「裏まで来い!」 そう言って伊吹コウジは僕に背を向けてゆっくり歩き始めた。
「えと……どういう事? 僕 何か悪い事したかな……」
僕は彼の態度に納得がいかず、困惑してしまった。
「おまえが渚シンイチだからだよっ」
そう言って振り向いた彼の眼は燃えているかのようだった。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 15B
第15話【
炎
の新入生
】Bパート
「おい シンイチ……知り合いか?」 ムサシが小声で問いかけて来た。
「彼とは面識が無いんだけど……」 僕は言葉尻を濁して答えた。
そう 彼とは面識が無い……だが彼の叔母に辺る伊吹教諭との面識はある……
「ミライ……すぐ行くから校庭でアヤさんと待っててくれないか」
僕はミライに荷物を預けて返事も待たずに彼の後をついて歩いていった。
「ちょっと シンイチぃ!」 「大丈夫だよ……事情を聞いてみるだけだから」
僕はミライの悲鳴めいた声を背に受けたので、振り向いて安心させた。
{{ねぇ 兄さん……彼はどうして僕の事で怒ってるんだろう……怒りの感情しか伝わって
来ないんだけど……兄さんならわかる?}}
僕は兄さんに問いかけたが、一年ぐらい前から5回呼びかけて1回返事が来る程度になって
いたので、少し不安だったが 返事は少しして返って来た
{それぐらい自分で考えろ……おまえももう高校生だ……いつまでも俺の助言をあてに
しているようでどうする……}
{{それで、返事してくれなかったのか……解ったよ 兄さん}}
僕と伊吹コウジは上ばきを脱いで靴に履きかえて外に出た。
「おい……この辺りで邪魔の入りそうの無い所を知らないか……」
周りには父兄や生徒が雲霞のごとくいたので、コウジは僕に問いかけた。
「あると言えばあるけど……」 「案内しろ……」
僕は彼を連れて、以前に六分儀さんに連れていかれた事のある、
記念植樹のある公園の片隅に連れていった
「で、何の用なの?コウジ君」 僕は振り向きながら問いかけた。
「何の用もクソもあるかいっ」 コウジ君は僕が振り向いた所に殴りかかってきたが、
今の僕には彼の動きはまるで、牛の歩みのような速さであった。
一年前から始めた修行の成果と言えるだろう。 僕は簡単に彼の攻撃を躱した。
「僕には君に殴られるような覚えは無いんだけどな……」
「うるせぇ〜」 彼は再び突っかかって来たが、僕はひらりとよけて躱した。
「伊吹先生に 君と仲良くするように頼まれてるんだ……」
僕は公園の隅の石垣に背を持たせかけて言った。
「何でおまえに頼まれないといけないんだ! もう逃げる場所は無いぞ 覚悟しやがれ」
「ふぅ」 僕はため息一つついて、前向きに回転を加えながらジャンプして、
突っ込んで来る彼の頭上を飛びこして、彼の背中のすぐ後ろに着地した。
何の準備運動も無く飛んだので、彼の目には僕が消えたかのように見えたかも知れない。
彼は僕を見失って呆然と立っていたので、僕は両ひざで、彼の膝の裏を軽くついた。
コウジ君は見事なまでにバランスを崩して後ろに倒れて来たので、
僕は両肩を押さえて支えてやった。
「馬鹿にしやがって」 彼は柔道の心得があるのか、彼の肩を支えてやっていた僕の左手
を掴み、まるで巻き込むかのように一本背負いをかけてきた。 僕は彼の動きに合わせて
自分から足で地面を蹴ったので、彼の手が離れ 僕は空中を二回転程してから着地した。
「どうしてもやるって言うんなら、ちゃんとした理由を教えて欲しいな……」
僕はそう言いながらかがんで足元の卵ぐらいの大きさの石を拾った。
「おっおまえ石を武器にするつもりか……とんだ卑怯者だな」
彼は一方的に攻撃してきた自分の立場を忘れて僕を糾弾した。
「違うよ……」 僕はぽんぽんと石を左手の掌に載せたまま空中に二度三度と放り投げて
から、彼に向かって緩いモーションで山なりに放り投げた直後に右手の手刀を一閃させた。
「なんだ?」 彼は僕が放り投げた石をキャッチして、不審そうに手の平の中の石を見た。
次の瞬間 彼の目の前で手の平の中の石は真っ二つに、割れていた。
断面は奇麗で、石英のような模様が見えていた。
「おいおい 中等部の鬼っ子と言われたシンイチに一人で立ち向かってるのか?
