「リョウジ……よくやったわね……」
ミサトはもう殆ど見えていない目で加持を見ながら嬉しそうに呟いた。
「馬鹿……喋るなよ……何も言わなくても………俺達は夫婦……」
「加持さん 加持さん! そうと知ってたら……そうと知ってたら……」
目の光を失った加持を見てシズカは泣き叫んだ。
「先に…いっちゃったのね……シズカちゃん……リョウジは使命を果たしたのよ……
誉めてあげてね……」 ミサトはその言葉が遺言となった。
だが非情にも術者が一人に減ったが為に東方の結界がゆるみ、兄のビジョンにて
イタカに攻撃をかけようとしたシンイチに多大な影響を与えてしまった事に
二人は未だ気付いてはいなかった。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 22E
最終話【
魂(こころ)の帰える場所
】Eパート
数秒後シンイチは兄からのビジョンで周りを見渡した。
{イタカは3時の方角だ 振り向きざまの一撃で決めろ! チャンスは一度だけだぞ!}
{行くよ! 兄さん}
シンイチはエヴァの胴体を捻らせながら向かって来るイタカに銃身を向けた。
丁度この瞬間 一人で東方の結界を支えつづけていた白い貫頭衣を着た老練の術者のキャパ
シティを超えてしまい、白い貫頭衣の下から丸い気泡のようなものが浮かび上がり、
貫頭衣はまるでピエロの持つ風船の束のように身体中を膨らませていた。
ミドリとシズカが気付いて振り向いた瞬間、夏の終わりに余った花火に全部火を付けたかの
ように老練の術者の身体の気泡が爆ぜた。
内側から血が吹き出し白い貫頭衣が赤黒く変色するのに20秒とかからなかった。
二人は一瞬顔を強ばらせたが現在の状況を再認識して、行動に移った。
「ミドリさん 私はまず祓ってから詠唱に加わるので、詠唱を初めていて下さい」
シズカは霊剣の血を払い、ミドリが詠唱を始めたのを確認して霊剣にて九字を切った。
「臨」「兵」「闘」「者」「皆」「陣」「烈」「在」「前」 「
エイッ
」
今日初めて使ったとは思えぬほどシズカは霊剣をわが身のように使いこなし、
見事な格子目の九字を切り放った。
そしてシンイチが視界内にイタカをおさめ、引き金を引こうとしたその瞬間!
先程術者が減ったが為に結界を突破して来たバイアクヘー十体が左方から初号機に突進し、
銃身がイタカからそれてしまい、シンイチは引き金から指を離した。
イタカの両眼の中心を狙う為4秒程かけて狙っていた為、これ以上は危険だと感じた兄が
強制的にビジョンを切った。
{{兄さんっ }}
シンイチは何故止めたとばかりに兄に呼びかけた。
{あと二秒も見てたら良くて失明下手すりゃ死んでたぞ}
そうしている間にもバイアクヘーは初号機に体当りを敢行し続けていた。
{せめて機体が揺れなければ、観測機と連動しているコンピューターからデータを貰える
んだが、こうもぶつかられちゃ無駄撃ちにしかならんっ}
{{ダメだ 赤木博士とも繋がらないよ 通信装置が破損したみたいだよ兄さん」
一撃一撃はたいした効果を上げずとも、繰り返し執拗に襲いかかるバイアクヘーの爪で
装甲で被いようが無い通信装置は真っ先に破壊されていた。
その時、イタカから奇妙な波動が発射され、シンイチは顔を歪めた。
{{兄さん どうしたの?}}
{どうやら、イタカの攻撃のようだ}
{{今の所機体に異常は見当たらないが、受けつづけるのは危険だ……何とかしないと}}
その時、第一コントロールルームではリツコが連絡が付かなくなったシンイチの状況を
少しでもモニタリングすべく部下に命令を下し続けていた。
「肩部に半ば露出している通信装置が損傷したようです!」
「緊急用の通信装置ですが、何故かチャンネルが合いません イタカからの波動は
妨害電波なのかも知れません」
「解析を急いで!」 「はい!」
戦場と化している第一コントロールルームの扉が開き、マヤに連れられた三谷ヨシコが
室内に入って来た。
「あなたが三谷さん……いえ風谷さんね……今の状況は解ってる?」
リツコは画面からちらちらと三谷ヨシコに向けながら問いかけた。
「ええ……」 三谷ヨシコは頷きながら呟いた。
