「じゃ、シンイチとアヤを呼んで来てくれ……ミライにはシンイチの誕生日の料理の
打ち合わせだとでも言ってな……」 シンジは少しためらってから指示した。
その言葉は夫婦の言葉では無く、NERV司令とNERV副司令のそれであった……
「例の場所はそのまま使えるな……」
「……ええ」
「頼む……」 そう言って書斎に入る碇シンジの背は震えていた。
邪神崇拝者やその卷族から人類を守ると言う大義名分が無ければ、
それは許されざる行為だと……解っているから。

「シンイチ アヤ 再来週開く予定のシンイチ君の誕生パーティーの事で
お父さんが話があるそうよ」



裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 20D

第20話【苦悩の天秤】Dパート




「ん? 私はいいの?」
「ミライには買い出しとかの件で後で呼ぶから」
「8時からのドラマ見たかったから丁度いいかな」
「書斎に父さんいるんですか?」
「ええ、そうよ」

シンジは居間の方から漏れて来る家族の声を聞くとはなく聞いていた。
「全てが明らかになった時……私は許して貰えるのかな……」
シンジはブランデーをキャップに注いで一口で飲み干した。
養命酒じゃ無いんだから……

「しかし、ここではちと手狭だな……」
シンジはここ最近忙しさにかまけて書斎の整理をする事を後伸ばしにしつづけて来た事を
今さらながらに思い出した。

「こっちの部屋を使うか……」
シンジはあまり使っていない物置の扉の前の本を慌てて片づけ始めた。
書斎に入りきれない書類や本が少し詰まれているだけで、
物置とは言っても普通の部屋なのだが……

「うっ……埃くさい たまには空気を入れてやるか」
シンジは窓を開ける事も考えたが、これからの事を考えてとりやめた。

「あれ、父さんいないな……」
「もしかして、そっちにいるの?お父さん」
シンイチとアヤの声が聞こえたので、シンジは書斎に顔を出した。

「書斎じゃ狭いからこっちで話そう」
シンジは半開きになってたふすまを足で全開にまでこじあけた。

「そういえば、この部屋に入った事 数えるぐらいしか無いような」
シンイチは自分の家の一室だと言うのに物珍しそうに見回していた。
「そういえば、子供の頃にここには入っちゃいけないって言われたような気が」
アヤまでもがまるで開かずの扉かのように部屋を見て呟いた。
「そんな事言った記憶無いんだがな……」
シンジは部屋の隅の壁に手を当てながら言った。
「それ、多分私ね……アヤが小さい時にあなたを探してその部屋にまで入っていった
ものだから、注意した事があると思うわ」 アスカが最後に部屋に入って来るなり、
シンジの疑問に答えた。

「けど、どうして注意する必要があったの? 特に変わったものも無いし……」
「……」 シンジはシンイチのその問いに壁に隠されたスイッチを入れる事で答えた。

次の瞬間、音も無く床の一部がへこんで行き、横にスライドし、下に降りる階段が現れた。
「うわわ 何だ?」 シンイチが開く寸前に片足を載せたものだから、
シンイチはバランスを崩して倒れかけたが、アヤのエプロンにつかまって、難を逃れた。
「きゃっ びっくりした!」
映画版コナン最新作の影響だな 間違い無く

「間違ってこのスイッチにでも触ったら危険だったからさ」
シンジは笑みを浮かべてもう一度別のスイッチを押すと、
今度は下に降りる階段の脇に明かりが点灯した。

「もしかして……父さんの趣味?」
シンイチは立ち上がって下へと続く階段を覗きこみ、
シンジの方を振り向いて呟いた。

「バカを言うな……NERV絡みで必要だったんだよ」
シンイチに遠い目で見られたシンジは慌てて弁解した。

「けど、シンイチ君の誕生パーティがNERVと関係あるの?」
アヤは至極当然の疑問を発した。

「今の所、ミライに聞かれるとマズイんで、下で話そう」
そう言ってシンジは率先して階段を降りていった。

ただならぬ雰囲気に少し臆したものの、シンイチとアヤも後をついて降りていった。


「ここは一体……」
シンイチは我が家の地下に隠されていた地下室を見回していた。
「もう一層 下に降りればシェルターとして三年間以上過ごせる部屋もあるし、
NERVの本部にも繋がっているから、緊急時にも便利なんだよ」
シンジは誇らしげに地下室と言うには広すぎるスペースを説明していった。

「お父さんがいつも書斎にこもるのはここがあるからなのね……」
アヤも珍しそうに地下室を見て廻っていた。

「取り敢えず、ここで話すか……」
少し歩いてエレベーターで一層降りてから、シンジはとあるドアを指差して言った。

大きいベッドが一つとサイドテーブルとソファーが並ぶその寝室のような部屋は、
地上にあるリビングよりも広かった。

壁には薄型のスクリーンがあり、シンジはそこに近づいていった。

「それでは、まず 碇家と六分儀家……六分儀家と言うのは父さんの父親……
アヤやミライにとっては祖父にあたる碇ゲンドウの旧姓なんだが、その説明を見てもらう」
シンジはコンソールを操作して、スクリーンには”碇家の歴史”とだいうったタイトルが
輝いていた。

