「あれ? 声がしてたけど、もう寝たのかしら」
僕はミライの部屋の中で唇を重ねたまま、廊下にいるアヤさんの声を聴いていた

どうやらお風呂に入る為に何かを取りに来たようで、隣のアヤさんの部屋で物音がしていた
が、少しして階段を降りる足音が聞こえたので、僕はほっとした。

「ムサシと……どこに行ってたの?」
ミライがようやく唇を離してから言った言葉に僕は凍りついた。



裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 18C

第18話【Love Pentagon(五角関係)】Cパート


ミライが身体に触れてない時に重要な事を聴いて来る……
それは僕の意思を尊重してくれているからでもあるが、反面 僕が試されているのだ。

「ムサシに付き合わされちゃって……ちょっとね ムサシの事があるから詳しくは言えない
けど……信じて欲しい」 僕はミライの目を見てはっきりと答えた。

この言葉に確かに嘘は無い……
嘘を付けば16年も一緒に過ごしたミライには見抜かれるので、
僕は出来るだけ嘘にならない形で答える事にしたのだ。

「男同士の付き合いって訳ね……ちゃんと言ってくれて 嬉しかった」
ミライはあっさりと納得してくれた。 だがこれは僕が包み隠さずに言ったおかげだ。
少しでも疑わせるような言動だったら こうはいかなかっただろう。

ここまで聴いて来たと言う事で、ズボンの中身の入れ換えをしたのがミライだと確信した。

「それじゃ、おやすみ」 僕は音を出来るだけ立てないようにミライの部屋の扉を開けた。
「今日はお風呂入らないの?」 
ミライはベッドの上に腰かけてクッションを抱えながら言った。
「うん 昼間入ったから」 僕は足を止めて答えた。
「そう……じゃおやすみ」 ミライは両手でクッションをいじりながら答えた。
「おやすみ……」 僕は扉を閉めて廊下を挟んで目の前にある自室の扉を開けた。

「とは言ったものの昼間寝過ぎたかな……」
僕はベッドで横になって寝ようと10分程努力したのだが、
昼寝が過ぎて眠気が襲って来なかった。

「ビデオでも見るかな……けど明日も試験だし……」
僕はベッドの上で左右に寝返りをうちながらもがいていた。

「仕方ない……復習でもするか」 僕はベッドの頭もとのライトを付けて、
鞄からノートを引っ張り出して、明日の試験の科目の分を目で追っていった。

「げ もう一時か……さすがに寝ないとマズイけど……眠くないな」
僕はノートを鞄に戻したものの、ライトも消さずに考え事をしていた。

「……トイレにでも行って来よう」 僕は身体を起こして裸足の足にスリッパをひっかけて
出来るだけ足音を立てないように部屋を出て、階段を降りていった。

夜の一時と言う事もあり、家の中は肌寒く、階段の取っ手もひんやりとしていた。
明かりのついていない薄暗い家を僕はまるで探検でもするかのように足を進めていった。
「あれ……明かりがついてる……こんな時間に誰かお風呂にでも入ってるのかな」
父さんの書斎を通り過ぎ、トイレの横にある風呂場から光が漏れているのを僕は気づいた。

遅くに戻って来た時に父さんや母さんもこんな時間に入る事があるので、
不審と言う訳でも無いので、僕はトイレに入った。

僕は用を済ませて、寝てる人を起こさないように、
少しづつ水を流して奇麗にしてから外に出た。

「寒ぅ〜い もう……換えの下着忘れるなんて……」
トイレから出た時に風呂場の中からアヤさんの声がかすかに聞こえた。

「アヤさん? どうかしたんですか?」 僕は風呂場の前に立って声をかけた。
「シンイチ君? 丁度良かった……ちょっと頼めるかしら……」
「何ですか?」 僕は問うてはみたものの、さっきのアヤさんの声を聴いていたので、
どういう状況かは大体解っていた またぞろアヤさんがオオボケをやらかしたのだろうと
大歩危(おおぼけ)と言う駅が高知の県境付近にあります(笑)

