「ん?」 僕は見覚えのある横顔の女性が占い師の前に立っているのを見た。
「樹島さん?」 僕は占い師の方に向けて駆け出していた。
だが、人込みに揉まれて、街頭の占い師の前に立つ頃には、
すに姿が見えず、本当に樹島さんだったのかも解らなかった。
「おまえさんは手相を見るまでも無いな……女難の相じゃよ」
占い師の老人は呆然と立ち尽くしている僕に笑いながら言った。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 15C
第15話【
炎
の新入生
】Cパート
「シンイチくーん どこ行ったのぉ〜」 「シンイチぃ〜」
人込みの向うからアヤさんとミライの声がしたので、
僕は老人に頭を下げて再び人の波をかきわけて、アヤさんの前に戻った。
ミライは僕を探しているせいか、見当たらなかった。
「シンイチ君!急にいなくならないでよ……シンイチ君がいなくなったらと思うと……」
「知り合いだと思ったら人違いだったんです もう心配かけないようにしますから……」
アヤさんは今にも泣き出しそうな顔をしていたので、僕はアヤさんの肩を叩いて言った。
「……(不安にさせた罰として キスして)」
手をおいたアヤさんの肩からアヤさんの思念が流れ込んで来た。
「…………」 アヤさんは今日は薄いピンクの口紅をさしているので、
僕はアヤさんの頬に軽く唇を触れさせた。
アヤさんは少し不満そうだったが、口紅の事に気づいたのか、機嫌を直してくれた。
「ミイラはどこまで探しに行ったのかしら……ミライ取りがミライ状態ね……」
アヤさんは少し頬を染めたまま、行き交う人々を見てミライを探していた。
「アヤさん それ逆です……」 僕は笑いを堪えながら指摘した。
「えっ あらやだ」 アヤさんは自分の言葉の間違いを認識して、
恥ずかしそうにもじもじしていた。
僕はそんなアヤさんの顔を見ていたが、次の瞬間には僕達は大声で笑いはじめていた。
「もう……私ったら……ミイラとミライ……確かに文字の順番を変えただけだけど……」
「普通、そんな間違いしませんよ……どうしてですか?」
「そんな……(シンイチ君がほっぺにキスなんかするからよ)」
「僕が悪いんですか? まいったなぁ……」
僕達は久しぶりに屈託の無い笑みを浮かべていた。
「いたぁ〜 アネキ シンイチ!何笑ってるのよ!」
ようやくミライが僕達を発見して近づいて来た。
「ミライがミイラで、ミイラがミライだったの クスっ だめ笑いが止まらない」
「もう アヤさん そんな説明で解る訳無いじゃ無いですか」
「そう? じゃ、解るように説明してあげるわね」
アヤさんは、キスの事以外の事を事細かくミライに説明していった。
「ふーん ミイラとミライを言い間違えただけで、そんなに騒いでたの……アネキ……
16年も一緒に育った妹の名前を間違えた事は、貸しにしとくからね」
ミライは両手を腰にあてて胸を張って言った。
「さ、早く帰りましょっ あ、晩御飯の買い物しないといけないから、商店街に寄って行
くけど、二人はどうする?」 アヤさんは笑みを浮かべて振り向いた。
「ま、ここからなら帰り道だから付き合うわよ」
ミライは手にもった鞄を揺らしながら言った。
「重いものもあるかも知れませんし、僕も付き合いますよ」
「二人ともありがとっ」 アヤさんは上機嫌で歩きはじめた。
「ん?」 僕は曲がり角を曲がった所で視線を感じて立ち止まり、
振り返ったが見知った人はいなかった。
「どうかしたの?シンイチ」 ミライが不審そうに振り向いたが、
僕は軽く首を横に振って歩きはじめた。
そして、翌日……
授業は午前中僅か3時間ののオリエンテーリングだけで終わり、
僕とミライは校庭の隅を回って帰路についていた。
校庭では二年生か三年生が走り幅跳びをしていた。
「そういえば、明日は体力測定よね……」
ミライは今、まさに飛び上がらんとした、一人の男子生徒に視線を向けながら言った。
「それより、コウジ君……今日出て来なかったけど、どうかしたのかな……」
僕は昨日、僕に突っかかって来た伊吹コウジ君の事を思い出した。
「明日には出て来るんじゃ無い? 伊吹先生の家に居候してるんだし……」
僕は中学時代の、潔癖症な伊吹先生の行動を思い出した。
「ほんのこの間の事なのにね……パパ元気にしてるかな」
ミライは中等部の建物を見ながら呟いた。
「そうだね……新入生の相手で疲れるって昨日も言ってたし」
「ところで、お昼御飯どうする?アネキは大学だし……まだ11時ちょいで少し早いけど」
「僕はちょっと駅前の本屋に用事があるから、ハンバーガーででも済ませるよ」
「そう? じゃ私の分もテイクアウトで買って来てよ シンイチが帰る時でいいから」
