「アヤ〜何してるの?時間無いんだから、早く着替えなさい」
母さんが裏のドアを開けてアヤさんを急かした。
「おいおい……日曜の朝ぐらいゆっくり寝かせてくれよ……」
夕べ遅くに出張から戻った父さんが寝室の窓を開けて眠そうな目で僕達を見て呟いた。
僕はこの大切な人達を守る為なら何でも出来る……
そう思うだけで自分の存在意義を再確認出来る……
これって、ミツコさんと同じなのかも知れない……
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 17D
第17話【
ザ・ビューティフルメモリー
】Dパート
「ふぅ 何とか間に合ったなぁ……」
洗車したての車に母さんを乗せてアヤさんが運転して出かけたのがほんの数分前
僕は洗車の道具をしまい込んで、裏口から中に入った。
「はいっシンイチ!」
ダイニングに行くと、いきなりスポーツ飲料が放物線を描いて僕の方に飛んで来た。
「びっくりしたよ けど、ありがと」 僕はスポーツ飲料のタブを開けた。
「驚いてた割にはちゃんとキャッチしたじゃないの」
ミライはスポーツ飲料から唇を離して言った。
「そういえば、父さん また眠ったのかな」 僕は寝室の方向を見て呟いた。
「夕べ遅かったからねぇ……パパは一度寝たらこういう場合なかなか起きないからねぇ」
「夕方の5時ぐらいまで寝てて、てっきり出かけてると思ってた時とかあったよね」
僕は三谷さんの事がほぼ心配無くなったので、穏やかな気持ちでミライと話していた。
「けど、今日はお昼前ぐらいから暑くなりそうね……」
「じゃ 涼しい内に明日のテストの為の復習しておく?」
「けど今からやっても暑くなるし……ね 図書館行かない?」
「そういえば、ミライは良く図書館行くよね ところで最近 鈴原さんと図書館行って無い
んじゃ無い? 勉強会も都合悪くて来れないって言ってたし、何かあったの?」
僕は飲み干したスポーツ飲料の缶をテーブルの上に置いて言った。
「試験勉強はお姉さんとしてるんだと思う……」 ミライは語尾を少し濁して言った。
「じゃ、準備して今から行く?」 「……じゃ5分後ね」
僕はミライと一緒に階段を上がりながら言った。
洗車用に汚れてもいいTシャツを着てたので、僕は外出用のTシャツに着替えた。
そして、頭の寝ぐせを残りの時間を使って取り除き、ミライの部屋のドアが開いた音がした
ので、僕も勉強会の時のノートを端末の入った鞄に入れて部屋を出た。
「そうだ パパに一声かけてく?」 ミライが階段を降りながら問いかけて来た。
「んー けど今起こすのは可哀想だから、頭もとにメモでも置いて来るよ」
で 結局言い出しっぺの僕が”図書館で復習します”と書いたメモ用紙を父さんの頭もと
に置く事になったので、僕は出来るだけ父さんを起こさないように寝室の扉を開けた。
父さんは想像通り寝入っていた。
その寝顔は、どことなく まだあどけなさを感じさせた。
比較的童顔なせいか、中学教師として自分の卒業した中等部に赴いた時には、教師だと思っ
てくれず、まるで友達のように生徒が接してくれた と昔言っていたのを思い出した。
僕はつい寝顔をまじまじと見てしまい、肝心のメモを置く事を忘れそうになっていた。
「ここに置いておけば解るかな」 僕は父さんの頭もとのベッドの棚にメモを置き、
父さんの腕時計を重しにした。
「ん?」 ベッドの頭もとに小さい封筒があり、一枚の写真が顔を覗かせていた。
「ミドリさん……」僕はなんとか声を上げる事を制止して封筒からはみ出した写真を見た。
その写真はあまり鮮明では無かったが、レストランでウエイトレスをやっているのか制服を
着て、左手にコーヒーカップとトーストの乗ったトレイを持って、道路を歩いている写真で
あった。
「ミドリさんも松代で元気でやってるんだな……」 僕はもっと見たかったが結構時間が経
っていたので、寝室を出る事にした。 音を立てずに寝室のドアを閉め、寝室に背を向けた
時には少し緊張が緩んだのか、あくびが出た。
「遅かったわね」 玄関でミライがすでに靴を履いて腰かけていた。
「頭もとがごちゃごちゃしてたから、起こさないようにメモを置くスペースを作ってたんだ」
僕は少し嘘を付いてごまかした。
「じゃ、行きましょうか」 ミライは僕が靴を履くのを待って言った。
日曜の午前10時と言う事もあり、図書館へ向かう道にあまり人の姿は見受けられなかった。
「けど、ここ一週間 勉強ばかりだね」 僕はあくびを噛み殺して言った。
・
そうでも無いやろ 一緒に寝たりとかキスしたりとか……以下略
・
「充分すぎるほど、勉強したけど……しておかないと落ち着かないもんね」
ミライは意識しているアヤさんが好成績を残した高等部での試験と言う事を意識している
