いいかシンイチ……良く聞け……奴はまだ当分は動けない筈だ……
と言う事は奴の目的であるこのエヴァンゲリオンのコアに入り込むまでには時間がある
と言う事だ……

{{コア? それが奴の目的だったの?}}
{奴がコアに潜り込み、恐らく暗示をかけてある宿主の響洸に操縦をさせるつもりのようだ
コアにいるだけではエヴァンゲリオンを動かす事は出来ん……あくまでエヴァンゲリオンを
動かすのに必要なパーツのようなものだからだ……}

{{それで、どうするの?

俺が奴の代わりにエヴァンゲリオンのコアに入り込むんだよ
兄さんの意思を聴き、僕はミライを抱きしめたまま身体が震えた。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 21D

第21話【約束の日/紫の巨神再び】Dパート


{{そんな事が……出来るの?兄さん}}
ああ……俺もある意味……奴と同じだからな
{{兄さん……}}
取り敢えずおまえはミライを安全な所に逃がすんだ いいな
{{わかったよ 兄さん}}
シンイチ……一つだけ言っておく……おまえを心配している人達の事を忘れるな
{{う……うん}}
無茶はするなって事だ さ、行けっ
次の瞬間には兄さんの気配が僕の身体から抜けだして行くのを感じた。

僕はミライを両手で抱いてタラップに降り立った。

「シンイチ! こっちだ!」 「葦田さんっ」
ミドリさんのいるのとは反対側の整備用タラップから葦田さんが呼びかけて来たので、
僕はそっちの方に走り寄ったが、今僕がいるタラップと葦田さんがいる整備用タラップ
の間は5M程も離れていて、ミライを託す事が出来なかった。

だが横幅0.5メートルも無いキャットウオークだけが
僕と葦田さんとを繋ぐ橋だった……

{{{待て! 銃を置いて行け!}}}
その時 背後から精神寄生体の思念が僕に届いた。

{{{さっきの物騒なその銃だよ!}}}
僕はミライをタラップの手すりに少し持たせかけて、銃を抜いて後ろに放った。

{{{ちいっ まだ解けねえのかよっ そこの女! いいかげんにしやがれ!}}}
精神寄生体はミドリさんに向かって思念を放っていた。

だが、死角にでも隠れたのかミドリさんの姿は見えなかった。
僕はミライをもう一度両手で担ぎ、普通なら安全用の命綱を付けて渡るような
キャットウオークに足を進めた。

{{兄さん……まだなのか……}}
僕は兄さんに思念を飛ばしてみたが返事は無かった。
恐らくコアとやらに入ろうとしていてそれどころでは無いのだろう。

「おっと……」
兄さんとのコンタクトを取ろうとしていたので、
僕はキャットウオークの鋲に足を取られかかったが、なんとか体制を整えた。

「おい、気を付けろよ シンイチ! いくら下が調整液だろうがこの高さじゃ……
おまえは助かっても意識の無いミライは……」
葦田さんが向こう側のキャットウオークの手前まで走り寄って来て叫んだ。

{シンイチ!もうエヴァンゲリオンは俺の掌握下だ もっとも俺だけじゃ動かせないがな}
キャットウオークを半ばまで来た頃、待ち望んでいた兄さんの思念が届いた。

{{{う……ようやく解けて来たぜ……
さて紫の巨神を頂くとするか……俺の新たな住処としては最上だぜ……
}}}

今の僕には後ろを振り向く事は出来なかったが、
悪意に満ちた精神寄生体の思念を僕は受け止めた。

「まずい……気づかれたら………早くミライを託さないと」
僕は危険を承知で速度を少し早めた。

{{{何ぃ!何故入れねぇ どうしてだ俺を拒むってのかよ}}}
精神寄生体の怒号は僕の足を一瞬止めるには充分だった。

{{{くっ そうかよ……そういう事かよ 貴様も精神寄生体を飼ってたって事かよ}}}
精神寄生体の思念がチリチリと僕の小脳の辺りに感じられた。

{{{うまくいったつもりのようだな……だが、俺がおまえにとり憑けば……
コアの中に入った奴も紫の巨神を動かす事は出来まい!
さっきはシールドしてたようだが……元々精神寄生体を受け入れる体質だったって事か
}}}

