{{兄さんこんな事をしてても被害が増えるだけだよ}}
{しかしビジョンだとどうなるか解らんぞ……}
{{だけど、このままじゃ座して死を待つだけだよ 兄さん!}}
{もう覚悟は出来てるんだな? 準備は出来てる……
だが5秒以上直視するのは危険だぞ}
{{うん……やろう 兄さん!}}
その頃……第三新東京市郊外のダムで待機していたイクコに通信が入った。
「イクコ 聞こえる? 地上から”深きものども”がそちらに侵攻中よ……
それと予定外だけど……ダゴンもそちらに向かっているみたいなの……無理はしないでね」
冷静な顔で答えて通信を切ったイクコではあったが、レーダーにはすでに大量の敵の姿が
光点として現れていた。
「私は……シンイチを守るまで……死ねない」
イクコはポジトロンライフルを構えながら呟いた。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 22D
最終話【
魂(こころ)の帰える場所
】Dパート
シンイチとイクコが決意を固めていた頃……
ゼーレの現議長であるキール・ローレンツの私邸では、キールの孫にあたりしかるべく後に
はゼーレを告ぐ事になるローラ・ローレンツの母親であり現在ゼーレの実行部隊の一つであ
る、”ロンギヌス”の司令官とゼーレの議員を兼任しているマリコ・ローレンツは、義理の
父であるキール・ローレンツに詰め寄っていた。
「義父様 何故日本への支援を行わないのですか! NERVがもし壊滅するような事があれば
日本は卷族どもの格好の隠れ場所となり、NERVやゼーレの存在が明るみに出る可能性も、
否定出来ません その際には卷族に対抗する組織でありながら何故傍観したのかの責任を問
われる事ぐらいおわかりでしょうに!」
彼女は火を吐くような勢いで話し続けていたが、聞いているキールは涼しげな表情のままで
あり、事体の深刻さに気付いていないかのようであった。
「貴方の言いたい事は解っているつもりだ……だが良く考えて欲しいのは、
我らゼーレはヨーロッパ地域を旧支配者とその卷族の手から守るのが使命だ。
貴方の言うように日本に戦力を回したとして、その隙に別の卷族が手薄になったヨーロッパ
において、旧支配者を復活させられでもしたら、それこそ責任の取りようも無いだろう?」
70もとうに過ぎていると言うのに凛と背筋を伸ばして椅子に座っているキールは葉巻を
手で弄びながら答えた。
「現在の所は旧支配者の覚醒は無いようですが、ダゴンやイタカまで現れたと言うのに、
我らゼーレが手をこまねいてただ見ているだけしか出来ないのでは、旧支配者とその卷族を
倒す為苦しい訓練を受けつづけているロンギヌスの隊員に私は司令として申し分けが立ちま
せん!」
ゼーレの実行部隊”ロンギヌス”の隊員はオーラ視の機能のあるゴーグルと神秘学と科学の
粋を集めた武器と防具で身を固めており、他の実行部隊との違いは明らかだが、
もっとも特徴的なのは全隊員が親兄弟を卷族に殺された者であり、
他の実行部隊とは比較にならない程の訓練を自ら受け続け、家族を殺された恨みを晴らすと
言う一点において特異な程の団結力を持つに至った為、実行部隊のNO1となりえたので
あった。 射撃術や武術は当然として特殊な能力を持つ者も多い 真の最強部隊であった。
「ロンギヌスの隊員の事情については理解しているが、私怨で事を運ぶ訳にはいかんよ」
「義父様……あなたの息子であり私の夫だったあの人が卷族に殺された事…… まさか忘れ
たなんて事は無い筈です……どうかロンギヌスだけでも出動許可を出して下さい」
「……私が息子を殺された事を忘れる? はっ そんな事がある訳無かろう……
幼い頃より私の後を継がせる為に英才教育を施し、ゼーレの誰もが文句を言えない程の実績
を上げ、数年後には代替わりする筈だった息子を殺された事を忘れるなんて事ありはしない
それどころか、私は息子を殺した卷族をこの手で殺せる事の喜びに打ち震えているのだよ」
キールは段々と恍惚そうな笑顔始めたが、その笑顔は狂気と言っても差し支えなかった。
「ならば何故……はっ……まさか……」
「君の想像の通りだよ 第三新東京市に数え切れない程の卷族が押し寄せてるそうじゃ無
いか…… こんなチャンスは二度と無い……私の息子を間接的に殺したNERVへの報復も出
来ると言うものだ……」
キールは引き出しを開け引き出しの中のコンソール群の下の鍵穴に、懐から取り出したキ
ーを差し込みながら言った。
「まさかN2弾頭仕様のICBMでは……」 数年前に実用段階になったものの、
あまりの威力に使用を控えていた兵器がマリコの頭に浮かんだ。
「解っただろう 実行部隊が第三新東京市なんかに行くと巻き添えを食らうじゃ無いか
だから支援は一切行わないんだよ……どうせ日本政府もNERVの手に余るとなれば、
向こうから要請して来るだろうしね……話はついている……前世紀のコーベシティ
