裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22A

最終話【魂(こころ)の帰える場所】Aパート



AM5:00 第三新東京市の東の空に太陽がその姿を現しはじめた
整然と区画整理のなされた街並の殆どの家では
地下で起こっていた事など知らずに未だ眠りについていた……

遠隔地への通勤なのか眠そうに眼を擦り首を鳴らしながら駅へと向かう
40代の一人の男がふと西の空を見上げて動きを止めた。
「ん?……」男は眼をもう一度擦りヤニを取り除いてから再び顔を上げた。
数秒の間 男は西の空を見上げ続けていたが、
男は突然その場に座り込みうわごとのように妻と子の名を繰り返し呟きはじめた。
その男は何を見たのであろうか……


同時刻 NERV発令所

NERV発令所内は観測班から突如報じられた卷族の襲撃に浮き足立っていた。
サードインパクトの際にNERVの中心人物だった者は殆ど死んでいるのだから、
実戦経験の無い彼らには無理も無い事であった。

「この時間ならまだ家の中に殆どの住民がいる筈だ 外出禁止令を発令しては!」
「こういう場合は外出禁止令じゃ生ぬるい! 非常事態宣言を出すべきだ!」
「何!? だがどこに逃げろと言うんだ 下手に家から出て卷族に狙われでもしたら……」
副司令の一人 青葉と実務部門でのトップ日向は互いに持論をぶつけあっていた。

「こういう時にこそ落ち着かないでどうする!」
その時、アスカとアヤに支えられた碇シンジが発令所に姿を現した。

「まずは他国の機関への報告と救援要請! そして住民には非常事態宣言を出すと共に、
戸外への外出を禁止! そして国連軍と内閣に報告だ!」
「ゲージに移動している赤木博士を呼び出し、エヴァンゲリオンの出撃準備を!」
シンジは発令所内の職員に的確に指示を出していった。


同時刻 最下層のゲージ

「シンイチ君 聞こえる?」
赤木博士はゲージ内が一望出来るコンソールルームで、
マイク付きヘッドフォンをかぶり、エヴァンゲリオンの操縦席のシンイチに話しかけた。

「はい……聞こえますよ」
シンイチはリツコから手渡されていたマニュアルから顔を上げて言った。

「現在の所、固定武装は肩の部分に収納されているプログレッシブナイフだけですけど、
それだけじゃあれ程の数の卷族には対抗出来ないわ……
そこで、実はまだ開発中なんだけど、こんな時の為に用意してた武器があるの」
おまえは真田か!

「赤木博士!準備完了です」
リツコの側でキーを叩いていたマヤが振り向きながら叫んだ。

「それではまず、高機動バーニアの接続をします!」
リツコはキーを叩きながら指示した。

次の瞬間 天井が開き巨大な4基のバ−ニアが現れ、エヴァンゲリオンの背中に高さまで
ゆっくりと降りていった。
オメガブーストのOPを想像してくれたまえ(笑)

「これで……どうするんですか?」
シンイチはモニターカメラで、取りつけられようとしているバーニアを見ていた。

「これが用意してた武器じゃ無いのよ これは高度から飛来して来る敵を
その照準に収める為に必要なジャンプをする為のバーニアよ
短時間なら飛行をする事も可能だけど、着地の際にエネルギーが残って無いと……
どうなるか解るわね」

「ええ……」

「今から用意した武器を下ろすから、エヴァの右手で掴んで頂戴」
リツコがキーを叩くと、ゲージの奥の方からエヴァンゲリオンの全長に近いサイズの
巨大な銃がエヴァンゲリオンの前に近づいて来た。

