「ありがとうございました〜」
僕はミドリさんの声を背に受けて店を出た。
店の前で、洞木さんとムサシと別れて、僕達は家路についていた。
「あっパパの事忘れてた……お腹空かせてるかなぁ〜」
「まだ寝てたりして……」 「起きてるかどうか賭ける?」
「賭けはともかく 起きてるんなら何か買っていかないとね 電話して来るよ」
僕は近くの公衆電話に歩いて行った。
「小銭 小銭と……ん? レシートかな」
さっき貰ったお釣りの中に入っていたのか、小さく折り畳まれた紙があったので、
僕はそっとその紙を開いた。
「ミドリさん……」 その紙にはミドリさんの家の住所と電話番号が書かれていた。
僕はその紙を財布の中にそっとしのばせておいた。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 18A
第18話【
Love Pentagon
(五角関係)】Aパート
「ふぅ……」
僕は試験中だと言う事も忘れて、他人に聞こえる程のためいきを漏らしていた。
別に問題が解らない訳では無い……全問を書きおえてチェックしている所だ……
アヤさんの指導と担任の木村先生の担当している教科のヤマカンが当ったせいか、
最も苦手にしていた教科も、普通以上に出来たように思う。
「……」 そんな落ち着かない時は気がつくと、僕の左手は財布の入っているズボンの
左ポケットの上に自然に移動するのだった ミドリさんからメモを渡されてから……
「ようっシンイチ!」
今日の試験も3時間目までで終わり、荷物を片づけているとムサシが声をかけて来た。
「どうかしたの? ムサシ」 僕は鞄を担ぎながら答えた。
「ちょっとつきあってくれないか? 野暮用なんだけど……」
ムサシは普段に無くすこしそわそわしていて、周りを小刻みに見ながら小声で囁いた。
「いいけど、時間かかるの?」 僕は腕時計を見て言った。
「いや……30分ぐらいだけど、他に用事あるのか?」
「30分なら構わないよ」 僕はそう言ってからミライの方を振り向いた。
「ちょっと遅くなるけど、お昼ご飯食べる頃には戻るから」
僕たちをじっと見つめていたミライに僕は用件を告げた。
「怪しい……男二人でこそこそと……まぁいいけど」
言いおえて、ムサシの方に行こうとした僕の背中にミライの言葉が突き刺さった。
確かに男二人がひそひそ話していれば怪しまれても仕方無いのだが……
「で、どんな用事なの?」 げた箱の前で靴を履き変えながら僕は問いかけた。
「着いたら教えるからさ……早く行こうぜ」 ムサシは言葉を濁して僕を急かした。
「もういいだろ どこに行くのか教えてくれよ」
小走りで坂を駆けおりて来たので、少しだけ心拍数が上がったが、
ムサシのようにぜいぜいと荒い呼吸をしないで済むのは、以前の修行の成果だった。
だが、少し前まではこの坂を駆けおりても、心拍数が上がる事も無かったのだが……
{あれ以来 修行の継続をしていないのだから、衰えるのも当たり前だ}
久しぶりに兄さんの方から語りかけて来たので、僕は少し驚いていた。
{{修行って……あの?}} 僕は図書館で兄さんに見るように言われた数冊の本の事を
思い出した。 タントラ……立川流……その全てに統一している事……
・
クラダルマと言う漫画に詳しい事書いてます
・
「おい……シンイチ ここだよ」
10分程歩き、ようやく目的地に僕たちはたどりついたようだ。
「ここが何なの?」 学校のある丘の裏手なのか、左手には山 そして小さい私道があり、
私道に面した所に小さな薬局と、その脇に二つ自動販売機が並んでいた。
「ここが一番人通りが少ないし、中の薬局にいるじじいはいつも居眠りしてるんだ……」
ムサシは何をいまさら とばかりに僕の方を向いた。
「なるほど……けど、何で僕まで……一人で買えばいいじゃ無いか」
僕は、店先の自動販売機を見ながら呟いた。
「良く言うぜ……この間樹島から何か受け取ってたじゃ無いか……樹島がそわそわしてた
