「ミドリさんも一人で不安だったんだな……」
僕はバスの中で触れ合った時のミドリさんの潤んだ目元や、
バスでの別れ際の時のミドリさんの表情を思い出していた。
「シンイチくーん ズボンがクリーニングから戻って来てるけど、替えとく?」
「お願いします」 アヤさんの声に僕は少し驚いて、慌てて答えた。
「びっくりした……」 僕は再び湯船に漬かった時、大事な事を思い出した。
「ま……まずい……ズボンのポケットに入れっぱなしだった……」
僕は血の気が引いて行くのを感じた。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 18B
第18話【
Love Pentagon
(五角関係)】Bパート
「こうしちゃいられないな……」 僕は早々に湯船から出る事にした。
手早に濡れたタオルを絞って身体を拭いて、僕は慌てて着替えのある脱衣所に出た。
「ズボンは持っていったままか……リビングにあるのかも……」
僕は乾いたタオルで身体を拭きながらもズボンのポケットの中身の事が心配だった。
「どうせ履いてたズボンをクリーニングに出すのは明日だろうし、慌てて中身を入れ換える
なんて事は無いよな……きっと」
僕は普段着のTシャツと短パンに着替えて足早にリビングに向かった。
リビングでは、食事の後片づけを終えたアヤさんとミライが雑誌を見ながら雑談していた。
僕は平静を装いながらズボンが置かれているサイドテーブルに向かった。
「……(ひとつしかズボンが無い……)」
僕はひとつしか無いズボンを手に取った。
今日履いていたズボンは膝の所に白い汚れがついていたのだが、
このズボンはクリーニングしたてだった。
僕は恐る恐るズボンのポケットに手を突っ込んだ。
左側には財布と先程買ったものが、右側にはハンカチが……殆ど同じように中身の入れ換え
はすでに完了していたのだ。
「あっ さっきクリーニング屋さんのバイクが来てたから、持っていって貰ったから」
アヤさんが雑誌から目を離して僕の方を向いて言った。
その表情からは何も読み取る事が出来なかった。
「それじゃ部屋に上がるから」
僕はそういってリビングを出て階段を上がっていた。
ズボンの詰め替えをしたのは、アヤさんなのか……
けど、ミライもずっとリビングにいたみたいだし……
僕は動悸を押さえながら部屋に入った。
「どちらにしても、態度が変わって無かったし……気づかれて無いのかな……」
僕はズボンを専用ハンガーに吊るしておいて、ベッドの上に座ってズボンを見ていた。
「なんだか疲れたなぁ……」 僕は鞄から勉強会で使ったノートを取り出して、
ベッドの上で横になったまま、明日の試験科目の所を読んでいった。
…………約40分後
「ふぁ 眠くなって来たなぁ 晩御飯まで寝ようかな……」
僕はノートを畳んで鞄に戻して、普段着のまま寝る事にした。
少し曇りはじめた空に一筋の光が射しているのを見ながら僕は眠りについた。
「シンイチ……私の声が届いていますか……」
ぼんやりとした意識の底に淡い蒼色の光がたなびいた。
「誰……母さん?」
蒼い色の光のイメージしか無いのに、僕は何故か母を感じていた。
「あなたと、あなたを愛する人に危機が迫り寄っているの……」
「誰が危ないの? 教えてよ 母さん!」
「それを教える事も救う事も今の私では出来ないの……そのかわり…………」
「シンイチ!」
「んっ……」 僕は誰かの叫び声で目を覚ました。
電灯が付けられており、ミライが立ったまま僕の顔を見ているのが ようやく認識出来た。
「もう夜なの? なんか長い夢を見ていたような……」
僕はあくびを堪えて上半身を起こした。
「もう……いくら呼んでも起きないんだからっ」 ミライは少し頬を膨らませて言った。
「ごめんごめん なんだか深い眠りについてた感じがするんだ……もう晩御飯?」
「パパもママも帰って来たんだから、早くしなさいよ」
ミライは僕に近づき僕の右の上腕部を両手で引っ張りあげるようにして言った。
「うん わかった 起きるって」 僕は上腕部にミライの胸が押しつけられているので、
