少ししてミライも帰って来て、後はコウジ君を残すだけになり、僕は時計を見詰めた。
「多分まだ選んでるんだな……」
僕はコウジ君が必死になってハンカチを選んでいたのを思い出して苦笑した。
また、彼を見て、とある言葉を思い出した。
人は愛が無くては生きていけない と言う言葉を……



裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 16B

第16話【呉越同車(?)】Bパート


時間ぎりぎりになってコウジ君が走って来たので、僕達は出発する事にした。
「あ、シンイチ君 念のために眠気覚ましのガム貰える?」
アヤさんはシートベルトを身につけながら言った。
アヤさんの左胸にかぶさっているシートベルトが少し羨ましかった
「はい、どうぞ」 僕はアヤさんにガムを手渡した。

芦の湖スカイライン 改め 芦の湖ハイウエイはその後も渋滞しておらず、
快適な車の旅を続けていた。

「この様子なら11時ぐらいには最初の目的地に着くかもね」
アヤさんはカーナビを眺めながら言った。

「えーと、これかな……12チェックポイントの到着予想時間は1時間半後ですね」
僕はカーナビを見て言った。

「まだ当分はオートパイロットだし、何か音楽でもかける?」
アヤさんは音楽用ディスクの詰まったケースを指差して言った。

「どれにしましょうか……」 三谷さんはケースを開けて中を覗きこみながら言った。
「まだあまり整理出来て無いし、適当なのを選んで貰える?」
アヤさんは手を軽くハンドルにそえたまま、横を向いて言った。
「じゃ、これを……」 三谷さんはラベルの張られていないディスクを挿入した。

だが、2分程待っても音楽は鳴らなかった。
皆が不審に思いはじめた頃、スピーカーから誰かの寝息らしき音が聞こえていた。
「ああっこれは私のコレクションだった……ごめん別のディスクにして貰える?」
アヤさんは慌てて三谷さんに言った。

寝息の他にも父さんとミライの話し声が聞こえる……
もしかしてこれは居間で眠りこけた時の僕の寝息なんだろうか……
コレクション……気になる……

ようやく普通の音楽がかかったので、僕は思考を中断した。

AM11:00

僕達を乗せたアヤさんのエレカは、ほぼ予定通りに最初の目的地である、
箱根恩賜公園に辿りついた。

「有料駐車場しか無いみたいね……」 アヤさんは有料の駐車場にエレカを停めて言った。
「ちょっと早いから、公園内を散策してから、御飯にしましょ」
アヤさんは弁当の入った篭をトランクから取り出しながら言った。

「お弁当は用意するって言ってたから、私 お父さんに頼んで食後のデザートを持って来た
の 後で食べて下さいね」 三谷さんはエンジ色のリュックサックを背負いながら言った。

「わ それは楽しみね 早く行きましょ」 ミライはお茶のポットを手にして言った。

僕は少し厚手の敷物を取り出した。 小さい石が多いと普通のシートでは痛いからだ。

「何か……手伝える事は……」 コウジ君がアヤさんにおずおずと声をかけた。

「じゃ、その鞄を持って来て貰える?」 中身は知らないが、恐らく用意周到と言うか、
不必要かと思われる物まで持って来るアヤさんの事だから、タオルだとか救急箱等が、
入っている事だろう……

コウジ君はかなり重いであろう鞄を顔色を変えずに手にした。

「それじゃ行きましょ」 僕達はアヤさんを先頭に箱根恩賜公園の入り口に向かった。

静謐を保っていた箱根恩賜公園の入り口は、僕達の踏みしめる玉砂利の音に支配され始めた。
僕達は入場券を買い、公園の門をくぐった。
ここ、箱根恩賜公園は明治天皇の屋敷だったそうだ……セカンドインパクトの後に修復された
そうだから、当時と全く同じ風景では無いかも知れないけど……
前に来たのは小学生の時だったが、箱根恩賜公園はあの頃のまま変わっていなかった。

「小学校の時の修学旅行……覚えてる?」 左右を生け垣に囲まれた通路を歩いていると、
ミライが近づいて来て声をかけてきた。

「うん……今 思い出してた所だよ」 僕は笑みを浮かべて言った。
「あまり思い出さないでよね……ここの思い出は恥ずかしいんだから……」
ミライは少し恥ずかしそうに顔を背けて言った。

