裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 20A
第20話【
苦悩の天秤
】Aパート
「約束の日か……いつの日かと恐れ続けた運命の日はもう……目の前か」
シンジはベッドサイドで暮れに旧友鈴原トウジに貰ったブランデーを、まるで苦いものでも
舐めるかのようにベッドサイドの照明の淡い光に照らされながら飲んでいた。
「あら、どうしたの? 眉に皺よせちゃって」
シンジが今抱えている問題の重さと深さを知りつつも、アスカはまるでそれを杞憂のごとく
払拭するかのように微笑みながら、後ろに回した手で何かを隠しながら近づいた。
「明日にでも言うつもりなんでしょ」
アスカはシンジの横に座り、後ろ手に隠していたグラスを器用に差し出して微笑んだ。
「そのつもりだ……私たちがどうこう言おうが、決めるのはあの子達だからな」
シンジはけだるそうに左手でブランデーの瓶を手にしてアスカのグラスに注いだ……
シンジの迷いは、グラスの中で複雑な波紋を描くブランデーのその姿のようであった。
「思い出すわね……義父様に手伝ってやれって言われた日の事を」
アスカはまるで意地の悪いペルシャ猫のような笑みを浮かべて言った。
「また そんな昔の事で僕を言葉責めにする……アスカはちっとも変わって無いよ」
眉をひそめる程に悩んでいたシンジは、アスカの冗談でほぐれて来たのか、
一転して若かりし頃を懐かしむような遠い目に変わっていった。
「最近、ご無沙汰だったし……明日からは当分そんな気分になれないでしょ……」
アスカはそう言って ついさっきまで風呂上がりの身体から溢れる湯気を受け止めていた
ナイトローブを御役目御免とばかりに脱ぎ捨てた。
「……シンイチが断ったら……私しかいないからな……
間違っても、そんな気分にならないようにしとくよ」
シンジはまるで悲しみと笑いが箱根細工のようにからまったかのような笑顔を見せた。
そして翌朝……
いつも通りの時間にセットしている目覚まし時計が、碇家の寝室に鳴り響いた。
「もう7時……起きたく無いわねぇ……」
アスカは眠そうに目を半眼に開き、ベッドの上でシンジにじゃれついていた。
「年甲斐も無く張り切りすぎるからだよ……寝たの四時ぐらいだったかな……」
シンジはアスカにじゃれつかれていて、唯一自由に動かせる左手で目覚ましを止めた。
「私のせいなの?シンジだって…………」
「不安……だったのかな やっぱり」
二人は一瞬 今夜にでも話さないといけない事柄を思い出して、ベッドに体重を預けた。
「けど、もうすぐシンイチとミライが起きるわよ……シンイチに言っておくんでしょ」
アスカはベッドから降りる気は毛頭無いようで、薄い毛布を身体に巻きつけて、
シンジが起きるのを急かした。
「冷たいな……ってアスカも今日は朝 早いんじゃ無かったっけ?」
シンジは顎に手をやって昨日夕食の時にアスカに聴いた予定を思い出した。
「あっ忘れてた シャワー先に使うからね」
アスカは思い出すや否やベッドから飛び起きて散乱した下着を集めて身に付けた。
「そりゃ無いよ 私だって急いでるんだ」
シンジも下着を身につけながら抗議した。
「じゃ……一緒に入りましょ」
「アヤに見つからんようにな」
二人はうなずきあって、キッチンにいる長女 アヤに見つからないように風呂場に急いだ。
珍しくキッチンには次女 ミライもいたので二人は危なく見つかる所だったが、
なんとか見つからずに風呂場に辿りついた。
「何かいいわね ワクワクするような感じ」
「いいから早く入ろう」
こうして、慌ただしく碇夫妻の朝は過ぎていった。
アスカは椀に入れたご飯にミライが作ったビーフストロガノフをかけて、
まるで牛丼のようにして早々に食べおえ 家を飛び出していった。
シンジもアスカの真似をしようとしたが、次女 ミライの冷たい視線を浴びて中止した。
「ごちそうさま ミライ 美味しかったよ」
シンジは口元を拭きながら鞄と背広を手に立ち上がった。
階段を軽快に駆けおりるシンイチの足音を聴いたシンジは廊下の方を向いて