伊吹先生の甥っ子は凄い度胸だな……」 木村先生が姿を現してコウジ君に呼びかけた。
「鬼っ子?」 コウジ君は手の中の石の断面と僕を交互に見ながら呟いた。
「三ヶ月前に嫉妬に狂った男子生徒5人に襲われて、怪我一つせず、5人の頚動脈を軽く
手刀で叩いて失神させたと言う出来事があるんだぞ……」
「邪魔が入ったな……この決着は……「こらーコウジ君!何やってるの!」
コウジ君の話を遮って、伊吹先生の声が響いた。
「ま、マヤ姉さん……何でここが」 コウジ君は少し顔を引きつらせて言った。
「門の側で待ってたのに、全然出て来ないから、通りかかったアヤちゃんとミライちゃん
に聞いたのよっ 仲良くしなさいって言ったのに、どうして喧嘩みたいな事するの!」
伊吹先生は颯爽と生け垣を飛び越えて、コウジ君の前に立って耳を引っ張りながら
連れ出そうとしていた。
普段はいかにも天然ぼけを装ってる(?)が、さすがNERVの職員と言う所だろうか……
僕は先日の伊吹先生の逃げ足を思い出しながら思った。
「仲良くしろって言ったのも、どうせシンイチってヤツの情報とかが知りたかったんだろ!
俺 見たんだ……マヤ姉さんの机の引き出しの中に埋まってるシンイチの写真の山を!」
「コウジ君……物言えば、唇寒し秋の空 って知ってる?」
伊吹先生は背後から右腕でコウジ君の首をホールドしたまま引きずっていった。
僕と木村先生はその光景を黙って見ていた。
「あっそうだ アヤちゃん達が校庭の隅の木の側で待ってるってよ 寄り道すんなよ」
そう言って木村先生は去っていった。
「ん?さっきの石か……」
僕は鋭利な気を纏わせた手刀で真っ二つにした石を見つけてしゃがんだ。
「鬼っ子か……」 僕は二つに割れた石を植え込みの下に放り投げて、公園を出た。
「遅かったわね シンイチ君」 木の下に行くとアヤさんが木を背にして座っていた。
「ミライはどうかしたんですか?」 僕は立ち上がろうとしたアヤさんに手を差し出した。
「購買に行ったの 何か足りないものがあるって言ってたわ もう戻って来ると思うけど」
アヤさんは僕の手を掴んで立ち上がって、砂を払いながら言った。
「ミライと……少なくとも一年間は同級生ね」
アヤさんは学生服を着た僕を眺めながら言った。
「高等部の制服を着たシンイチ君と……一緒に学校に行きたかったな……」
アヤさんは少し遠い目をして言った。 その目尻には僅かに涙が光っていた。
「ごめんね……もう諦めたつもりだったけど……その姿のシンイチ君を見ると……」
入学式の為の詰め襟の制服を見ていたが、アヤさんは少し視線を外した。
「アヤさん……」 僕はその寂しそうな横顔を見て、つい身体が動いてしまった。
「だめ……近づかないで……ミライに嫉妬している事……私の考えてる事を今は知られたく
無いの……おねがい」 アヤさんは僕に背を向けて身体を震わせながら言った。
いつも気丈なアヤさんがこのような姿を見せる事は少なく、僕は少し驚いていた。
お互いが傷つかない距離……それを今後は守って行こうと僕は思った。
お互いが同じ道を走り、同じ思いを共有している間は理解を助けるテレパシーだが、
一度、二人の思いが離れれば、即座にテレパシーは鋭利な短剣となって、お互いの心を傷
つけあうのだ。 テレパシーがお互いの接近を妨げる可能性に僕は気づいた。
遠くから、ミライの足音が近づいて来たので、アヤさんはハンカチで目を拭っていた。
「ごめーん 中等部と違って、購買部にいろいろあって迷っちゃった」
ミライが袋を手に走り寄って来た。
「じゃ、帰りましょうか……」 僕は木にたてかけられている鞄を手にして言った。
僕は高等部の坂を降りながら、見えて来る中等部の屋上を見つめていた。
そういえば……樹島さんや風谷さんは元気にしてるんだろうか……
僕はふと二人の顔が目に浮かんだ。
「シンイチ君とミライがもう二年ぐらい早く産れてたらこうして一緒に下校出来たのにな」
「じゃ、大学が早く終わったら迎えに来てくれたらいいじゃ無いの エレカでね」
ミライはアヤさんの気持ちを知ってか知らずか、そんな軽口を叩いていた。
「雨が振った日なら迎えに来てあげるわね」 アヤさんの言葉に僕は少し救われたが、
本当の気持ちまでは解らない……今アヤさんの心を読む事は可能だが……
そんな気にはならなかった。
「お父さんは帰りが夜になるそうだし、三人でお昼を食べて行きましょうよ」
