「ここ、完全予約制なんですって……それにお風呂は露天だけど部屋の名前と同じ露天風呂
に入れるんですって……それぞれが分けられてるなんて、変わった温泉ね」
アヤさんは笑みを浮かべて言った。
「アネキ……家族風呂しか無いって事?」
ミライがさっきまでの威勢はどこに行ったのか、小声で呟いた。
「ええそうよ シンイチ君 一緒に入ろうね」 アヤさんが満面の笑みを浮かべて言った。
「悪い予感ってこれの事だったのかな……」 僕は一瞬気が遠くなってしまった。



裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 16D

第16話【呉越同車(?)】Dパート


「長距離運転でしかも視界が無い所通ったから疲れたでしょう……ここにでも座って休んで
下さい」 僕はアヤさんに窓際の椅子を指差して言った。
「そうさせて貰うわ……」 アヤさんは少し疲れた声で答えて椅子に座った。
朝早くから起きて僕達の為に料理を作って、一日中運転してしかも道に迷って憔悴して……
僕はそんなアヤさんを見ていると、申し訳無い気持ちと感謝の気持ちが沸き上がって来た。

「あ、気持ちいい……シンイチ君ありがと」 僕はアヤさんの肩を揉んであげる事にした。
長時間ハンドルを握っていたせいか、結構凝っているようで、僕は指先から気を放出しなが
ら、アヤさんの肩を揉んでいった。

「あっ いいなぁ〜」
ミライは反対側の椅子に座って僕がアヤさんの肩を揉むのを見ていた

3分程揉み続けたであろうか……
胸じゃ無いよ

「あらら、アネキ寝入っちゃったみたい……ホントに疲れてたのねぇ」
僕は寝入ってしまったアヤさんを起こさないように、腕のマッサージを始めた。

「コウジ君とこの部屋を探して館内をぐるっと回ってたんだけど、いい所見つけたの」
三谷さんはドアを開けて入って来るなり口を開いた。

「しー」X2 僕とミライは口の前に指を立てた。
三谷さんと、すぐ後に入って来たコウジ君はきょとんとしていた。

「そっか寝入っちゃったのか……折角いいところ見つけたのに……」
「何を見つけたの?三谷さん」
「卓球場 宿泊客なら無料で使っていいそうなの 晩御飯までにはだいぶ時間あるし」
「まぁ5人じゃ一人余っちゃうしねぇ……アネキは寝かしといて4人でやる?」
「まぁ、アヤさんには書き置きしとけば問題無いか……」
「それじゃ決まり決まりっ 行きましょっ」
「じゃ僕は鍵を持って行こうか……オートロックみたいだし」

こうして僕達は小声で相談を終え、不要なものは部屋に置いて軽装になって部屋を出た。
さっきコウジ君が一言もしゃべらなかったので少し心配だったので顔を覗きこんだが、
彼は余程勝負事が好きなようで、目がメラメラと燃えているかのようだった。

「一卓しか無いのね……けど手入れは行き届いてるみたいね」
改築を繰り返したのか、行き止まりになった通路を遮るかのように卓球台が置かれた、
卓球場に僕達は辿りついた。
行き止まりとは言っても両開きの大きいガラス窓はあるし、
三段程の階段もあるので、疲れたら休む事も出来るだろう……

「卓球かぁ……中学三年の時の体育以来だなぁ……」 僕はシェイクハンドのラケットで、
ピンポン玉を空中にぽんぽんと打ち上げて久しぶりの卓球の感覚を取り戻そうとしていた。

「卓球だけは男女混合だったから、良くやったわね」 ミライは普通の握りのラケットを手
にして、ほんの数ヶ月前の事を思い出してか、感慨深そうに言った。

ラケットは4つあったので、ダブルスも可能だったが、取り敢えずカンを取り戻す為に、
僕達は普通にプレイする事にした。

「あの時は負けたけど、今日は負けないわよ」
ミライはピンポン玉を空中高く放り投げて言った。
ミライはミラクルなサービスが得意で、うまく決まると僕でもなかなか取れなかったものだ
もっとも、長時間に渡ってのラリーは苦手なので、いつもお互いにいい勝負になるのだ。

慣れる為と言いながら、いつしか僕達はローカルな簡易ルール
(10点で勝利 毎回ボールチェンジ)で戦っていた。
外は霧雨が振っている事もあり、暑くなったので、僕達は薄着になっていた。

