5分後 双子山の左側の山がスライドし、十数年ぶりにエヴァンゲリオンがその姿を現した

「エヴァンゲリオン初号機パイロット 碇シンイチ出撃します」
次の瞬間初号機はカタパルトごと空中に飛び出しバーニアが点火され
カタパルトを山腹に落としながら高度500mまで上昇していた。

シンイチを見守る者は己が手を握り締めてその姿を見入っていた。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22C

最終話【魂(こころ)の帰える場所】 Cパート


「高度500……480……470」
マヤはシンイチ操るエヴァンゲリオンの高度を刻々と読み上げていった。
「高度300から逆噴射を開始するように伝えてね……それじゃ私は零号機の方の発進準備
にかかるから、隣のコントロールルームへ行くわ……後は宜しくね……」
リツコは机の上に束ねてあったファイルとディスクを手に第一コントロールルームを出た。

「碇司令に……報告しないでいいのかしら……」
マヤは敬愛する先輩であるリツコの命令とNERVの組織員としての規律が両方の天秤に
かかり、いまだに悩み続けていた。

「落下速度が思ったより速いんですけど、逆噴射はいつごろしたらいいですか?」
その時シンイチからのコールが入りマヤは我に帰った。
「高度……280? シンイチ君出力72%で下方へのバーニア噴射をして下さい!」
「72%ですね 解りました」 シンイチはコントロールレバーのサイドに付いている
スロットルと噴射面の調整を行った。
「今の所 結界を突き抜けて来そうな卷族はいないけど、もう250Mぐらい先の所で、
抜けて来た卷族を狙い撃ちする予定ですので、出来るだけ高い場所で待ち受けて下さい」
「250Mぐらい先ですか……270mぐらい先にヘリポートのあるビルがありますが」
マヤはシンイチからのコールを聞きおえるや否や第三新東京市の建造物の検索を始めた。

「耐震構造のビルですから、エヴァが降り立ったぐらいではビクともしないでしょう……
コンクリートは多少砕けるかも知れませんが、気にしないで シンイチ君」
下手すれば第三新東京市が消滅するかも知れないこの有事の際には仕方無いとマヤは
割り切りながら、その位置まで飛行する為のバーニアの出力の計算を始めた。



その頃 第二コントロールルームでは、エヴァンゲリオン零号機のコクピットにいる
綾波レイのクローン体とリツコが出撃前の会話を初めていた。
「聞こえる?」 「ええ」 「ところであなたの呼称だけど……付けられた名前は無いの?」
「名前……NO19……それが私に割り振られた番号……」
「じゃこちらで勝手に付けるわね……そうね19だから綾波イクコでどう?」
非情のマッド・サイエンティストと陰口を叩かれているさしものリツコも先程の台詞には
多少ショックを受けていたのか、まるで猫に名前を付けるかのような安易さではあったが、
いくぶん愛情のこもった目で綾波イクコを見ながら言った。」

「問題ありません……」 無表情で言葉を返すイクコではあったが先程までの張り詰めた
表情はいくぶん和らいでいた。

「私の出撃は……まだですか?」 イクコは少し所在なげにリツコに問いかけた。
「どうかしたの? 出撃準備に少し時間がかかってるから少し待ってね
(碇司令にすぐ解るような出撃させる訳にはいかないものね……)」

「渚シンイチは……無事ですか……」 聞き取りにくい程の小声ではあったが、
リツコはヘッドセットを耳に押し当ててイクコの言葉を聞いた。

「出撃したばかりだし、まだ結界を突破した卷族はいないからまだ戦闘は始まって無いわ」
リツコは怪訝そうにモニターでイクコを見ながら答えた。
「……右のコントロールパネルの左から二つめのボタンを押してみなさい……」
リツコの言葉を聞き、イクコはコントロールパネルに即座に手をやった。

「え……通信?」 少しして操縦席に座っているシンイチの姿がコントロールパネルの
画面に映し出された。
「君は……」 「私……名前を貰ったわ 綾波イクコ……それが私の名前よ」
「イクコか……いい名前だね……」 「出撃準備が整ったからあと1分よ」
その時、リツコが会話に割り込んで来た。
「あなたは……私が守るから……何があっても……例えそれが私に埋めこまれている
命令だとしても……」 イクコは言いおわるとコントロールパネルの先ほどのボタンを
押して、シンイチとの会話を終了させた。