「兄さんは精神寄生体なんかじゃ無い! 僕のたった一人の兄さんなんだ!」

{{{ふん……そうと解ったらすんなり行かせる訳にはいかんな……おい起きろ!}}}

次の瞬間 背後から誰かがのそりと起きだして来る気配を感じた。
「くそ……抜け出してるのにどうして支配してやがるんだ!」
葦田さんは銃を響洸に向けて叫んだ。

{{{おい 銃を拾え}}}
精神寄生体の命令の少し後……カチャリと言う床に置かれた銃を取り上げる音がした。
{{{麻痺モードを解除して安全装置を解除するんだ}}}
今、背中から撃たれるとミライを落としてしまいかねない……
早く葦田さんに託したいが、まだ距離は2メートルほど残していた。

「くっ暗示でも仕込んでたってのかよ……」
葦田さんは銃を手にしたまま身体を震わせていた。


{{{おい 貴様 その娘は見逃してやる……だからおまえはもう一度それを渡って、
こっちに来な! ふふふいいアイデアだろ コアに入るって事は紫の巨神のパーツになる
って事だ……肝心の司令塔のおまえを支配すれば、それは同じ事だからな
}}}

「解った……だから約束は守ってくれ」
僕は両手に抱いているミライの寝顔を見つめながら答えた。

少しして僕はようやく葦田さんの元へと辿りついた。

「ミライを……お願いします 出来るだけ遠くに逃げて下さい」
「シンイチ……おまえ……何を考えているんだ……」
「……お願いします」 僕は両手に抱いていたミライを葦田さんに託しながら言った。

{{{よし……戻って来るんだ}}}

「ああ……」
僕は響氏の銃口に晒されながら一歩、また一歩とキャットウオークに足を進めた。

葦田さんが遠ざかって行くのを足音で感じた僕は安堵していた。
そして、今からしようとしている事に何の恐怖も そして何の疑問も感じてはいなかった。

{{兄さん……聞こえてる?}}
ああ……おまえ……まさか
{{信じてるよ 兄さん}}
僕は一度だけ振り向き、非常口へと向かっている葦田さんを見て決断した。

「アヤさん……」 どこかでカメラ越しに見ているだろうアヤさんに僕は一言かけ、
そして足場のキャットウオークから赤い調整池へとダイブした。

「バカな! 途中にある金属部品に当ったり床に落ちたら死ぬぞ!」
葦田さんの怒号が一瞬聞こえたがすぐ聞こえなくなった。

結構な速度で落ちていっている筈なのに、
僕は時間がゆるやかに流れているかのように感じていた。

{{{くそっ おまえら止まれ! 奴がいないのならその女しか…… 威嚇射撃だ撃てっ}}}
{{{ちいっなんて下手くそなんだ……所詮暗示か……仕方無い}}}
精神寄生体は何かの言葉を詠唱した

ぐあっ」 葦田の左太ももに裂傷が走り、鮮血が吹き出した。

{{{貴様!その女を離さないと殺すぞ!}}}
「嫌だね!」
{{{何ぃっ}}}
精神寄生体は二度三度と呪文を詠唱し、ミライを庇っている為ミライには当らなかったが、
葦田の身体にまるでかまいたちで切られたかのような切り口が開いていた。
「な、何! どうなってるの?」
ようやく正気を取り戻したのかミライが葦田の腕の中で叫んだ
「騒ぐんじゃ無い!」
「あなたは……確か」
ぐあっ」 そうして話している間も二度三度と精神寄生体の攻撃は続いていた。
「くっ特殊繊維のこのスーツでもダメなのか……シンイチはどうなったんだ……」

その頃……
僕は水面近くまで落ちて来ていたが、兄さんが落下速度制御を使ってくれたのか、
かなり速度はゆるやかになって来ていた そして……

{{{うおっ 何だ!}}}
次の瞬間 調整液に肘まで漬かっていたエヴァンゲリオンの右手が
赤い調整池から飛び出して来た。

僕はふわりと回転してエヴァンゲリオンの右手の上に足から降り立った。
「兄さん!」
「ああ!」
兄さんは僕を載せた右手をタラップのある首の辺りまで上げ、
左手で響洸を載せたタラップを払いのけた。

{{{ぐあっ 何故コアだけで動かせるぅ!}}}
精神寄生体は空中で停止したまま、
エヴァの右手と共にせりあがって来る僕を迎え撃とうとした。

「させないわ!」 
だが、次の瞬間 作業用のスペースに隠れていたミドリさんが
手で何かの印を組んだまま半身を起した。

「まさか、あれからずっと詠唱し続けていたのかぁ」
精神寄生体は振り返りながら叫んだが、すでに時は遅かった。

ミドリさんが恐らく全身全霊をかけた攻撃をしかけたのだ。

天よ地よそして四大精霊よ 我にその力を貸し与えよ 
ミドリさんが叫びながら印を組み替えると、前回のような緑色だけで無く、
さまざまな光りが組み合わさったオーロラのような光の矢が精神寄生体に叩き込まれた。