「あなたに出来る事……解るわね」
「ですが……私自身のコントロールが効かなくなるかも知れません……」
「その時はここにいる誰もが生き残れないしあなたも人間と言う殻を捨てる事になるのね」
リツコは作業をしながら淡々と話を続けた。
「緊急用通信 繋がりました!」
リツコはその報を受けるや否や操縦席内を写すモニターにかじりつき、
手探りで通信用のヘッドセットを取り出して耳にあてがった。
「シンイチ君 現在の状況はどうなの?」
リツコが口を開こうとした時、マヤは一足早くマイクに向かって話していた。
だが、シンイチはその声に気付かないのか、返事は無かった。
「もしや……あの波動で聴力を失ったのかも知れないわ これ以上あの波動を受け続ける
のは危険よ マヤ!」
「どうやら無視界でイタカを狙い撃とうとしてるようですが、バイアクヘーの妨害に
あっているようです」 マヤはコンソールの画面を見ながら叫んだ
「先輩 第二コントロールルームから通信です」
「すぐ出るわ」
ヨシコはその様子を身体を振るわせながら聞いていたが、ついに決意し呪文を発した。
イア イア ハスター!
ハスター クフアヤク ブルグトム
ブグトラグルン ブルグトム
アイ アイ ハスター!
本来ならバイアクヘーを呼び寄せるのに呪文など必要としないヨシコではあったが、
イタカの指揮下にいた為、もっとも上位の存在であるハスターに働きかける為に、
バイアクヘー召喚の呪文を唱えたのであった。
リツコとマヤを含む部屋にいた人間は最初は驚いたものの、仕事を続けてはいたが
彼女が暴走してしまえば自分達などカマキリの前に力なく横たわるコオロギのように
無力な存在であるのを知っているので背に冷や汗を流しているものも少なく無かった。
そしてバイアクヘーがどちらの命令に応えるべきか逡巡した瞬間、
ヨシコは意思を発した。
{{{止めなさい!}}}
その時 シンイチは三谷ヨシコ……いや風谷ミツコの声を聞いた。
次の瞬間には初号機を苛み続けていたバイアクヘーが離れて行き、
シンイチはようやく自由になった初号機を駆り、イタカの波動から逃れた。
{{兄さん もう一度頼むよ}}
{いや、危険だ 別の方法を考えよう}
{{別の方法?}}
{さっき波動を発していたのはどうやら狙っていたイタカの両眼の中心のようだ}
{って事は波動を辿ってその発信源を撃てばいいんだね!}
次の瞬間 シンイチは兄が止めるのも聞かず 再びイタカの発する波動の中に身を置いた。
{無茶しやがって まったく骨が折れるぜ}
{{ん 掴んだ 撃つよ 兄さんっ!}
シンイチは引き金を引き絞り、銃身から発せられた光はイタカの両眼の間を貫き、
数秒後にはこの世のものとは思えないような響きの叫びが第三新東京市を包んだ。
もっともこの攻撃でイタカが消滅した訳では無い……
現世に姿を示すだけのエネルギーを失っただけで、いつの日か復活するだろう……
それが10日先なのか 10年先なのか……はたまた100年先なのか……
それは誰もが知る術を持ちえない事柄ではあったが、この叫びを聞いた者はイタカの復活
の日を恐れる事になるだろう。
・
そう第二・第三のイタカが現れない保障は無いのである<古い特撮映画みたいだな
・
{こんなもん聴かされちゃお子様は当分夜 一人でトイレに行けないな……
そういえばおまえも恐がりでいつも俺に何か喋らせてたっけ……}
任務を達成した喜びからか、シンイチの兄は普段よりいくぶん饒舌になっていた。
「シンイチ君 シンイチ君! 返事をしてっ イクコさんの零号機が大変なの!」
その時 ようやく波動の影響から抜けきったシンイチはマヤの悲痛な叫びに心を振るわせた
話は10分程遡る……
「赤木博士……敵が現れました」
発電設備の前で仁王立ちしている零号機のコクピットにてイクコは通信回線を開いていた。
レーダーには不吉を告げるかのように赤い光点が多数瞬いていた。
「赤木博士は第一コントロールルームに行きました 私は第二コントロールルーム付きの
オペレーターの者です こちらの方でも衛星からの映像で零号機に接近中の敵性体を
発見しました 深き者どもの総数は約100体 ダゴンは足が遅いので少し後れている模様