の時のようにね……もっともあの時はICBMじゃ無かったがね」
「そんな……そんな事が……許される筈が無い」
マリコは懐から携帯フォンを震える手で取り出そうとしていた……
「君をロンギヌスの司令職から解任すると共に事が終わるまで監禁させて貰う……残念な
事だがね」 キールが手をさっと振ると控え室から黒服のエージェントが二名現れ、
マリコ・ローレンツの左右から近づき拘束しようとしていた。
「ローラ……聞いてたでしょう ロンギヌスはあなたに任せたわ副官のロレンスと相談して
事を運びなさい さぁ、日本へお行きなさい!」
キールと話している間も電話が繋がっていたのか、マリコはエージェントの手から逃れて
受話器を押し当てて早口で喋った。
ロンギヌスは大気圏外航行も可能なシャトル”スピアー”を我が家として暮らしており、
ブースターを装備すれば5分で大気圏外に出て、30分以内には日本に到着する事が可能
なのであった。
「マリコくん……き……君は自分が何をしたのか解っているのかね」
死んだ息子の一粒種であり、ローレンツ家とゼーレの次期議長を継ぐ筈の孫娘 ローラ・
ローレンツが死地に向かうと聞き、狂気めいた顔つきから覚め 今では青ざめていた。
「ゼーレの議員でありロンギヌスの司令としての権限が残っている今日の朝7時を持って、
ロンギヌスの司令をローラ・ローレンツに委譲しました。 何の問題も無い筈です」
マリコ・ローレンツは黒服のエージェントに多少手荒に保護されながら叫んだ。
「自分の孫娘を殺す決断が出来たのなら、そのキーを回すがいいわ」
マリコは呆然としているキールを横目で見ながら連行されていった。
イタカが結界を突破する少し前……第三新東京市の東端近くにあるマンションの一室を
利用しての術者詰め所では、樹島ミドリと山際シズカと古参の術者の三人が結界の呪文
の詠唱を続けていた。
「暑いわね……」 それを見守る葛城ミサトは胸元に風を送り入れていた。
「俺は腹が減ったんだがな……まだ朝食食って無いし……」
別姓ではあるが夫の加持リョウジは腹に手をやりながら呟いた。
「この非常時だと言うのに全く……ガードのエージェントは文句一つ言わずに待機してる
って言うのに……」
「これで良かったらどうぞ」
話を聞いていたのか、ガードをしているエージェントで最も若い男性が、
栄養補助食品の黄色い箱を差し出した。
「を、すまんねぇなんか催促したみたいで……」
加持は嬉しそうに箱を開けパッケージを破って一本を口に咥えた。
「おまえも食べろよ 腹が空いちゃ戦にならんだろ……」
加持は、壁に背をもたせかけているミサトの太ももの上に一本放り投げて言った。
「それもそうね……」
二人はもしゃもしゃと飲み物も無しで栄養補助食品のバーを食べ続けていた。
「通信が入りました イタカが結界を突破して侵入したそうです またダゴンが第三新東京
市郊外のダムの発電施設に進路を変えました」 通信員が小声でミサトと加持に報告した。
「こりゃ外には出れないな……こんな所で攻撃を受けたら洒落にならんな……」
上空を舞っている筈のイタカの事を考えているのか、加持は天井を見ながら言った。
数秒後、地震のような響きがマンションの一室を揺らした。
「な、何事だ!」 エージェントの一人が軽いパニックを起しかけていた。
「どうやら初号機がイタカと交戦してるようだな……」
加持はぱらぱらと埃が落ちる天井を目を細めて見ながら言った。
「イタカは直視しちゃいけないのに、どうやって戦ってるのかしらね」
ミサトが戦闘服の膝の上に落ちた栄養補助食品の粉を払いながら言った。
「ま、シンイチ君の事だ 何とかしてるんじゃ無いかな……」
「凄い希望的観測ね……まぁ、そうでなきゃこんな状況で正気を保てないわね」
数分後……
「なんか身体がだるく無い? 身体の反応が悪いって言うか……痺れてる感じ」
「俺達ももう年だからかな……緊張の連続に堪えられなったらロートルどころか、
引退なんだが……」
「これから正念場だ 気を引き締めろよ」
部屋の隅ではガード役のエージェントが集まりミーティングを行っていた。
「それでは点呼する 1!」
「2!」「3!」「4!」「5!」「6!」「7!」「8!」「9!」「10!」「11!」
「ん? 私の隊は10人の筈なのに……11人いる!」
ガード役の隊長が異変に気付いた時、惨劇は始まった。
一番外側にいたエージェントの中で一番若い男性が肩からかけていたライフルで、
部屋の隅に密集していた10人のエージェントめがけて乱射したのだ。
悲鳴と怒号が渦巻く中、異変に気付いた加持とミサトは立ち上がろうとしたが、
身体が麻痺したかのように動かず、銃を取る事しか出来なかった。
だが、その一瞬が勝敗を分け、3連射であらかたのエージェントを血の海に静めた若い男が
振り向きざまに脇に釣っていたNERVの制式拳銃を 今にも照準が合わさりかかっていた
