「私……渚君にコウジ君が意図的にぶつかったのを見たの……
そんな卑怯な事をするコウジ君を、元クラスメイトだなんて思わないわ!」
三谷さんは、それだけ言って足早に保健室を出て言った。
「三谷さんって大人しそうな人だと思ったのに、結構やるのね」
ミライが耳元で囁いていたが、僕はコウジ君がまるで恍惚の笑みのようなものを浮かべて
保健室の入り口を見ているのが少し気になった。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 15E
第15話【
炎
の新入生
】Eパート
「おい、伊吹……ちょっと来い」 開いたままの扉から木村先生が現れて言った。
「……はい」 まだ少し放心状態なのか、コウジ君はふらふらとしながら保健室を出た。
「あ、ミライちゃん……HRは出なくていいから、迎えが来たらそのまま帰っていいぞ」
木村先生はミライに声をかけて、コウジ君を引き連れてどこかに歩いて行った。
「アネキに電話して来るね 今日はあの坂歩いて降りられないでしょ それに着替えも持っ
て来なくちゃね」
ミライは保健室の扉に手をかけて言った。
「うん……そうだね」
本当の事を言うと、傷はもう治っていて筋肉痛が残っているだけなのだが、
あまりにも早すぎる治癒だと不審に思われるので、ミライの言う通りにする方がいいだろう。
「ふぅ」 僕はベッドに横たわったまま、保健所の天井を見ていた。
三谷さんが、もし風谷さんだったとしても……彼女はそっとしてあげたいな……
僕はそんな事を考えながらうとうとしていた。
僕は、生徒達の歓声で目を覚ました。
「ん……寝入ってたのか……今の騒ぎは何だろ」 僕は窓の方を覗き見ると、
ショッキングピンクのエレカからアヤさんが颯爽と降り立つ所であった。
一年生はもう帰っているが、本来は昼休みの時間なので、二年生と三年生がアヤさんを発見
したから、騒いでいるのだろう……
前回で懲りたのか、スピンはしてなかったようだが、駐車線からは見事にはみだしていた。
「シンイチ君っ」 アヤさんは窓ごしに見ている僕に気づいたのか、駆け寄って来た。
途中で視界から消えたので、恐らく来客用スリッパに履き変えているのだろう……
パタパタと言うスリッパの音が近づいて来たので、
僕は苦笑しながらアヤさんが入って来るのを待っていた。
「あら、アヤちゃん どうしたの? あ、あの子がシンイチ君なのね……私 会議があるか
ら、扉だけ閉めといてくれればいいからね」 「ありがとうございます」
アヤさんと保健医らしい女性が会話していた。 アヤさんもついこの間までこの学校にいた
んだから、知り合いが多いのも頷けた。
「シンイチ君!」 アヤさんは話が終わるやいなや、保健室のドアを開けて中に入って来た。
「たいした怪我じゃ無いのに、わざわざすみません」
僕はぽんぽんと足を叩いてアヤさんを安心させようとした。
が、それが失敗だったのかも知れない……
「シンイチ君 ダメよそんな事しちゃ!」
アヤさんは腰から下をおおっていたバスタオルをはねのけた。
「あ……ちょっと アヤさん……」
治療の時にジャージのズボンを脱がされていたのを思い出して、僕は内心焦ってしまった。
だが、アヤさんは僕の声にも、僕の現状にも気づいて無いのか、
淡々と傷口に巻かれた包帯を確認していた。
「血は止まってるみたいね……でも、無茶しちゃダメじゃ無い」
アヤさんは僕の方を向いて言った……僕の表情に気づいたのか、
段々と視線が下がって行き、そしてアヤさんの頬は見事なまでに紅くなっていた。
「ご、ごめんなさい」
アヤさんは数秒程視線を固定させていたが、我に帰ってバスタオルを慌ててかぶせてくれた。
「ほんと、私ったらそそっかしくて……ごめんね」
アヤさんは叱られた子犬のような表情で、目を伏せて言った。
「そんなに、気にしないで下さいよ……昔は僕をお風呂に入れてくれたじゃないですか」
僕は言い訳にもならないような事を言ってアヤさんを慰めた。
「ホント? じゃ、もいっかい……」 アヤさんは舌を出しながらバスタオルに手をかけた。
「ダメですよ もう」 「気にしなくていいって言ったじゃ無い」