ミライは少し考えてから言った。
「わかったよ どうせいつものチーズバーガー二個だろ?」
僕はミライの嗜好を思い出しながら、頭の中では財布の中身を数えていた。
「じゃ、私は帰るから」 途中の三叉路で、僕はミライと別れた。
僕はミライの背中を見送って、見えなくなったのを確認してから歩きはじめた。
「ごめんね……ミライ 嘘ついちゃって どうしても気になるんだ……」
僕は心の中でミライに詫びてから、
僕は昨日訪れたイタリア風料理を出す駅前のレストランに向かった。
平日の午前中なのに、大勢の人々が駅に吸い込まれて行き、また駅から吐き出されていた。
「ここだな……」
僕は昨日のレストランの前に立って店内を透明なガラス越しにそっと窺った。
昼前だと言うのに数人連れの主婦達やサラリーマン達が、
少し早い昼食を取っているのが見えた。 満席では無いが、自分一人が座る事の出来るス
ペースは相席以外ではカウンター席しか無かった。
僕は深呼吸をひとつしてからドアを開けて、目星をつけておいたカウンター席に座った。
「いらっしゃい お一人ですか?」 僕はマスターの質問に頷いて答えた。
僕はカウンター前の小さいメニュー立てを見て、
昨日アヤさんが美味しかったと言っていたオムスパを注文する事にした。
僕が注文を告げると、マスターは中に入っていった。
「今日はいないのかな……」 僕は薄暗いカウンターの奥を眼を凝らして覗きこんだ。
「もう〜お父さん! 早く従業員雇ってよ 今日は昼までだったからいいけど、明日から
は、そうはいかないんだからね」
昨日聞いたウエイトレスの娘らしき活発な声が奥の方から聞こえて来た。
僕はつい緊張してしまい、鼓動が高まって行くのを感じた。
僕は緊張の為か、出された水をグラスの三分の二程もすでに飲んでしまっていた。
もしかしたら、人違いかも知れない……あれから一年半……ミツコさんも高校に入学し
ている可能性も高い……だが、ネルフの監視下にあるのなら、第三新東京市に来る可能性
は少ない筈だ……記憶を無くしたミツコさんを引き取るのなら、恐らくネルフの息のかか
った人物に違い無いだろう……
そんな事を考えている内に、グラスに残っていた水を全て飲み干してしまったのに僕は気
づき、少し冷や汗をかいた。 こんなに緊張したのは久しぶりかも知れない……
「このオムスパ カウンターの一番のお客に持って行ってくれ」 「一番ね 了解」
二人のやりとりが聞こえてきたので、
僕は出来るだけ平静を装ってカウンターの木目を見ていた。
「お待たせしました」
カウンターの奥のカーテンを開けて、ミツコさんらしきウエイトレスが現れた。
僕は意図的にカウンターに置いていた肘を、
今気づいたかのように上げて料理を置くスペースを開けた。
僕は紙ナプキンに包まれたスプーンを手に取って、紙ナプキンを外していった。
僕は黙々とオムスパ……チキンライスの代わりにスパゲッティーの入ったオムライスのよ
うなものを食べていったが、味は殆ど覚えていなかった。
時折出て来て、接客しているミツコさんらしきウエイトレスの姿を、
ちらちらと眼で追っていたからだ。
ふと彼女を見失ってしまい、僕は首を捻ろうとした時、右の方からにゅっと手が伸びて、
かなり前に空になったグラスに水を注ぐ、その白い手首を僕は見詰めていた。
「確か、昨日も来られてませんでした?」
ミツコさんらしきウエイトレスは、僕の顔を確認するかのように見て言った。
「ええ……昨日連れが、このオムスパがとても美味しかったと言うので食べに来ました」
僕は胸の動悸を押さえるのに苦労しながら言葉を紡いだ。
「そうですか それはありがとうございます」 彼女は満面の笑みを浮かべて言った。
彼女が仮にミツコさんだったとして……ミツコさんがあんな笑みを浮かべたのを見た事は
無かった。 それならば、こうして何もかも忘れて、生活している今の方が幸せなのでは
無いかと言う思いに、僕は囚われ初めていた。
これ以上この場にいるのが辛くなって来たので、僕はゆっくりと立ち上がって、
レシートを彼女に手渡した。
「650円になります」 僕は財布から1000円札を取り出し、手渡した。
「350円のお返しになります」 お釣りを僕に渡そうとする時、彼女はお釣りを落とさ
ないように僕の掌の上に手をそえてお釣りを移した。
「……(ミツコさん……)」 僕は思い切って思念を飛ばしてみた……
「どうも、ありがとうございましたぁ〜」
僕は彼女に見送られて店を出た……あの時、確かに言葉を用いずに話した筈だ……
もし、彼女がミツコさんなら、何らかの反応を示すかと思ったのだが……
だが、記憶操作はより深い所まで行われており、そのような能力までもが封じられたのだ
