裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 14A

第14話【巣立ち】Aパート




あれから一年……僕とミライは三年生になり、最後の中学校時代を迎えていた。
ローラちゃんは、傷の癒えた母親と共にドイツに帰国し、
アスカさんは先週からネルフの全権代表として、ドイツのブリュッセルで行われる、
ゼーレやネルフのような、対眷族の実行機関の代表が集まる国際会議に出席していた。
もっとも表だって開催される訳では無いので、アスカさんはドイツの遺跡の発掘を、
隠れ蓑にしていた。

だから、この家には父さんと、僕達だけになっていた。

1学期の期末テストも終わり、再来週からは夏休みが始まろうとしていた金曜日の夜……


「シンイチ……進路予定票を提出してないのは、おまえだけだぞ」
父さんは箸を置いて、僕に語りかけた。

「うん……週明けにでも提出するよ……父さん」 僕は御飯を飲みこんでから答えた。

「そうか……」 父さんはお茶を飲みながら何かを考えているのか、目を閉じていた。

「シンイチ君 おかわりは?」 アヤさんがしゃもじを手に立ち上がった。

「あ、半分ぐらいお願いします」 僕は茶碗をアヤさんに差し出した。

「あ、アネキ 私もね」 ミライも元気良く茶碗を差し出していた。

「育ち盛りだからねぇ」 アヤさんはニコニコしながら御飯をよそっていた。

「しかし、三年になっても、パパが担任だとは思わなかったわ」
ミライは茶碗を受けとりながら呟いた。

「すまんな 家でも学校でも窮屈な思いをさせて……」

「そんな意味じゃ無いのよ 三年になれば進路指導とかで三者面談とかが増えるでしょ」

確かに……アスカさんがいれば三者面談になるが、
アスカさんは最近また外国を飛び回ってるので下手すれば二者面談になるかもしれない。

「来週の末の進路に関する三者面談だが、母さんが間に合わないかも知れないそうだ」

僕達が提出する進路予定票を元に面談するらしいのだが……
これまでも何度かはあったけど……今度の面談が最後の面談になるだろう……

「案の定よね……お互いの事は知りつくしてるから、二人だけだと話の進めようが無いか
ら、その時間が長いのよねぇ……」 ミライがため息を付きながら御飯にお茶をかけた。

「確かに……他の生徒との手前もあるから、規定時間の間は話さないといけないからな」
父さんも頷きながら同意した。

「そういえば、小学校の時、家庭参観日に、パパが休めなくて私たちが文句言ってた時、
アネキが代わりに来てくれた事があったわよね……」
ミライが茶漬けを食べおえて呟いた。

「あ、そんな事もあったわねぇ……ミライ達が三年生の頃じゃ無かった?」
アヤさんは昔の時の事を思い出したのか、少し恥ずかしそうに答えた。


「じゃ、ご馳走様 明日明後日と休みだからって、あまり夜更かしするんじゃ無いぞ」
父さんはそう言って立ち上がり、鞄を手にして書斎の方に向かった。

残された僕とミライとアヤさんは、お茶を飲みながら昔の話に花を咲かせていた。

「もう8時半か……そろそろ片づけなくちゃね」 アヤさんは食事の後片づけを始めた。

「手伝いますよ」 僕もテーブルの上に残っているお皿を台所に運んでいった。

「ママがいないからって全部押しつける訳にはいかないもんね」

「ありがとっ ミライ シンイチ君 後で花火やらない?」

「花火? 買って来たの?アネキ」

「商店街の懸賞で、3等の花火セットを貰ったのよ……3等だから大きいわよ」

「それじゃ取り敢えず片づけてから花火大会ねっ」 ミライが腕まくりして言った。

三人がかりだったので、5分程で後片づけは終了した。


「で、花火はどこに置いてるの?アネキ」

「TVの上の引き出しよ」 アヤさんは手を拭きながら居間に出て来た。

「これ? 凄い量じゃ無い 私たちだけじゃ二時間はかかるかも……」

「ほんとだ……3等だからかな……打ち上げ花火もあるね」

「打ち上げ花火となると、裏庭でって訳にはいかないわね」 
アヤさんは打ち上げ花火が入ってるのを知らなかったようだ。

「じゃ、手縄山の公園はどう? シズカちゃんも誘えばいいし」

「そうだね……じゃ、僕はムサシとケイタを誘ってみるよ」
僕は学校から支給されているノート型パソコン内蔵の携帯フォンを取り出した。

「あそこは公園とは言っても、シズカちゃん家の神社が管理してるんだし、
先に許可貰うから、ムサシ達を呼ぶのはちょっと待ってね」
そう言ってミライは電話番号を検索してダイヤルボタンを押した。

「はい、山際です」 「あ、シズカちゃん?碇だけど」 「あ、お久しぶりです」
「あのね 花火が沢山あるんだけど、手縄山の公園で花火やんない?打ち上げもあるし」
「わかりました 何時からですか?」 「9時からね」 「じゃバケツと水は用意します」

