その時、下の方から誰かの話し声が聞こえて来た。
「ど、どうしよう……起きなきゃ」 だが、何しろミライが半ば抱きついているので、
ミライの目を覚まさずにベッドから抜けだす事は非常に困難なのだ。
下手に起こすとまたミライにひっぱたかれそうで……新聞の勧誘ならとっとと帰ってくれ
そんな事を感じていると、一際大きく声が聞こえた。
「こんにちわー 渚君いませんか?」僕は三谷さんの声を聞いて血の気が引くのを感じた。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 17C
第17話【
ザ・ビューティフルメモリー
】Cパート
「ど……どうしよう」 僕はミライに抱きつかれたまま途方にくれていた。
「いないのかしら……あら開いてる……不用心ねぇ」
三谷さんの声を聞いたせいか、僕の心臓は早鐘のように鳴り響いてきた。
僕の心臓の音でミライを起こしはしないかと心配する程に……
「ん……」 ついに好機が訪れ、ミライが反対側に寝返りを打とうとしたので、
僕はミライを起こさないように素早く身体を離した。
着替える時間も無い事だし、僕は足音を出来るだけ立てないように部屋を出て階段を降りた
「あ……渚君 寝てたの? ごめんなさい……」
三谷さんは半分ほど開けた扉から室内を覗きこんでいた。
「そろそろ起きる時間だったし……で、何かあったの?」 僕は出来るだけ平静を装った。
「実はこの間の勉強会で……ノートを一冊無くしたの もしかしてここに落ちて無かった
かなと思って」 三谷さんは落ち着かないのか、少しそわそわしながら言った。
「この間……居間で勉強した時の事かな じゃ、落ちてるかも知れないから探して来るよ」
僕はそそくさと、居間に歩いていって、ノートが落ちていた場所の近くの食器棚と壁の隙間
から、三谷さんのノートを取り出して、呼吸を整えた。
「……あれは夢だ……現実じゃ無い……落ち着け……落ち着くんだ」
僕は眼を閉じて、自分に言い聞かせた。
「僕が読んだ事を知れば……きっと彼女も気まずい筈だ……」
僕はノートを小脇に挟んで玄関に戻った。
「テーブルの下に落ちてたよ 多分これの事だと思うんだけど」
僕は三谷さんにノートを手渡した。
「良かった……他の所とかも探したけど、見つからなかったの」
三谷さんは大事そうにノートを胸に抱いて言った。
「寝てた所を起こして、本当にごめんなさいね」
そう言って三谷さんが背中を向けた時、三谷さんが身体を震わせた。
「渚君……つかぬ事を聞くけど……このノートの中身……見た?」
三谷さんは僕に背を向けたまま、抑揚の無い声で呟いた。
「え……あの……」 僕は混乱してしまい、用意していた言い訳を言う事が出来なかった。
「ノートから渚君を感じるの……ノートを読んだ時の驚きが焼き付けられてるみたいに」
サイコメトリーと言われる能力がある事は知っていたが、
三谷さんがサイコメトリーを行う事の出来る能力者だとは知らなかったのだ。
「ごめん……見てしまったんだ……全部」
僕は夢の時のように下手に嘘を付いて泥沼になるのを恐れて正直に言う事にした。
「落としていったのは偶然だけど……渚君に今の私を知って欲しいと言う気持ちがあった
から……謝らなくていいのよ 渚君」 三谷さんは振り向いて寂しい笑みを向けた。
「三谷さん……いやミツコさん 僕はあなたを呼び覚ましてしまった事は後悔しているけど
あなたが戻って来てくれて……僕は嬉しいと思っています」
ドアノブに手をかけようとしている三谷さんの背に僕は言葉を投げかけた。
「その言葉だけで…………」 三谷さんは途中まで言いかけて声を忍ばせて泣き始めた。
「ミツコさん……」 僕は後ろからそっと近づいて声をかけた。
「今度会う時は……笑っていたいから 今は……」 ミツコさんは僕の意図を察したのか、
振り向いて僕の胸に顔を埋めて忍び泣いた。
僕はそっと肩に手を回して、まるで子供をなだめるかのように撫で続けていた。
どれほどの間、僕の胸で泣いていただろうか……ミツコさんはそっと身体を離した。
「……ありがとう」 ミツコさんはそう言って無理して笑みを作り、
ドアノブに手をかけて言った。
「それじゃ……」 ミツコさんはそっと呟いて、おじぎをして家を出ていった。
