裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 14C
第14話【
巣立ち
】Cパート
「ふぅ ちょっと休憩にしましょうか 何か冷たい飲み物でも取って来るわね」
僕はアヤさんと折り畳みテーブルに差し向かいで受験勉強をしていたのだ。
昨日はミライも一緒に勉強してたんだけど、
今日は洞木さんと涼しい図書館に行ってしまったから、現在はマンツーマンでの指導だ。
僕はベッドに背中を預けて、
階段を降りていくアヤさんの足音を聞きながら物思いに耽っていた。
中学校に上がってから……そして慌ただしかった二年間の事……
僕の前を去っていった人達……
風谷ミツコ……樹島ミドリ……ローラ……そして青い髪の少女……
「はい、お待たせ」
アヤさんが麦茶の入ったグラスをテーブルに置く音で僕は現実に引き戻された。
「あ、ありがとうございます」 僕は良く冷えた麦茶を一口飲んだ。
「けど、すごい暑さね……異常気象だってテレビでは言ってたけど……」
そういうアヤさんは、さっきまでの姿と少し違っていた。
いつもの普段着から、少しラフな袖の短くゆったりしたTシャツを身につけていた。
「肌着付けても汗ですぐ気持ち悪くなっちゃうから、Tシャツを肌着代わりにしようと思
って……」 アヤさんは僕の視線を感じたのか少し恥ずかしそうにしていた。
確かに……年中夏だと言っても、これほど暑いのは初めてだ……
それに僕の部屋にはエアコンを入れて無いから、暑さはひときわだろう……
旧型の扇風機がぬるい空気をかき回しているだけであった。
ミライが涼を求めて図書館に行くのも納得出来る……
僕もそうしようかと思ったが、アヤさんもついていくと言い出したので断念した……
「私の部屋のエアコン スイッチ入れておいたから、時々涼みに行こうよ」
アヤさんがTシャツの胸元を広げて扇風機の風を取り込みながら言った。
「じゃ、課題が出来たら涼みに行くって事にしましょうか……励みになるし」
僕は慌ててアヤさんの胸元から視線を外して答えた。
アヤさん……ブラジャーぐらいして下さいよ……
「まだ三時か……なかなか涼しくなりませんね アヤさん」
二杯目の氷の入った麦茶を飲み干してテーブルに置きながらアヤさんに声をかけた。
「そうねぇ……あっシンイチ君のベッド寝汗で湿ってるわよ シーツも変えておくわね」
アヤさんは思い出したかのように立ち上がって言った。
「あ……あの……いいですよ 自分でやりますから」
シーツに手をかけたアヤさんを見て僕は慌てて、手で制した。
「いいのいいの シンイチ君は課題を仕上げてね」アヤさんはシーツを一気にはぎとった。
「あ……」
アヤさんはシーツを足元に置いて、窓を開けてからベッドのマットを引きずり寄せた。
「これ……何?」 アヤさんは最も見つけて欲しく無いものを発見してしまった……
カバーイラストの……ヒロインの顔が……アヤさんそっくりだったから……つい買ってし
まったシロモノなのだ。 しかも……主人公は小学生だが僕に顔が似てたから……………
マットとベッドの枠の間に挟んで隠しておいたのに……
他の比較的ばれてもいい本は下に置いてるから、それ以上追求されないと思ったのに……
僕はそおっとアヤさんの顔を盗み見た。
アヤさんは真っ赤になってカバーイラストを見詰めていた。
が、僕の視線を感じたのか、そっと本を元あった場所に置いてマットを干しはじめた。
こんなに息苦しく、気まずい時間はあまり無いんじゃ無いかな……
アヤさんに似てるヒロインはカバーイラストだけだったので、
買った時は騙されたとも思ったのだが、捨てられなかったのだ……
取り敢えず、課題に集中する事にして先程の事は頭から振りほどこうと僕はあがいていた。
アヤさんはマットを干しおえたのか、後ろの方で足音がしていた。
後ろから覗きこんで来たが、僕は平静を保って、最後の一問を解きおえた。
「ねぇ……シンイチ君……昨夜……私の名前……呼ばなかった?(正直に答えて……)」
僕はその言葉に必要以上に反応してしまい、まるで肯定したかのようだった……
「え ホントに? もう〜シンイチ君ったら……ひっかけだったのに……」
アヤさんはベッドの枠に腰をかけて頬を染めたままクスクスと笑いはじめた。
「アヤさん……酷いですよ……」僕はコップの中に指を二本突っ込んだ。
お互いの心が通じるのもこんな弊害があるようだ……
「想像の中で……アヤさんをこんな風に抱きしめたんですよ」
僕は立ち上がって軽くアヤさんを抱きしめた。
「え……シンイチ君……嬉しい……」アヤさんはそっと目を伏せて僕の胸に頬をつけた。
「つめたーい」
アヤさんは背中に手をやったが、届きにくい場所だったので、もじもじしていた。
そう……からかった仕返しにグラスに入ってた氷を抱きしめる振りをして、
背中からTシャツの中に潜り込ませたのだった。
「シンイチ君……やったわねぇ……乙女の純情を足蹴にするなんて……ひやっ
そんな事はどうでもいいけど早く取ってよぉ」
