深き者どもの掃討をほぼ終え、イクコが通信回線を開こうとしたその時
背後から巨大なトライデントが途中にあったビルを突き抜けてイクコの乗る零号機に
風を引き裂いて飛来して来た。

通信が繋がった途端にオペレーターの叫ぶ警告にイクコは零号機を咄嗟に機動させたが
間に合わず、手にしていたポジトロンライフルごと零号機の腹に槍が突き刺さった。
零号機の感覚とシンクロしていた為、イクコは声にならない悲鳴を上げた。

武器を失ったにも関らず先程巨大なトライデントを放ったダゴン……
深き者どものサイズを数十倍し、零号機よりすこし大きなその巨体がビルの影から
現れるのを、ダムの外壁に縫い付けられた零号機の中でイクコは青ざめた顔で見ていた。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22F

最終話【魂(こころ)の帰える場所】Fパート


「シンイチ君 シンイチ君! 返事をしてっ イクコさんの零号機が大変なの!」
その時 ようやく波動の影響から抜けきったシンイチはマヤの悲痛な叫びに心を振るわせた
「どういう事ですか!?零号機は現在どこにいるんですか? 急行します!」
シンイチはレーダーに目を走らせながら答えた。
「イクコさんの零号機は現在 結界の外のダムにいます」
マヤがキーを叩くと、シンイチの目の前のコンソールに零号機の座標が転送され、
レーダーに青い光点が灯った。

「国連軍とかの増援はまだなんですか? ここを離れる訳にも……」
結界圏内で唯一卷族を撃退し得る戦力である事を認識しているが故にシンイチは悩んでいた。

「零号機と相対しているのはダゴン一体のみよ 現在ダゴンの気を引く為に国連軍が
零号機の元に向かってるわ……」
「結界の外の卷族の総数は大体どれぐらいですか?」
「イタカが消滅した時から、無人操縦の偵察機等で調べてますが、地上の深き者ども
空中のバイアクヘー 共に500体は下らないと思われます!」
マヤは悲痛な声でシンイチの問いに答えた。


NERV発令所にて……

「司令! ゼーレの特殊部隊の副官と名乗る人物から通信が入っています」
青葉はシンジの方を振り返って叫んだ。

「何? これまで無反応だったのに……何故だ……まぁいい 出よう」
「了解 繋ぎます!」

次の瞬間シンジの目の前のディスプレイに40代半ば程度の白髪の男の姿が表示された

「緊急時に付き、独語で話す事を許されたい 私はゼーレの特殊部隊”ロンギヌス”の副長
ロレンスと申します 現在我らを載せたシャトル”スピアー”は奄美諸島の上空……
大気圏外から第三新東京市に向けて降下を開始しています。
尚、この命令はゼーレ上層部の命令に在らず、今朝の7時を持って、ロンギヌスの前司令
マリコ・ローレンツが、司令職をローラ・ローレンツに委譲すると同時に発せられた物です」

「ローラちゃん?」 第二外国語で独逸語を選択していたアヤがローラと言う言葉を聞いて
反応した。

NERVやSEELEなどのような対卷族組織では公用語として独逸語が用いられている故の選択
であった。 当然シンジとアスカも通訳無しにロレンツの通信を聞いていた。

「当方は卷族に有効な兵器を持った特殊降下兵50人を擁しています 現在よりNERVの
命令に従う所存であります どうか我々に御命令下さい」
ロレンスはそこまで言って、ローラを抱きかかえた。

「ローラちゃん……」 一年ぶりの再会ではあったが、ローラの悲壮な表情を見て、
アヤは声を詰まらせた。

「了解した エヴァンゲリオンを指揮しているコントロールルームに回線を接続する
今後は、こちらの命令に従って貰う事になるが、貴官らの身柄等はこちらで責任を持つので
安心して頂きたい」