「これ作ったの……もしかしてお父さん?」
タイトルを見るやいなやアヤはシンジの方を振り向いて言った。

「ああ、そうだが どうして解った?」
「だって中学校の時 教材で使ってたOHPの資料の作り方と一緒でしょ?」
「んー そうね 学校の授業みたいね さすがは中学校教師」
アスカまでもが茶々を入れはじめたので、シンジは再生ボタンを押した。

碇家の歴史が終わり、六分儀家の歴史や使命……
そして、セカンドインパクトとサードインパクトの説明が始まった頃には、
シンイチとアヤは画面を食い入るようにして見ていた。

そして最後に……碇家の血を引くものの宿命についての内容を残すばかりとなった。

「あれ、もう終わりですか?」

シンジはシンイチの問いに苦渋を一瞬浮かべたが、
もう後戻り出来ない事を感じて再生ボタンを押した。


数分後……
さすがにその内容を見た後は、シンイチもアヤも無言であった

「あの……お父さん? どうしてミライも連れて来なかったの?
ミライも私と同じように、その碇の血を引いてるんでしょ?」
「……ミライは今 危険日なんだよ……言ってる意味……解るだろ」
シンジは少し恥ずかしそうに頬をうっすらと染めて言った。

「シンイチが守ると言っても、いつ何時どのような事が起こるかも解らない……
だから、旧支配者やその卷族に利用されない為には、六分儀の血を引く男の……
その……なんだ(父さんのように平然とは話せないものだな……)」

「方法は二つある……だが、シンイチがどちらかを生涯の伴侶としていずれ選ぶのなら、
選んだ方には本来のやり方で……そうで無い方には代替策を使うといい……
代替策のやりかたは再生ボタンを押せば解るようにしておく…………
二人とも代替策にしろと言わないのは、
代替策がどこまで有効なのかは実際の所解っていないのだ……
現に代替策を使ったにも関らず、シンイチの母親 綾波レイは…………」

「あなた……」 悲痛な顔で話すシンジにアスカは寄り添ってそっと手を差し伸べた。

「どうするかは、シンイチ……おまえが決めろ
そろそろ帰らないとミライが不審に思うやも知れん……私たちは先に上がっているぞ」
シンジはその言葉を言い残して、アスカと共に部屋を出ていった。

「父さんも……同じように……悩んだのかな……」
シンイチは動揺を隠すかのように顎をかいた。



「シンイチ君……」
アヤはそっとシンイチの手を握って囁いた。

「私……シンイチ君の思いを受ける事が出来るのなら……私が選ばれなくても……
きっといい思い出として生きていけると思うの……
いま……このひとときの時間だけは……私をシンイチ君の……」
アヤは桜色に染まりかけた頬を隠すかのように顔を少し背けて呟いた。

「アヤ……」
シンイチはそっとアヤと手を繋ぎ、アヤを抱き寄せた。

「シンイチ君……」
シンイチの腕に抱かれたアヤは今にも泣き出しそうな瞳でシンイチを見つめていた。


「シンイチはどちらを選ぶのかな……」
シンジはエレベーターの回数表示を見ながら小声で呟いた。
「いつかは決めないといけない事だって事をどこまで理解出来てるかどうか……」

アスカの言葉の後、エレベーター内には重い沈黙の場に包まれた。

エレベーターが開き、外に出たシンジとアスカの腕時計から警告音が鳴り響いた。

「まさか……ここに気づいたのか!?」
「エルダーサインの結界が破られるなんて、ありえない筈よ」
「卷族の侵入などありえない筈だ……それとも……」

シンジとアスカは地下室の入り口に向かって走っていった。

「シンイチはどこなの? 私のシンイチを隠さないでよ」
二人の目の前には うつろな目をしたミライがまるで夢遊病者のように、
手を突きだして立っていた。

「ミライ! ぐっ」 シンジはミライに駆け寄って保護しようとしたが、
ミライがなにげなく腕を払っただけで、壁に吹き飛ばされてしまった。
「あなた!」 アスカはシンジの元に血相を変えて走り寄った。

「シンイチぃ〜 どこ?」
邪魔する者が無くなったので、ミライは再びシンイチを求めて彷徨いはじめた。

「操作室に入って、エレベーターの電源を落とすんだ……今 邪魔が入っては……」
シンジは苦痛にうめきながらも、NERV司令としてアスカに指示を出した。

「解ったわ……NERVでも警報は鳴った筈よ……少し我慢してね」
アスカはシンジの手を両手でぐっと一度握ってから、
シンジが手にしていた銃を拾い、駆け足でその場を離れた。

「あまり使いたくは無いけれど……」アスカは銃の安全装置を解除し、
麻痺モードにセットしながら呟いた。

そして、曲がり角を曲がり、操作室の近くまで来た時、アスカは足を止めた。

「後遺症……残らないといいけど」
アスカは銃をミライに向けて、躊躇無く麻痺銃モードでトリガーを引いた。


その頃……階上の出来事も知らず、シンイチとアヤは今まさに一つになろうとしていた。

アヤはしずしずと一枚づつ着衣を脱ぎ捨て、
背中合わせに服を脱いでいたシンイチはつい声を漏らした。

「アヤさん……奇麗だよ……」
「恥ずかしい……言わないで……」




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どうもありがとうございました!


第20話Dパート 終わり

第20話Eパート に続く!



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