シンイチが現れるのを待った。
「おはよう シンイチ」
シンジはシンイチが入って来た次の瞬間には口を開いていた。
なにせ、朝のバタバタでこのままだと職員の朝礼に間に合わないからだ。
「おはよう……父さん」
シンイチは何故か少し嬉しそうにシンジを見て答えた。
「今日からまた学校か……頑張りなさい それと今晩にでも話があるから、
そのつもりでいてくれ」
シンイチやアヤ ミライの運命を左右するような重大な用件ではあったが、
シンジはシンイチにさりげなく、まるで帰りに買い物を頼むかのように伝えた。
「じゃ、行って来るよ」
シンジは革靴を履き、玄関を開けて外に出て行った。
一歩……二歩……三歩目からはすでに早足で……碇家が見えなくなる頃には、
ダッシュで学校に向かっていた。
エレカもあるのだが学校への道は坂が殆どなので走るより時間がかかるので、
急いでいる時はいつも、まるで中学生時代のように走っていた。
「珍しいですな 碇先生が走っているのを初めて見ましたよ」
校門をくぐった途端に横から、つい先日赴任して来た物理の教師が声をかけた。
「やけにゆっくりしてますね……響(ひびき)先生」
シンジは足を止めて、響教諭に声をかけた。
「まだ三分もありますよ 慌ててもロクな事が無いですからね」
響教諭は不精髭を手の平でさすりながら、校舎の大時計を見て言った。
「私は心配性なので、先に行かせて貰いますよ」
シンジは苦笑しながら足を早めた。
「ねぇ……碇先生 あんた何者なんです? 教育委員会に顔も効くみたいなのに、
いつまでも第三東京市内とは言えこんな市立中学校にしがみついてるなんて……」
碇シンジの真の姿を知らない、響教諭にはシンジがもどかしく見えるのか、
さして年も変わらぬと言うのに、説教の多い年寄りのような目をして言った。
「ここは私の母校なんですよ…… 急ぎますので……」
シンジは階段の踊り場で振り向いて言った
何とか時間までに職員朝礼に潜り込んだものの、校長は三日前から出張しており、
校長の代わりに職員朝礼を仕切る筈の葛城教頭はまだ姿を見せていなかった。
「やれやれ……葛城教頭と響先生は遅刻ですかな……授業まで間が無いので、
お願い出来ますかな 碇先生」 校長を除いては最年長の老教師がシンジを促した。
「え〜葛城教頭先生のレジュメにそって進めます。 連絡事項からですね……
一昨日に三年生の男子が他校の生徒と、ちょっとした事で揉めているようです。
彼への注意を怠らないように との事です」
「いや〜遅れました 校舎の大時計は遅れてるんですねぇ 知りませんでしたよ
なにせ、赴任して来たばかりなもので」 響教諭がシンジが連絡事項を述べた
次の瞬間に職員室に入って来て、誰も信じないような言い訳を述べた。
「あれ、今日は碇先生が仕切ってるんすか?」末席に座った響教諭は以外そうな顔をした。
「碇先生は教育学科を卒業以来、ずっとこの学校ですからね……
困った時は葛城教頭先生なんかも任せちゃってるんですよ 最近は転勤のサイクルが
短いみたいですしね」 伊吹教諭が下手なフォローを入れたが、
やはり響教諭の顔は納得していなかった。
実は碇シンジがこの学校の影の校長のような存在である事を知っているのは、
NERVの一員である葛城教頭と伊吹教諭……そして教育委員会のTOPの一握りのみ……
先程の老教師がうすうす感づいている程度である。
以前は青葉教諭も教鞭をとっていたが、シンジが教師になってからは、
NERV本部で、副指令としてシンジの仕事を補佐していた。
・
(注意)碇スマッシュなんて技は覚えていません
「えーそれでは、生活指導の岡部先生 その三年生男子への対応をお願い出来ますか?」
シンジはジャージを着た、いかにも体育会系だが寡黙な岡部教諭に声をかけた。
岡部教諭はただ、うなづくだけで何も言わなかった。
生徒の間では、沈黙先生の名で通っていて、普通の先生に叱られるより、
無言でずっと見つめられる方がよっぽど恐いと言う事で恐れられていた。
「それでは、次に進みます
