「シンイチ! こんな所におったんかい! 碇ミライは発見されたそうだぞ!」
ただ、闇雲にミライを探していた時、僕は広島弁の若い男に呼び止められた。

「あなたは、あの時の! 確か葦田(あした)さんでしたっけ」
僕は一瞬訳が解らなかったがNERVのエージェントになったと言う事を思い出して納得した。

「こっちや!」
葦田さんは一階層下へと続くらしい階段を指差して言った。

「で、どこにいたんです?」
「響とかいう人物を軟禁していた場所やそうやけんど……」
「で、ミライは無事なんですか!」
「詳しい事は解らんが、その響とやらに人質にされているらしいんや」
走りながら葦田さんと話していたので、僕は驚いて足を止めてしまった。



裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 21B

第21話【約束の日/紫の巨神再び】Bパート


「どうして……軟禁なんかしてたんだろう……」
「さぁな……それより、急げや!」
僕達は再び走りはじめた。

「人質を離せ!」
「そこをどけ!」
僕たちが響と言う人を軟禁していたと言う部屋に近づくと、
NERVのエージェントの声と犯人らしき声が聞こえて来た。

「ミライ!」
「おい、先走るな!」
僕は葦田さんの制止を振り切り、NERVのエージェントを掻き分けて最前列に出た。

「道を開けろ! こいつがどうなってもいいのか!」
響らしき人物がプラスチックのナイフを削って作ったらしきナイフを、
失神しているミライの首にあてがって叫んでいた。

「君の要求は何なんだ!」
「いいから、どけ!」
NERVのエージェントと響氏との間では一問一答が繰り返されていた。

TRRRR
その時、エージェントの一人の携帯フォンが鳴りはじめた。
「はい! え……いいんですか 解りました!」
電話に出ているのはどうやら、この場の責任者のようだった。

「碇司令の許可が下りた おまえを釈放するからその子を離せとの事だ!」
先程の責任者らしき男の人は携帯フォンを畳んでポケットに入れながら叫んだ。

「外へ出るつもりはさらさら無いんだよ!」
「何!? 貴様何が目的だ!」
「俺をもっと下に連れていけ……隠してるんだろ? 紫の巨神……エヴァンゲリオンを」
「なにっ!」先程の責任者は響氏の問いに顔色を変え、そして再び携帯フォンを手に取った。
「碇司令! 彼の主張を聴きましたか! ええ……はい……」

「おい、シンイチ……」
携帯フォンのやりとりに耳を傾けていると、僕は葦田さんに後ろから肩を叩かれ、
少し後ろに後退してから話を始めた

「どうやら、あの響って奴はおまえの事を知らないようだぞ……」
「……そのようですね」
「いつかチャンスが訪れる……その時を待つしか無いだろう……
 だが、その為にはおまえのその格好には問題があるな……」
葦田さんは周りにいるNERVの職員と色は違うが同じデザインの服を身に付けていた。
だが、僕は普段着のままだ……
「そんな格好でうろうろしていたら、気づかれるやも知れん……
どこかで服を着替えて来るんだ……俺がその間 ミライを見ているから……
ま、俺がどうこう出来るレベルじゃ無い気もするがな……」
葦田さんは自嘲的な笑みを浮かべた。

「葦田さん……」

「を、ちょっと待て 知った人がいる!」
葦田さんはNERVの職員を一人呼び止めた。
「渡邉さん!NERVの制服を一着用意してくれないか……シンイチに着せる為だ」
「そうですね……2エリア離れた所に備蓄がありますから、
そこのドアをこのカードで開くようにしておくよ」
渡邉と呼ばれた20代後半の職員と葦田さんの会話を聞いていて、
僕はNERVの事を殆ど知らない事を少し後悔し始めていた。

「おい、シンイチ! ここからこの通路を2ブロック行った所の部屋だそうだ」
葦田さんは僕にカードを手渡して言った。

「じゃ、ミライをお願いします!」
僕はカードを握り締めて、元来た道を走っていった。


「ここだな……」 僕はスロットにカードを通すと青いランプが付き、
音も無く扉は開いた。
「これならカード無しでも開けられたかも……けど、そんな事したら大騒ぎか……」
僕はNERVの制服を探しながら呟いた。

数分後 僕はNERVの制服……しかも葦田さんが着ていたものと同じ色のものを身に付けた。
「銃はここか……」 銃のケースの脇のスロットに僕はカードを通した。
NERVの制式拳銃らしき、パラライズモードもある銃を僕は制服に付属していた
ホルスターに収めた。
「ん?これは通信機か……これも持っておこう」
僕は別のケースに収められていた通信機を胸のポケットに入れ、
マイクを襟口に挟み、小型イヤホンを右耳に入れた。

僕はスイッチを入れてみる事にした。
「ん?誰だ! 認識番号を言え!」
「あ、渚シンイチです この通信機をお借りします」
「了解した! 碇司令にも伝えておく!」

僕は部屋を出て、響氏達のいた方向に走っていった。

「要求を飲まないのなら、こいつを殺すと言っておいた筈だ!」
列の一番後ろに到着しただけで、響氏の怒鳴り声が聞こえて来た。

「ミライ……」
僕はNERV職員を掻き分けて前列の方に進んで行こうとしていた。

「おい!響洸(ひびきあきら) おまえの母親はもう確保したぞ!」
先程の責任者らしき人の言葉に僕は驚いた。
俺は洸だ 君の仲間だ(謎)