から、何かおかしいと思って気をつけて見てたんだけど……その後、おまえまでそわそわ
してたし……」
「知ってたのか……」 僕は少し気まずかったが素直に答える事にした。
「けど、ムサシが買いに来るって事は……鈴原さんと?」
僕はムサシの動機をようやく察して答えた。
「バカ! まだそんなんじゃ無いけど……これも男のたしなみだろ?」
「いいけど、鈴原のおじさんが知ったら……怒るだろうなぁ……そりゃもう」
「そっか……おまえの親父さんの親友だったか……なあ黙っててくれよ……」
「ちゃんと考えてるんなら、別に……」
僕はムサシの事を責める事など出来る筈も無かった。
カタン……ムサシは左右を見回してから自動販売機に手を突っ込んだ。
僕はムサシに頼まれた見張り役をしていた。
店内にいる店番の老人は目を覚ました様子は無かった。
「ほら 今度は俺が見張りしてるから」 僕は戻って来たムサシに急かされて自動販売機
の前に立った。
隣にはスポーツドリンクなどの自販機があるので、僕はまん中に立った。
前は偶然大丈夫だったけど……本当は男が気をつけないとダメなんだよな
僕は決心してお金を入れて、受け皿に落ちた商品をズボンのポケットの中に入れた。
「ほら、早く行こうぜ」 ムサシは急かしていたが、僕は慌てずに隣の自動販売機にも
お金を入れて、スポーツ飲料を買い、栓を開けて一口飲んでから、ムサシの後を追った。
「おまえ、落ち着いてるなぁ……前にも買った事あるんじゃねーの?」
「自動販売機の前に立っていて、何も手に持って無い方が不自然だと思ったんだよ」
「おまえ結構知能犯だな……おっもうすぐ昼だな 時間大丈夫か?」
「うん じゃそろそろ帰るよ」 僕はムサシと途中で別れて、バスに乗った。
走って帰っても良かったが、なんとなく街の眺めを見ながら帰ろうと言う気になったのだ。
乗ってから、このバスは少し遠まわりだと気づいたが、自分の家の近くで停車する事は
間違い無かったので、僕はのんびりと椅子に座っていた。
二つ程停留所を過ぎて、三つ目の停留所にバスが止まると、あまり見覚えの無い制服を着た
女子高生が大挙して乗って来て、空席がまばらだった車内があっと言う間に満員になってし
まっていた。 もっとも立っているのはほんの数人だったのだが。
「すみません 乗ります!」 少し遅れて、ドアが閉まろうとしていた時、聞き覚えのある
声が聞こえた。
殆ど閉まりかけていた扉が再び開き、後部ドアから一人の女子高生が車内に入って来た。
定期代わりの学校の身分証明書を機械に向けて、青いランプが点灯した後、その女子高生
は車内を見回していたが、僕の方を向いた時、その動きが止まった。
「やあ……偶然だね」 僕は席を立って、席を開けた。
「シンイチさん……」 偶然バスに乗り合わせたミドリさんは、僕の方に近づいて来た。
「座ったら?」 僕は片手で吊り革を掴み、足の間に鞄を置き、右手でミドリさんに座る
ように指差した。
「ありがとう……」
ミドリさんが座ろうとした時、バスが発車し、バランスを崩したミドリさんは通路側に
倒れそうになったので、僕は慌てて右手を差し伸べた。
「急発進だったなぁ……大丈夫?」 僕はミドリさんの方を向いて言った。
「シンイチさん……」 ミドリさんは何故か目元を潤ませていた。
少しして、バスが安定して来たので、僕はミドリさんを椅子に座らせた。
「……もしかして、ミドリさんも試験だったの?」
「うん……明後日まで、毎日4時間ずつなの……」
「へぇ僕たちは3時間ずつなのに……教科が多いの?」
「ええ……裁縫とかの女性のみだしなみみたいな授業の試験もあるから」
「試験が始まるまではバイトしてたんだけど、試験中は来なくていいって言ってくれたから
いつも昼からは部屋で一人でいるの……」
「……今度 お邪魔してもいいかな……僕も明後日まで昼までだし……」
