裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 14D

第14話【巣立ち】Dパート

キーンコーンカーンコーン

「やれやれ、やっと昼休みか……けど昼からは卒業式の練習だし……ふぁ」
「ムサシ 眠そうだね……」
「どうせまた、深夜番組の見過ぎじゃ無いの?」

「さてとっ……シンイチ ご飯にしましょ」
僕はムサシとケイタの言葉に相槌をうっていると、ミライが後ろから声をかけてきた。

「うん……いつもの場所だね」 僕は席を立った。

「夫婦仲良くお弁当かぁ いいよなぁ〜シンイチは」
ムサシが机に顔をうつぶせていたが、僕達の方を見て声をかけた。

「そんなんじゃないよ(わよ)」

僕とミライがユニゾンで、言葉を返した。


もう冷やかされるのに、慣れてきたものの、顔が少し赤くなっているのがわかる。

「じゃ・・先に行くから」 僕はミライに声をかけて、教室を出た。

「飲物買っていかなきゃ」
僕は学食に寄り、いつものりんごジュースを二パック買って屋上に向かった。

屋上への階段を上がって行くと、ミライも上がっていくのが見えた。

「おまたせ」
「…………」
「どうかしたの?」
「なんでも無いわよ・・(シンイチのばか……そんなに否定しなくてもいいじゃ無い)」

「・・・さっきはごめん・・」 僕はミライに謝った。
「・・いいのよ(わかってくれてたんだ・・シンイチ・・)」
ミライは少し、微笑んだ。
「じゃ、食べようか」
「けど、ここでこうしてお弁当食べるのも……今日が最後ね……」
「そうね……」

「さてと」ミライが大きいお弁当袋を開いた。
「あれ・・3つある・・」
「アヤさん 間違えたのかな・・」
「ねぇ シンイチ……前にもこんな事があったような気がしない?」
「そういえば……」

ガチャリ
その時、屋上のドアが開いて、父さんが出て来た。
「パパ! じゃなくて碇先生……どうしたの?」
「いや、今朝アヤから弁当を受け取るの忘れててね もしかしてって思ったんだ」

「こっちに3つ入ってたよ!父さん」
「やっぱりそうか」
「もう お父さんったらドジねぇ 前にもこんな事があったじゃ無い……」
「父さん……一緒に食べていきませんか?」
僕は敬愛する碇先生……いや 父さんに声をかけた。

「そうしても、いいけど今日は二人がここで食べる最後の昼御飯だろ? 遠慮しておくよ」
父さんは弁当箱を受けとって背を見せた。

ミライに怒られて嫌われるのも、いやだしねぇ〜」
父さんが振り向いて苦笑しながら答えた。

「パパったら……」


僕は弁当箱の蓋を開けた。

「あっ 今日は豪華だなぁ……」 僕は箸を取り出しながら言った。
「今日はね……アネキに監修しては貰ったけど、全部私が作ったのよ」
「うん……美味しいよ」
僕は一年前は煮豆をいつも煮崩してしまっていたのを思い出してしまった。
「な、何にやにやしてるのよ……」
「いや、何でも無いよ 料理がうまくなったんだね ミライ……」
「……ありがと」

「あ、これ」 僕は学食で買ったりんごジュースのパックをミライに手渡した。

僕達は食事を食べおえて、何とも無く青い大空を見ていた。


「卒業まで後二日ね……」
「あっと言う間だったとも思うけど……永かったようにも思うよ」

「三年間……シンイチと同じクラスだったけど……高等部じゃどうなるかな……」
ミライはりんごジュースの紙パックをごみ箱に放り投げた。

だが、ごみ箱の縁に当ってごみ箱には入らなかった……

僕はそっと立ち上がって、自分の持ってた紙パックとミライの落とした紙パックを拾って
ごみ箱にそっと入れた。

「シンイチ……」
「同じ学校なんだから……お昼休みには一緒に御飯が食べれるんじゃ無い?」
「そうね……ありがと シンイチ……」

「そろそろ帰ろうか……」
「うん……」

僕達は屋上のドアを開けて階段を降りはじめた。

僕はいつしかミライの手をそっと覆い被せるように握ってしまっていた。

ミライの思いに引きずられてしまったのだろうか……

僕達は無言のまま階段を降りていった……

だが……階段の狭い踊り場で、ミライは堪えきれなくなったのか、
僕を壁際に押さえつけて、抱きついて来て、乱暴に僕の唇を奪った。
「ミライ……」
僕はあまりにミライが愛しくて、ミライの身体を引き離す事を躊躇っていた。