シンジは流暢な独語でロレンスに答えた。


第一コントロールルーム

「こんな時に作戦本部長がいないなんて……事が終わったらミサトに奢って貰わなきゃね」
その間にもリツコは打開策の立案を続けていた。
「赤木博士! ゼーレの特殊部隊から通信が入って来ているそうです」
そしていくつかの作戦の成功率を計算している時、通信士が叫んだ。
「何ですって!」 リツコはディスプレイから顔を上げながら叫んだ。

「ええ 了解しました」 「では代わります」
「結界の外側のバイアクヘーと深き者どもの掃討を命令します 
こちらからは、エヴァンゲリオン初号機を向かわせますので、
コード等をお送りしたいので、技術者と代わって下さい」
リツコはロンギヌスの技術者と早口で会話しながらキーを叩いていた。

「シンジ君 ゼーレからの救援が来たわ 数分後に命令がそちらにも届く筈よ
決して零号機を見捨てたりしないから、安心してね」
マヤは嬉々としてシンイチとの通信を開いた。

「解りました!」 シンイチは通信を切るなり安堵に胸を撫で下ろした

「そうだ……マヤさん 結界の中から結界の外にいる卷族を撃つ事は出来ないかな……
それが出来れば、救援が来るまで多少なりとも敵を減らせると思うんだけど……」
シンイチは再び通信を開きマヤに話しかけた。

「その銃を発射する事で結界に作用とかはしないと思うんですけど、
試射もして無い状況なので……あ、ちょっと待ってね あ、はいはい
シンイチ君 取り敢えず一度だけ試してみてくれる? すでに結界の東方面では、
イタカが消滅後に避難をさせてるから多少誤射しても問題無いわよ」
マヤはリツコに意見を聞きながらシンイチに指示を出していった。

「了解!」 シンイチが操る初号機は人通りの無い国道を疾走していた。
旧印のパネルを埋めこむんでいるせいか、通常よりも頑丈なアスファルトを使用している為
エヴァが疾走しても、アスファルトに大きな傷はついていなかった。

初号機が結界の東端に近づくと、一部住民の避難の為に国連軍等の車両が目立ちはじめた。

{{一度に空と地上から攻撃されるのは、もう懲りたからしたく無いんだけど、いい方法
は無いかな 結界もいつまで続くか解らないんだし……}}

{ふむ……遮蔽物か……マヤに聞いてみた方が早いな}

{{じゃ聞いてみるよ}}

「マヤさん 初号機が上空からの攻撃を受けないような遮蔽物になりそうな所は無いですか」

「そうねぇ……結界外の卷族を狙撃できる位置じゃ無いといけないし……」
マヤは第三新東京市の電子地図を検索しながら答えた。

「初号機の緊急待避用の偽装ビルがあるじゃ無い……まだ建築中でリニアもNERVまで繋がっ
て無いけど逆に考えれば、そこから侵入される心配も無いし」
リツコは地図の一点を指し示して言った。

「さぁすが先輩 シンイチ君 聞こえる? 今からデータを送るから黄色い光点の場所まで
移動してくれる? その場所に建設中のビルがあると思うんだけど」

「ここから2kmか あ、ありました」
少し向こうに目指すビルを見つけて、初号機は足を早めた。

そのビルは初号機より一回り以上大きく、いまだクリーム色の強化ビニールで被われていた。
「少し離れててね」 マヤの声を聞きシンイチは初号機を数歩後ろに下がらせた。

次の瞬間 各所にセットしてあったと思われる強化ビニールの留め金が内臓していた爆薬で
吹き飛び、クリーム色の強化ビニールはビルの足元に落ちた。

まるで巨大な冷蔵庫のようなそのビルには東方向がガラ開きであった。
エヴァ本編で二号機が出てきたけど、起動出来なかったあのビルみたいな感じ

「完成すれば、見た目は普通のビルになる予定だったのよ その中なら多少の攻撃を受けても
ビルが壊れる心配は無いわ エヴァの装甲と同等のモノを使ってるから安心してね」