氷は背筋にそって下に滑っていったようで、短パンの辺りで止まっていた。
「じゃ……取りますよ」 僕はアヤさんのTシャツを背中からすかして氷を取り出した。
「あっ……そんな所触らないで……シンイチ君のえっちぃ〜」
「そんな!触ってませんよ」
「嘘 冗談よ びっくりした?シンイチ君」
「もう……アヤさんったら……」
「課題 終わったんでしょ?私の部屋で少し涼まない?」
「そうですね……(冷や汗までかいちゃったし……)」
「アイスクリームでも取って来るから、中に入ってて」
アヤさんはそう言って僕の部屋を出ていった。
僕はノートパソコンを畳んで、タオルを手にアヤさんの部屋に向かった。
「うわっ涼しい……ふぅ……」 ようやく人心地がついたので、僕はため息をついた。
「こんなに涼しいんじゃ、汗を拭いとかないと冷えすぎるかな……」
僕はシャツを片手で持ち上げてタオルで汗を拭いはじめた。
アヤさんの足音がしたので、僕はシャツを元に戻した。
「アイスクリーム一個しか無かったの……分けて食べようね」
アヤさんは背後に隠してたアイスクリームを取り出した。
「うわぁ、それ凄く懐かしいですね……」
アヤさんが持ってたのは、棒が二本ついたソーダのバーだったのだ。
「シンイチ君 折ってぇ」
アヤさんに手渡されたソーダバーを、僕は慎重に折って二分割した。
「はい」 うまく折れたのでビニール袋を開けて、アヤさんに片方を手渡した。
「このソーダのバーは復刻されたらしいわ スーパーで山積みだったの」
アヤさんは美味しそうにバーを舐めていた。
「あ〜生き返る……」
僕は前歯でコリコリしながら食べるのが好きなので、舐めずに食べはじめた。
アヤさんは最初の内は舐めておいて、柔らかくなってから歯を立てるのが好きなようだ。
「幸せ……」
アヤさんは仕上げに歯を立てて一気に食べおえてから、とろんとした目で呟いた。
「アヤさんはこんなソーダバーで幸せになれるの?」
「……ばか……」
「…………え?」
「こうやって一つの食べ物を……分け合って食べるのが幸せなの
(シンイチ君と……こうしていられるだけでも幸せなの) 」
アヤさんは笑みを浮かべながら僕を見詰めていた。
「アヤさん……」
「隙ありっ」
アヤさんは、僕が手にしていた、もう少しで食べおえるソーダバーを奪った。
「ああっ」
「えへへ……間接キス」
アヤさんは微笑みながら言って僕の食べかけのソーダバーに口をつけた。
「もう〜アヤさんったら……」
「油断する方が悪いのよっシンイチ君っ」
僕達は声を潜めて笑いあった。
「汗かいちゃったね……そろそろ着替えなきゃ」
アヤさんは湿ったTシャツを手で触っていた。
「もう4時か……そろそろ晩御飯の準備もしないといけないんですよね」
「じゃ、今日の個人教授は終わりねっ涼しくなったら、復習しといてね」
「それじゃ、また後で」僕は立ち上がってアヤさんの部屋を出た。
「うわぁ この部屋だと拭いても拭いてもキリが無いなぁ……
水風呂にでも入って来ようかな」僕は着替えをもって部屋を出た。
「あら、シンイチ君 どうしたの?」 アヤさんも手に着替えを持っているようだ……
「あんまり暑いから、水風呂にでも入ろうと思って……」
「シンイチ君も? 私はシャワーを浴びようと思ったんだけど」
「じゃ、先どうぞ……」
「御飯を炊く用意してから入るから、シンイチ君から入ってね」
「そうですか……解りました」 僕は言葉に甘える事にした。
「ふぅ……さすがにこれだけ暑いと、普通の風呂には入れないなぁ……」
僕は水温を20度に設定された少しぬるい水風呂に入っていた。
「ふぅ……」僕は目を閉じてリラックスしていた。
「あっつーい もうっ 図書館の外はどうしてこんなに暑いのよっ」 ミライの声が遠く
で聞こえていたが、僕はまるで母親の胎内にいるかのようにリラックスしていた。
「居心地が良くても……この家にいつまでもいる訳にはいかない……か」
僕は浴槽から立ち上がった。
「ふぅ……天気がいいから、着替えがあるけど、これで雨だったら最悪だったかな……」
僕は身体を拭いて着替えながら呟いた。
「アヤさーん 出ましたよぉ」
僕は居間に歩いていった。
「やっと人心地がついたぁ っとキーンときちゃった」
見ると、ミライがいちごのかき氷を一気に食べおえたようだった。
「あれ、それ買って来たの? 美味しそうだね」
「これ?冷蔵庫に入ってたわよ」ミライはきょとんとして僕の顔を見た。
アヤさん……
だけど……そんなアヤさんがいじらしすぎて、僕は何も言えなかった。
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よくやったな・・シンジ
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どうもありがとうございました!
第14話Cパート 終わり
第14話Dパート
に続く!
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