「まだ気づいて無いのか……殺せばいいだろう!ちゃっちゃとな」
「何? 貴様っ正気か!?」

「父さん……犯人の母親を人質に取るなんて……」
僕は通信機のスイッチに手を伸ばした。

「シンイチです! 父さん……いえ碇司令をお願いします」
僕はスイッチを入れて父さんを呼び出した。
「碇司令は今 通話中です 少し待ってね シンイチ君」
「その声は……伊吹先生?」
「ええ……シンイチ君の担当をする事になったの」
「僕の知ってる人って殆どNERV関係者だな……」
「もうすぐ終わるから待ってね」
「あ、はい」

僕は少し離れた所から、響と呼ばれた男とNERVの職員とのやりとりを見ていた。

「そうだ……テレパシーで……いや、ダメだ……」
僕は失神しているミライに念を送って起こす事を考えたが、
下手をすると響と言う男に殺されないので、その案を諦めた。

「シンイチ! 聞こえるか」
その時、通信機の向こうから父さんの声が聞こえた。
「あ、はい 父さん」
心の底で、僕は親子として、”父さん”と呼べる事を素直に喜んでいた。

「奴の要求を飲んだと見せかけて、エヴァンゲリオンの近くまで連れて行かせる
事にした。 恐らく響氏本人は意識を乗っとられている状態だと思われる……
どうやら、宿主として響氏を利用して我々に接触させ、
精神寄生体が宿主の響氏の身体から抜け出してアヤやミライに取りついたようだ。」

「じゃ、響さんには怪我をさせない方がいいんですか……」
「出来ればそうして欲しいが、いざと言う場合には仕方無いだろう……
だが、宿主の響氏を失神……もしくは殺したとしても精神寄生体は逃げ出して、
別の寄生する相手を探すだろう……近くにミライがいるのなら、
恐らくミライにとり憑くだろう……」

「そのエヴァンゲリオンってのは何なんですか?父さん」
「今日見せた資料には無かったが、あれはNERVの秘密兵器のようなものだ……
だが、そのコアには魂が入っていないので、動かない筈なのだが……」

「響って人が紫の巨神とか口走ってましたね……ロボットか何かですか?」
「使徒の説明はしたな……使徒が使徒としての使命に目覚める前に、
こちら側に取り込んだ生体をベースにした巨大な改造人間のようなものだ……」

「今は動かないのに、何をするんでしょうね……爆破でもするんでしょうか……」
「それは解らん……そこでだ……狙撃班をすでにエヴァンゲリオンのある場所に待機
させてある……勿論麻痺モードでだが……そこで、響氏の身体から逃げ出した、
精神寄生体を倒して貰いたいのだ……出来るか? シンイチ……無理なのなら……」

「やるよ……父さん 何とかやってみる 兄さんもいるしね……」
僕は何故か兄さんの存在を父さんに教える気になったのだ。

「兄さん? 何の事だ……」
「兄さんが言うには、僕の身体を一緒に使ってるらしいんだ……
一つの身体に二つの魂が入っているって事かな……多分」
「まさか……ラピスの子が……」
父さんが小声でそう呟いた時に、NERV職員と響氏が地下へと移動するために
歩きはじめたので、僕もそれについて歩きながら答えた。
「え?父さん何か言った? ちょっとノイズが入ったみたい

「いや……いいんだ……そうか……そうだったのか」
父さんが最後に言ったその言葉は、まるで憑き物でも落ちたかのような声だった。

「おい、シンイチ! こっちから回り込めって伝令があったんだ 来い!」
途中で僕は葦田さんに呼び止められ、響さんと、取り囲んでいるNERVの職員とは
別のルートで僕と葦田さんは、地下へと続くエレベーターに飛び乗った。

「地下3Fまでしか表示されて無いけど、地下3Fにエヴァンゲリオンがあるんですか?」
僕はエレベーターのパネルの表示を見て、葦田さんに問いかけた。

「いや、カードを通すんだよ……」
葦田さんはカードスロットにカードをあてがって言った。
カードを通した瞬間 電子音が鳴り、パネルに地下10Fが表示が表示された。

「で、どうして先回りする事になったんです?」
エレベーターが動きだした時、僕はふと疑問に感じていた事を葦田さんに問いかけた。

「作戦が微妙に変更になったんだよ……俺と同じくアタッカーとしての登録をされてる、
樹島ミドリって女が作戦に加わるんだってよ」

「樹島さんが? NERVのマンションに住んでたけど、そんな事まで……」
「おまえな……俺は隣の部屋に住んでるんだぞ……
 おまえが部屋を出て行く所も見たんだよ」
「えっ!」
「あのミライって子が知ったら嘆くだろうなぁ……」
ミライの名を口に出した時、葦田さんの表情が少し和らいだのを見て僕は少し気になった。

「ミライの事……好きなんですか?」
「ば、バカ言え……ただよ……銃を向けあった時のあの子の眼は好きだったぜ」
「アヤさんを誘拐した時の話ですか……」

「……最初の話の続きをするぜ……おまえはエヴァンゲリオンの操縦席にて、
麻痺銃を手にして響が乗り込んで来ようとしたら、発砲しろ
そして、響とやらから、精神寄生体が抜け出した所を、
樹島ミドリが精神寄生体に攻撃をしかけるそうだ……
もっともその時にはシンイチ……おまえも加わる予定だがな……」
「葦田さんはどうするんですか?」

「俺か……俺には残念ながら精神寄生体だなんてものは見えないから、
隙を付いてミライの救出をするのが任務だ……」

「ミライを……お願いします 葦田さん」

「解ってるさ……あの子が正気を取り戻したら……ちったぁ構ってやれよ……
それが出来ないんなら…………」
葦田さんが少し顔を背けた時、エレベーターは地下10Fに到着し、運命の扉は開かれた。




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どうもありがとうございました!


第21話Bパート 終わり

第21話Cパート に続く!



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