裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 16A
第16話【
呉越同車(?)
】Aパート
「アヤ 気を付けて行って来いよ……」
父さんが運転席のアヤさんに心配そうに声をかけているのを僕は見ていた。
昨夜耳打ちしてくれたのだが、アヤさんの車の運行管理はNERVが押さえたそうだ。
以前 皆で湖にピクニックに行った帰りに父さんのエレカが、何者かの手で制御不能
になった事を意識しての事だろう。 アヤさんが僕が怪我した日に父さんに言ったかと
思っていたが、金曜日の朝食の時間に何気なく言った為、父さんは慌てふためいていた。
父さんの進言もあり、日曜日出発を止めて土曜日の朝の出発に変えたのだ。
日曜の夕方に芦の湖方面からこっちに帰る道はかなり混むからだそうだ。
「何かあったら電話するんだよ じゃ」
「行って来ます」 「心配しなくて大丈夫よ パパ」
僕とミライが父さんに声をかけるのを待って、アヤさんの運転するショッキングピンクの
エレカが滑り出すようななめらかなスタートをした。
恐らくNERVの方でスピードのコントロールをしているのだろう……
「ねぇミライ 待ち合わせは駅前でいいんだよね」
アヤさんはウインカーを点滅させて角を曲がりながら言った。
「時間的には、まだ余裕があるから安全運転でいいわよ アネキ」
ミライは腕時計を見ながら言った。
足の痛みはもう取れていたが、足を伸ばせるようにと、僕は助手席に座らされていた。
ミライは僕の真後ろの後部座席に座っていた。
「芦の湖かぁ……小学校の時の修学旅行以来ね」
今日は天気も良く、真っ青な空に千切れ雲がいくつか浮いている程度だ。
芦の湖のドライブはきっと楽しいだろう……アヤさんとミライが早起きして、
お弁当を作っていたようだし……
アヤさんの運転するエレカは土曜日の7時前と言う事もあり、順調に駅前に向かっていた。
「ねぇシンイチ……あれから伊吹なんたらってヤツ声かけて来た?」
ミライは助手席の背もたれを掴んで起き上がって言った。
「いや、あれから視線も合わせて来た事が無いんだよ こっちが視線を向けると横を向くし」
僕は体力測定のマラソンの日からこっち3日間の事を考えていた。
「ったく何考えてるのかしらねぇ……」 ミライは嫌悪感を顔に浮かべて言った。
「まぁ、彼も悪気があってした事じゃ無いだろうし」 僕はミライを宥める為に答えた。
「悪気があってやったのなら許さないわよ!」X2
運転に集中していると思っていたアヤさんとミライがハモって言った。
「あ、アヤさん そこ右に曲がらなきゃ」
危うく曲がるべき道を通り過ぎようとしていたので、僕は慌てて声をかけた。
「そんなにハンドル切ったら人を巻き込むよ アネキ」 ミライが窓を見て悲鳴を上げた。
進行方向の信号が青だった為、信号を渡っていた誰かを危うく巻き込む所だったのだ。
「ふぅ〜危なかった……」 なんとか人を巻き込まずに右折したアヤさんのエレカは道路脇
に静かに止まった。
この交差点を右折しないと駅を通り過ぎ、更に一方通行になるので、仕方無かったとは言え
僕は安全を確認せずアヤさんに右折を告げた事を反省していた。
「危ないじゃ無いか! 何考えてるんだよっ」
アヤさんの右脇のエレカの窓の向うから、誰かの叫び声が聞こえた。
「ご、ごめんなさい 悪気は無かったの」アヤさんはウインドーを降ろして言った。
「悪気があってやられてたまるか!」 僕はその声に聞き覚えがあったので、
僕は先程の通行者を見ようとしたが、運転席のアヤさんが邪魔で僕には良く見えなかった。
「コウジ君! あなた何やってるのよ!」
僕は運転席の後ろの席の窓越しに三谷さんの姿を認める事が出来た。
「三谷が何故こんな所にいるんだよ……おまえには関係無いだろ?」
コウジ君はふてくされた顔で言った。
「三谷さん!」 ミライが後部座席の窓を開けて三谷さんを呼んだ。
「碇さんじゃ無いの……この車(エレカ)が碇さんのお姉さんの車だったのね 待ち合わせ
場所まで行かずに済んだわ」 三谷さんは微笑んで言った。
「碇?」 ようやく顔が見えたコウジ君は首を捻っていた。
どうやらクラスメイトのミライの名字を覚えて無かったようだ。
