「シンイチ君……償いとして私に優しくなんて……しないでね」
僕はアヤさんのその言葉に胸を貫かれたような気がした。
「アヤさん……」 僕は何と言っていいのか解らず、ただアヤさんを見つめていた。
次の瞬間、僕はアヤさんに抱きしめられ、頬にキスされた
「明日から学校でしょ 早く寝るのよ シンイチ君っ」
僕はアヤさんが笑みを浮かべて言ったこの言葉を聞いて、頷いた。
アヤさんに開放された僕は少し混乱しながらも階段を上がり、自室に入った。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 19F
第19話【
蒼い髪の少女
】Fパート
「なんだか疲れたな……」
僕は寝間着に着替えてすぐベッドで横になった。
夢も見る事も無く、僕はいつしか深い眠りに誘われて
気づいた時には目覚まし時計が朝を告げていた。
「あれ……今日はミライが起しに来なかったな……」
いつもは目覚ましが鳴る前に起しに来るので、
僕は珍しい事もあるものだと思いつつ、僕は起き上がって寝間着を脱ぎ、
休みの間にクリーニングして貰って真っ白になったワイシャツを身につけた。
「ほんの数日だったのに……長かった気がするな……でも今日から学校か」
僕はズボンを履きながらそんな事を思った。
これ以上は無いと言う程の非日常を味わったのに、
今日はまた平凡な日常に戻ろうとしている その事が少し惜しくもあるが、
普通の生活に戻るであろう事にほっとしている そんな複雑な心をまとめようとしながら
着替えていると、ノックもせずにミライが入って来た。
「おはよう ミライ」
「起きてたの?珍しいわね……普段だったらまだ寝てるのに」
僕を起こすのを楽しみにしてたのか、ミライは少し残念そうだった。
「じゃ、今からもう一度寝ようか?」
僕は半ば本気でそう言った。
「もう……せっかく今日は私が朝ご飯を作ったんだからゆっくり味わって食べなさいよ」
ジェスチャーで布団をめくろうとしていた僕の耳をミライは指でつまんで言った。
「今日はミライが作ったの?」
「昨日料理の本を図書館で見てたら作ってみたくなったの」
「もうすぐ準備出来るから下で待っててよ」
「解った じゃごはんよそっとくね」
ミライは嬉しそうに階段を降りていった。
「さてと……」 僕は鞄の中を確認して一階に降りた。
「おはよう シンイチ」 父さんは食事を終えて仕事にでかける所だった。
「おはよう……父さん」
普段と変わらぬ態度で接してくれる父さんの優しさが、今の僕にはとても嬉しかった。
「今日からまた学校か……頑張りなさい それと今晩にでも話があるから、
そのつもりでいてくれ」 そう言って父さんは家を出て行った。
「話……何だろう」 僕はさっきの父さんの言葉を反芻していた。
「シンイチ! 何ぼーっとしてるのよ ご飯もうよそってるわよ」
居間の方からミライが叱咤の声を浴びせて来たので、僕は肩をすくめて居間に向かった。
「今日の鳥の照り焼きおいしかったよ」
「本当? ならまた作ってみようかな……」
僕はミライと一緒に登校しながら今朝の朝食について話していた。
「けど、隠し味にマスタードってのはちょっと……」
「何よ……シンイチはピリ辛系好きでしょ……」
「そうなんだけど……鳥には合わないかも」
「なら……おいしいなんて言わないでよ」
ミライはすねてしまい、足早に僕を追い抜いて行こうとした。
「ちょっと気になっただけだよ 美味しかったってのは本当だから……」
僕は慌ててミライの後を追って説明した。
昼休み……屋上にて
「ミライ……機嫌直してよ」 昼休みに至っても不機嫌なミライに僕は手を焼いていた。
・
ほんの小さな出来事に愛は傷ついてぇ〜(謎)
・
「…………」 だがミライは無言で弁当を食べるだけであった。
「今は何を言っても無駄かな……」
僕はため息をひとつついて食事を再開した。
食事が終わるまで、ミライも態度を変える事は無く、
僕も何も言わずにただ弁当を食べる事しか出来なかった。
「用事があるから先に降りるよ」
僕は沈黙に堪え切れず、弁当を食べおえてすぐに立ち上がった。
ミライの返答が無かったが、消しゴムを買うという用事は実際にあるので
僕はミライを気にしながらも屋上を出た。
アヤさんがあんな事になったから、僕がアヤさんの事を気にかけているのが
雰囲気で読み取られているからミライが不機嫌なのでは無いか
などと考えながら売店に向かう渡り廊下を渡っている時、頭の中に声が響いた。
{どうやら、迎えが来たようだな……}
{{どういう事?兄さん}}
僕は不審に思って兄さんに問いかけた次の瞬間 どこからともなく
僕の父親……渚カヲルが中庭に姿を現した。
「先日の約束を果たしに来た…… 一緒に来るんだ……」
「あの……蒼い髪の彼女の身体の具合はどうなんです?」
「ほぼ回復した。 今は培養液の中に戻している……
で、ついて来るのか? イヤなのか? 私はどちらでも構わんのだが」
渚カヲルは少し機嫌が悪いのか、ぶっきらぼうに答えた。
「着いて行きます……真実を知る為に」
「真実か……真実の重さと深さにおまえは本当に耐えられるのかな……」
僕の返事が無いのを見て、渚カヲルは手を振りながら
なにやら呪文のようなものを唱えはじめた。
{何をしてるんだろう……兄さん}
{{すぐに解るさ}}
次の瞬間 僕は意識を失いかねない程のショックを受けた。
「くっ」 僕は意識を失わないように気を張った。
どれほどの時間が経ったのだろう……一時間か……それとももっとなのか……あるいは……
