CHAPTER 01C
第1話【愛と哀しみのカノン:2039】Cパート
キーンコーンカーンコーン
「さぁて帰るかぁ」ムサシがかばんをさげて、立ち上がった。
僕もかばんに、ノートパソコンとこまごましたものを入れた。
このノートパソコンは、生徒全員に支給されていて、
これ一つで、全学科の教科書とドリルになっていて、
同じノートパソコンを持つ者には、センドメールを
送る事も出来るんだ。もちろん料金は引き落としされるけど・・
「さーて ケイタ!シンイチ! アミスポ行こうぜ」
「今日は塾の日だからね・・ごめん」ケイタが鞄を持って立ち上がった。
「そうか・・ならシンイチはどうだ?」
「うーん・どうしよう・・」
(昨日も行ったばかりでしょ・たまには・・)
背後から、ミライの強烈な思念を感じた僕は思わず、
「ごめん・・今日はやめておくよ・・月末だしさ」
「そうか じゃ今日は帰るか・・じゃ、またな!」
ムサシは教室を出て行った。
「じゃ・・ミライ・・帰ろうか」僕は背後のミライに振り向いた。
「そ、そうね・・」
僕達は、下足に履き替え、校門に向かって歩いていた。
「ねぇ・・ミライ・・」
「なに?シンイチ」
「碇先生ってほんとにいい人だね・・」
「何よいまさら・・」
「従兄弟の子供ってったら、今時他人みたいなものだよ・・
そんな僕を育ててくれて・・」
「いいのよ パパだって、本当は男の子が欲しかったって言ってたんだから!
(パパがそれ呟く度に、私は唇かんでたんだから・・)」
「そうだね・・」
「あ、アネキだ!」ミライが校門の脇のポプラの木の下を指差した。
「あ、ほんとだ どうしたんだろ」
「アネキぃどーしたの?」ミライが声をかけた。
「ミライ・シンイチ君・・実はね、買い物して帰るんだけど、
今晩のご飯なにがいいかなって思って・・(ミライはいいわね・・シンイチ君といつも一緒で・・)」
「そうねぇ 私は何でもいいわよ」
「ねぇ、ミライ!僕達もたまには、アヤさんに付き合おうよ」
「私は見たいTVがあるからパースっ」
「そうか・・じゃ僕だけでも付き合いますよ・・重いものもあるだろうし」
「そう? 悪いわね シンイチ君」
僕達は、スーパーに向かって歩いていた。
「じゃ、先帰るから!」ミライは途中で家の方に向かって行った。
「今日は何がいいかなぁ (シンイチ君の好物は・・確か・・)」
「何でもいいですよ! アヤさんの好きなもので・・
いつも、僕やミライの好物ばかり作って貰ってるんだし・・」
僕は俯いて言った。
「そう? じゃ、いきましょ」
「ええ・・」
僕達は並んで、スーパーの中に入っていった。
「・・・」いつの間にか、アヤさんと僕は手を繋いでいた。
(嬉しい・・・)
手を繋いでいるので、アヤさんの思考が否応なく、流れて来ていた。
20分後・・
「シンイチ君・・悪いわね そんなに持たせちゃって」
「いいですよ・・けど、いつもアヤさん・・こんなに重い物を?」
「いつもじゃないけど、週に、一、二度はね」
「じゃ、その時は言って下さいよ 手伝いますから」
「本当?(う、うれしい・・これで・・口実が・・)」
「遠慮せずに言って下さいね」
「アヤさんは誰に料理習ったんですか?」僕は前から疑問に思っていた事を口にした。
「鈴原の叔母さん知ってるでしょ」
「ええ アスカさんの親友ですよね」
「ママが海外行ってた時、よく料理作りに来てくれてたのよ・・シンイチ君は覚えて無いかな・・
その時、お手伝いしてて、見込みがあるって言われて、お料理を習ったの。
そうか・・シンイチ君やミライは外に遊びに行ってた時間だもんね 知らないかもね」
「そうですよね・・アヤさんはいつも、家事に追われているし・・」
「気にする事無いのよ パパも、お母さんがいない時は、ホームヘルパーを雇おうかって
言ってたけど、私が断ったの・・鈴原さんがいろいろ教えてくれてたし・・」