からなのだろうか…… そんな事を考えてる内に僕達は図書館まで辿りついていた。
「一杯ねぇ……テスト前日の日曜日がこんなに混んでるなんて……」
「不安なのは僕達だけじゃ無いって事かな……けど空いてる所無いなぁ」
「あ……渚君」「あら シンイチ君」 6人かけの一つのテーブルを斜めに挟んで、
三谷さんと洞木さんが勉強していた。 二人とも僕達に声をかけたので、お互い少し驚いて
いるようだった。
良く考えれば、鈴原さんは少しランクの高い女子高に進んだから三谷さんの事を知る訳も
無いから当然なのだが……
「遅くなって悪いな」 その時 聞き覚えのある声が背後から聞こえて来た。
「あ……ムサシ君」 鈴原さんは可哀想な程顔を紅くしていた。 当のムサシは僕達に未だ
気づいていないようで、ムサシは鈴原さんの向かい側の椅子に腰かけた。
「なるほど それで私達の勉強会に出て来なかった訳ね ムサシ君」
ミライが意地悪そうな笑みをして、ムサシの背後から声をかけた。
「な、なんでミライがここにいるんだっ シンイチまで」
ムサシはようやく僕達の存在に気づいて、パニック状態になっていた。
「てっきり、お姉さんと勉強してるんだと思ってたのに」
ミライはトドメを差すかのように、洞木さんの隣に座って言った。
「…………」 洞木さんは未だ顔を染めたまま、俯いていた。
「よう ひさしぶり」 「よ……よう」 僕は逆に何気なくムサシの隣に座った。
右となりには三谷さんが座っているので、軽く会釈をしてからムサシの方を向いた」
ムサシの声は裏返っており、末尾が濁っていた。
普段は飄々としているムサシだが、相当あせっているのであろう
僕は何気なく鞄からノートと筆記用具を取り出して、復習を初めた。
…………しばらくの間 沈黙が場を支配した。
緊張に堪え切れなくなったのか、ムサシの肩が軽く震えているのが感じとれた。
「鈴原さんが 一人 女子校に行って……寂しそうだったから……その……」
ムサシが小声で説明を始めたので、僕とミライは聞き役に回る事にした。
三谷さんも興味あるのか、さりげなく聴いているようだった。
「それで一度勉強見て貰って……それ以来 たまにこうして一緒に勉強してたんだ」
ムサシが勇気を振り絞って説明した以上 これ以上その事に触れるのは可哀想だったので、
僕は追求を止める事にした。
「あ、そうそう紹介するの忘れてた 三谷さん 彼女は中学校の時の同級生の洞木さん」
ミライが場の雰囲気を変える為に、三谷さんに洞木さんの紹介を始めた。
「で、こちらが三谷さん 同級生なの 席は離れてるけどね」
ミライが今度は洞木さんに三谷さんの紹介を始めた。
「で、お家がイタリア風のレストランやってるの 美味しいのよ」
「あの……どこかでお会いした事ありませんでしたっけ……」
洞木さんの言葉に三谷さんは少し驚いていた。
顔を少し整形してる上に雰囲気も少し違うのに、過去に風谷ミツコとして出会い、
同級生として短い時間とは言え、過ごした事を、おぼろげながらも気づいているのだろうか
「この町では良く言われるんです……最近引っ越して来たんですけど」
僕は三谷さんの答え方を見て少し安心していた。
その後は和気藹々と勉強を続けていた。
「もうお昼か……お腹空いたわね」 ミライがお腹をさすりながら呟いた。
「ちょっと曇って来たし、外もあまり暑く無いみたいだね」 僕は窓を見ながら答えた。
暑くなるお昼までの復習と言う事にしていたので、そろそろ帰ろうかと思ったのだ。
「ねぇ、何時まで勉強するつもりだったの?」ミライは洞木さんと三谷さんに交互に言った。
「お昼まで勉強して、一緒にお昼食べてから帰る予定なんだけど」
洞木さんは少し恥ずかしそうに言った。
「私はそろそろ帰って家の手伝いしないといけないし……アルバイトがいるけど、立て込ん
だらいけないしね」 三谷さんは荷物をまとめながら言った。
「そうだ 三谷さんの所に食べに行こうよ 凄く美味しいのよ」
ミライは洞木さんの肩を叩いて言った。
「ホント? じゃそうしようかな 積もる話もあるし ムサシ君もいいよね」
洞木さんはムサシの方を見て問いかけた。
ムサシは黙って頷いたので、話はまとまり、僕達は荷物をまとめて図書館を出た。
僕達はいろんな話をしながら、三谷さんの家に向かっていた。
「混んでたらごめんね」 そう言って三谷さんが店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ! あらお嬢さん お帰りなさいませ」
「もう〜ミドリさん……お嬢さんだなんて言わなくていいの……それに同い年でしょ」
僕は三谷さんの後ろにいたので、”ミドリ”と言う言葉を聴いて一瞬硬直していた。
「あまり忙しく無さそうね じゃ私着替えて来るから、奥の席に案内してあげて」