少し不安もあったが、僕には彼女を追いかける事が出来ず、
ただそっと去っていくその背中を見詰める事しか出来なかった。
「夢のような事にならなくて良かった……」 僕は深呼吸を一つして扉の鍵を閉めた。
「やっぱり風谷さんだったのね……ヨシコさん」階段の上からミライが話しかけて来た。
「ミライ……」 ミライが二階から立ち聞きしていたとは知らず僕は驚いていた。
「顔も似てると思ったのよ……整形したんでしょうね これまで確証が持てなかったけど」
ミライが一段一段ゆっくりと階段を降りながら口を開いた。
「……」 僕は何と答えていいのか悩んでいた。
「心配しなくてもいいわよ……別にパパに言いつけたりしないし……もう知ってるかも
知れないけどね……あの夜……二人で夜中に帰って来た時……何かがあったんでしょ?」
「あの夜……記憶を取り戻したんだ……だけど、今の彼女は三谷ヨシコとして生きる事を
選んだんだ……だからそっとしてあげたいんだよ」
フローリングの床の冷たさが裸足の足の裏から伝わって来た。
「心配しないで……三谷さんとは仲良くなったんだし……シンイチが困る事はしないわ」
ミライは少し寂しそうに横を向いて階段の手すりを握り締めていた。
「ありがとう……」 僕は階段を二段程上がって、手すりを強く握り締めているミライの
手にそっと自分の手を重ねた。 これは誓いなのだ……自分が偽りを言わない事の……
「濡れてる……彼女の涙で寝間着が濡れたのね」ミライは僕の寝間着に手を触れて言った
ついさっきまで寝言で無邪気に僕の名を呼んでいたミライと同一人物には見えなかった。
「寝間着を変えて来るよ」
僕は気まずさに堪え切れず、ミライに背を向けて階段を降りようとしていた。
後ろから寝間着のボタンを外す音が聞こえて来ていた。
「待って……私も汗をかいたから寝間着を変えるから」
僕の背後でミライは寝間着の上下を脱ぎはじめたようで、僕は硬直していた。
「これも 洗濯機に入れておいてくれる?」 僕は後ろを振り向いた。
ミライが軽く折り畳んだ寝間着を手に僕の方に差し出していた。
ミライは厚手のかなり大きめのTシャツとパンティーだけを身につけていた。
もっともTシャツで殆ど隠れてはいるのだが。
「うん……」 僕は出来るだけ平静を装ってミライの寝間着を受けとって階段を降りた。
まだ3時にもなっていない……夕食を作りはじめるのは5時の予定だ……
気まずい二時間を考えると、僕は少し頭が重くなって来ていた。
僕は寝間着を脱いでミライの分と一緒に洗濯機に放り込んだ。
「僕の換えの寝間着は二階のベランダで干してたっけ……」 ミライの換えの寝間着はあっ
たので、僕は下着姿のまま、ミライの寝間着を手に二階に上がった。
「ミライ……換えの寝間着置いて置くから」僕はミライの部屋の前に寝間着を置いて言った。
返事は無かったが、聞こえただろうから僕は自室に戻った。
「ミライ……」 もう自分の部屋に帰ったと思っていたミライが僕のベッドの上でタオルケ
ットに包まれて横たわっていた。
「おかえり……」 ミライはタオルケットの裾を持ち上げて微笑んだ。
「あと一時間だけ……一緒にいさせてよ……喫茶店でシンイチに手を繋いで貰ってた時、
良く眠れて凄く気持ちが良くって疲れが取れたの……だから一緒に寝たらもっと気持ちいい
かなと思って……」 普段と同じ笑みを見せたミライを見て、僕は少し安心した。
「解ったよ……寝間着を着るからちょっと待ってね」
「寒いから早く……」「う……うん」 僕はなしくずし的にミライの言う通りにさせられた。
年中夏で寒い筈も無いのだが、僕はミライにせかされて、ミライの横に寝た。
「ミライ……」 何か着ていると思ったミライだが、さっき別れた時のままの格好だと言う
事に気づいて僕は驚いた。
「だから寒いって言ったでしょ」 ミライはしてやったりといった顔で微笑んだ。
10分後……
二人とも寝間着を着ていた時は、さほど意識せずとも済んだのだが……
ミライが寝息を立て始めたので、僕は少しほっとしたのだが……
数分後のミライの寝返りで……僕は眠れそうに無くなってしまった。
シャツしか着ていない僕の胸の上に、これまたTシャツしか着ていないミライの乳房が押し
つけられており、ミライの心臓の音まで聞こえるかのようだった。