ここでの出来事を、修学旅行から帰った後、皆に告げたら ミライに一週間は無視された
事を僕は思い出して苦笑した。
慣れないカメラを手に僕の写真を撮ろうとしてて池に落ちた事が、それほど恥ずかしい事
だとは思わなかったからなのだが……

そんな事を考えながら歩いていると、向うに展望洋館が見えて来た。
左右を生け垣に囲まれた通路から出ると、右手には駒ヶ岳 正面には芦の湖 左手には、
白い壁が美しい展望洋館が見えた。
(c)たかちゃん@おだわらしHP
行った事無いので、適当(爆)

「じゃ12時までの1時間を自由行動にしましょう 展望洋館の展示物を見るとか、
散策コースを歩くとか、展望台で芦の湖を見るとかいろいろ出来ると思うし」
アヤさんは案内板を指差して言った。

「その前に荷物をどこかに置かない?アネキ」 ミライがお茶のポットを持ち上げて言った。

「そうね……シンイチ君も大きい敷物持ってるし じゃお昼を食べる場所を決めましょう」
僕達は少し相談して、芦の湖が見える展望台近くの松の大木の下に、厚手の敷物を敷いて、
弁当やら荷物やらを置いた。

そこで自由行動となったが、荷物の番の必要もあるだろうから、僕はその場に残る事にした。
敷物の上で横になって、芦の湖方面を眺めていた。

湖面は波も低く、まるで鏡のようだった。
僕は湖からの風に包まれて夢の世界にいざなわれていた。

10分程眠っていただろうか……僕は背後に誰かの気配を感じて目を覚ました。

「起こしちゃったかな……ごめんね」
身体を起こして振り向くと、三谷さんが笑みを浮かべていた。

「いい風ね……ここで芦の湖を眺めようかな……」 三谷さんは僕の横に座って言った。
「コウジ君は?」 僕は芦の湖を見ながら呟いた。
「散策コースをぐるぐる回ってるわ……洋館を見にいかないか誘ってみたけどね」
僕はあまり広くも無いこの公園の散策コースをぐるぐる何度も回っているコウジ君の姿が
目に浮かんだ。

その後の数分は僕も三谷さんも言葉を発しなかった……

「ねぇ……渚君 あの日 私の店に来た事……どうして隠したの?」
三谷さんの言葉に僕は内心驚いていた。
ミライに黙って三谷さんの店に行った事……そしてその事を隠す時三谷さんに口裏を合せて
貰ってからその事について何も話さなかったので、疑問に思われて無いと信じていたのだ。

「私……渚君を初めて見た時から何故だか凄く気になってたの……」
僕はその言葉を聞いた瞬間、身体を電撃が走ったかのように感じた。

「だから 渚君がお店に来た事をミライさんに嘘をついた時……私 嬉しかったの……」
三谷さんは僕の方に少し視線を向けて言った。

「僕も……三谷さんがまるで旧知の人のように感じて……気になってたんだ……だから……」
僕は三谷さんの方を向いて話しはじめた。

「あれから……おかしな夢を見るの……その夢には渚君も出て来るの……囚われた私を
渚君が助けに来てくれる夢……心理学者に言わせたら、いろいろ言われちゃうかも知れない
けど……その夢を……繰り返し繰り返し……何度も見るの……二年前以前の記憶や思い出の
無い私には……そういう夢が救いになってるのかも……」
三谷さんは寂しげな笑みを浮かべて言った。

「シンイチぃ〜展望洋館に行こうよ! 懐かしいモノ見つけたの」
洋館の方からミライが駆けて来るのが見えたので、三谷さんとの話はそこで終わってしまった

「それじゃ、また……後で」 僕は三谷さんに一言かけてミライの方に走っていった。

「懐かしいものって何?」 僕はミライと一緒に展望洋館に向かいながら聞いた。
「見れば解るわよ……」 ミライは笑みを浮かべて言った。


「これは……確かに懐かしいね……」 「でしょ? 私もこれを見つけた時は驚いたもん」
僕達は資料展示コーナーの一角にあるコーナーで、
小学校の修学旅行の時の記念写真を見ていた。 どうやら公園の専属のカメラマンが代替わり
した時、これまで保存しておいたネガで写真を焼いて寄贈したようだった。