「それとこれとは別ですよ」 「シンイチ君のケチ……」
僕とアヤさんはお互いの顔を見詰めて笑うのを堪えていたが、
いつまでも堪える事は出来ずに保健室は笑いに包まれた。
「シンイチ! パン買って来たよ〜 お腹空いたでしょ?」
僕達が腹を押さえて笑っている最中、制服に着替えたミライが僕の着替えと紙袋を手に
保健室に入って来た。
「何がおかしくて、そんなに笑ってるの?」 ミライは机の上に紙袋を置いて言った。
「説明すると……長くなるんだけど……ぷっ」 僕は思い出し笑いモードに移行してしまい、
まともに説明出来なくなった。 「そうなのよ ミライ たいした事じゃ無いんだけどね」
アヤさんが休み休み ミライに説明していた。
「む〜 なんだか疎外感〜」 ミライが口を膨らませながら言った。
「はい 焼きそばパンは無かったけど、ハムカツパンが今日は残ってたから」 ミライは僕
にラップで包まれたパンを手渡して、同じパンを取り出してラップを解きはじめたた。
「ねぇ ミライ 私の分は無いの?」 アヤさんが紙袋を覗きこもうとしながら言った。
「ダメ!これはオヤツにするんだから……今度はアネキが疎外感を味わいなさいよ」
「そんなぁ……そんな事言うと、エレカで連れて帰ってあげないんだから……私はシンイチ
君とドライブを楽しむから、歩いて帰ってらっしゃいな」
アヤさんは先程のミライの表情を真似して言った。
「はいはい 解ったわよ」 ミライは苦笑しながら、アヤさんにクリームパンを手渡した。
「ねぇ シンイチ君と同じパンは無いの?」 アヤさんは手に持ったクリームパンと、
僕達が持っているハムカツパンを見比べて言った。
「二つしか残って無かったのっ 文句言わないっ」
ミライはそう言って、慌ててパンにかじりついた。
「さて、そろそろ帰りましょうか」 アヤさんは立ち上がりながら言った。
「カーテン引くわね…… 一人でズボンはける? 手伝ってあげようか?」
アヤさんは笑いながらカーテンを引いてくれた。
「大丈夫です」 僕は苦笑しながら言った。
僕はタオルケットをはぎとって、ベッドの下のかごに、ミライが入れてくれた学生ズボン
とワイシャツを身に付けた。
「じゃ、僕はミライの分も鞄取って来るから、木村先生がまだいたら帰るって言っておいて
よ」 僕はカーテンを元どおりにしながら言った。
「そうね じゃ私は職員室に行ってくるから」 ミライは保健室を出ていった。
「じゃ、エレカの所で待ってて下さいね アヤさん」
僕は保健室を出ようとした……
「シンイチ君……あの時の……続きをしてもいいのよ」
アヤさんは僕の腕に絡みついて来た。
「ちょっと……アヤさん」 アヤさんの胸が腕に押し当てられていたので、僕は驚いた
「あの時のシンイチ君の返事……聞きたいな」
アヤさんは頬を染めて僕の方を見詰めていた。
僕は中等部の保健室でのアヤさんとのやりとりを思い出した。
確か……あの時は……アヤさんの胸を……
僕はあの時の事を思い出して赤面してしまっていた。
「中等部の続きを高等部でするってのもいいよね……」
アヤさんは更に僕に迫って来ていた。
もしかして”
江戸の仇を長崎で討つ
”と言う意味の事を言ってるんだろうか……
「私……シンイチ君の事だけは、自分に素直になりたいの……別に今決めろとか言ってる
んじゃ無いの……私の素直な気持ちでは、シンイチ君とこうしていたいの……
(シンイチ君は私とこうするのが嫌なの?)」
アヤさんから流れて来る思念を受けとってしまい、僕はアヤさんの心情を理解してしまった
今、アヤさんを突き放す事は出来そうに無かった。
「アヤさん……」 僕は腕にしがみついているアヤさんの顎に手を添えて顔を上げさせた。
「シンイチ君……んっ」 僕はアヤさんの唇の暖かさを感じていた。
僕は頬に熱いものが触れ、少し驚いた。
どうやらアヤさんが流した涙のようだ……
「……(シンイチ君と……高等部でキスする事は……夢だったの)」
僕の疑問の念を感じ取ったのか、アヤさんは僕と唇を重ねたまま思念を送って来た。
僕はそんなアヤさんが愛しく、つい腕に力を込めて抱きしめてしまった。