そう言って三谷さんは奥の方に入って言った。
「はい わかりました」 そのウエイトレスは三谷さんを見送った後、僕達の方を向いた。
その途端、ミドリと呼ばれたウエイトレスは目を少し見開いて僕を見詰めた。
「っ……シンイチさん……」
「ミドリさん……こっちに戻ってたの?」 僕は父さんの写真を思い出して言った。
「うん……あ、取り敢えず席にどうぞ」 ミドリさんはそう言って僕達を奥の6人ぐらい座
れる席に案内した。
「え?もしかして、樹島さん? 久しぶりね」 鈴原さんが嬉しそうに声をかけた。
「鈴原さんでしたっけ……御久しぶりです」 ミドリさんも笑みを浮かべて答えていた。
「急に転校していったでしょ 仲良くなりかけてた頃だったから残念だったけど、
また会えて嬉しいわ 私、第一女子高校に通ってるのよ」
「え?どのクラスです? 私1−Dなんですけど……」
「うそー 私1−Aなんだけど、気づかなかったぁ〜1−Bとなら合同で体育やるけど、
CクラスやDクラスとは講堂でしか会わないもんねぇ」
席に案内した後も、洞木さんは嬉しそうに樹島さんと話していた。
知り合いがこれまでいなかったのに、急に旧知の知り合いが同じ学校だと解って、
心強くなったのだろうか……
「一緒に山に行った樹島さんか……」
「私はあの後会った事あるけど、第三新東京市に戻ってるなんて知らなかったから……」
ムサシとミライも樹島さんを見て話していた。
「あ、お水持って来ますね」 そう言って樹島さんは僕達の席から離れた。
「お待たせ 私はパパに言ってオムライス作って貰う事にしたの で何にするか決まった?」
「あ…忘れてた」 僕達は思い出したかのようにメニューを広げて、めいめいに注文した。
「ミドリさん、いつもここでバイトしてるの?」 僕は三谷さんに問いかけた。
「知り合いなの?」 三谷さんは僕の耳元でそっと呟いた。
「覚えて無いの? 前……同じ頃に転校して来た樹島さんだよ一緒に山にも行ったし……
そういえばノートにミドリさんの事書いて無かったね……」 僕も小声で三谷さんに答えた。
「それ本当?……覚えて無いの……それが本当なら 彼女の事だけすっぽりと……」
「もしかしたら、記憶を消された時に、あまり関心の無かった人や出来事は完全に消えたん
じゃ無いかな……重要な事は思い出せても、些細な事を覚えて無いとか無い?」
「そう言われると……そんな気もするわ……けど、彼女の方は私を覚えている筈よね……
整形はしてるけど……」
その後 料理が来たので、僕達はわいわい言いながら食事をとった。
「えーと、鈴原さんとムサシが700円づつ、ミライと僕が800円か……」
「はい」 僕は鈴原さんから二人分のお金を受けとった。
「これで払っといて」ミライはそっと千円札を二枚手渡してくれた。
「それじゃ、明日 学校でね」 三谷さんは奥の方に入っていった
僕はレジの前にお金を持って立っていると、ミドリさんが来てくれたので、
僕は料金を支払った。
「また 来るから……」 僕はおつりを受けとる時にミドリさんに聞こえるように呟いた。
「ありがとうございました〜」
僕はミドリさんの声を背に受けて店を出た。
店の前で、洞木さんとムサシと別れて、僕達は家路についていた。
「あっパパの事忘れてた……お腹空かせてるかなぁ〜」
「まだ寝てたりして……」 「起きてるかどうか賭ける?」
「賭けはともかく 起きてるんなら何か買っていかないとね 電話して来るよ」
僕は近くの公衆電話に歩いて行った。
「小銭 小銭と……ん? レシートかな」
さっき貰ったお釣りの中に入っていたのか、小さく折り畳まれた紙があったので、
僕はそっとその紙を開いた。
「ミドリさん……」 その紙にはミドリさんの家の住所と電話番号が書かれていた。
僕はその紙を財布の中にそっとしのばせておいた。
御名前
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血の雨の予感……(笑)
恐るべし女難の相
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
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どうもありがとうございました!
次回予告!
シンイチの前にミドリが現われ、シンイチの女難の相を構築する
アヤ・ミライ・ミツコ・ミドリの四つの星にシンイチは囲まれてしまった。
次回こそは血の雨が降るのか……それとも……
次回第18話【
Love Pentagon
(五角関係)
】
君は血の雨を見る(かもしれない)
第18話A パート
に続く!
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