慌てて僕は立ち上がった。
「シンイチがこんなに目覚めが悪いなんて、シンイチのファンは知らないでしょうね」
ミライが皮肉めいた事を言って、ようやく手と身体を離した。
「ふぅ」 僕は背伸びをひとつしてから、ミライの後をついて階段を降りていった。
「寝てたの? シンイチ君」
アヤさんがフライパンから皿にスパゲッティを移しながら言った。
「そうよ……何度呼んでも起きないんだもん……今度からどうやって起こそうかな」
ミライはいかにもてこずったと言う表情をして言った。
「古来から眠れる姫を起こす方法は一つしか無いでしょ 私はそうしてるわよ」
母さんが笑いながら父さんに投げキッス(死語)をしながら言った。
「アスカ……」 父さんが少し恥ずかしげに呟いた。
「そういえば、私が小さい頃は良くそうしてたよね」
アヤさんが昔を思い出しているのか遠い目をして言った。
「そうそう アヤも一緒に寝てた頃ね……私にもしてって言って泣いた事覚えてる?」
母さんは幼い時のアヤさんを思い出しているのか、おだやかな笑みをたたえていた。
「嘘?そんな事私言ったの?」
「それで、私とシンジの頬にキスしてやっと機嫌がおさまったのよ 忘れちゃったか」
母さんは少し残念そうな表情をして笑った。
「さ、食べましょ」 アヤさんがテーブルの上にいろいろ乗せて言った。
「いただきます」 久しぶりに家族全員の声が揃い、僕達は食事を始めた。
僕はアヤさん自慢の無農薬トマトのソースを使ったスパゲティミートソースを食べはじめた
「おっそうそう アヤ 昼過ぎに木村君から電話があって、ミライとシンイチに入れ知恵し
たのか?って泣き言を言って来てたぞ なんでもミライとシンイチと友達二人も90点より
下がいなかったそうだ」 父さんが笑みを浮かべてアヤさんに声をかけた。
「90点以上か……どちらかと言うと苦手だったのに……ありがとう アヤさん」
僕はみんなでした勉強会が役にたった事もあり、とても嬉しかった。
「確かにアネキの言った出るかも知れないって所が殆どだったしね」
「他の先生はもっと範囲を変えるんだけど、木村先生は例文や問題は変えても範囲を変えな
いから、いつもテスト前になったら上級生の所に範囲を聴きに来る子がいたのよ」
アヤさんが思いだし笑いをして言った。
「彼は何と言うか大雑把な所があるからな……けど生徒への気配りはいいって評判だが」
「木村ねぇ……大学入試の時に私が一時的に家庭教師みたいにしてあげたっけ」
父さんだけでなく、母さんも木村先生の事を良く知っているようで、
僕とミライを受け持つ木村先生は大変だな と僕は少し同情した。
そういえば試験が終わったら三者面談だったかな……
頭が上がらない二人にどんな顔して面談する事やら……少し楽しみが出来たかも。
「御馳走様 今日のスパゲッティも美味しかったよ アヤさん」 僕は皿を持ってキッチン
に行き、流しに置いてある水を張ったプラスチックの桶に皿を入れた。
「私は書斎にいるから……」 そう言って父さんも立ち上がった。
父さんがリビングから廊下に出る時、そっと僕の方を見たので、僕も声をかけてリビングを
出て、書斎に歩いていった。
父さんは書斎の前で立って、僕を待ってくれていた。
「……入りなさい」 父さんは静かに言って書斎に入った。
僕も後をついて入り、書斎の扉を閉めた。
「まぁ、座りなさい」 僕は父さんに勧められて小さい椅子に腰をかけた。
「もう知っての通りだが、風谷ミツコ……いや三谷ヨシコと、樹島ミドリがここ、
第三新東京市に戻って来ている……樹島ミドリは以前より、中学の卒業後はNERVの
エージェントとして自分の力を活かしたいと言っていたので、三谷ヨシコの護衛と
して、学校に通いながら三谷ヨシコの家でアルバイトをしている……」
父さんは今はNERVの司令として話しているのか、厳しい表情を浮かべていた。
「じゃ、もしかしてお祖父さんと離れて一人で暮してるんですか?」
「そうだ……もっとも連絡は取り合っているようだし、NERVの事も承知しているそうだ。
