裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 15A
第15話【
炎
の新入生
】Aパート
「シンイチ君 襟が曲がってるわよ」 アヤさんは僕のブレザーの襟を直しながら言った。
今日は入学式なので、暑苦しいのだが、仕方無く制服のブレザーを身に付けているのだ。
「お母さんもシンイチ君の入学式に行きたかったみたいだけど……ペルーじゃねぇ」
「ねぇ アネキの入った大学でしょ ママが教授やってるの」
ミライが下ろしたての靴を履きながらアヤさんに声をかけた。
「お母さんは考古学部だから、日本にいる時に研究室にでも行かなきゃ会えないわよ」
アヤさんは来週入学式なので、今は暇だからと言う事で、今日も保護者代理として僕とミ
ライの入学式に来てくれるそうなのだ。
「パパも当分は大変ね 一年生のクラスの担任になったそうだし……」
ミライは靴の先を地面に数度押しつけながら言った。 まだ革靴が固いのだろう。
「さて、行きましょうか」 アヤさんはドアの鍵を閉めてカードを財布に入れて言った。
一年中夏とは言え、多少の気温の変化はあるのか、
少し花冷えのする道路を僕達は歩いていた。
「ねぇ、ケイタはどこの高校だったっけ ムサシは高等部よね」
ミライの問いかけに、僕は一瞬頭を捻った。 駅二つ向うの私立高校で、
進学校では名高い高校に入学したそうだが、校名を思い出せないのだ。
「名前は忘れたけど、二駅向こうの私立の進学校だったと思うけど」
「あぁそうそう 私もそこにしないかって言われた事あるけど、遠いし山の上なのよねぇ
家に帰り着く頃には日も暮れるかもって言ったから、やめたの 全寮制じゃ無いけど、
殆どが寮に入るそうだし……電話する時間も規制される程厳しいらしいわよ」
僕はアヤさんの言葉を聞いて、少し心配になってしまった。
頭はいいが気が弱いケイタが一人でそんな所で耐えられるのだろうかと……
「ま、大丈夫よね もう高校生なんだから」
アヤさんが考え事をしていた僕の肩を叩いて言った。
「それじゃ、アネキ またね」
そういってミライが中等部に入って行こうとしたので、僕は慌てて後を追った。
「ミライ ここは中等部だよ!」
「いっけなーい いつものくせで」 ミライは舌を出して笑った。
「もう ミライはそそっかしいんだから……」 アヤさんは笑いをこらえかねていた。
「今日は初日じゃ無い……そういう事もあるわよ」 ミライは笑われたのがしゃくなのか、
頬を軽く膨らませていた。
「早くしないと遅れるよ ミライ」 僕はミライに声をかけて坂を登りはじめた。
そうしている間にもエレカが数台通っていった 恐らく入学式に出席する保護者だろう。
「私たちもエレカで来れば良かったわね せっかくアネキが免許取ったんだし……」
ミライは通り過ぎているエレカを見ながら言った。
「ダメよ 中等部から高等部へ向かう坂は結構キツイのよ 一度楽を覚えたら登れなくな
るのよ 私も三年間登ったんだから」アヤさんは坂の上に見える高等部を指差して言った。
「あれ……伊吹先生じゃ無い?」
高等部へ向かう坂を歩いて登っている女性の後ろ姿に見覚えがあったので、
僕は二人に声をかけた。
「んー近づかないと解らないけど……」
「じゃ、ちょっと走りましょ」 アヤさんは言うなり坂を駆け登って行った。
「アネキ待ってよ シンイチ 行きましょ」 ミライの後を追って僕も坂を駆け上がった。
「あら、アヤちゃんじゃ無い どうしたの?もう卒業したんでしょ?」
相変わらずの天然ボケを伊吹先生がかましている間に僕達も追いついた。
「伊吹先生 お久しぶりです」
卒業式の手前に会ったきり会ってなかったので、僕は頭を下げた。
「シンイチ君とミライちゃんの入学式に付いて来たのね アヤちゃん」
「伊吹先生は高等部に何か用があるんですか?」
「うん 松代にいる甥っ子がね 入学するんだけど両親は都合で来れないそうだから、私
