「ん……」 

夕食を食べてすぐに寝床には入ったものの……
私は寝つけずに天井を見ながらこれまでの事を思い出そうとしていた……
こんな事になる発端からの出来事を……



裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 19E

第19話【蒼い髪の少女】Eパート


風薫る 銀杏並木のキャンパス……
私は高校からの友達の洞木ミユキに声をかけられた。


「ねぇ アヤ 知ってる?」
いつも主語無しで用件から話しはじめる彼女の話し方に苦笑しながら、私は振り向いた。

「何の事? どこかにミユキが好きそうなパンケーキの出る店でも出来たの?」
時間は11時40分……今日の講義を終え、小腹を空かしてキャンパスを歩いている 
こんな時のミユキの話題は食べ物の事が殆どだという事を思い出して私は答えた。

「んー確かにいい店も見つけたんだけど、そんな事より 別に聞きたい事があるのよ」
明朗快活な彼女らしく無く、ミドリは少しもじもじしながら鞄の柄につけられた、
黄色くて可愛いマスコットをいじっていた。

「熱でもあるの? ミユキ まぁ私の知ってる事なら何でも教えるけど……」
私は駐車場の側の自動販売機前の椅子を指差して言った。

「ねぇ アヤ……何か飲まない? 喉渇いちゃってさ」
自動販売機に小銭を入れながら私の方を振り向くミユキの顔は少しひきつっていた。

「じゃ、オレンジ色の小さいビンのにしようかな」
私はジュースのプリペイドカードをポケットから取り出してミユキに渡した。


二人分のジュースをミユキが買い、椅子に座って二口程ジュースを飲んだ頃、
ようやくミユキが重々しそうに口を開いた。

「あくまでも……あくまでも聞いた話なんだけど……アヤの家に前 シンイチ君達と
同い年の女の子を一緒に住まわせてたでしょ……名前は良く覚えて無いけど」


「ええ……樹島ミドリさんの事ね 彼女がどうかしたの?」

「同じ講義を取ってる子で、高校時代 テニスの大会で良くあってた子がいるんだけど、

その子が言うには、そのミドリって子がバスの中で紅い眼の格好いい男の子と抱き合って

たって話なのよ……その男の子の特徴とか聴くとシンイチ君のように感じて……」


「そう……それでよそよそしかったのね……けどシンイチ君はそんな事出来る人じゃ無いわ
人前で抱き合ってただなんて……信じられないわ……人違いか何かの事故じゃ無いかしら」


私はこの時……シンイチ君の事を信じきっていた……
この話を聴く三日前に……シンイチ君のズボンのポケットから妙なものが出てきた時も、
私はシンイチ君との絆が深まるんじゃ無いかと、その日を夢見ていた程……



二日程経ったある日の夕方の事だった……

「なぁ アヤ 今晩の食事の準備はしなくていいぞ」
お米をとごうとしていた私にお父さんが後ろから話しかけて来た。

「どうかしたの? お父さん」
私はボウルの中のお米を元に戻しながら問いかけた。

「母さんとも話したんだが、シンイチがバイトで肉体労働してるそうじゃ無いか」

「駅前のビルの清掃のバイトって言ってたけど、確かに疲れてるみたいね」
それは別の事で疲れてるんじゃ……
「だから、今日は焼肉でもどうかと思ってな」
お父さんは少し照れ臭そうな笑みを浮かべて言った。

