「ありがとう……シンイチ君」アヤさんは頬を少し染めながら、美しい笑顔を僕に見せてくれた。

「気にいって貰えたかな……」
「私、小さい時に、誰かは知らないけど奇麗なお姉さんがしてたテントウ虫のブローチが欲しくて駄々こねたの……
そしたら、その碧い髪の奇麗なお姉さんが、泣いてた私の服に付けてくれたの……それ以来テントウ虫は大好きよ」
「喜んで貰えて、嬉しいよ」
アヤさんは早速スカーフを首に巻いて微笑んだ。
僕は、この笑顔を守る為なら何でも出来る気がした……


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 12C

第12話【戦士の休息】Cパート



「あ、いたぁ〜」

「何そんな所でいい雰囲気になってるのよ」

僕達を見つけてミライとローラちゃんが走って来た。

「あら、どこ周ってたの?ミライ」

「体育館の中にいたわよ」

「僕達も中にいたんだけど会わなかったね」僕は緊張のあまり滲み出た額の汗を拭いながら言った。

「まぁ、あの人込みだったからねぇ……まぁいいか」

「次はどこに行くのぉ?アヤお姉ちゃん」ローラちゃんはアヤさんに抱きついていた。

「そうねぇ 3−Cで自主制作映画やるって言ってたわねぇ あと面白そうなのは1−Aの人形劇かな」

「両方行きた〜い」ローラちゃんは瞳を輝かせた。

「いいわよ 両方行きましょ」

「わぁい あれっ?アヤお姉ちゃんそれどうしたの?」ローラはアヤが首にしているテントウ虫のスカーフに目がいった。

「これ?私、来月が誕生日だから、シンイチ君が買ってくれたのよ」

「あぁ〜いいなぁ 私に頂戴っ」

「ダメ これは私のなんだから けどローラちゃんの誕生日には何か貰えるかもよ」

「ホント? じゃ今から頼んでおこうっと」ローラちゃんはアヤさんから離れて僕の方に歩いて来た。

「お誕生日とは別だけど、これ プレゼントだよ」僕は鞄の中から出しておいた包装紙に包まれたハンカチを差し出した。

「わぁ ありがとう 大事にするね」

「ミライの好きそうなレースだったから、買っておいたんだ」僕はミライにも差し出した。

「あ……ありがと」ミライは少し驚きながらも笑みを浮かべた。

「でも……こんなんじゃごまかされないわよ……伝説の木の下でいい雰囲気だったって事は忘れないから……」
ミライは苦笑しながら言った。

「伝説の木?このもみの木に伝説なんかあるの?」僕は木を見上げて言った。

「シンイチは知らないの?有名なのに……知らなかったのなら許してあげるわ」ミライは僕の肩をぽんぽんと叩きながら言った。

僕は訳が解らず、困惑してしまった。


「じゃ、開演時間を調べましょうか」アヤさんはパンフレットを見ていた。

「今の時間だと、人形劇が二時から30分間 3時から3時45分まで映画で両方見れるわね」

「今1時40分か……20分ぐらいあるわね」ミライは時計を見ながら呟いた。

「暑いし、冷たいものでも食べる?ローラちゃん」

「うん!」

「じゃ、買って来てあげるけど、どんなのがいい?」


「あのね 校庭の屋台に”あいすくりん”ってのがあったの あれ食べたいな」

「アイスクリンだね 買って来るよ」僕は校庭の向こうの方にあるパラソルを見て歩きだした。
「一人じゃ4人分も持てないでしょ 私も行くわ」ミライも後を付いて歩きだした。


僕達は人通りも少ない校庭のまん中を歩いていた。

「ねぇ……シンイチ あと二年もしたら私たちもこうして高等部を歩いてるのかしらね……」

「……」

「どうかしたの?」

「僕は高校には行かないよ……中学を卒業したら働こうと思ってるんだ……」

「ど、どうして?働くって言っても中卒と高卒じゃ生涯収入が3千万も違うって言うわよ」

「……とにかく、もう父さん達にこれ以上迷惑をかけたく無いんだ……」

「どうして、そういう事言うのよ……パパもママも迷惑だなんて思って無いのに……」

「そういう父さんや母さんだからこそ、余計に迷惑はかけたく無いんだ……」

「言わんとする事は解るけど……それは単なる自己満足だと思う……シンイチの気持ちも解るけどさ」

「けど、その事いつかはパパに話さないといけないのよ……多分来年も担任だし……」

「……」

「サードインパクトから10年ぐらいは特別措置の特待生制度が全国の高校であったそうなんだけど、今はそんな学校無いのよね」

「ムサシと時折バイトしてる所があるんだけど……中卒でも雇ってくれるって言ってたんだ。」

「どんな会社なの?」

「新聞配達を請負ってる会社だよ……契約している新聞会社の勧誘もするんだけど……」

「ずっとその仕事をするつもりなの?」

「そうじゃ無いけど、学費を稼いで……高校の勉強もして大検を取ろうかと思うんだ……アパートも用意出来るみたいだし」

「って、家を出るつもりなの?」

「朝も早いし、家にいたら迷惑かけるし……もう皆に迷惑かけたく無いんだよ……みんなの事は家族のように思ってるけど、
 けじめが必要だと思うんだ……中学卒業まではお世話になるつもりだったけど、卒業してからは……」
 