が代わりに入学式に保護者として行く事になったの」 伊吹先生は笑みを浮かべて言った
「三年間私のマンションに居候する事になっちゃったのよ まぁお家賃を半分負担してく
れるそうだから、楽にはなるんだけどね……肝心の甥っ子は私と学校行くのが恥ずかしい
って言って先に行っちゃってるの シンイチ君 ミライちゃん 甥っ子の事ヨロシクね」
伊吹先生は言いおわると、坂を登りはじめたので、僕達も一緒に坂を登りはじめた。
「じゃ、アヤちゃん 一緒に体育館に行こうか」
「ええ じゃ、シンイチ君 ミライまた後でね」
そう言って二人は手を振りながら体育館の方に歩いて行った。
「そうそう 私達のクラスを調べなきゃね(一緒だと……いいんだけど)」
僕はミライと一緒にクラス分けが張り出されている場所に歩いて行った。
「ここね……」
「じゃ、僕は右から調べるから、ミライは左から調べてよ」
僕はそう言って、二人の名前を探し出す為に、クラス分けの紙を凝視した。
クラスは全部で4クラスあり、僕は右から1−Dと1−Cを見ていったが、
僕達二人の名前は見当たらなかった。 ミライも1−Aはチェック済みで、
1−Bを二人で調べていった。
「あったX2」 僕達はそれぞれ自分の名前の場所を指差した。
「同じ……クラスだね シンイチ」 ミライは隠しきれない喜びを身体中で表現していた。
「高等部でもよろしくね ミライ」 僕はミライにそっと手を差し出した。
「こちらこそ……」 ミライは僕の手に手を重ねて強く僕の手を握り締めた。
「よう シンイチ」 その瞬間 僕は誰かに背中を強く叩かれた。
「ムサシか……驚かせないでくれよ」 僕は背後に振り向いて言った。
「俺は1−Bだけど、シンイチとミライはどのクラスだ?」
ムサシはクラス分けの方をちらっと見て言った。
「僕達も1−Bだよ よろしくな ムサシ」
僕はさっきの仕返しに、ムサシの右肩を叩いて言った。
「ホントかよ シンイチもミライもいるのか……いやぁ〜宿題忘れた時に助かるな」
そう言ってムサシは笑みを浮かべた。
「とりあえず教室に入ろうぜ」
僕達はムサシの提案に頷き、学園祭に来た時の事を思い出しながら、
1−Bがあるだろう方角に歩いて行った。
満席で40人程の机と椅子のある教室内は、半分程がすでに埋まっていた。
「まだ席決めしてないし、適当に座ろうぜ」
「あ、前から二番目の列が3つ席が空いてるわよ」
「じゃ、そこにしようか」
僕達は並んで席についた。
さすがに初日とあって、教室内は微かなざわめき声が聞こえるだけで、
誰かと話している人は少なかった。
5分程、僕達は雑談をしている内に、残っていた席にも人が埋まって来ていた。
「担任はどんな先生だろうね」 ミライは期待半分不安半分のような表情で言った。
ミライが言いおえたと同時に教室の前の方にある扉が開いた。
「男の先生か……まだ若そうだな……」
僕は窓側にいたので、ムサシが邪魔で入って来ようとしている先生が見えなかった。
「あっ!」 ミライが小声で叫んだので僕は気になって、
身体を伸ばして、入って来る先生を見詰めた。
「木村先生……」 僕の声に気づいたのか、木村リョウイチ先生は笑みを浮かべた。
キーンコーンカーンコーン
中等部と殆ど同じ音色の鐘がなり、木村先生は教壇に立った。
「私が、これから一年間 君たちの担任教師になった木村リョウイチだ 宜しくな」
「おい シンイチ……この先生知ってるのか?」
ムサシが小声で先生の目を盗むかのように話しかけて来た。
「うん……アヤさんの担任の先生だったんだ……」
「なるほど……それでか……」 ムサシは納得したのか、正面を向いた。
「それでは、これから入学式の手順を説明する」
45分間、入学式についての講習を受け、僕達は整列して体育館に向かっていた。
僕達はほぼ最後列を歩いていた。
「おい シンイチ…… 一年間 こってりと絞り上げてやるからな」