だがその銃には肩にあてるストックの部分と銃身の部分が殆どで弾丸を収めるような
スペースは見当たらなかった。

「この銃は何発撃てるんですか?」
シンイチはその疑問に気づきリツコに問いかけた。

「この銃はコアからエネルギーを得て撃つから理論上は制限が無いわ……
だけど、この銃から放たれるのはビーム兵器のような光線じゃ無くてよ……」

「じゃ、何を発射するんですか?」
巨大でいかつい銃の銃柄をエヴァンゲリオンの右手で掴みながらシンイチは問いかけた。

「銃と呼べるかどうかも疑問ね……この銃の銃身から最高2キロメートル先まで
銃身のサイズのフィールドを作り出しそのフィールド内の物質をディラックの海と呼ばれる
虚数空間を経由させて遥かな外宇宙にまで放り出すのよ」

「じゃ、うかつに建物なんかに当てたら……」
「中にいる人ごとその空間は消え去る事になるわね……だから出来るだけ
高々度に上昇して敵を引きつけて撃つようにしたいの その為のバーニアよ
普通の武装でも卷族にダメージを与える事は不可能じゃ無いけれど、
第三新東京市で迎え撃つ都合上、撃破した敵の残骸が降り注いだら危険だからよ」

「侵攻して来てる卷族の中に巨大な卷族……ダゴンって言いましたっけ……
そのダゴン相手にこの銃で大丈夫でしょうか……」

「敵の全身を範囲に収める事は出来なくとも身体の一部が消滅すれば
確実にダメージを受ける筈よ どれぐらいの時間このフィールドを発生させられるかは
あなたとコアとのシンクロ率によって違うから、実際に使ってみないと解らないわね……
強いて弱点と言えば、エヴァンゲリオンの右肩のストックを当てる位置にエネルギーを
伝送する装置があるからそこを破壊されると使えなくなる可能性もあるわね」

「ストックの位置の調整は作業員がしてくれるわ 少し待ってね」
「あ、はい……」

「結界を張る術者達の様子はどう?」
リツコはシンイチとの接続を切り、どこか別のセクションと通信を始めた。

「要所に配置している術者達の準備は完了しました」
「三谷ヨシコこと風谷ミツコの確保は?」
「完了しています 確保の際にパニックを起こしていたので眠らせて医務室に
護衛付きで寝かせております」
「パニック? まさか手荒な事をしたんじゃ無いでしょうね……」
「まさか……恐らく襲撃して来る卷族の中にハスターの卷族がいたからかと……」
「危険ね……監視を怠らないようにね」

その間、シンイチはエヴァンゲリオンの整備員達がバーニアの取りつけ作業と
銃のストックの位置などをチェックしているのを見ながら、
コアの中にいる兄と言葉を交わしていた。

{{さっきの話……聞いてたよね}}
{ああ……どれだけの効力があるかは一度撃ってみないと解らんがな……}

{{けど、どうしてハスターの僕の卷族とクトゥルフの僕の卷族が同時に……}}
{精神寄生体を送り込んで来た時から結託してたんだろう……

NERVが力を付けると日本にいる卷族や旧支配者の信奉者達が枕を高くして眠れないだろ……}
{{僕と兄さん そしてエヴァンゲリオンが脅威だったって事なのかな……}}

{取り敢えずは目前の敵を倒す事を考えろ……}

整備員達がチェックを終えたのか、離れはじめたのでシンイチは兄との会話を止めた。

「けど……エヴァ一機では……他には無いのかな……」
僕はふとディスプレイを見ながら呟いた。

「あるわよ」
その時突然リツコとの通話が再開された。

「本当ですか? じゃどうして使わないんです?」
「パイロットがいないのよ……試作零号機に乗れるパイロットがね……
あなたの母親 綾波レイが搭乗者になる予定でコアの調整をしていたの……
ところが、そのコアの調整が遅れに遅れて……結局間に合わなかったのよ……
パイロットさえいれば空から来る敵と海から上陸して来る敵の両方に配置出来るけど……」

「仮にですよ……母さんのクローン体が存在すれば……操縦する事が出来ますか?」
シンイチは言ってしまってから後悔したのか歯噛みしながら返答を待っていた。
「ええ……綾波レイのクローンってどういう事?シンイチ君」
「いや……仮の話なんです……(彼女を危険に晒す真似は出来ない……)」