「悪いけど、私の部屋から下着一式を持って来て貰えないかしら……」
さすがに少し恥ずかしそうなアヤさんの声を聴いて、
僕は笑いだしてしまいそうになったので、呼吸を整えてから返事をした。
「三段目の引き出しだったですよね 確か」
僕はだいぶ前にアヤさんの部屋でからかわれた時の事を思い出して言った。

「どうして知ってるの? そういえば、この間お気に入りが無くなったの……まさか」
「アヤさん……そんな笑えない冗談言うならその格好で部屋まで帰って貰いますよ」
「うそうそ ごめんねシンイチ君 もうからかったりしないから取って来てよ」
「寝間着も持って来て無いんですか?」
「部屋で新しい下着に着替えてたのに、その事忘れて洗濯機に全部放り込んじゃったの」
「じゃ一式持って来たらいいんですね」 「ごめんね」
僕は苦笑しながら風呂場の前から離れて廊下を歩いていた。
僕は足音を立てないようにして階段を上がり、アヤさんの部屋の扉のドアノブに手をかけた

ひさしぶりに入るアヤさんの部屋は数年前と殆ど変わらぬ装いだった。

「えーと……両方必要だよね……」 
僕は引き出しを開けてすぐ近くにあった下着を手に取った。
「寝間着はどこに入れてるのか聞かなかったなぁ」
僕は寝間着を入れてそうな辺りを探していた。


ガチャリ
「何か着るものあったんですか?」
背後で扉が開いた音がしたので、僕はアヤさんだと思って振り向いた。

「シンイチ……あんた何してんのよ」
「ミライ……」
「盗まなくても私のならいつだってあげるのに……シンイチのバカ!」
「へ?」 なるほど確かに手にはアヤさんのブラジャーとパンティ……
それでごそごそしてたんじゃ間違われるのも仕方無いかも知れないのだが。

僕とミライは凍りついたかのように硬直していた。

「シンイチくーん 寝間着探してるの? 下の端の引き出しよぉ〜」
階段の下からアヤさんの声がしたので、僕は正気を取り戻した。
「誤解だよ……トイレいったらアヤさんが着替えを持って来るの忘れて全部洗濯機に
入れたって言うから下着と寝間着を頼まれて取りに来たんだよ ミライ」
「なーんだ シンイチの足音なのにアネキの部屋に入ったからてっきり……」
てっきり何だと思ったのか、少し引っかかりはしたが、誤解は解けたようだ。

「アヤさんが風邪引くといけないから、持って行くよ」
「ご……ごめんね」 ミライは少し頬を染めて自分の部屋に戻っていった。

「下の端だったのか……」 僕は引き出しから水色の寝間着を取り出して部屋を出た。

父さんと母さんは寝室も離れてるので寝入ってるようだが、
ミライはまだ起きてたようなので、あまり足音の心配も無く 僕は階段を降りた。

「開けますよ ミライに下着ドロと間違われちゃいましたよ もう」
僕はアヤさんが風呂場の仕切りの向うの浴槽に隠れたと思って扉を開けた。

「おいときますからね」僕はいないと信じて風呂場の前の床に着替えを置いて頭を上げた。
「ありがと シンイチ君」 バスタオルを身体に巻きつけただけの姿のアヤさんが、
仕切りの向うに隠れずに着替えるスペースにいたので、僕は驚いた。

「風邪引かないで下さいね」
「シンイチ君が看病してくれるんなら、風邪ひいちゃあかなぁ〜」
「今の風邪は身体に良く無いんだからダメですよ」
「ありがと シンイチ君」 少し真顔になったアヤさんが呟いた。