木村先生がさりげなく近づいて来て笑いながら僕の肩を叩いた。
「シンイチに体罰なんかしたら、アネキに言いつけるわよ 木村センセっ」
ミライが笑いながら先生のわき腹を指で押した。
「ミライちゃん それだけは勘弁してくれ」
「先生っ 初日からそんな泣き言言ってちゃダメですよ」
「まったく……恩師の娘と言うのは厄介なもんだ……」
「パパに言いつけちゃうぞ」 「それだけは勘弁してくれっ」
二人のかけあい漫才のようなものが始まり、僕は思わず吹き出しそうになっていた。
誰にでもハキハキとものを言うミライと木村先生は面白い取り合わせに見えたのだ。
「シンイチ……」
「ん?」 僕は誰かに名前を呼ばれたような気がして、周りを見渡した。
前の方で僕を睨んでいる男子生徒を見つける事が出来たが、その顔には覚えが無かった。
入学式は滞り無く進み、僕達は教室に戻って来ていた。
「えー今から端末を配布する……今日はこれで終わりなので、充分操作の練習をしておく
ように! 名前を呼ばれた者は端末を取りに来なさい……それでは、碇ミライ」
「ハイっ」 ミライは元気良く立ち上がって木村先生の前に立った。
「返事はいらんからな……」 木村先生は、ミライに端末を渡しながら言った。
「これ、中学校のより、薄くて軽くなってるみたい」
ミライは席に着くなり、端末を持ち上げて言った。
「次、伊吹コウジ」 僕は伊吹と言う言葉で、今朝の伊吹先生の言ってた事を思い出した。
返事は不要と言われたからだろうが、一人の男子生徒が立ち上がり、
木村先生の前に無言で歩いていった。
木村先生から端末を受けとり、帰ろうとする時、目があってしまい、
一瞬僕を睨みつけてから、席に戻っていった。
木村先生は全員の名前を呼び上げ、足元に積んであった端末の鞄も無くなった頃、
再び鐘が鳴り響いた。
「それでは、今日はこれで終わりだ あまり浮かれて街にくりだしたりするなよ」
それだけ言って木村先生は教室を出た。
「じゃ、帰ろうか」 僕は端末を学校支給の鞄に入れて立ち上がった。
「シンイチ ゲームセンター行かないか?」
「ムサシ! さっき先生が言ったばかりでしょ それに今はゲームセンターって言わない
んじゃ無いの?」 ミライがすかさず抗議した。
「アミスポって呼ぶの好きじゃねーんだよ……まぁ今日はおとなしく帰るとするか」
「あっそうか シンイチ達はアヤさんと来てるのか……じゃあな」
ムサシは僕達に背を向けて歩き始めた。
「アヤさんも待ってるだろうし、帰ろうか」
立ち上がろうとしていたミライに僕は話しかけた。
「おい……おまえが渚シンイチか……」
その時、背後から聞いた事のある声で僕は呼び止められた。
「うん……そうだけど 君もしかして伊吹先生の甥?」 僕はにこやかに手を差し伸べた。
「裏まで来い!」 そう言って伊吹コウジは僕に背を向けてゆっくり歩き始めた。
「えと……どういう事? 僕 何か悪い事したかな……」
僕は彼の態度に納得がいかず、困惑してしまった。
「おまえが渚シンイチだからだよっ」
そう言って振り向いた彼の眼は燃えているかのようだった。
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伊吹ねぇ……
アヤの出番はこれだけか?
よくやったな・・シンジ
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どうもありがとうございました!
次回予告
(嘘)
伊吹コウジの殺虫パンチの前に敗れ去るシンイチ……
そのどんぞこからはい上がって来たシンイチが身に付けた必殺パンチとは!?
次回15話Bパート”燃えろ国電パンチ”
(嘘)
にレディーGO
第15話Aパート 終わり
第15話Bパート
に続く!
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