無防備な寝顔とTシャツの首もとから覗く光景に、僕は理性を失いかけたが、
なんとか耐える事が出来ていた。
20分後……
「あれ……シンイチ眠れないの?」 何かの拍子に目を覚ましたミライが呟いた。
「うん……ちょっとね」 何故ミライはこんな状態で眠れるのか不思議なくらいだ。
「眠れるおまじないしてあげよっか……」 僕は小学校低学年の時にミライと昼寝していた
時に、ミライが似たような事を言ったのを思い出して苦笑した。
「何笑ってるのよ……もう」 「いや、昔の事を思い出したんだ」
ミライは僕の答えに満足したのか、少し目を細めた。
そして僕の予想通りにミライは僕の唇に自分の唇を重ねてきた。
授業が終わった昼下がり おやつを食べてこうして二人で昼寝した時の事を僕は思い出し、
僕はあまり興奮せずに自然にミライのキスを受け止めていた。
僕達は抱き合って唇を重ねたまま、いつしか眠りの世界にいざなわれていった。
1時間後
PiPiPiPi
「んっ……」 僕はセットしておいた目覚ましの音で目を覚ました。
ミライはいつの間にか横にはいなくなっていた。
そして、僕の頭もとに”我が侭につきあってくれてありがと”と書かれたメモが一枚置いて
あった。 「もうこんな時間か……」 僕はベランダで干していた寝間着を取り入れて箪笥
に入れ、部屋着に着替えて階段を降りた。
30分程して、アヤさんと母さんも帰って来て、わいわい言いながら夕食の準備をした。
その日の夜はミライも元気を取り戻していたので、僕は少し嬉しかった。
そして翌日
「ちょっとミライ 水が強すぎるよ」 アヤさんのエレカの洗車のバイトなのだが、
昨日の御礼と言う意味なのか、ミライも手伝ってくれていた。
母さんは荷物の準備に余念が無く、アヤさんは家の掃除をしていた。
30分後には母さんとアヤさんは出かけるので、それまでに洗車しないといけないので、
ミライが手伝ってくれて助かっていた。
「それぐらいの量でいいよ ホースを持っててくれる?」
僕はミライに水をかけて貰いながらショッキングピンクのエレカを洗車していた。
「シンイチ君……」 僕は背後からアヤさんに呼び止められた。
「何です?アヤさん」 僕はブラシを手にしたまま振り向いた。
「あなたの布団からこんなに長い黒い髪の毛が出て来たんだけど……」
アヤさんはどうやらミライの髪の毛らしい髪の毛を指で摘まんでいた。
「そういえば、昨日お客さんが来てたみたいねぇ シンイチ……」
ミライがいきなり裏切ってそんな事を口走った。
「誰なの?シンイチ君!」 アヤさんは血相を変えて僕ににじり寄って来た。
「え……」
僕は何と答えるか考えていると、今にもアヤさんが泣きそうな顔をしているのに気づいた。
「アネキぃ〜冗談だってば、シンイチが復習してる時に私がシンイチのベッドで仮眠したの」
ミライがようやく助け船を出してくれて、僕は胸を撫でおろした。
「自分の部屋は隣でしょ?何故シンイチ君のベッドで寝たの?」
だが、疑心暗鬼になったアヤさんは、矛盾を突きつけて来た。
「もう〜ならアネキもシンイチのベッドで寝たらいいでしょ……」
ミライは呆れた顔で答えた。
「シンイチ君の事で私に譲るなんて、怪しい!」 子供みたいに頬を膨らませてミライを追
求しているアヤさんが可愛らしく僕は、つい苦笑してしまった。
「アヤ〜何してるの?時間無いんだから、早く着替えなさい」
母さんが裏のドアを開けてアヤさんを急かした。
「おいおい……日曜の朝ぐらいゆっくり寝かせてくれよ……」
夕べ遅くに出張から戻った父さんが寝室の窓を開けて眠そうな目で僕達を見て呟いた。
僕はこの大切な人達を守る為なら何でも出来る……
そう思うだけで自分の存在意義を再確認出来る……
これって、ミツコさんと同じなのかも知れない……
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よくやったな……ミライ(笑)
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第17話Cパート 終わり
第17話Dパート
に続く!
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