メッセージを渡したぐらいだから、話したい事があるのだと、僕は察して言った。
「……明日は用事ある?」 ミドリさんはか細い声で問いかけた。
「解った……明日 あの住所に1時ぐらいに行くよ……」
約束を交わした後は、お互い無言になってしまい、
停留所を4つ過ぎた所でミドリさんはバスを降りた。
バスを降りた後も、僕を乗せたバスが過ぎ去るまでミドリさんは僕の方を見つめていた。
「もう12時20分だ……」 僕は家の近くの停留所でバスを降りて腕時計を見た。
僕は小走りで家に向かった。
「ただいま〜」 僕は靴を脱いで階段の脇に鞄を置いてリビングルームに向かった。
「遅いっ」
リビングに入るなりミライの声が僕を迎えた。
「ごめん ごめん」・
高知県南国市にある駅の名前にあらず・
「もうミライったら、そんなに口煩かったら、シンイチ君に嫌われるわよ」
アヤさんがご飯をよそいながらミライに話しかけた。
「あれ父さんは?」 昨日は父さんも一緒に家で昼食をとっていたので、周りを見回した。
「パパは一度戻って来たんだけど、別の仕事があるって言って、アネキの作ったおにぎり
だけの弁当を持ってどこかに行っちゃったわよ」
「あ、ミライ 私の特製ソースが冷蔵庫に入ってるから取って来てね」
「はーい」
「今日はトンカツですか 美味しそうですね」 僕は皿に盛られた切り分けられたトンカツ
を見て言った。
「スプーンスプーンっと」 ミライは冷蔵庫から取り出して来た小さい容器にスプーンを
突っ込んで、テーブルの上に置いた。
「じゃ、食べましょ」 アヤさんが三人分のご飯をよそいおえて言った。
「はい、シンイチ」 ミライが特製ソースの入った容器を渡してくれたので、
僕はトンカツにアヤさんの特製ソースをかけた。
「けど、アネキ どうして昼からトンカツなの? 好きだけどさ」
ミライはフォークでトンカツを突き刺しながら言った。
「本当はカツ丼にしたかったのよ 試験中だから 勝つ丼って感じで けど、いい玉ねぎと
卵が手に入らなかったからトンカツにしたのよ」
「なるほど……」 僕も納得して、トンカツを食べはじめた。
「で、試験の方はどうなの?」 アヤさんがお茶を注ぎながら問いかけて来た。
「数学の田丘先生のヤマカンは 少しはずれてたけど、木村先生の分は完璧だったから、
それなりの点がとれたと思います」 僕はアヤさんからお茶の入った湯のみを受けとって
答えた。
「それじゃごちそうさま」 僕は昼食を終えて立ち上がった。
「経験上、食事をしてすぐに勉強しようとしても眠いばかりで効率は上がらないから、
仮眠するか、お風呂にでも入ったら?」
アヤさんがアドバイスしてくれたので、今日は少し汗をかいていたので、僕は風呂に入る
事にした。
「じゃ、お風呂に入る事にします」
僕は、まだリビングでくつろいでいるアヤさんとミライに声をかけて部屋を出た。
僕は下着の替えと普段着を用意して、風呂場に向かった。
「ふぅ……」 僕は浴場の天井を見ながら、少しぬるめのお湯に漬かっていた。
「ミドリさんも一人で不安だったんだな……」
僕はバスの中で触れ合った時のミドリさんの潤んだ目元や、
バスでの別れ際の時のミドリさんの表情を思い出していた。
「シンイチくーん ズボンがクリーニングから戻って来てるけど、替えとく?」
「お願いします」 アヤさんの声に僕は少し驚いて、慌てて答えた。
「びっくりした……」 僕は再び湯船に漬かった時、大事な事を思い出した。
「ま……まずい……ズボンのポケットに入れっぱなしだった……」
僕は血の気が引いて行くのを感じた。
御名前
Home Page
E-MAIL
ご感想
今のご気分は?(選んで下さい)
何を買ったのかな?僕子供だからわかんなーい
R指定にはするなよ(爆)
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
第18話Aパート 終わり
第18話Bパート
に続く!
[もどる]
「TOP」