ろうか? そんな事が出来るのなら…………
僕はそんな事を考えながら、ミライに持ち帰る約束のチーズバーガーを買う為に、
近くのファーストフード店に歩いていった。
レストランで30分程過ごしたので、すでに12時になろうかとしていたので、
ファーストフード店の中はお客で一杯だった。
注文を告げ、持ち帰りだと言ったにも関らず、番号札を持たされたのだ……
たかがチーズバーガーで待たせるものだと感じながら、僕は追加注文したオレンジジュース
をすすりながら、椅子に座って順番を待っていた。
「もし、私とどこかで出会ったら……その時は よろしくね……きっとあなたの事……
わかると思うの」
僕の頭の中では、風谷ミツコさんと別れた時の彼女の台詞が渦巻いていた。
「いいんだ……今が幸せなら……あんな記憶……無い方が彼女に取っては……」
僕はつい力を込めすぎてしまい、飲み干して氷だけが入った紙パックを右手で押しつぶして
しまった。
「21番のお客様ぁ〜」 店員が声を張り上げて番号を呼んでいるのを聴き、
僕は我に帰って番号札を確認しながらカウンターに向かっていった。
「僕との記憶も……こんな風に簡単に消す事が出来るのか……」
ダストに吸い込まれて行く紙コップの残骸を見て、僕は呟いた・
恋愛感情のようなものは、お互い無かった……ただあったのは、似たような境遇で
育ち、似たような宿命を抱いていたから……お互いが惹かれあったのだ……
だから……今の彼女の境遇を考えると、このままそっとしておく方がいいと思いながらも
心の奥底では、記憶を取り戻して貰いたいと言う考えもくすぶっていた。
「またバイトしないと、小遣いが減って来たな……」
僕はチーズバーガーの入った紙袋を手にして家路についた。
そして、翌日……
僕たちは朝から体力測定の為、ジャージに着替えていろんな記録を取っていた。
もっとも、今の僕が本気で走れば、100m走の国内記録を抜いてしまうかも知れない。
だから、セーブ気味にいくつかの測定をこなしていった。
「何で体力測定で砲丸があるんだ……」 僕は二人前の生徒が足元を絡めそうにしながら
身体を回転させていた。 もっとも左右には防護用のネットがあるし、
砲丸が飛んで行く先には第二校庭との間を阻む塀があるので、危険は無いのだが……
男子は第一校庭 女子は第二校庭で測定をしているのだ。 刑務所じゃ無いんだから、
塀はいらないと言う声があちこちで聞こえていた。
僕の番が来て、僕は砲丸を掴み、心を集中させた。
そして、6割の力しか出さないぞ と心に誓いながら身体を回転させていった。
その時……頭の中にミツコさんが別れの時に呟いた台詞が浮かび上がって来た。
「今……彼女は幸せなんだ……僕は彼女に何と言えばいいんだ……今の彼女にとって、
僕は疫病神みたいなものなのに……」
僕はその思いを振り切る為か、ついセーブを忘れて砲丸を放り投げてしまった。
「おーおおををー?」
見ている男子生徒から歓声が上がっていた。
僕は身体の回転を止めて、砲丸の行方を見ると、高々と舞い上がった砲丸は
第二校庭への塀を飛び越えた所だった。
「すげー! 今の何だよ おい見たか?」
「ああ 見た見た そんなに強く投げた風でも無かったのに……」
「おい……それよりあの塀の向こうでは女子生徒が体力測定やってるんじゃ……」
僕はその言葉で、塀の向こうの女子生徒に当った可能性に気づき、
血の気が引いて行くのを感じたが、取り敢えず、様子を見る為に第2校庭に走っていった。
「すみませーん 砲丸が飛んで来ませんでしたか?」 僕は飛んでいったと思われる
方角に必死になって走っていった。
「シンイチがやったの?あれ」 ミライが僕を見て声を張り上げた。
「誰かに……当ったりしてないよね……」 僕はミライに向かって言った。
「当っては無いけど、200mハードル走やってた子のハードルにぶつかったのよ その
せいで、驚いちゃって立ち止まろうとしてつまづいてひざを擦りむいちゃったのよ」
ミライが口早に説明していった。
「とにかく謝らなくちゃ で、その子は?」
「あ、今こっちに歩いて来てる、あの子よ」
「今、砲丸投げたの、あなた? びっくりしちゃったぁ」
ミライの指差す向こうには、レストランのウエイトレスをしていた、
風谷ミツコさんかもしれない女性が笑いながら近づいて来ていた。
御名前
Home Page
E-MAIL
ご感想
今のご気分は?(選んで下さい)
そんな昔の話なんて覚えてるかい!
キャラクター一覧を作れ!さもなけばコロス!
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
第15話Cパート 終わり
第15話Dパート
に続く!
[もどる]
「TOP」