「アヤさんは、きっといい主婦になれますよ・・ってもう
今でも碇家の主婦みたいなものかもしれませんけどね」
「まっ シンイチ君ったら・・誉めても何も出ませんからね・・(うれしぃ・・)」
「僕が小学校3年の時の誕生日・・あの時、アヤさんが焼いてくれたケーキ・・・
形は少し崩れてたけど・おいしかった・・
僕はとても嬉しかったんです・・僕の為にケーキを焼いてくれる人がいた事が・・」
「シンイチ君・・」アヤさんは、少ししんみりしていた。
「だからまた、焼いて下さいね!」僕は舌を出して笑った。
「そうか、来週はシンイチ君の誕生日よね! じゃ腕によりをかけて、作ってあげる!」
「ありがとう・・アヤさん!」
「シンイチ君・・アヤさんだなんて呼ばないで・・アヤって呼んでくれないとケーキ焼かないぞ!」
「そっそんな・・」僕は少し顔を赤らめてしまった。
「うっそ! 冗談よ けど、他人行儀な呼び方は嫌なの・・
ミライには、”ミライ”って呼んでるでしょ・・」
「じゃ・・どう呼んだらいいかな・・アヤ・・アヤちゃん」
「こーらっ シンジ君ったら」
「3つ年上でちゃん はまずいかな けどアヤさん可愛いんだもん」
「もう・・シンイチ君ったら・・」
「僕は シンちゃん でいいですよ・・そう呼ばれると・・家族だって思う事ありますから・・」
「じゃ、アヤ って呼んでよ・・」
「そうですね・・じゃ・・・アヤ・・」
「なーに?シンちゃん!」
・・・・ぷっ アハハハハ
僕達は、笑いを堪えていたが、つい堪えきれなくなってしまった。
「じゃ・・シンイチ君? 二人だけの時は、アヤって呼んでね!それで勘弁してあげる」
「じゃそうしますよ・・アヤさん」
「まーた さんづけで呼んでる!」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくてもいいのよ・・ホント!シンちゃん は可愛いんだから」
僕とアヤさんは、楽しく話しながら、家に向かっていた。
「もぉ〜お腹すいたわよ! おっそーい!」
すると、家の前でミライが腰に手を当てて仁王立ちしていた。
「ごめんごめん 今作るからっ! けど、まだ5時ちょっとよ」
「おなかすいたの!」
「ハイハイ ミライは甘えん坊なんだから」
「なによっ ・・(二人で楽しそうに話なんかしちゃってさ・・シンイチのぶわーか)」
「テレビもう終わったの?」僕はミライに声をかけた。
「今日じゃ無かったのよ・・・」
「やけに玄関先でにぎやかじゃないか」
「パパぁ」
「お父さん」
「おかえりなさい!」
「おいアヤ! 今日はシンイチ君とアツアツだったそうじゃないか!
鈴原さんが、スーパーで目撃したって言ってたぞ」
「そっ そんなんじゃないのよ お父さん・・重いもの持ってくれるって言うから手伝って貰ってたのよ!」
アヤさんは、頬を染めてしまっているので、あれでは、バレバレだ・・
「そんな事言うお父さんには晩御飯食べさせませんからねっ!」
頬を染めて少しふくれたアヤさんの笑顔・・・アヤさんもあんな顔するんだ・・
「はは ごめん ごめん 謝るから晩御飯食べさせてくれよ」
「じゃ、今から作りますから」ようやく機嫌を直したアヤさんが、台所に消えて行った。
「ふぅ・」僕はリビングの椅子に座った。
{をいシンイチ・・}
{{なに?兄さん}}
{たまには アヤ って呼んでやれよ・・}
{{・・うん・・}}
{ホントお前は女心がわからないんだから・・ま、心が読めるからそれでカバーしてるけど・・
その力に頼らなくても分かるようになれよ・・まったく}
今日は兄さん・・饒舌だな・・
そして、日は暮れて行った
第1話Cパート 終わり
第1話Dパート に続く!
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