「赤木博士! 今 碇司令の自宅の前に綾波レイのクローンを名乗る
綾波レイの中学生ぐらいの姿をした少女が来ており、エージェントが保護しました!」
その時 リツコの近くにあった緊急用のスピーカーから若い男性の声が発せられ、
それは会話中だったシンイチの耳にも届く事になった。

「まぁ……いいタイミングね……シンイチ君 話してくれるわね?」

「はい……」

「至急零号機の発進準備を! シンイチ君 一度降りて来て頂戴
そんな服で戦わせる訳にはいかないわ……」
リツコは横にいたマヤに指示を出して、再びシンイチに話しかけた。

シンイチがタラップで下に降りようとしているその時……
綾波レイもまたエージェントに付き添われてエレベーターを降りていた。

シンイチはマヤに案内され、1フロア上に来ていた
「ところで、葦田さんやミライやミドリさんは無事なんですか?」
「ミドリさんは一時的に気を失っているだけよ もうすぐ覚醒すると思うけど……
ミライさんはもう意識が回復してる筈よ……葦田君は現在緊急手術中よ
切り裂かれた傷はそれほど深く無いし切断面が奇麗だから縫合すれば大丈夫よ……
ただ、出血多量で……血液パックが足らずミライさんの血も採血させて貰ったぐらいよ
をいをいこの間のコナンまだ引きずってるのか?

「ミライはそれで大丈夫なんですか?」
「ちょっと大目の献血ぐらいの量だから……それに……身を挺して守って貰った事を
知ってるみたいね……今ごろは手術室の前にいると思うわ

「そう……ですか」 
「さ、急ぎましょ 早く着替えないとね」
「ところで、こんなにゆっくりしてていいんですか?」
「もう10分ぐらいで到達するけど……結界があるからすぐに破られる心配は無いわ……
第三新東京市の全舗道と車道には一定の間を開けて旧印のパネルが埋めこまれてるの……
それを8方に配した術者達がその旧印を使った結界のパワーアップを行うのよ……
ちょっとしたバリアみたいなものね……」
やはりパリーンと割れるんだな(笑)


「さ、ここよ」 マヤは通路の奥にあるドアのロックを解除した。
「えーとシンイチ君のプラグスーツは……これね」
「僕の? まさか準備してたんですか?」
「ええ! コアこそ無かったけど、エヴァンゲリオン初号機の二代目パイロットは
シンイチ君って事になってたの……だから健康診断とかの度に最新データを取ってたのよ」

「それで中等部も高等部も年に4回も健康診断があったんですか……」

「これで全部ね あ、何してるの?早く服脱がなきゃ間に合わないわよ」
「あ、はい……」 シンイチは慌てて戦闘服を脱ぎはじめた。

「あ、全部脱いでね その服の着方を説明するから」
マヤさんはついたての向こうに入って言った。


「なんか服着てる感じがしないんですけど……」
薄い紺色のプラグスーツを着たシンイチは廊下を歩きながらマヤに話しかけた。

「そのスーツには凄い予算がかかってるのよ……地方自治体の年間予算は超えるかな」
マヤは少し誇らしげに言った。
「え? これそんなに凄い服なんですか?」
「ええ パイロットの身体と命を守る為の仕組みが沢山付いてるの……
ちなみにこの改良型プラグスーツは私が設計したのよ……」
マヤはついに念願かなったかのような表情でプラグスーツ姿をうっとりと見ていた。

「シンイチ君!」 四叉路を通り過ぎた時、シンイチは背後から呼び止められた。

「アヤさん……」 シンイチは振り向き、声のした方へと振り返った。

「必ず……必ず帰って来てね……」

「きっと……生きて戻りますよ 僕の魂の帰る場所は……あなたのいる碇家ですから」
シンイチはアヤの肩をそっと抱きしめ、再びマヤと歩いていった。

「うっ……」
その背後でアヤが手で口を押さえたのも知らずに……




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どうもありがとうございました!


最終話Aパート 終わり

最終話Bパート に続く!



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