セオリーとして、まず深き者どもを蹴散らしてからダゴンに向かうか、実質的な司令塔である
ダゴンを叩いてから、深きものどもを倒すと言う二つの作戦が考えられます。
ですが、深き者どもを放置しては、発電施設が破壊される恐れがあります。
第一の案を私としては推奨しますが、どちらを選ぶかはあなたが決めろとの赤木博士からの
伝言です」
オペレーターは緊張の為かハンカチで汗を拭きながらマイクに向かって話し続けていた。
「第一の案を実行します もし敵が背後に回るようでしたら、連絡をして下さい」
実戦が初めてだと言うのにイクコは汗一つかかずに冷静に答えて回線を切った。
のそり……零号機の向かい側の川の向こうから一体の深き者どもが、
さも重そうに三叉の槍……トライデントと称される武器を手にして現れた。
アメリカ西海岸マサチューセッツ州のはずれにインスマスと呼ばれた町があったと言う
その町の住人は年老いると人間としての形態を取るのが苦痛になり、
とある夜に海に身を没するのだ……だがそれは死では無い。
蛙のような身体と魚を擬人化したような顔に完全に変化するのだ。
そして自分の死んだ祖父やそのさらに昔の代の祖先にも会う事になる……
そして彼らは海底都市ルルイエ等を拠点とすると言う……
周りを海で被われている日本の小さな漁村に、彼らがいたとしても不思議は無いだろう……
・
インスマスを覆う影 と言う作品を読んでみよう!
・
またたく間に一体は二体となり、数え切れない程の深き者どもが零号機の前に
終結しつつあった。
イクコは武器として与えられたポジトロンライフルの銃口を下に下げて、第一射を放った。
最初の一撃で10体程の深き者どもを蒸発させたものの、残りの90体程が密集隊形から
10体前後ごとの小隊に別れ、多方向からダムに向かいはじめたのだ。
途中にある川もものともせず、ひれのついた足でぴちゃぴちゃと進んで来る姿は異様だった。
深き者ども一体では大した事が出来ないかも知れないが、発電施設を破壊するのには
10体も入れば充分であろう……制御しているコンピュータ類に、その手にしている
トライデントを突き刺すだけで事が足りるのだ……
イクコはその場所から一歩も下がらない決意で、分散した深き者どもを攻撃していった。
・
要するにママトトでの工兵みたいなものだね 突破されたら施設破壊(笑)
・
ある時は零号機の足で踏みつぶし、ある時はポジトロンライフルの斉射でなぎ払い、
獅子奮迅の働きを続けていた。
深き者どもの掃討をほぼ終え、イクコが通信回線を開こうとしたその時
背後から巨大なトライデントが途中にあったビルを突き抜けてイクコの乗る零号機に
風を引き裂いて飛来して来た。
通信が繋がった途端にオペレーターの叫ぶ警告にイクコは零号機を咄嗟に機動させたが
間に合わず、手にしていたポジトロンライフルごと零号機の腹に槍が突き刺さった。
零号機の感覚とシンクロしていた為、イクコは声にならない悲鳴を上げた。
トライデントがもし頭にでも当っていれば、頭ごと持っていかれる程の衝撃であった。
零号機はトライデントの勢いに押され背中から槍を突き出したままダムの外壁に衝突した。
幾重にも渡る衝撃吸収装置が無ければその段階でイクコは死亡していたであろう……
武器を失ったにも関らず先程巨大なトライデントを放ったダゴン……
深き者どものサイズを数十倍し、零号機よりすこし大きなその巨体がビルの影から
現れるのを、ダムの外壁に縫い付けられた零号機の中でイクコは青ざめた顔で見ていた。
「
死ぬ事(消滅)は恐くない……だけど……シンイチを守れないのが恐い……
」
この窮状にありながらもイクコは闘う意思を捨ててはいなかった。
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また引きかい……ほどほどにしてくれ
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最終話Eパート 終わり
最終話Fパート
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