可愛い……テントウ虫の刺繍だなんて……素敵」

「テントウ虫のブローチとか持ってたから、テントウ虫好きかな?と思って」

「ありがとう……シンイチ君」アヤさんは頬を少し染めながら、美しい笑顔を僕に見せてくれた。

「気にいって貰えたかな……」

「私、小さい時に、誰かは知らないけど奇麗なお姉さんがしてたテントウ虫のブローチが欲しくて駄々こねたの……
そしたら、その碧い髪の奇麗なお姉さんが、泣いてた私の服に付けてくれたの……それ以来テントウ虫は大好きよ」

「喜んで貰えて、嬉しいよ」



アヤさんは早速スカーフを首に巻いて微笑んだ。

僕は、この笑顔を守る為なら何でも出来る気がした……



「をいをい……伝説の木の下見ろよ ったく、大胆なやつらだなぁ」
「まったくこんな所で……ここの事知らないなら中坊か? こんな所で打ち明けたら明日には校内に知れ渡るのに……」
「普通卒業式の日にあそこで告白するって言うけどよ……俺達も来年は卒業かよ……」
「ちったぁ真面目に就職活動でもするか……」
「ああ……」自らの悪事が写されている証拠写真を焚き火に放り込みながら二人は呟いた




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どうもありがとうございました!


第12話Bパート 終わり

第12話Cパート に続く!



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