本人の希望としては、おまえやアヤとミライを守りたいとの事だったが、
アヤとミライにはおまえがいるし、おまえは自分で自分の身を守るだけの能力を持っている
そこで、危険な存在でもある三谷ヨシコの監視件ガードを引き受けて貰ったのだ。」
「NERVのエージェント……当然 危険な事も……」
「当然、そういう場合に備えての武器や連絡網等は完備しているし、高校の学費も住んでい
るマンション……実はNERVの寮みたいなものだが、光熱費・家賃等も全てNERVがみている」
「出来るだけの事はしてあげてるんですね……少し安心しました。」
僕は一人上京して、NERVのエージェントとなったミドリさんの心境を思うと少し辛かった。
「まぁ、NERVのエージェントの中には実行部隊として銃器や特種能力で、眷族と立ち向かう
のが仕事の者もいるんだ……アヤの同級生だったあの男も実行部隊に属しているんだ。」
前にアヤさんを誘拐したがミサトさんの説得で降伏した広島弁の男の顔を僕は思い出した。
「シンイチにもその辺りの状況を知らせておこうと思ってな……」
父さんは普段通りの柔和な表情に戻って言った。
「何かあったら報告します……話はそれだけですか?」
「ああ……試験を頑張るのもいいが、体調を崩すなよ おやすみ シンイチ」
僕は父さんのいる書斎を辞して、階段を上がって自室に戻ろうとした。
「ミライ……」 階段の上ではミライが僕を待っていたのか、僕の顔を無言で見ていた。
「ごめんね シンイチ……ミドリさんと三谷さんの事……パパに話したの」
ミライは悪い事をしたと思っているのか、少し沈んだ表情で僕を見ていた。
「いつかは……話さないといけないと思っていたから……気に病まなくていいよ」
僕はミライを安心させる為に肩に手を軽く置いて言った。
三谷さんが覚醒した事を父さんに言えなかったのは、覚醒した三谷さんを父さんがどう扱う
のかが不安だったのだが、ミドリさんと言うこの上無いガードを付けてくれた事もあり、
今では心から安心していた。
「ねぇ シンイチ……今度から三回呼んで起きなかったら、母さんの言うやり方で起こして
もいい?」 ミライは意図的に表情を明るくして言った。
気持ちを切り替えようとしているのが感じられて、僕は結果的にミライに三谷さんの事を
押しつけていた事を再確認し、ミライにすまないと感じていた。
「三回はダメだよ せめて十回にしてよ」
僕はこれ以上ミライに心配をかけない為にも、笑顔でミライに答えた。
「十回も起こしてたら遅刻するわよ……じゃ5回ね 決まりっ」
「うん……解ったよ いつも起こしてくれてありがと ミライ」
「そう思ってるなら、ご褒美ちょうだい……」 そう言ってミライは静かに目を閉じた。
僕はミライの肩が僅かに震えているのを見て、少し心が傷んだ。
僕は優しくミライを抱き寄せて、そっと唇を重ねた。
ミライの手は僕にしがみつくかのように、きつく僕の背中に手をあてていた。
僕はミライの身体の震えが収まるまでこうしてあげようと思ったのだが、
階段を上がる足音が聞こえて来たので、僕は身体を離そうとしたが、
ミライが左手でミライの部屋のドアを開けて、僕にしがみついたままミライの部屋に引っ張
っていった。
「あれ? 声がしてたけど、もう寝たのかしら」
僕はミライの部屋の中で唇を重ねたまま、廊下にいるアヤさんの声を聴いていた
どうやらお風呂に入る為に何かを取りに来たようで、隣のアヤさんの部屋で物音がしていた
が、少しして階段を降りる足音が聞こえたので、僕はほっとした。
「ムサシと……どこに行ってたの?」
ミライがようやく唇を離してから言った言葉に僕は凍りついた。
御名前
Home Page
E-MAIL
ご感想
今のご気分は?(選んで下さい)
ミライだったのね?
羨ましすぎるぞ シンイチ!
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
第18話Bパート 終わり
第18話Cパート
に続く!
[もどる]
「TOP」