「えーと青のり青のり」
コンビニの袋から青のりを探している時に、僕は見てはいけないものを見てしまった。
「お徳用高級………」 僕は一瞬固まってしまったが、青のりを探すと言う使命(?)を
思い出して、青のりを見つけ出した。
なにくわぬ振りをして、青のりをテーブルの上に置いて、僕は平静を装う為に集中した。
「遅くなってごめんね」 女子校のブレザーの上にエプロンをまとったミドリさんが、
焼きそばと ごはんの載った盆を手に現われ、僕はもう引き返す事が出来ない所まで
踏み込んでしまったのでは無いかと思った。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 18D
第18話【
Love Pentagon
(五角関係)】Dパート
「青のりは作った直後に振らないとねっ……」
ミドリさんは少しはにかみながら僕が机の上に置いた青のりを手に取った。
「青のりって焼きそばにも振るんだ……お好み焼きだけだと思ってた……」
僕はミドリさんが嬉しそうに青のりを振っているのを見て呟いた。
「シンイチさんはかけない?」
顔を上げたミドリさんは少し寂しそうな笑みをたたえていた。
「いや……かけてみるよ」 「じゃかけるわね」
ミドリさんは誇らしげに僕の前に置いた焼きそばに青のりを振っていた。
「あれ……ソースが無い……確か買っておいた筈なのに……」
ミドリさんがテーブルの周りを探しはじめたので、僕はコンビニの袋に手を伸ばして、
さっき発見した、ペットボトルサイズの”お得用高級ブルド○クソース”を取り出した。
「あ、まだ出して無かったのね……ありがとう」
ペットボトルのような容器を持って、少しづつソースを垂らしているミドリさんを
見ていると、前 一緒に暮らしていた時はいかに自分を押え込んでいたのかが、
良く解り、胸が痛くなってしまった。
「ソースも……お好み焼きにしかかけないと思ってた……けど、美味しそうだから」
ミドリさんは少し嬉しそうに僕の分の焼きそばにもソースを垂らしてくれた。
「じゃ、食べましょ」 「それじゃ、いただきます」
僕は割り箸を手に取って食べはじめた。
もくもくと焼きそばとご飯を食べていたが、僕はミドリさんの視線を感じて顔を上げた。
「どうかした? 青のりでもついてる?」 僕は口元を拭いながら言った。
「私のお母さんはね……関西圏の人だったの……だから小さい時のおやつはいつも、
焼きそばとかお好み焼きとかたこ焼きだったの……あの頃の母さんは優しかった……
いつも私の食べたいものを小さいホットプレートで焼いて二人で分け合って食べてたの
日本を出る事になった あの日までは…………」
声は普段通りだったが、目尻から流れた二筋の涙がミドリさんの心を代弁していた。
「ミドリさん……」
「心配しないで……もうあの事はもう遠い過去の事だと割り切ったから……
でも……涙が出ちゃうの……なんでかな……私には……解らない」
肩を振るわせながら泣き始めたミドリさんを見て、過去の心の傷が癒されないまま
時だけが過ぎて行く事の辛さを今さらながらに知った気がした。
僕がいる事で……少しでも彼女の心の傷をふさぐ事が出来るのなら…………
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「夕焼けか……夕焼けを見る度に子供の頃からいつも思ったっけ……
僕はここにいてもいいのかなって……夜になればまるで僕を本当の家族のように
保護してくれる父と母や兄弟のように慕ってくれるアヤさんとミライに囲まれて
夕食を取る事になるのに、何故夕暮れ時にはこんなに心が揺れるんだろ……」
僕はミドリさんのマンションからの帰り道を夕焼けを仰ぎ見ながら歩いていた。
夕暮れまで何してたんだよ
「ただいま……」
僕は玄関を開けて靴を脱ぎながら言った。
玄関には父さんと母さんの靴も揃っており、みんな家に帰っているようだった。
「あら、遅かったわね シンイチ君」 リビングに入るとキッチンの方からアヤさんが
ボウルの中の何かをおたまでかき混ぜながら出てきた。
「今日は何やってたの?こんな時間までうろうろして」
ミライはテレビを見ながら山芋をすりおろしていた。
「うん ちょっとね」
まさかミドリさんの家にいたとも言いにくいので、僕は言葉を濁した。
「ミライだってさっき戻って来たばかりじゃ無いの」
母さんが入って来てミライの頭に手を置いて言った。
「ミライもシンイチもテストの気晴らしをしたかったんだろう いいじゃ無いか」
父さんが新聞を手にもって入って来て言った。
「あ、もうすぐ準備出来るからホットプレートの準備 よろしくね」
アヤさんがそう言ってキッチンに戻っていった。
「今日の晩ご飯は何なの?」 僕は山芋をすっているミライに声をかけた。
「お好み焼きよ」
ミライは足元の袋からお徳用高級ブル○ックソースを取り出して言った。
「胸焼けがしそう……(昼も夜もブルド○クソース……せめてオタ○クソースに……)」
あの後調子に乗って2回もおかわりをするんじゃ無かった と後悔しても遅く、
現実は胃の重さと共に唐突に僕にのしかかって来た。
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「うえ……いくら何でも食べすぎだ……バッファがオーバーフローを起こしそうだ」
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rootでも盗るのか?