ミサトに向けて頭に二発心臓に二発の計4発を放ったのである。
・
そうか……ニコラス・ウルフウッドだったのか(笑)
・
ミサトは重い身体を引きずり横っ飛びした為、頭への命中は避けたものの右胸と腹に一発
づつ命中し、ミサトは銃を取り落として床に崩れ落ち、灰色の戦闘服はあっと言う間に、
血の赤い花が咲き乱れた。
「ミサト!」加持は目前の敵より一瞬だとは言え、妻であるミサトに意識を向けてしまい、
麻痺した身体ではあってもミサトを撃った相手に撃ち返す事が出来た筈だが、ミサトを庇う
と言う行動に出てしまったが為、とどめとして発射された銃弾に左腕の根元から肩を撃ち抜
かれてしまった。
そのショックで加持は左手に握られていた銃を取り落としてしまい、自動小銃とNERV制式銃
を両手に持つ敵の前で無力な存在と化してしまっていた。
「あなた達が一番手ごわいと思ったのは間違いじゃ無かったようですね……
美味しかったですか?痺れ薬入りの栄養補助食品は……」
「まさか、NERVの内部にまで卷族がいたとはな……気付かなかったよ」
加持は失血で青ざめているミサトの胸に右手をあてながら言った。
「私が用があるのは奥にいるお嬢さんがただ……邪魔しないと誓うのなら、
あなた達を見逃しますよ……今なら奥さんも助かるかも知れないしね……
今すぐあなたを殺さないのは奥にいるお嬢さんにとっての人質なんですよ
なぁに詠唱さえ止めて貰えれば殺しはしません 約束しますよ」
謎の青年はにいっと口元を歪めながら言った。
「リョウジ……あの子達を守ってあげて……私はもう助からないわ……」
「勝手に通りやがれ……」 加持は足で自分の銃を蹴り飛ばしながら言った。
「リョウジ!」 ミサトはリョウジの行動に驚き、血の泡を吹きながら叫んだ
「いい心がけですね」 謎の青年は後ろずさりしながら、術者のいる部屋へと続くドアへと
近づいていった。
「ん? 鍵はかかって無い筈だが……」 謎の青年は自動小銃を肩にかけて、右手で制式銃
を餅、左手を背中に回し後ろ手でドアノブを回そうとしていた。
「命の為に卷族の要求を飲むなんて、死んでも出来ないよな ミサト!」
その瞬間 加持リョウジは麻痺しているとはとても思えない程のスピードで立ち上がり、
ドアを背にしている謎の青年に突進した。
虚を突かれた為 一瞬反応が遅れたものの、謎の青年は制式銃の引き金を三度引き絞った。
次の瞬間 撃たれながらも突進を続けた加持は謎の青年にタックルし、ドアに押しつけた。
「シズカちゃん 今だ!」 タックルした後も腹に銃を押し当てられて二度三度と引き金
を絞られたにも関らず、加持は大声で扉の向こうにいる山際シズカに叫んだ。
シズカは詠唱を二人に任せて二人を守る為に父から預かった霊剣を手にして扉の前にいた。
状況が完全に掴めなかったものの、加持の叫びを聞くと同時に霊剣を扉に向けて垂直に
全身全霊を込めて突き出した。
まるでバターを切るかのようにすっぱりと剣は柄の辺りまでドアに刺さっていた。
その時 ドアの反対側では、謎の青年の心臓とリョウジの胸の中央をも霊剣が突き刺し、
リョウジの背中には剣が生えているかのように剣先が顔を出していた。
霊剣だからこそ卷族の心臓に当ったのか、それとも偶然だったのかそれは知る由も無かった
シズカがドアに刺していた剣を抜き、ドアを開けた時には即死している謎の青年と、
瀕死の状態のリョウジとミサトを見て顔を引きつらせた。
あまりの事に我を忘れたシズカは詠唱を続けていたミドリの肩を揺さぶり、
二人が瀕死だと言う事を伝え、古参の術者に後を任せて二人は倒れている加持とミサトの元
に向かった。
シズカは加持の側で泣きながら胸に手をあて気を送り込み、ミドリは昏睡状態に近いミサトに
手をかざしてパワーを注ぎ込んでいた。
「リョウジ……よくやったわね……」
ミサトはもう殆ど見えていない目で加持を見ながら嬉しそうに呟いた。
「馬鹿……喋るなよ……何も言わなくても………俺達は夫婦……」
「加持さん 加持さん! そうと知ってたら……そうと知ってたら……」
目の光を失った加持を見てシズカは泣き叫んだ。
「先に…いっちゃったのね……シズカちゃん……リョウジは使命を果たしたのよ……
誉めてあげてね……」 ミサトはその言葉が遺言となった。
だが非情にも術者が一人に減ったが為に東方の結界がゆるみ、兄のビジョンにて
イタカに攻撃をかけようとしたシンイチに多大な影響を与えてしまった事に
二人は未だ気付いてはいなかった。
御名前
Home Page
E-MAIL
ご感想
今のご気分は?(選んで下さい)
結局引いたままで更に引きかよ!
何パートで終わらせるつもりなんだ?
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
最終話Dパート 終わり
最終話Eパート
に続く!
[もどる]
「TOP」