「9−9……ヂュース5回……これで終わりよ シンイチ!」
丁度ミライにサーブ権が渡っていたので、ミライは高々とボールを放り上げた。
ミライが打ちおろした、気合いの入ったピンポン玉を僕はどうにかレシーブする事が出来、
10度程のラリーが続いていた。 僕は少しいたづら心を出して、ネットぎりぎりにピン
ポン玉が落ちるようにボールをカットした。

「届く筈っ!」 ミライは無謀にも手を伸ばしてボールを拾おうとしたが、
届く訳も無く、音をたててお腹を卓球台にぶつけてしまった。

コンコンコン つー カコーン ピンポン玉は数度ミライの目の前でバウンドしていたが、
動きを弱め卓球台から転がり落ちた。
「10−9 渚君の勝ちぃ〜」
階段に座って審判をしていた三谷さんが勝ち名乗りを上げた。

「いったぁ〜い 赤くなってるぅ〜」 ミライは起き上がって服をめくった。
「ちょっと……ミライ」 僕はミライがお腹とは言え素肌を晒しているので声を上げた。

「次は私達の番よ コウジ君」 三谷さんはラケットを手に立ち上がった。
「わかってる……」 コウジ君はさっき落ちたボールを拾い上げてから立ち上がった。

僕が今度は審判をする事になり、僕とミライは二人のプレイを見ていた。

「まさか突っ込んで来るなんて思わなかったんだ……ごめん」
僕は横に座っているミライの方を見て言った。
「……悪いと思ってるのなら、お腹撫でてよ」 ミライは服の裾を持ち上げて言った。
「シンイチに撫でて貰ったら痛みが引くみたいなんだもん……」
ミライは少し頬を赤らめて言った

「服の上からで勘弁してよ……」 「うん……それでもいい……」
僕は審判をしながら、ミライと寄り添ってミライのお腹を撫でてあげていた。
「なんだか幸せ……」 ミライは目を潤ませて試合を見ていた。


コウジ君と三谷さんも、いつしかなかなかいい試合だった
コウジ君はサービスが下手なようで2回に一回は失敗していた。
だが、どんな方向にボールが跳ねても執念で食らいついていたので、点差は無かった。
逆に三谷さんはネットギリギリにボールを落とすサービスを得意としており、
ラリーでの失点を挽回していた。

「そこに販売機があったからジュースを買って来るよ」
三谷さんとコウジ君の試合もヂュース3回目になったので、
僕はミライに審判を頼んで立ち上がった。

今時瓶が出て来る販売機だったので、僕は出てきた緑の瓶の栓を機械備えつけの装置で
開けて、4本のジュースを手に卓球場に歩いていった。

卓球場では三谷さんとコウジ君が試合を終え、階段に座って荒い息をしていた。
「どっちが勝ったの?」 僕は三谷さんにジュースを手渡して言った。
「えへへ 私が勝ったの」 三谷さんは得意そうにラケットを持ち上げて言った。
「お疲れさま」 僕はコウジ君にジュースを手渡したが、コウジ君は頷いただけだった。
実はかなり悔しいのかも知れない……

僕達は椅子に座ってジュースを飲みながら休憩していた。

「おいっしぃ〜 このジュース懐かしいわね……」ミライは緑色の瓶を照明に透かしていた

「この後でダブルスやらない?」 三谷さんはジュースを飲み干して言った
「いいわね 二人の試合見て私達とダブルスでやってみたいと思ってたの サービスが得意
な人一人とラリーとかがうまい人が一人でバランスがいいし」
ミライは早くもラケットを握って言った。
「私達 試合終わったばかりだから、そんなに慌てないで下さいよ」
三谷さんが汗をタオルで拭きながら言った。

30分後 僕達は一回目のダブルスの試合を終えて休憩していた。
一回目は僕達の勝利だったが、点差はあまり無かった。

「やっと見つけた! もう〜みんな酷いんだから〜」
アヤさんが僕達を見つけて走り寄って来た。

「疲れてるみたいだったし、良く寝てたじゃない アネキ」
ミライが笑いながらいなした。
「もう疲れは取れたから、私も混ぜてよ」 アヤさんが卓球台の上に置いているラケットを
手にして言った。
「御飯まで30分ぐらいあるし、私汗をかきすぎたから、一汗流して来ますから、アヤさん
どうぞ」 三谷さんが立ち上がって言った。