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僕はベッドに腰を降ろして腹を押さえて妙な事を口走ってしまった。
「一枚だけなら大丈夫だと思ったのに……」
僕は10分程前の事を思い出した。
「……ごちそうさまでした」
「ん どうかしたのか?シンイチ 普段は三枚ぐらい食べるのに」
「おおかた何か買い食いでもしたんでしょ」
「美味しく無かった? ごめんねシンイチ君……今度は上手に作るから」
「アヤさん……そんな事無いですよ 旨いですよ ほら」
「胃の調子悪いなら無理しない方がいいわよ 顔も青いし……」
「結局アヤさんをなだめる為に三枚も……死にそう」
僕は座っているのも辛くなり、ベッドの上で横を向いて横たわった。
「力が元に戻っても……食べ過ぎだけはどうしようも無いな……」
少し早いがもう寝る事にして、僕は手を伸ばして部屋の電気を切った。
そして翌朝……
「シンイチぃ〜朝ご飯よ! 早く降りましょうよ」
僕は寝ている所をミライに叩き起こされた。
「ん〜 胃が重い……今日は朝ご飯いらないから、その時間寝るよ……おやすみ」
僕は再び毛布をかぶって眠りにつこうとした。
「ダメよ!今日は試験の最終日でしょ! 朝ご飯も食べないで試験に臨んでまともな思考
能力を維持出来ると思ってるの? 試験休みになったら好きなだけ寝ていいから ほら」
口煩いミライの台詞ではあったが、言ってる事ももっともなので僕は渋々起きる事にした。
「ほらほら 早く着替えて」
「んー……」 僕はまだ完全に目覚めていなかったので、ミライの操り人形と化していた。
「おっと」 ズボンをはいた時にポケットから小さい箱が落ちたので、僕は慌てて拾ったの
だが、ミライはその箱に関心を抱いていないようだったので、僕は安心した。
「下で待ってるから、寝たらダメよ」 そう言ってミライは僕の部屋を出て階段を降りた。
「さっきは危なかったな……」 僕はポケットからさっきの箱を取り出して掌で潰した。
いつの間に使ったんだ?
安っぽい紙で出来た箱を引きちぎって細切れにしてゴミ箱に放り込んで、
鞄を手に部屋を出た。
「ふわぁ」 朝食を終えミライと並んで学校に行く間 僕はあくびを何度も連発していた。
「ねぇ……」
「何?」
「私に何か隠してる事……あるでしょ」
「え?」
「さっき何か隠してたじゃ無い……シンイチが言いたく無いなら無理に聴かないけど」
「え? 知ってたんじゃ無いの?」
「何よそれ どういう事よ 訳わかんない」
「ならいいんだ……あっもうこんな時間だっ走ろう」
「ちょっと待ちなさいよ シンイチ!」
中等部を走りすぎ、高等部へと向かう坂道を駆け上がりながら、僕は急に疑念に囚われた。
「じゃ、誰がズボンの入れ換えをしたんだ?」
結局休み時間に問い詰められたが、僕は妙な逃げ口上で難無きを得た……
「男が外に出たら7つの秘密があるんだよ……」
「それ、7人の敵がいる……じゃ無かったっけ……
まぁいいわプライバシーは尊重しないとね」
そんなこんなで試験は終わり、僕たちは中等部と高等部の途中にある公園で、
ジュースを飲みながら自由の身を満喫していた。
「渚君はどうだったの? 今日苦手な科目があるって言ってたけど」
「うん……苦手な所は良く復習しといたから、まぁまぁかな」
「しかし薄情だよなぁ 勉強会に呼んでもくれないんだから……」
「ムサシ! あんたは鈴原さんと勉強してたんだから、いいじゃ無い」
「じゃ……俺 帰るから」 これまで殆ど喋らなかった伊吹君が立ち上がって言った。
「コウジ君 用事でもあるの? 今日は私の家で試験終了祝いにお昼ご飯をご馳走する
予定だったんだけど……」
「すまない……今度また」 コウジ君はそう言って公園を出ていった。
「最近暗いわよね……ヨシコちゃん何か知らないの?」
ミライが心配そうに三谷さんに問いかけた。
「さっきの話だけど、みんなは来るよね お父さんが大きいピッツァを焼いてくれる事に
なってるのよ」 ヨシコさんが嬉しそうな笑みを浮かべて言った。
「へぇ〜ピザも作るんだ じゃご馳走になりに行こうよシンイチ」
「そうだね 今日はアヤさんも遅くなるって言ってたし」
「俺はちょっとパスさせて貰うけど、悪く思わんといてな」
ムサシは気まずそうな顔をしながら立ち上がった。
「そう……じゃ またね」少し寂しそうな笑みを浮かべたヨシコさんを見ていると、
胸が締めつけられるような気持ちになってしまった。
女性の涙は武器だと言う人がいるが、僕は女性の寂しそうな笑みに弱いのかも知れない。
「どうせ、鈴原さんとデートでしょ 電話で呼びつけちゃうからムサシも来なさい!」
「それなら……断る理由無いからお邪魔させて貰います」
「ホント? じゃさっそく鈴原さんに連絡してよ ミライちゃん」
「おっけーい あ 出た もしもしミライだけど、三谷さんのお店で一緒にお昼しようよ
ピザを焼いてくれてるんだって え?約束がある? 大丈夫よムサシも連れて行くから
うん わかった じゃ」
ミライは端末についている通信端末をたたんで立ち上がった。
「店 知らないそうだから、駅前の本屋で集合って事にしたから」
「それじゃ、行きましょう みなさん」
僕はみんなと一緒に歩いて坂を降っている時、
何か忘れてはいけない何かがあったような脅迫観念に囚われていた。
夢で示された啓示の時が近づいている事に気づかずに…………
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今回ちと短いけど、勘弁してちょ
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アヤの出番はこれだけか?
やはりシンイチ殺す
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
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どうもありがとうございました!
次回予告!
一年の時を越えて再び現れる蒼い髪の少女……彼女の正体とは……
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そして聞こえるジーク・ジオンのおたけびが……もとい
・
そして聞こえる運命の奏でる調べとは……
次回第19話【
蒼き髪の少女
】
安全地帯の歌との関係はありません(笑)
第19話Aパート
に続く!
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