「シンイチ君 もう帰っちゃったかな……」
保健室の扉の向うに伊吹先生の声がしたので、僕は凍りついた。
どうして、中等部の伊吹先生が高等部にいるんだろう などと考えている内に、
保健室の扉は開かれていったが、アヤさんはその事に気づいて無いようだった。
僕は、卒業式の日に泣き叫んで逃げる伊吹先生を追いかけた事を思い出して少し青ざめた。
「シンイチ君ごめんなさい! コウジがとんでも無い事しちゃって……」
入って来るなり深々と頭を下げた伊吹先生は僕達の現状に気づいて無いようだった。
さすがにアヤさんも気づいたのか、僕が腕の力をゆるめると、そっと身体を離した」
「コウジも連れて来ようかと思ったんだけど、まだ頭が冷えて無いみたいだから……
木村先生に30分も説教されたのに、ろくに聞いて無いの……ごめんなさいね」
伊吹先生はようやく顔を上げた……そして僕達の口元を確認するや、
何も言わずに顔を蒼白にして、あたふたと保健室を出ていった。
「どうしたんだろ……」 僕は訳が解らず伊吹先生が去った保健室の扉を見ていた。
「あ、シンイチ君 ごめんなさい」 アヤさんがポケットティッシュを取り出して、
僕の口元を拭いてくれた。 どうやらアヤさんがさしていた口紅が、アヤさんの涙で溶けて
僕の口元についていたようだった。 伊吹先生が慌てて出て行くのも仕方無いかもしれない。
「じゃ……鞄取って来ます ミライには、伊吹先生と長話してたって言っといて下さい」
僕はアヤさんに伝えてから、慌てて教室の方に走っていった。
「おっそーい 何やってたのよ シンイチ!」
僕は二人分の鞄を抱えて駐車場に行くと、ミライがアヤさんのエレカによりかかっていた。
「伊吹先生がコウジ君の事で謝りに来てね……長話になっちゃったんだよ」
僕は窓が開いていたアヤさんのエレカの後部座席に二人分の鞄を入れながら言った。
「あ、ごめんごめん 今開けるわね」
口紅が引きなおされていたので、来客用トイレにでも行っていたのだろう……
僕達はアヤさんのエレカに乗り込んだ。
「どう アネキ 少しは運転慣れた?」 助手席に座ったミライが問いかけた。
「まぁまぁね……けど高速道路乗った事無いし……今度ドライブでもしたいわね」
僕は後部座席に横に座り、足を伸ばしていた。
「ドライブかぁ……今度の日曜日は私達だけでドライブして、どこか景色のいい所で
お弁当食べない?」 ミライはアヤさんに話しかけたが、アヤさんは少し暗い表情だった。
「シンイチ君の足の事もあるし、今度の日曜はどうかしら……」
アヤさんはルームミラーで僕の方を見ながら言った。
「大丈夫ですよ 山を登るのは無理だけど、ドライブなら問題無いですよ」
僕はアヤさんを安心させる為に言った。
「あ、私 三谷さんと結構仲良くなったんだけど、あの子を誘ってもいいかな?」
「三谷さん?」 アヤさんは首を少し傾げて言った。
「あ、そうか アネキは知らないんだ……隣のクラスの子なんだけどね……こないだのレス
トランのウエイトレスしてた子よ……結構美人なんだけど、以外と気が強いの」
ミライは、どうやら三谷さんがコウジ君を引っぱたいた時の事を思い出しているようだ。
「あぁ、あのレストランのウエイトレスが同級生だったの? 私 あの子どこかで見たよう
な気がするんだけど」 アヤさんは前方を見ながらも、何かを思い出そうとしていた。
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アヤがいてこそのSGです!
シンイチ! 俺と代われ!
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
次回予告!
ドライブに出発するシンイチ達……
彼等は無事、目的地に着く事が出来るだろうか……
様々なアクシデンツが彼等を襲う!(かも)
次回、第16話【
呉越同車(?)
】
アヤの運転する
ショッキングピンク
のエレカは……
酔う
<ボトムズの予告ネタ好きやな
第16話Aパート
に続く!
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