「それより、コウジ君! あなたあれからシンイチ君に謝ったの? 教室でも目が会う度に
目を逸らしてるじゃ無いの! それじゃ本当に仲直りしたとは思えないわよ いいから、コ
ウジ君も乗りなさい」 三谷さんはコウジ君の手を引いてドアを開けて車の中に入って来た
その後、駅前のロータリーで車を止めた後、三谷さんの説教が20分程続いていた。
「まぁ、それぐらいで許してあげたら? それにさっきはアネキが悪かったんだし……」
三谷さんとコウジ君と同じ後部座席に座っているミライが声をかけた。
「ねぇ……コウジ君って言ったよね 今日は何か用事があって街に出て来たの?」
アヤさんがコウジ君の方を振り向いて言った。
「いや……暇だったから 何となく」 コウジ君は小さい声で答えた。
「じゃ、私達 三谷さんと芦の湖にドライブに行くんだけど一緒にどう?さっきのお詫びって
訳じゃ無いけど、お弁当も沢山用意してるし、5人なら乗れない事も無いしどうかしら?」
僕はアヤさんの申し出を聞いて驚いたが、僕達の相互理解を深めようとしての行動だと言う事
に気づいたので、僕は何も言わなかった。
「どうせ用事も無いのに街でぶらぶらしてて補導されるよりいいでしょっ いいわねっ」
三谷さんがコウジ君にトドメをさすと、コウジ君は口をぱくぱくさせていたが、
嫌だとは言わなかった……それとも言えなかったのかも知れない……
僕達は三谷さんとコウジ君と共に最初の目的地 箱根スカイラインに向かった。
時折広めのバックミラーに、コウジ君が僕の方を睨んでいるのが見えた。
どうやら……前途は多難のようだ……
ミライと三谷さんは話が会うのか、飽きる事無くおしゃべりを続けていたが、
僕は早起きしたと言う事もあり、睡魔に身をゆだねようとしていた。
「シンイチ君 シンイチ君」 僕はアヤさんの声で目を覚ました。
「ん……どれぐらい寝てたんだろ」 僕は目を擦りながらカーナビを見たが、
すでにエンジンを切っているのか、何も表示されてはいなかった。
「ここは塩尻峠よ ここで芦の湖スカイラインと合流するんだけど、ここから先は、芦の湖
添いで景色もいいし起こしておこうと思って……それとあまりトイレが無いみたいだから、
このパーキングエリアでしといた方がいいと思うの もうミライ達は行ったし行きましょ」
僕は頷いて助手席の扉を開けて外に出た。
眩しい陽光が目を射したが、逆に心地良かった。
「もう8時半か……」 僕は15歳の誕生日の日に父さんに貰った腕時計を見た。
まるまる一時間強寝ていた事になる。
「じゃ」 僕はアヤさんと別れて男子トイレに向かった。
トイレに入る時、手を拭きながら出て来るコウジ君と視線があったが、
コウジ君はこれまでと同じように顔を背けた。
大丈夫……あと3パートもあるし……
ドライブは始まったばかりだ……きっと解りあえるだろうと僕は信じていた。
僕達はトイレを済ませ、買うでも無く売店をぶらぶらしていた。
「もう喫茶店の営業してるみたいだから、ここで軽く朝ごはんでも食べましょうよ」
アヤさんが階段を上がって来て言った。
「賛成! 今日は6時に起きてから何も食べて無いし」 ミライは嬉しそうに答えた。
お弁当を作る為に6時に起きていたとは露知らず僕は少し負い目を感じた。
「どうしたの渚君 気分でも悪いの?」 三谷さんがそんな僕の表情を見て語りかけて来た。
「いや、何でも無いよ じゃ行こうか」 僕は三谷さんと無言でついて来るコウジ君と一緒に
アヤさんとミライの後を追った。
「渚君か……確か風谷さんもそう呼んでくれたっけ」
僕は階段を降りながら、遠くに僅かにきらめく芦の湖を見ながら呟いた。
僕達はトーストを主体にしたモーニングを食べて、再び出発した。
芦の湖ハイウエイに入ると、アヤさんはカーナビの指示に従い、
エレカをオートパイロットに切り替えた。
芦の湖に見とれて事故をする者が絶えないからだろう。
最初の内はあまり良い光景では無かったが、芦の湖に張り出した部分を走ると、
これまで神秘のヴェールで隠れていた芦の湖はついにその美しい姿を現した。 セカンドイ
ンパクト以前の芦の湖スカイラインは三国山の以西を通っていたが、最新の建築技術のおか