「OKだって」 ミライは受話器を置いて言った。

その後、僕はムサシとケイタに連絡を取って、快諾を得た。


父さんに一声かけてから、僕達は手縄山に向かった。

街灯に照らされた道路には行き交う人も少なく、
自分達だけがこの世界にいるかのような錯覚を与えた……

「花火か……久しぶりのような気がするな……」
僕は右手に持った花火の重さを確認するかのように取っ手を握り締めてしまった。

「そうね……あなた達が小学校6年生の時以来してないかもね……」

「そんなにして無かったっけ……」

「お母さんがこんなに忙しくなったのは、あなた達が中学生になって安心したからなのよ」

「それまでママは外国に行くのを控えてたって言うの?年の半分はいなかったのに……」

「そういう事になるわね……前 お父さんと話してるのを聞いたから……」

僕達はいろんな事を話しながら手縄山に向かった。

8時50分だったが、既に全員揃っていた。


景気づけにまずは打ち上げ花火を立て続けに三発打ち上げた。
まだ9時だと言うのにひっそりとしている公園が三発の花火で照らし出された。

その後は思い思いに花火を手に取って、火を付けていった。

僕は線香花火が好きなので、線香花火にそっと火を付けて、
ベンチの上に座って線香花火を見ていた。

「シンイチさんも、線香花火好きなんですか?」
隣にシズカちゃんが来て、同じように火を付けた。

「うん……」

僕は落ちる寸前になっている線香花火を見ながら答えた。


「中学生活も後三分の二か……」
最後の輝きの後、急速に光を失いはじめた線香花火は、バケツの上に落ちた。

「シンイチさんが卒業したら……寂しくなります……」
シズカちゃんの線香花火も消えたのか、シズカちゃんはバケツの中にそっと放り込んだ。

「ありがとう……」


「そんな所で、何しみじみやってるのよ シンイチっ!」
ミライが僕の腕を引いて公園の中心に引っ張っていった。

「最後の打ち上げ花火上げるから、シンイチ君 火を付けてくれる?」
アヤさんがマッチの箱を僕に手渡した。

「シンイチ! 何か悩んでるみたいだけど……俺達がいる事を忘れるなよ……」
「一人で悩むなんて、僕達をバカにしてるようなもんだよ シンイチ君!」
「シンイチさん……もし離れ離れになっても……私たちの絆が無くなる訳じゃ無いのよ」
「ムサシ……ケイタ……みんな……ありがとう」

「シンイチ君……いい友達ね……」 アヤさんが僕の肩を軽く叩いてくれた。

「はい!」 僕は堪えきれずに涙を流してしまったが、頬を伝う涙は何故か心地よかった。

「何涙ぐんでるのよ 火を付けなさいよ シンイチっ」
ミライに急かされて、僕は打ち上げ花火に火を付けた。

「ほら、少し離れましょう」
僕達は少し離れた場所から、導火線が焼けていくのを見ていた。

発射音に気づいた時には、上空で光が舞っていた。

「奇麗……」

「一番大きいのを残しておいたのよ」


「もう9時半か……とっとと片づけて帰ろうぜ」 ムサシは足元に散乱していた花火の
燃えかすや、マッチ棒を拾いはじめたので、僕達も手分けして掃除を始めた。


10分程かけて掃除した僕達は、家路についていた。

「シンイチ 夏休みは何か計画立ててるのか?」 ムサシが別れ道の手前で語りかけた。
「今年の夏は……遊びどころじゃ無いよ……勉強会ならいつでもいいけど」
「ケイタみたいな事言うなよ……ま、受験生だから仕方無いけど、息抜きする時は声をか
 けてくれよ」 「勉強の方でも息抜きの方でも付き合うから」 ケイタも同意した。
「じゃ、おやすみ!」 ムサシとケイタは別れ道から別の道にそれていった。

「汗かいちゃったね……お風呂入って寝ましょうか」
アヤさんが笑いながら家のドアを開けた。

「私はシャワーでいいけどね……」 ミライは靴を脱ぎながら答えた。

「じゃ、シャワー浴びる時にお湯を溜めといてね あ、シンイチ君はどうする?」
「最後でいいですよ シャワーでもお風呂でもいいですし それまで部屋にいます」
僕はそう言って階段を上がった。


「ふぅ……」 僕はドアを閉めて、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。

僕はもう迷わない事にした……父さんやアスカさん いや母さんの為にも……
そして何より自分の為にも……

僕はボールペンで進路予定票に、”高校進学”と書き込んだ。

僕は進路予定票を手に階段を降りて、父さんのいる書斎に向かった。

「父さん……いいかな」 僕は二度軽くノックして声をかけた。
「シンイチか……入って来なさい」 父さんはドアを開けて僕を迎え入れてくれた。

「これ……忘れないように提出しておきます」
僕は先程書き込んだ進路希望票を裏向けたまま、父さんに手渡した。

「見て……いいか?」 父さんの問いかけに僕は黙って首を振った。

父さんの返事が無いのに気づき顔を上げると、
父さんが涙を堪えながら進路予定票を見詰めていた。

「好意に……甘えさせて貰います」 僕はそう言って立ち上がった。

「莫迦な事を言うな 子供が親に甘えるのは当然だ……もっと堂々としてていいんだ」

恩を返すのはいつでも出来る……けど……
今の時期の勉強は、後からでは取り戻せないから……
僕は父さんに頭を下げて、書斎のドアを閉めて外に出た。

アヤさんが僕を見つけて近寄って来て口を開いた。
「シンイチ君……後々後悔しないようにしたらいいのよ……」
「今……父さんに高校進学と書いた希望票を渡して来ました」
「ホント? 父さんも喜んでたでしょう。 シンイチ君も来年には高校生かぁ」
アヤさんは遠い目をして言った。
「それなら、一年留年したらシンイチ君と少しでも一緒にいられるのよね……」

何気なく呟いたアヤさんの一言だったが、僕はアヤさんを抱きしめずにはいられなかった。

「シ、シンイチ君……」
「そんな事……冗談でも言わないで下さい……」
「ゴメン……もう言わないから……その代わり……(キスして……)」

僕は引き寄せられるかのようにアヤさんを抱きしめたまま唇を重ねた。




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どうもありがとうございました!


第14話Aパート 終わり

第14話Bパート に続く!



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