「目を覚ませ……着いたぞ」 渚カヲルの声に目を開くと、
そこは以前に兄さんのビジョンで見た事のある洞窟の中のようだった。
「ついて来い」 さっきの術で僕は船酔いに似た症状になっていたが、
慌てて渚カヲルの後を追った。
数分程歩いたであろうか……
先日のビジョンとは少し趣の違う
まるで人工的に作られたかのような洞窟の中に僕たちはいた。
少し歩くと、機械的な扉が洞窟の通路を塞いでいた。
渚カヲルが近づくとその扉は音も無く開いた。
見る限りでは現代の科学技術だとは到底思えなかった。
「ここが、培養室だ……」
中に入ると、裸の蒼い髪の少女が何十人も透明なタンクの中に浮かんでいた。
「クローン技術で母さんのクローンをこんなに作ったの?」
僕は兼ねてからの疑問を渚カヲルにぶつけた。
「おまえの母親……綾波レイはサードインパクトの際に身体を失ったのだ……
旧支配者の復活を阻止する為に、綾波レイは自らの身体を使ったのだ……
この事は碇シンジも知らない筈だ……綾波レイが自らの身体ごと旧支配者を
封印した事を知る者は私と、シンイチ……おまえだけだ。
私は彷徨っていた綾波レイの魂と、洞窟に残っていた彼女の髪の毛を使い、
サルベージを試みた……だが旧支配者を封印する為に己が魂をも一部封じた為、
完全な形での彼女の魂は残ってはいなかったのだ……
まだ幼い息子……おまえを見守る事が出来ないと言う彼女の未練と、
おまえを守りたいと言う心のみが、残された魂の全てだったのだ。
綾波レイとは呼べない存在しかサルベージ出来なかったのだ……
それと理由は不明だがサルベージされた彼女は14歳前後の姿だったのだ。
そしてサルベージ出来る固体数は常に108体……
そして、おまえを守ると言う魂を持った彼女は常に一体だけだ。」
僕は渚カヲルの言葉の全てを今すぐに信じる事は出来そうに無かった。
だが、培養液の中で僕を見つめる大勢の蒼い髪の少女を見ると、
嫌でも現実だと思い知らされてしまうのだった。
「母さんを……元どおりの姿にする方法は無いんですか……」
「綾波レイの身体と魂の一部と共に封印されている、旧支配者の一柱……
ヨグ・ソトースを封印から解き、ヨグ・ソトースを倒すしか無い……」
渚カヲルはこれまでの仮面のような表情では無く、
悲痛な表情を僕に見られまいとしたのか横を向いた。
「あなたでも……ヨグ・ソトースを倒すのは……」
僕のその問いを聴くや、渚カヲルは表情を変えた。
「おまえや、碇家を守る為に彼女が封印の道を選んだ事を忘れるな」
初めて見た渚カヲルの怒りの表情を見て僕は驚いた。
が、次の瞬間には 僕はここに来る時と同じ感覚を味わっていた。
僕は元いた渡り廊下に再び実体化した……今度は僕一人で
「気持ち悪い……」 二度目とは言え、船酔いにも似た感覚は消えなかった。
「ふぅ……今何時なのかな」
僕は周りを見渡していると、背後からミライの声が聞こえて来た。
「シンイチっ」 ミライは僕の元に走り寄って来た。
「ごめんね……意地悪してごめんね シンイチ」 ミライは走り寄るなり荒い息で僕に言った。
「ミライ……僕こそ心配をかけて……ごめん」
「やっぱりダメなの……シンイチがどこかに行っちゃったんじゃ無いかと思うと
胸が苦しくて……私があんな態度取ったから……」
どうやら、姿を消した僕を探して学校中を捜し回っていたのだろう……
僕はミライがそこまでの行動に出るとは思わなかったのだ。
腕時計を見ると、もう3時半になろうとしていた。
「そういう訳じゃ無いんだ……今は言えないけど……いつか説明するから」
「本当?」 ミライはまるでおきざりにされた子供のような瞳で僕を見ていた。
「うん……」 僕はそっとミライを抱き寄せた。
「約束するよ……決して碇家の……家族から離れはしないって……」
「嘘ついたら許さないんだからね……」 そう言ってミライは唇を重ねた。
腕の中で震えているミライの唇は暖かかった。
「え〜コホン」
その時 背後から咳払いの音がしたので、僕たちは慌てて身体を離した。
「くぉらシンイチ! いいかげん心配させて置きながら……ったく」
木村先生が腕組みして渡り廊下の向こうに立っていた。
「6時限目ぐらい出て行け……後2分で始まるぞ……走れ!」
「は、ハイっ」 僕は教室の方に駆け出した。
「待ってよ シンイチ!」 ダッシュするのが遅れたミライがようやく追いついて来た
ので、僕は手を繋いで一緒に走った。
「
約束だからね……
」
ミライが小声で何か囁いたので、僕はミライの手を握り締めた。
約束……それは祈りにも似た二人の願い……叶えられると信じて僕たちは走った。
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久々のミライ萌えだな
月の無い夜は気を付けろ(爆)
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
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どうもありがとうございました!
次回予告
かくして幼年期は終わり、時代は厳しさを増して行く
そのさなか 碇シンジは苦悩していた
自分と同じ道を歩ませないが為に……
そして、その結論や如何に!
次回 第20話【苦悩の天秤】を刮目して待て!
第20話Aパート
に続く!
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