「もうすぐシンイチ君もバイト終わるでしょうし そうしましょお父さん」

「ところで、ミライが見当たらないけど、出かけたのかい?」

「図書館に本を返しに行くって言ってたから、私が電話しておくね」

「それと私とアスカは歩いて行くから、シンイチとの連絡と迎えも頼むよ」

「久しぶりにお酒飲むのね お父さん」

「じゃ7時に京城で集合って事でな もうすぐ私たちも出発するから」


私はお父さんがキッチンを出てから、ミライとシンイチ君に連絡を取り、
服を着替えて、エレカを置いてあるガレージに向かった。


「ちょっと早いかな……あ、そうだクリーニング屋にも寄らなくちゃ」
私はエレカで少し遠まわりになるクリーニング屋に向かった。


預けていたシンイチ君のズボン等を引き取り、
私は夕日の奇麗な街道を上機嫌で運転していた。

「んー赤に代わりそうね……無理しなくても間に合うわね」
私は黄色く点滅を始めた信号機の手前にゆっくりと停車した。

「あっそうだ 後ろに移しておかなきゃ」
私はさっき受けとった洗濯物を助手席から後部座席に移そうとして、
横を向いた時、信号待ちをしているシンイチ君が目に入った。


私は震える手で洗濯物を後部座席に移した。

そして、信号が代わり シンイチ君が駆け出して行くのを見て混乱していた。
後ろからクラクションが短く一回鳴ったので、私はエレカのアクセルを踏んだ。


シンイチ君に見られないようにあっと言う間にシンイチ君を追い越し、
私は夕日に染まる街並みを駅目指してアクセルを踏み込んだ。


「どうして どうしてこんな所にシンイチ君がいるの?……今ごろバイトしている筈じゃ」
この時芽生えた疑念が……今思えば 精神寄生体を呼び込んでしまったのだと気づいた。

そして翌日……私は心の中に巣食った精神寄生体からの情報とも知らず、
自分のカンだと信じて、シンイチ君の足取りを追ったわ……

そして、シンイチ君に気づかれ、細い道に入って行かれた時……
私は目の前が真っ暗になった所までは覚えてる……

私は無意識の内に自分の中に潜んだ精神寄生体を排除する為に自殺を図った……
そして加速したエレカのボンネットの向こうにシンイチ君の姿を認めた時……
私はやっとその呪縛から解き放たれた……

私はこれ以上思い出すのが辛くなり、部屋から出て階段を降りた。


「喉……乾いちゃった」 私が居間に入ると、シンイチ君が卵焼きをほおばった所だった。

「……アヤさん」 まるで幽霊でも見たかのような表情で私を見るシンイチ君を見て、
私は何故か心が落ち着いて行くのを感じていた。

「お母さんから聞いたわ……好物の卵焼きを放って私を探してくれたんだって……」
私は少しうなだれているシンイチ君の頭を軽く撫でてあげた……

幼い日 シンイチ君が家で遊んでいて、私が誕生日にお母さんに買って貰ったコップを
割ってしまった時も今日みたいな顔してたっけ……


「シンイチ君……償いとして私に優しくなんて……しないでね」
私は心を引き裂かれそうになりながらもそれに耐えて口を開いた。

シンイチ君の考えそうな事は解るのだ……痛い程に……
解らなければ何も知らないまま、幸せになれたかも知れないけど。

「アヤさん……」 何と言っていいのか解らないとシンイチ君の目が告げていた。


私はそっとシンイチ君を抱きしめて、シンイチ君の頬にキスをした。

「明日から学校でしょ 早く寝るのよ シンイチ君っ」
私は笑みを意図的に浮かべてシンイチ君に言い聞かせてから手を離した。


私はシンイチ君が階段を上がっていったのを確認して、冷蔵庫を開けた。

「何 飲もうかな……これにしようっと」
私がいつもシンイチ君の為に買って置いているジンジャーエールの缶を取り出して、
プルを開けた。


「これはシンイチ君への罰なんだから……私が飲んじゃうの……」

私はそう呟いてジンジャーエールを喉に流し込んだ。

少しドライな飲み心地のジンジャーエールを飲み干した時、

テーブルの上に涙が落ちたのを見て私は少し驚いた。


「やだ……泣いちゃってたのね……本当にバカよね……私って……」

折角シンイチ君が私の事をなんとかしようとしてくれたのに、

自分からシンイチ君を突き放すような事を言ってしまった事を

今更ながらに後悔し始めた自分がイヤだった。


「違う……私はそんなに弱く無い……ジンジャーエールが苦かったからよ」
私はジンジャーエールの空き缶を捨てて、自室に戻った。




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どうもありがとうございました!


第19話Eパート 終わり

第19話Fパート に続く!



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