CHAPTER 01A
第1話【愛と哀しみのカノン:2039】Aパート
シンイチ・・シンイチ・・
誰かが僕を呼んでいる・・
聞き覚えのある、この声・・
誰なんだろう・・
この、心の暗闇から僕を引き上げてくれるような声・・
母さんなのかな・・ 記憶の片隅にも残って無い筈の残滓・・
シンイチ! シンイチ!
「んっ」
僕の意識はようやく、夢から現実世界へと移行したようだ。
よかった・・今日も目覚める事が出来て・・
「ほーら、早く起きてよ!シンイチ! 学校遅れるでしょ」
「ん〜 まだ眠いよ・・」
僕は目を擦りながら、声の主に答えた。
「もう時間無いのよ!パパはもう出ちゃったわよ」
「わかったよ・・起きるよ・・」
僕、渚シンイチはようやく、身体を起こした。
ねむ・・昨日は遅くまでビデオ見てたし・・
僕はベッドから這い出して来た。
もう朝日がさんさんと、この部屋に降り注いでいた。
パッチーン
「痛っ 何するんだよミライ」僕は頬を押さえて呟いた。
「・・・・ばかっ」
ミライは顔を真っ赤にして部屋を飛び出した。
「あ・・そうか・・仕方無いじゃないか・・朝なんだから・・」
僕は呟きながら、寝間着を脱ぎ、制服に着替えて下に降りていった。
「おはよう!シンイチ君!」
アヤさんが、トーストの乗った皿を、僕の指定席に置いてくれていた。
「おはようございます アヤさん」
「もうぅ〜シンイチ君はいつも、他人行儀なんだからぁ」
アヤさんが笑いながら言った。
その瞬間・・その微笑みに僕は吸い寄せられそうになっていた。
「ほ〜ら、ミルク!」ミライが冷蔵庫から、牛乳を持って来て、テーブルの上に乱暴に置いていった。
「早く食べなさい!」
「ハイハイ」僕はトーストにかじりついた。
「あ、ミライ! 父さんは今日、遅くなるって言ってたわよ」
アヤさんとミライのお父さん・・碇先生・・
母の従兄弟だって聞いてる・・
物心付いてから、ずっと、本当の父親のように、慕い、
碇先生も、僕の事を、アヤさんや、ミライと同じように
分け隔て無く育ててくれた人・・
僕とミライのクラスの担任でもある。
アヤさんはアスカさんに似た、ほんのりと赤い栗色の髪を短く切った髪型で
つぶらな瞳と清楚な顔立ちで、ファンも多く、
高等部では”マ連合”と言われるファンクラブもあるようだ。
妹のミライは、奇麗な黒髪を肩まで垂らしていて、
いつも校則ギリギリに挑戦しているせいか、
毎日のように、少しづつ髪を切っている。
黙っていれば、可愛いので、ミライにも結構ファンがいるようだ。
ほっぺたを膨らまして怒っている顔は結構気にいってたりする・・
不思議な事に、アヤさんは、性格は碇先生に似てて、顔つきはアスカさんに似ていて
ミライは、性格はアスカさんに似て、顔つきは碇先生に似ている。
葛城教頭先生が言うには、碇先生の若い頃に、僕は似ているそうだ。
親戚なんだから仕方無いけど、よく碇先生の若い頃と比べられる事がある。
主にそういってるのは、葛城教頭先生だけど。
母さんに似てると言われたのは、紅い瞳だけだ。
聞く所によると、僕の父さんもそうだったらしい。
「ママは、いつこっちに帰るんだっけ?」
アスカさん・・叔母さんと呼ぶとムキになって怒る、可愛い人だ。
二人も子供を産んだとは見えない、スリムな体型をしている。
一年の半分以上を、海外で過ごし、ライフワークとなっている、
あちこちの、遺跡を巡って研究をしている。
第三東京大学の客員教授でもある人だ。
だから、アスカさんのいない時は、3つ年上の長女のアヤさんが、
自然に、家事全般をやってくれている。