「いやー遅れちゃったみたいね〜」
シンジがレジュメに視線を移して口を開いた途端に、葛城教諭が職員室に入って来た。
「葛城教頭……6分の遅刻ですな……」 老教師がため息をつきながら言った。
「ちょっと野暮用で……で、どこまで進んでる?」
葛城教頭はシンジが手にしているレジュメを覗きこんで言った。
「連絡事項が終わった所です 例の件は岡部先生に頼みました」
「ちょっと書き物しないといけないので、進めといてくれる?」
葛城教諭は自分の机に座り込むや引き出しから一枚の用紙を取り出して言った。
「それ、始末書じゃ無いですか……また何かやったんですか? 葛城先生〜」
恩師であるミサトの前ではシンジはいまだ生徒気分なのか、
シンジはため息を付きながら葛城教頭を見ていた。
「ちょっとね……他校の生徒が登校してる所をかっさらったのはまずかったわねぇ〜」
葛城教頭は本当に反省しているのか、定かでは無い顔で笑いながら言った。
「もしかして……三年生男子と、その他校の生徒との喧嘩の仲裁ですか」
さすがに付き合いの長いシンジが洞察して言うと、職員室のあちこちで「ほう」
といった言葉が漏れた。 ずぼらそうな外見と性格ではあるが、やる時はやるという
葛城教頭が教頭であるが由縁を見たのであろう。
「うん……まぁ早かったからあまり遺恨は持たずに済みそうね……
まぁ一応目を光らせておいて下さいね 岡部先生……」
葛城教頭は再び始末書書きに没頭したので、シンジは慌ててレジュメを読み進めた。
その日の午前中は他にさしたる異変も無く、淡々と時が過ぎていた。
シンジが昼食を取りおえ、トイレから帰って来た時 職員室の電話が鳴り響いた。
「はい 第三新東京市立中学校です え?碇先生? ミライちゃんね 解ったわ」
伊吹教諭が電話を取り、電話の相手と話しているのを少し耳にしたシンジは、
伊吹教諭に近づいていった。
「急用みたいです」 伊吹教諭はシンジの机の電話に回す操作をしながら言った。
「私だ……どうしたんだ? ミライ」
シンジは自分の机に戻って座り、受話器を取った。
「あ、パパ? お昼休みまでは一緒にいたのにいなくなっちゃったの!
ムサシ君やコウジ君も探してくれてるんだけど、もうすぐ授業が始まるし……」
「ん? で、誰がいなくなったって?」
「シンイチよ シンイチ!」
「シンイチが? 何も言わずにいなくなった?」
「あっ 授業が始まっちゃう 木村先生の授業だから大丈夫だとは思うけど……」
「取り敢えず授業に出なさい 私の方で何とかするから」
「シンイチが見つかったら電話するから、もしそっちで見つかったら木村先生にでも
伝えておいてねっ」 余程慌てていたのか、ミライは受話器を乱暴に降ろした為、
シンジは受話器を置くやいなや左耳に手をあてていた。
「まさかな……」
シンジは再び電話機に手を伸ばそうとした時、気配を感じて振り向いた。
「響先生 二年C組の物理の授業があるんじゃ無いんですか?」
授業開始3分前なので、殆どの教師が出払っている職員室の窓枠に悠然ともたれかかって
いる響教諭を見てシンジは問いかけた。
「小テストにしました さっきクラス委員長が資料を貰いに来てたのでね」
確かにミライと電話をしている時に生徒が中に入っては来ていた……
だが、響教諭の行為がシンジにはいぶかしく見えてならなかった。
「ところで……なんとかするんじゃ無かったんですか? お急ぎなんでしょう」
響教諭のこの言葉はシンジを硬直させるのには充分だった。
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妙齢のアスカ様 萌え〜
ぬぅ ニセパートだと思ってたのに
よくやったな・・シンジ
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どうもありがとうございました!
第20話 Aパート 終わり
第20話Bパート
に続く!
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