「この時はまだ濡れて無いんだよね」 僕は笑みを浮かべて言った。
「もう〜その事は忘れてよね……」 ミライは笑みを堪えて言った。
「いつまでも……この頃のままだったら……」 ミライは遠い目をして写真を見詰めた。
願いとは裏腹に、人は年月を重ねてしまうものだ……

その後、僕はミライと洋館の中の展示コーナーを見てから外に出た。
「あと15分か……どうする? ミライ」 僕は時計を見て言った。

「ミライ?……」 ミライは黙って僕の腕にしがみついていた。
「今だけは……私から離れないで……」 ミライは目を伏せて言った。
どうやらさっき三谷さんといた事で、何かに気づいたのかも知れない……

「私……三谷さんが気になってパパに聞いたの……確かに風谷さんは松代のレストランの
主人に引き取られたそうよ……さっきは邪魔してごめんね……けど、ここは私とシンイチの
大事な思い出の地なの……だから……今だけは……」 ミライの手は震えていた。

「ミライ……あの池に行こうよ……」 「ありがと……」
僕はミライを連れて、ミライが僕の写真を取ろうとして落ちた池に向かった。

僕はミライと石造りのベンチに座って、思い出の池を眺めていた。

「思い出と言うのも……人間を形作る大事な要素なのかもね……」
ミライはぽつりと一言しゃべった。

思い出の無い三谷さんは……どんなにか不安な事だろう……
僕は彼女の記憶を奪った原因が自分にもある事を思い、少し心が重かった。

僕達は集合時間の5分前までベンチに座り続けていた。

集合して、僕達は食事を済ませて、休憩をしてから箱根恩賜公園を出た。

12:30 恩賜箱根公園出発
13:00 箱根神社にて参拝
13:30 芦の湖遊覧船乗船
14:00 車の回送サービスを頼み、駒ヶ岳ロープウエイに乗り駒ヶ岳山頂に
15:00 反対側から降りて車に乗車

途中数ヶ所程観光地に立ち寄り、僕達は国道一号線に合流する為、
左手にゴルフ場が見える道路を走っていた。

再び席が変わっており、カーナビの操作に慣れた僕が助手席に座る事になり、
しかも車の右側が展望がいいので、最初の席替えする前の状態に戻っていた。

残りのスケジュールは、小桶谷の水着で入れる混浴のレジャー温泉に入って、
そこで夕食を取り、帰宅する予定になっていた。

この画像は(c)TOPPANとMAPIONが有するものです。再利用はなさらないよう お願い致します。
「うーん……小桶谷まで55kmですね 一時間ぐらいかな…… ほぼ予定通りですね」僕はカーナビの画面を見ながら言った。

「今日はとても楽しかったです……ミライさん 誘ってくれて
ありがとう 皆さんありがとう……いい思い出が出来ました……
コウジ君もお礼いいなさいよ」三谷さんは声をはずませていた。

「どうも……ありがとうございました」
コウジ君はそれだけ言って口を閉ざした。

ミライと三谷さんはその後も楽しそうに世間話をしていた。


「あれ、交通情報みたいですね ラジオを0313に合せてくれ と出てます」
僕はカーナビの画面に流れている文字を読んで言った。


「お願い出来るかしら」 アヤさんはハンドルを握ったまま少し僕の方を見て言った。

「0313……と」 僕はラジオのスイッチを入れてチューニングした。

”ザザッ 繰り返し申し上げます。 県道 元箱根線の国道一号線の手前10km地点に
に土砂崩れが発生し、現在通行止めになっております。 復旧現場の手前に迂回路があり
ますので、指示に従って下さいませ” 僕はラジオの音に耳を澄ましていた。
「ちょっと遅れるかも知れないわね……」 ミライは残念そうに呟いた。

まるで僕達の行く手に暗雲が立ちふさがったかのように僕は感じた……




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どうもありがとうございました!

箱根恩賜公園の観光情報 ならびに画像は、
たかちゃん@おだわらしのホームページ
を参考にさせて頂きました。


第16話Bパート 終わり

第16話Cパート に続く!



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