{{{{今よ! シンイチさん}}}} ミドリさんは精神力を使い果たしたのかゆっくりと
床に横から倒れながら僕に思念を送って来た。
「ミドリさん……」 僕は心を鬼にして目の前の高さまでに来ていた操縦席を見つめた。


{{{ぐおおおお 貴様ら 全員殺してやる!}}}
精神寄生体はオーロラのような光に取り巻かれていて、時々放電のように
精神寄生体を苛まんでいた。

{{俺に出来るのはここまでだ 後は頼んだぜ!}}
僕は頭を一度下げて、エヴァンゲリオンの操縦席に飛び乗った。

「シンイチ! エヴァンゲリオンにはコアが無いんだ 動かないぞ どうするつもりだ!」
操縦席に腰を降ろした瞬間マイクから父さんの叫び声が響いて来た。
「コアには……僕の兄さんが入っています! 動かし方を教えて下さい 早く!」

「葦田さんとミライとミドリさんの救助をお願いします」
「もう向かってるわ 安心して戦ってね」
母さんの声が聞こえた……僕とアスカさん……いや母さんには直接の繋がりは無いけど……
綾波レイ……僕を生んだ母もアスカさんも僕の大切な母親には違いなかった。

「いい?シンイチ君 操縦席の前にあるレバーとそのトリガーは銃器等を使用する時の為に
あるけど、エヴァンゲリオンを動かすのにはエヴァンゲリオンとシンクロする必要があるの
だから、あなたが思った通り動いてくれる筈よ 今からシンクロスタートと起動……
もうシンクロしてるし起動もしてるわね……何かあったら聞くのよ!」
赤木博士が代わり説明をしてくれた。


同じ身体の中で十数年の時を過ごして来た僕たちだ……シンクロってのは良く解らないけど、
僕には何の不安感も無かった。

シンイチ! 奴に止めを刺すんだ
{{どうすればいい?}}
僕はエヴァンゲリオンの手足が僕の思い通りに動くのを確認しながら答えた。

{ATフィールドを手に発生させたまま奴を握り潰すんだ
ATフィールドでなら奴を消滅させる事が出来る 手に結界を作る要領で出来る筈だ!}

{{解ったよ!}} 僕は右手に意識を集中して行くと、まるで揺らいでいるかのような
虹色のフィールドが発生するのを感じた。

今だ! シンイチ!

僕は空中でミドリさんの術を食らってもがいている精神寄生体を
エヴァンゲリオンの右手で掴んだ。

{{{うっ……この俺が……200年も生きて来たこの俺が消滅するのか……}}}

「この世界におまえの居場所なんか無いんだ! 消え去れ!」

僕は握り締める右手に力を込めた。

ヒートエンドぉ! ズギャーン

次の瞬間 ATフィールドの虹色の光とミドリさんの術の光が混ざり合い、
そして手の中で眩しい光を放って消滅した。

これで……全て終わったんだ……」 エヴァの掌を開き僕は呟いた。

「碇司令! 海中からダゴンとディープワンが!
そして空中からバイアクヘーとイタカが 第三新東京市に接近中です!」


僕は青葉さんのその叫び声でこれが始まりにしか過ぎなかった事を……思い知らされた。




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どうもありがとうございました!

 

次回予告!

アヤを……そしてミライをも蝕んでいた精神寄生体は消滅した……
だが、それは新たな戦いの始まりを知らせるゴングのようなものでしか無かった。
雲霞のごとく迫りくる風と海の旧支配者の卷族ども……
ついに出された非常事態宣言の元、人気の無くなった第三新東京市でシンイチは奴等と対峙する。
これまで敵対していた筈のそれぞれの卷族達は何故団結したのか……

そして現れる最強最悪の存在 旧支配者の一柱 ヨグソトース
ヨグソトースを封印していた綾波レイの運命やいかに!
そして強大な敵に立ち向かうシンイチとエヴァンゲリオンに勝機はありや!?

     次回 裏庭セカンドジェネレーション  最終話
            魂(こころ)の帰える場所

君は伝説を目の当たりにする事になる。


最終話Aパート に続く!



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