唇を重ねるだけのキスであったが、僕はミライの温もりを感じていた。

キーンコーンカーンコーン
屋上に設置された鐘の音が鳴り響いて来て、僕達は我に帰った。

ミライが上げた顔は真っ赤になっていた。

「ご、ごめんね……シンイチ」
そう言ってミライは僕に背を向けて駆け出そうとしていた。

だが、このまま行かせたら、二度と会えなくなるような妙な気がして、
僕はミライの腕を取った。

「ミライ……高等部でも……お弁当作って来てくれるかな……」

「ウン……」 ミライは目尻を潤ませながら答えた。




卒業式の練習を終えてから校舎を出ると、赤い夕陽が校舎を照らしていた。
僕はミライと歩きながら三年間を過ごした学校の風景を眺めていた。

「ほら、あの楡の木の側で入学式の時に記念写真を撮ったっけ」

「そうね……昨日のように思うのに……もう三年……」


高校受験では、志望校の第三新東京市立第一高校……
坂の向うに見える、通称”高等部”に、ミライ共々合格していた。
目出度い門出の筈なのに、どうしてこんなに憂鬱なんだろう……

「そうそう 明後日の本番では学生服着て来ないといけないんでしょ? 体育館の冷房は
効きが悪いから、特に男子は大変ね……」
「そうだね……入学式の時着て以来だから、少しキツイかも知れないけど……」

僕は中学への入学の時、
父さんとアスカさんに連れられて学生服を買いに行った時の事を思い出しながら歩いた。

「ん?あれアヤさんじゃ無い?」 僕は校門の脇の大木の影を見て言った。

「あ ホントだ どうしたんだのかな」

僕達が近づいて行くと、気づいたのか私服を着たアヤさんが木陰から出て来た。

「どうかしたの?アネキ…… わざわざこんな所まで来て」

アヤさんの進路は地元の国立大学へ推薦で行く事になっていて、
昨日すでに卒業式を済ませていた。

「お父さんから今日は謝恩会の打ち合わせで遅くなるからって電話があったの」
「お父さんから?」
「卒業祝いを兼ねて、三人で食べて来なさいってね」
「ホント?どこ行こうか……制服で入れるなら、お好み焼き屋かな……」
普段通りの態度でアヤさんと話しているミライを見て、僕は少しほっとしていた。
「何やってるの?シンイチ 置いてっちゃうぞ」
「ごめんごめん」 僕は苦笑いしながら二人の後を追った。


そして、卒業式の日……

僕達は卒業式を終えて、卒業生とその両親で溢れかえる校庭を歩いていた。
BGMには、前世紀に流行したと言う少し切ないが芯の通った九州訛りの力強い歌が流れ
ていた。

「結局お母さんは間に合わなかったね 楽しみにしてたのに」
買ったばかりのスーツを身に付けたアヤさんが、懐かしそうに校舎を見ながら呟いた。

「しかし……何で制服のボタンなんか取って行くんだろう……」
僕は千切られて、ボタンが一つしか無くなった制服を見ながら呟いた。

「渚センパイっ」

僕は背後から呼び止められて振り向いた。

「シズカちゃんか……どうかしたの?」

「あの……ボタン……残ってませんか?」

「うん……一個だけ残ってるよ」

「記念に……貰えませんか……渚センパイだと思って大事にしますから……」

「おおげさだなぁ……じゃ、これ」 僕はボタンを千切ってシズカちゃんに手渡した。

「ありがとうございます それじゃ、お元気で」
そう言って、シズカちゃんは何度も何度も振り向きながら去っていった。

「あ〜あ 最後の一つは私が貰おうと思ってたのに」
アヤさんが舌を出して微笑んだ。

「な、何言ってるのよ アネキ……」

「それとも、ミライも欲しかったの?」

「あっそうだ……袖にもボタンがあるじゃ無い」 アヤさんが僕の袖口を見て言った。

「じゃ、これを一個づつ貰っていい? シンイチ」

「どうせ、もう着れないんだからいいよ」

二人はいそいそと僕の袖のボタンを千切り取っていた。

「あっ間に合った シンイチ君〜ミライ〜」アスカさんが僕達を見つけて駆け寄って来た。

「あっママ!」

「間に合ったのね お母さん」

「あらら、見事なまでにボタンが無くなってるわね シンイチ君」

「はぁ……すみません」

「そんな事より記念写真取ってあげるから、あの楡の木の前で並んで並んで」

僕達はアスカさんの指示通りに並んだ……左にアヤさん 中央に僕 右にミライ……
入学の時撮ったのと同じアングルだと思う……

「それじゃ、撮るわよ〜」

パシャッ
 骨董品と化した一眼レフのシャッターが光り、僕の中学時代は終わりを告げた。




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どうもありがとうございました!


第14話Dパート 終わり

次回予告

渚シンイチと碇ミライ……二人の中学校生活は終わり、
次回からは、なぁんと”高校生編”が始まります。

そして、新たな波紋を呼ぶ新キャラクターの正体やいかに……(まだ考えて無い(をい))


次回 第15話【炎の新入生(仮題)】にレディーGO!




第15話Aパート に続く!



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