「賛成! じゃ、駅前に出来たイタリアレストランでスパゲッティにしない?」
「ミライは、どうしてそんなにスパゲッティが好きなの?」
僕はこれまで思っていた疑問をミライに投げかけた。
「どうしてって言われても……じゃ、シンイチは好物のカレーが好きな理由言える?」
ミライは少し頭を捻ってから答えた。
カレーの好きな理由……僕はわずかに覚えていた。
あれは、アヤさんが初めて料理を作った日の事だったと思う……
家には僕とミライとアヤさんしかいず、アヤさんは鈴原の奥さんに貰ったのであろう、
レシピを見ながら必死になって料理していたのを思い出した。
アスカさんが家にいる事は少ないので、アヤさんが小さい頃は、店屋物や契約した食事の
配給会社の食事を取る事が多く、あまり家庭をイメージするような食事を取った事が無か
ったのだ。 アヤさんが二時間かけて作ったカレーライスは少し苦く、
子供三人で食卓に向かっていたにもかかわらず、僕はアヤさんの作ってくれたカレーライス
に、家族の味を感じたのだった……
「どうしたの?シンイチ ぼーっとしちゃって……もしかしてカレーの好きな理由を考え
てたの?」 ミライの問いに僕は曖昧な笑みで答えた。
「スパゲッティーカルボナーラとオムスパとカレーライス一つづつ下さい」
ミライが注文をまとめてカウンターの向こうのマスターを呼び止めて言った。
この店はいまだに普通のメニューを利用しており、人を介さない注文は出来なかったのだ。
カウンター前に椅子が4つ 4人がけのテーブルが2つに、6人がけの大テーブルが
一つと、店内は狭かったが、噂を聞きつけた客でほとんどの席が埋まっていた。
「一昨日オープンしたばかりらしいのよ……何でも松代で店やってたんだけど、道路建設
の為に立ち退きを要求されて、かなり狭くなったけど、ここに代地を貰って引っ越したん
だって……松代に店があった頃もわざわざこの街から通った人がいるぐらい美味しいのよ」
ミライのいくぶん説明的な言葉を聞きながら、僕は窓の外を見ていた。
街を行く人々……大勢の人が歩いているのを見ると、何故か落ち着くのだ……
これだけ人がいるんだから、自分のような人間が紛れ込んでも大丈夫……
そのような発想から、人込みを見ていると落ち着くのだ……悲しい癖だった。
「カルボナーラはこちらですか?」 「あ、はい 正面がオムスパです」 ミライとアヤ
さんの前に料理が来たのか、ハキハキとしたウエイトレスの声が聞こえていた。
「あの……肘をどけて下さいませんか?」
僕はそのウエイトレスの声を間近で聞いて少し驚いた。
背後にウエイトレスが立っており、カレーライスの皿を僕の前に置こうとしていたのだ。
窓の外を見る為に肘を載せていたのを思い出し、僕はあわてて肘を降ろした。
「失礼しま〜す」
僕の前にカレーの皿を置こうとしているウエイトレスの顔を見て僕は驚いた。
「風谷さん……」 その僕の呟きに彼女は気づかなかったのか、そのまま帰っていった。
「間違い無い……風谷……ミツコだ」
カウンターの中に入り、父親らしきマスターと話している横顔を僕は見詰めながら呟いた。
「ありがとうございましたぁ〜」 僕達は風谷さんの声を背に店を出た。
二人とも、ウエイトレスの彼女が風谷さんだと言う事に気づいて無いようだ……
僕は二人の横を歩きながら、道行く人を見ながら、風谷さんの事を思っていた。
「ん?」 僕は見覚えのある横顔の女性が占い師の前に立っているのを見た。
「樹島さん?」 僕は占い師の方に向けて駆け出していた。
だが、人込みに揉まれて、街頭の占い師の前に立つ頃には、
すでに姿が見えず、本当に樹島さんだったのかも解らなかった。
「おまえさんは手相を見るまでも無いな……女難の相じゃよ」
占い師の老人は呆然と立ち尽くしている僕に笑いながら言った。
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アヤさん可愛すぎ 僕が抱きしめてあげるよ
よくやったな・・シンジ
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どうもありがとうございました!
第15話Bパート 終わり
第15話Cパート
に続く!
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