「それじゃ、おやすみなさい」 僕はアヤさんに背を向けて風呂場から出ようとした。

「私……その時が来るまで待ってるからね……」
少し寂しそうなアヤさんの声を僕は背に受けて風呂場から出た。


「もう一時半か……」 僕はベッドの上で横になって少し考え事をしていたが、
いつしか眠ってしまっていた。

そして、翌日

今日のテストも終わり、僕は坂道を降りながら開放感を味わっていた。

ミライは鈴原さんと約束があるそうなので、僕は言い訳をする必要も無く、
安心してミドリさんの所に向かう事が出来た。

「ちょっと早いか……ミドリさんは四時間目までテストだし……」
僕は電車に乗るのを止めて、歩いて行く事にした。

僕は地図を頼りに歩いて行くと、先日 バスで通った道に合流した。
「もしかして、ミドリさんの学校のすぐ近くなのかな……」
学校の図書館でコピーした地図には、
丁度地図の頁の切れ目なのかミドリさんの学校は記されていなかった。

「この道でいいんだよなぁ……郵便局もあるし……」
僕は地図を見ながら、ミドリさんの学校の前を通りかかった。

丁度授業が終わったのか、大勢の女子学生が溢れ出て来たので、
僕は慌てて道路側の道の隅に移動した。

「あのマンションかな……」 学校の門から少し離れた頃、
ようやくお目当てのマンションを発見する事が出来た。

「シンイチさん」 その時、僕は背後からミドリさんに呼びかけられた。
「学校から凄く近いんだね……これなら遅刻の心配も無いやって僕じゃあるまいし……」
僕は少し動転していたのか、訳の解らない事を言ってしまった。
「じゃ、行こうか……」 いつまでも学校の側にいると目立つので、
僕はミドリさんと並んで歩きはじめた。

「シンイチさん……お昼 食べました?」横に並んで歩くミドリさんが小声で聞いて来た。
「いや、まだだけど……」
「よかった……材料も用意してますから、食べていって下さいね」
「うん ありがとう……アルバイトはもう慣れた?」
「ええ……マスターもヨシコさんもいい人ですし」

「あの……ここです」 僕はミドリさんと世間話をしながら歩いている内に、
危うくミドリさんのマンションを通り過ぎる所だった。


「二階ですから」 エレベーターを探してた僕にミドリさんは階段を指差した。
道路側に面した所にある階段を使って、僕はミドリさんの後をついて二階に上がった。

ミドリさんの部屋は二階に上がってすぐの所で、僕達は他の住人と顔を合わす事も無く
ミドリさんの部屋に辿りついた。

ミドリさんの部屋は日当たりも良く、女性の一人暮らしには充分な広さがあった。
家具も少なく、まだあまり暮して無い為か生活臭と言うものも感じなかった。
「このマンションはNERV関係者しかいないから、4階に二人住んでるだけで、
後は全部空き室なんですって……私も上の方の階にしないかって言われたんですけど、
あまり高い所は好きじゃ無いから……」 ミドリさんは僕にお茶をいれながら言った。

「じゃ御昼御飯作りますから、待ってて下さいね」 そう言ってミドリさんはキッチン
の方に歩いていった。

僕はソファーに座って、ミドリさんが入れてくれたお茶を飲みながら、
落ち着かないので、部屋のあちこちに視線を向けていた。

10分程座っていただろうか、キッチンの方からソースの焦げる香ばしい臭いが
リビングの方にまでただよって来た。
「あ、シンイチさん……電話の側の買い物袋に青のりが入ってますから、
出しておいて下さいね」

「青のりだね わかったよ」
僕は電話機の脇にあるコンビニの袋を手に取った。

「えーと青のり青のり」
コンビニの袋から青のりを探している時に、僕は見てはいけないものを見てしまった。
「お徳用高級………」 僕は一瞬固まってしまったが、青のりを探すと言う使命(?)を
思い出して、青のりを見つけ出した。

なにくわぬ振りをして、青のりをテーブルの上に置いて、僕は平静を装う為に集中した。

「遅くなってごめんね」 女子校のブレザーの上にエプロンをまとったミドリさんが、
焼きそばと ごはんの載った盆を手に現われ、僕はもう引き返す事が出来ない所まで
踏み込んでしまったのでは無いかと思った。
裸エプロンじゃ無かっただけマシでは?




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どうもありがとうございました!


第18話Cパート 終わり

第18話Dパート に続く!



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