「ところで、他にもあなたの仲間はいるんでしょ 何故あなただけが来たの?」
リツコはイクコが現れて以来抱いていた疑問を口にした。
「他の皆は渚カヲルの指示の元で別の使命があるわ……私は渚シンイチと関ったから、
渚シンイチを守る為にこちらに回して貰ったの」

「そう……ところで渚シンイチは今日から碇シンイチに名前が変わったそうよ……」
「そう……ですか」
「碇司令と綾波レイの子供として認知されたの……あなたがシンイチ君を守ろうと
しているのはどう考えても母性愛ね……もっともあなたはその年齢で再生されたから、
あまり実感沸かないでしょうけどね……さ、出撃よ」
「ありがとうございました……」
イクコは迷いの無い目で画面の向こうのリツコを見て囁いた。

「本当にルート23からの出撃でいいんですか?」
「ええ……」
だってエヴァが通れそうなプールも滝も無いんですもの

数分後 綾波イクコの乗る零号機がリフトによって第三新東京市を少し出た所にある
第三新東京市の電力の3分の1をまかなう水力発電所のあるダムの放水口の下のゲート
が開き、その中からエヴァンゲリオン零号機がその姿を現した。

「そこは結界に守られていないから、もう少ししたら卷族の一派が押しかけて来ると
思うから、そのダムと発電所を死守するのよ!」
リツコはイクコに指示を出して、ようやくコーヒーが飲めると思ったのか、
猫のロゴ入りのマグカップを手にとった。

「結界……突破されました 結界の崩壊にはいたっていません」
リツコは報告を聞き、手に取ったマグカップを再び元の場所で置いた。
「第一コントロールルームに回線を繋いで頂戴……」
リツコはけだるげに椅子に座って呟いた。

同時刻 最前線近くのビルの屋上ヘリポート
初号機は未だ命名されていない巨大な武器の銃身を東に向けて屈んだ状態で、
東方生命ビルの屋上ヘリポートを占拠していた。
社長はマスターアジアか?

シンイチはレーダーを見ながら緊張の為か凝り固まっていた両手の指を解きほぐしていた。
レーダーには結界の外側に大量の光点が瞬いていたが、その中の一つの光点が結界の内側に
入って来たのを目撃した。

シンイチは即座に戦闘体制に入り、銃身をレーダーでイタカが飛んでくる方向に
殆どの誤差も無く向けた。
「マヤさん! あれは何だか解りますか? 通常の三倍以上の速さで接近して来ます!」
「シンイチ君 少し待ってね司令所との回線も開くから何かあれば指示がある筈よ」

NERV司令所

「碇司令!結界を突破した卷族がビヤーキーの三倍の速度で高々度より接近中だそうです」
日向は血相を変えてシンジに報告した。
まさか……赤い彗星のシャアか!?


「迎撃体制は整ってるな その卷族を超超望遠カメラで補足出来ないのか!」
「今やってます! スクリーン写します!」

少しして司令部の巨大なスクリーンには曇天の中 獣のような黒い輪郭が映し出され、
イタカの目の部分の鮮紅色の二つの星が輝いた瞬間、
その画面を見ていたNERVの職員全員が昏倒し、ばたばたと倒れていった。
「切れ! 今すぐ画面を消すんだ!」シンジは即座に寄り添っていたアスカとアヤに目を
瞑るように指示してから叫んだ。

レーダーを見続けていたので画像を見ていなかった職員が咄嗟に画像を消したものの、
いまだに半数以上の職員が起き上がって来なかった。

「あれが……もしかして……肉眼だったら即死だったわね」
消えた事をシンジに教えられてアスカは目を開いた。

「おい しっかりしろ!」 「うう……」
手の開いている職員が昏倒した職員を解放している間にも、レーダーに映し出された
イタカを示す光点がシンイチ操る初号機上空に近づきつつあった。

「シンイチに通達! 外部カメラを切るように伝えろ!」
「了解!」

シンジも完全に無事では無かったのか肩を振るわせながら指示を終え、椅子に背を預けた
「お父さん……さっきのは何だったの?」
「そは 風にのりて歩み死を運ぶもの 大いなる白き沈黙の神……風の王イタカ……
あの伝説は本当だったのか……」 シンジは声を振るわせながら言った。