「パパもママもアネキもそれ聞いたら泣くわよ」

「いつまでも、碇家の厄介者でいたく無いんだ……解ってくれよ」

「解らないわよっ なんで出て行く必要があるのよ!」

「僕は所詮居候なんだ。僕がいなくなっても、本当の家族の皆がいるじゃないか……」

「シンイチ……あなたそんな事考えてたの?」ミライは心なしか泣いているように見えた。

「父さんは冗談めかしていろいろ言うけど……産まれてすぐにお世話になって、黙ってたら高校・大学も行かしてくれるだろうし、
もしかしたら婿養子としてそのまま迎えられるかも知れない……けどそんなの嫌なんだ……
ミライやアヤさんが嫌とか言うんじゃ無いんだけど、そんな引け目を感じたまま、暮すなんて堪えられないと思うんだよ……」

「シンイチは男だもんね……その気持ち……なんとなく解るけど……でも わたし……物心ついた頃からシンイチといるのよ
 今さら家族じゃ無くなるだなんて、堪えられないわよ」ミライは涙を隠すかのように横を向いた。

「その……なんと言っていいか解らないけど……ごめん……まだ時間あるんだし……ゆっくり考えるから」

「ほんとに?」ミライは横を向いたまま答えた。

「うん……(いつか篭絡してやるんだから……離れられなくしてやるから覚悟しなさい)」

僕は背中に一瞬寒気を感じた。


「海に沈んだ高知の桂浜で売っていたと言う”1+1=2”ブランドのアイスクリン復刻版だよ さぁ買った買った」
三年生と思われる生徒が大声で客寄せしていた。

「4つ下さい」僕は財布から小銭を出して言った。

「はい、4つね」

「隊長!手の感覚が無いですぅ」
「バカモン!この文化祭の稼ぎだけが我等の唯一の活動資金なんだぞ!弱音を吐くな!」
「そんなぁ……」

「同好会ですか?」僕は興味を覚えて話しかけた。

「ん?君は中等部かね なら知らないのも無理は無いが、我々は、碇アヤ親衛隊のものだ。
 2年A組の我らがアイドル碇アヤさんの誕生日を来月に控えているから、こうしてプレゼント代や、
 広報活動の為の資金を稼がねばならんのだよ」
 
「そ、そうですか……頑張って下さい」僕は頬が引きつるのを感じた。

噂では、かなり過激な人達もいて、時折中学校の上級生の女子から調理実習の後ケーキを貰う事があるのだが、
時折スイカの種が入ってるのも、高等部からの差し金だとか……

僕は気づかれていないことを神に感謝して、手渡された二個のアイスクリンのコーンカップをミライに渡した。

「へぇ〜アネキに親衛隊なんているの……」アイスクリンを受けとったミライが呟いた。

「あねき?もしかして、妹さんがいると聞いてるが……」

「げっ……」僕の悪い予感は外れた事が無いのだ……

「中等部二年の碇ミライです 姉がお世話になってます」

「お姉さまに宜しくお伝え下さい!」ミライに頭を下げてから僕に残りの二つのアイスを手渡した。

「隊長!もしかして横にいるのが噂のシンイチって奴じゃ無いんですか?」

「なにっ!? おまえシンイチなのか?」隊長と呼ばれた三年生らしき生徒が僕に詰め寄った。

「え?……」俄に空気が張り詰めて来たのを感じて僕は硬直した。

「シンイチなのか?と聞いている……」隊長と呼ばれた男はずいっと僕の方に寄って来た。

「え……僕は碇さんのクラスメイトのムサシと言います」


僕は咄嗟に嘘をついてその場をごまかそうとした…………



「シンイチお兄ちゃん 遅いぃ〜なにやってるのぉ?」後ろからローラちゃんの声が聞こえたので、
僕はミライに目くばせして脱兎のように走り出した。

「ローラちゃん 走って!」

「え?」
「いいから走るのよ」

「やはり、キサマがシンイチだったのか!」

「隊長!シンイチの目は紅いって話ですから間違い無いですよ」

「バカモノ!それを先に言わんか!」


僕は二人が口論をしている間に校庭のまん中まで逃げる事が出来た。
なんとか手にしたアイスクリンをこぼさずに逃げる事が出来たのは僥倖だろう。
さすがに店を放ってまでは追いかけて来なかったようで僕は胸を撫で下ろした。


「さっきの人達、悪い人だったの?」ローラちゃんが不思議そうに声をかけてきた。

「そんな事は無いんだけどね……はい、アイスクリン」僕はローラちゃんにアイスクリンを手渡した。

「わぁいありがとぉ」ローラちゃんは物珍しそうに眺めてから小さい舌を出した。

「遅かったのね」アヤさんが木陰から僕達に声をかけた。

「……混んでたからね」ミライはアヤさんにアイスクリンを手渡した。

僕達はもみの木の陰に移動してアイスクリンを食べはじめた。

「それじゃ、人形劇と映画行きましょうか」アヤさんはローラちゃんの頭を撫でて言った。

「あぁあと3分しか無いよ 急がなきゃ」ミライが時計を見て叫んだ

「走りましょう!」

僕達は校内に向かって駆け出していった。






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どうもありがとうございました!


第12話Cパート 終わり

第12話Dパート に続く!



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