げでより芦の湖添いの景色の良い所に芦の湖ハイウエイと名前を変えて新設されたそうだ。
「奇麗ね……私芦の湖って見た事が無かったの 前住んでた所からも遠くは無かったのにね」
ミツコさんは眼下に広がる芦の湖の湖面を見ながら言った。
後部座席のミライと三谷さんは窓ガラスの向うを食い入るようにして見ていた。
「アヤさん 帰りは別の道通るんでしょう?」 僕はアヤさんの方に振り向いて言った。
「アヤさん……何やってるんですか」アヤさんは 僕の頭があったから景色なんてあまり、
見えなかっただろうに助手席の方を向いていたので、目があってしまったのだ。
「ちょっとね……シンイチ君の後頭部の形がお父さんに似てるなって思って…… それより
何が言いたかったの?」 アヤさんは気を取り直して答えた。
「帰りは別の道通るんですよね……途中で山側の席の人と代わろうかと思って」
僕はミライを気にしながら景色を見ている三谷さんの事を思って言った。
「それもそうね……じゃ三国山のパーキングエリアの駐車場に止めましょうか……あと15
分ぐらいで到着するし」 アヤさんはカーナビを見ながら言った。
その後の話し合いで、助手席には三谷さん 助手席の後ろにはコウジ君 後部座席のまん中
は僕 運転席の後ろはミライと言う事になった。
席決めの話をしている内に、カーナビのアラームが鳴り、三国山のパーキングエリアに入る
かどうかの選択画面が現れた。
パーキングエリア内ではオートパイロットがきかないので、アヤさんはハンドルを握った。
「じゃ10分ぐらい休憩にしましょうか」 アヤさんはエレカから出て背伸びをして言った。
「賛成!」 僕達は売店やトイレ目指してばらばらに歩いていった。
アヤさんは朝からの運転の緊張と疲れのせいか、シートを軽く倒して目を瞑っていた。
トイレは済ましていたので、
僕はアヤさんに眠気覚ましに飲ませる為の缶コーヒーを買う為に売店に向かっていた。
自動販売機は見つけたが、僕は何となくお土産コーナーをぶらついていた。
とあるコーナーに山積みされているこの地方の染め物の手法を使ったハンカチを、
コウジ君が食い入るように見ているのを見つけたが、声をかけにくい雰囲気だったので、
僕は別の品を見るふりをして彼を見ていた。
「コウジ君 何してるの?」 近寄り難い雰囲気のコウジ君に三谷さんは平気で近づいて、
コウジ君の手元を覗きこんだ。
「誰かにプレゼントするの?」 三谷さんは笑いながら軽く肩を叩いた。
「……」 だが、コウジ君はあまり反応を示さなかった。
「今日は……無理矢理連れて来ちゃって悪かったわね……急な事だっただろうし……これ
貸してあげるから、今度返してよねっ」 三谷さんは5千円札をコウジ君に手渡して言った。
「じゃ、私 先に帰るから」
三谷さんはコウジ君の返答を待たず、小走りで売店を出ていった
「三谷……」 コウジ君は言葉が詰まったのか、語るべき言葉を知らなかったのか、
ただ、三谷さんの名前を呟いていた。
その後、コウジ君はハンカチの柄を見比べて、買うべきハンカチを選んでいた。
潔癖症の伊吹先生にはいいプレゼントだな と僕は思いながら、静かに彼に背を向けた。
「おっとコーヒーを買わないと……」 僕は自販機で缶コーヒーを買い、
レジの横にあった眠気覚ましの粒状のブラックガムを買って車に戻った。
「はい アヤさん」 僕はアヤさんに缶コーヒーを手渡して言った。
「あ、ありがと……シンイチ君 (シンイチ君に貰ったコーヒー……飲むのが勿体無い)」
「眠気覚ましのガムもありますから、必要な時は言って下さいね」
僕はそう言って後部座席の真ん中に座った。
少ししてミライも帰って来て、後はコウジ君を残すだけになり、僕は時計を見詰めた。
「多分まだ選んでるんだな……」
僕はコウジ君が必死になってハンカチを選んでいたのを思い出して苦笑した。
また、彼を見て、とある言葉を思い出した。
愛が無くては生き物は生きていけない
と言う言葉を……
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第16話Aパート 終わり
第16話Bパート
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