エヴァンゲリオン初号機操縦席……
{{聞いたよね……兄さん}}
{ああ……外部カメラは全部切っているのはこちらでも確認済みだ……}
{{そうじゃ無くて目隠しで戦闘なんか出来る訳無いじゃ無いか……}}
{どうやらカメラを切れって事はイタカのようだな……肉眼でその影を見た者は死に、
カメラ等でも昏倒してしまう程の卷族……いや旧支配者の一柱と言ってもいい程の存在だ}
{{じゃ、ビジョンではどうなの?}}
{やってみないと解らないが、肉眼で視るよりも影響は大きいかも知れん……

{{方位と高度は解るから大体の狙いを付けての射撃しか無いよね……サポートしてよ}}
{ああ……}

シンイチは通信を開き、作戦をマヤに伝え イタカの来襲を待ち受けた。

{シンイチ……銃身を右に4.5度ずらせ 敵の高度は高度2000フィートだ}
{{ん シンイチ イタカは更にスピードを増して急降下中 来るぞ!」

イタカは高度を1500にまで急降下させ、エヴァンゲリオン初号機に突進して来た。

{{あと5秒で有効射撃距離だ……5・4・3・2・1 撃て!
{{了解!}}

シンイチが操る初号機の指が銃の引き金を引き、銃口から虹色に輝く光線が発射されたが、
有視界射撃でも無く、計器頼りの射撃のせいか、軽く躱されてしまった。

{馬鹿 逃げろシンイチ!}
進路を微修正してエヴァに向かって来るイタカにシンイチは銃口を向けようとしたが、
兄の叫びがシンイチを押し止めた。

{{どうしたの?兄さん!}}
{さっき言い忘れたが奴に触れようものならエヴァと言えども触れた所が溶けるぞ!}
{{そういう事は早く言ってよ兄さん! えーと近くのビルで……あった!}}
シンイチはエヴァを操り250M先の頑丈そうなビルの屋上に飛び移った。

初号機がさっきまでいたビルから飛び立った次の瞬間にはイタカがビルの屋上の高さまでに
降下して来たが、目標が消えたので再び上昇した。
先程まで初号機がいたビルはイタカがかすめただけで上層部がぼろぼろと崩れ落ちていった。

{{兄さんこんな事をしてても被害が増えるだけだよ}}

{しかしビジョンだとどうなるか解らんぞ……}
{{だけど、このままじゃ座して死を待つだけだよ 兄さん!}}

{もう覚悟は出来てるんだな? 準備は出来てる……
 だが5秒以上直視するのは危険だぞ}
{{うん……やろう 兄さん!}}

数秒後シンイチは兄からのビジョンで周りを見渡した。

{イタカは3時の方角だ 振り向きざまの一撃で決めろ! チャンスは一度だけだぞ!}

{行くよ! 兄さん}
シンイチはエヴァの胴体を捻らせながら向かって来るイタカに銃身を向けた。


その頃……第三新東京市郊外のダムで待機していたイクコに通信が入った。
「イクコ 聞こえる? 地上から”深きものども”がそちらに侵攻中よ……
それと予定外だけど……ダゴンもそちらに向かっているみたいなの……無理はしないでね」
「このダムは死守すべき要所……ですか?」
「そうね……結界を発生させているのは術者だけど、その結界の維持には大量の電力も
必要なの……そのダムの発電施設を破壊されたら結界を維持する電力が弱まる可能性が
大きいわ……けど、いつまでも結界が持たない事は予測済みだから、どうにもならない
と思ったら撤退していいわ……その時はシンイチ君と合流するのよ わかったわね」
「解りました」

冷静な顔で答えて通信を切ったイクコではあったが、レーダーにはすでに大量の敵の姿が
光点として現れていた。

「私は……シンイチを守るまで……死ねない」
イクコはポジトロンライフルを構えながら呟いた。




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どうもありがとうございました!

一言コメント:こりゃ全Dパートで終わる確率は限りなく少ないな
参考リンク:クトゥルー神話の神々(Wikipedia)

最終話Cパート 終わり

最終話Dパート に続く!



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