掃除魔でもあり、何度ベッドの下の本がキレイに並んでいた事か・・
けど、アヤさんがいないと、この家は3日で住めなくなるかもしれない・
碇先生も、家事はあまり得意では無いようだし・・
ミライは言うまでも無い・・
ミライは世話を焼きたがるくせに、どこか抜けてて、
結局アヤさんにいろいろ頼ってしまっているが、憎めない存在だ。
もっと優しく朝起こしてくれたら、言う事無いんだけど・・
「再来週よ ミライ!忘れ物ない?」
「うん」
「ごちそうさま!」僕は皿を流しの上に置いた。
「さっいきましょ!」
僕達は学校に向かって走っていった。
「じゃ、シンちゃん ミライ 急ぎなさいよ!」
学校に向かう坂で、僕とミライは、アヤさんと別れた。
アヤさんは、中学校の上の高等部の二年生なのだ。
「ほら、シンイチ! あと5分しか無いわよ!」
「わかってるよ ミライはうるさいんだから・・
アヤさんみたいに、もっとおしとやかにならないと・・」
「うるさいわね! アネキはアネキ私は私よっ」
「わかったよ・・急ごう」
僕とミライは、二年A組に向かって走っていった。
僕は、産れてすぐ、碇の叔父さんの家にあずけられて、
ずっと、アヤさんや、ミライと、兄弟のように暮らしていた。
僕を産んだ母はどこに行ったのだろう・・・・
僕の父はどんな人だったのだろう・・
「ほら、いくわよ!」
ミライの声で我に帰った僕は、再び走りはじめた。
「セーフ!」
僕とミライはなんとか、ホームルームの始まる3分前に、教室に辿り着いた。
「よう!シンイチ!今日も、夫婦二人して、走って来たのか」
「ムサシ! 何言ってるのよアンタ!」ミライが同級生のムサシに叫んだ。
ムサシは孤児だが、いつも明るく、スポーツをする時はいきいきしている。
いつも、外でスポーツしているので、陽に焼けた逞しい身体をしている。
「まぁまぁ、落ち着いて!ミライさん」同級生のケイタが止めに入った。
ケイタは、ムサシとは逆で、いつも本ばかり読んでいる。
僕とムサシとは仲がいいが、他の生徒には、まるで、
人見知りしている幼稚園児のようだ。
だが、性格の異なる僕とムサシとケイタは、
何故か馬が合い、よくつるんで行動している。
ミライや、委員長の鈴原さんからは
”三バカトリオ”の称号を頂いている。
あまり嬉しくは無い・・・
その頃・・
碇シンジは職員室で、資料をまとめていた。
ツルルルル
「碇先生!お電話です」
「あ、はい・・・」
「碇です。」
「久しぶりだな・・」
「まさか・・父さん?」
「ああ・・約束の日まで後少しだ・・」
「わかってるよ・・父さん・・あの子達を僕達のような・・事には・・」
「もうホームルームが始まるわよ!」委員長の鈴原さんが騒いでいる僕達に注意した。
「鈴原はいつもうるさいなぁ」ムサシがぶつぶつ言いながら席についた。
僕も苦笑いで、それに答えて席についた。
{しかし、おまえもアヤが好みだったとはな・・}
僕の頭の中でいつもの、ささやき声が聞こえた。
物心ついたときから、いつも聞こえる声。
誰にも言った事の無い・・僕だけの秘密・
{{そんなんじゃ無いよ・・兄さん}}
僕は兄さんに語り掛けた。
{そうか? 結構好みなんだが・・}
{{兄さんはアヤさんが好きなの?}}
{・・・・碇先生が来たぞ}
ガラガラ
その時、碇先生が、教室に入って来た。
起立!
礼!
着席!
第1話Aパート 終わり
第1話Bパート に続く!
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