「じゃ、鍵預けて置くから、お風呂に入る前にフロントにでも預けておいてね」
僕は三谷さんに鍵を手渡して言った。
「あ、タオルは備えつけのがあるそうよ」 アヤさんが去っていく三谷さんに言った。


「じゃ、私とシンイチ君のペアとミライとコウジ君のペアね さ やりましょう」
「アネキ いきなり仕切らないでよね それにシンイチは私とペア組んでたのよ」
「さっきペア組んだんなら今度は私の番よ それに私を置いていった罪は重いわよ」
僕は二人のやり取りを聞いて苦笑していた。

「いきなり試合だと身体が動かないから、軽くプレイしておいた方がいいですよ」
僕はアヤさんに助言した。

「じゃ、勝った方がシンイチ君とペアよ……いいわね ミライ」
「おっけぇ〜い 実力で勝ち取ってやるわ アネキ勝負よ!」
「軽くプレイって言ったのに……」 二人は早速試合を初めてしまっていた。

執念の為せる技か、アヤさんはミライ相手に大勝して、僕とペアを組む事になり、
僕達は再びダブルスの試合をしていた。

僕達は1セット終えて階段で休憩していた。

「アネキ強いわねぇ……まさか卓球が趣味なんじゃ……」
1セット目は僕とアヤさんのペアが勝ったせいか、ミライはすねていた。

「キャー 誰か助けて」


その時、暑くなった為に開けていた窓から、三谷さんの悲鳴が聞こえて来た。

この行き止まりの通路から遠く無いようだったので、僕は窓枠を蹴って外に飛び出した。
(体育10) (c)彼氏彼女の事情
すぐ後にコウジ君も続いて飛び越えて来たので僕達は悲鳴が聞こえた方向に走っていった。

{{兄さんっ 三谷さんのいる場所に導いてよっ}}
僕は久しぶりに兄さんに問いかけた。
{わかった……次のT字路を右に行って、左側の4つ目のドアだ}
{{ありがとう 兄さん}}

僕は三谷さんの元に走っていった。
ミライとアヤさんが残ったが、きっとフロントに連絡してくれただろう……

僕は桔梗と書かれたプレートの下がったドアの前に辿りついた。
少ししてからコウジ君も辿りついていた。
僕はドアノブに手をあてたが、どうやら電子ロックになっているようだった。

「開け!」 僕は力を込めて開けた振りをして、電子ロックを目で睨んで解除した。

扉の向うは更衣室になっており、三谷さんの衣服が折り畳まれていた。

「三谷さん 入るよ!」 僕は念の為、一声かけてから浴場に出た。

三谷さんは石垣にかこまれた露天の家族風呂の隅の方でうずくまっていた。

だが、悲鳴を上げる必要のある存在など、どこにも見当たらなかった。

「三谷さん 何が起こったの!」 僕は三谷さんに問いかけた。
「どけっ」 コウジ君がバスタオルを手にして僕の横を通り抜けて来た。

だが、コウジ君は僕が邪魔で見えなかったようだが、三谷さんは水着を着ていたのだ。
「なにか……空を飛ぶ大きい黒っぽい生き物がバサバサって飛んで来て、私を捕まえよう
としてたの…… けど、渚君の声がするちょっと前にどこかに飛んで行ったの……」
三谷さんは震えながら答えた。

「もう大丈夫だよ 三谷さん……僕達が来たんだから…… 僕達は更衣室の外で見守ってる
から、もう一度お風呂に入って、良く暖まりなよ」 僕はそう言って三谷さんに背を向けよ
うとした。
「私……恐いの……お願いだから側にいて……渚君……」 三谷さんが震える声で僕の腕を
掴んで哀願したので、僕は三谷さんが水着を着ている事もあり、頷いた。

僕は乾いている木製の椅子に座って、三谷さんを安心させた。
「俺はみんなに連絡して来る……」 コウジ君はぼそっと言って浴場から出ていった。

僕は湯船に再び漬かった三谷さんを見守っていた……
もう二度と……彼女があんな目にあわないように……




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どうもありがとうございました!


第16話Dパート 終わり

第16話Eパート に続く!



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