シンイチはその中に初号機を背中から入り、東方向に銃を構えた。

「んー敵の視認が出来ないけど、射線は通ってるみたいだな」
シンイチはレーダーと前方を交互に見ながら呟いた。

{問題無い ビジョンと銃の照準を連動させる事が出来る……}
次の瞬間 シンイチは兄のビジョンで1キロ程向こうの卷族の姿を見た。

{{じゃ、あの辺りに撃てば20体ぐらい倒せるかな……}}
{右に5度上に3度照準をずらせ}
{{そんな細かい事言われても……}}
{じゃ、おまえが照準を動かすのに合わせてビジョンを動かす事にする
精密射撃って訳にはいかんかも知れんが、外す事は無いだろう}
{{解ったよ}} シンイチはコントロールレバーについている、微妙な操作も出来る
ハットスイッチを動かし、照準を合わせてハットスイッチを押し込んだ。
スラストマスターのJOYSTICKについてるような奴です

初号機の手にしている巨大な銃から発せられた七色の光線は次の瞬間には
結界をすりぬけ、結界の外に集まっていた深き者ども十数体をディラックの海に放り込み
外宇宙に放り出した。
深き者どもの背後に乗り捨てられていたトラックも前半分が消滅したのだが、
シンイチは気付いてはいなかった。

「マヤさん 結界の方は大丈夫でしたか?」
シンイチは唯一の懸念を解く為通信を開いた。
「ええ、干渉作用も無かったようだから大丈夫よ

「じゃ、掃討を続けます!」
シンイチは通信を切り、再びビジョンを使って照準を定めた。
{{そうだ……トリガーを押しっぱなしにして横になぎ払えばいいんじゃ無いかな}}
{理論的には可能だが、無茶はするなよ パワーを出すのは俺なんだからな……}
{{わかってるよ じゃ、やるよ}}
シンイチはハットスイッチを操作し、スイッチを押し込んだ後 スイッチを左側に倒した。
初号機が手にしている銃口から虹色の光が打ち出され、射出したまま左に銃身が動き、
結界の周りにいた深き者ども 約100体が消滅した。
なぎ払う時に数軒の家が消滅したが、避難後だったので死者は無かった。

十数秒後には再び後方にいた深き者どもが結界の前面まで押し寄せて来たものの、
明らかにレーダーに映る光点は減少していた。

その後シンイチは二度三度となぎ払い続けた。

「シンイチ君 国連軍から戦闘機50機と戦闘ヘリ100機 の増援が2分後に到着するわ
同時にゼーレの特殊部隊の降下兵が降下して来るから、落下地点の敵をなぎ払ってね
その後は、零号機の支援に回って頂戴!」 マヤは早口でシンイチに指示を出していった。
「了解!」 

「先が見えない戦いなのに、シンイチ君は元気ね……」
リツコはマヤとシンイチの通信を聞き、キーを叩く手を止めて呟いた。

「マヤ、現況を司令所に通達しなさい」
「あの……いいんですか?」
「いつかは解る事よ……」
リツコが零号機の出撃を隠す事を中止したのを聞き、マヤは内心ほっとしていた。

「ミサトがいれば、零号機を救う事も出来るかもね……まだ戻って来ないのかしら」
リツコは再びキーを叩きながら呟いた。

「先輩……」 司令所の青葉と通信していたマヤが青ざめた顔で振り向いた。
「どうかしたの?」 リツコはエンターキーを小指で叩いて画面を見つめながら答えた。
「葛城作戦本部長と加持さんが術者を守って戦死したそうです……」
マヤはリツコとミサトと加持との旧交を思い出してか、悲痛な顔で伝えた。

「そう……」 リツコは力ない声で答え、何でも無かったかのようにキーを叩き始めた。
だがリツコの背が僅かに震えているのをマヤは見逃さなかった
その頃 イクコは零号機に突き刺さった巨大なトライデントを抜こうとしていたが、
零号機とシンクロしている為、激しい苦痛が襲って来るので抜くのに苦労していた。

ダゴンは国連軍の陽動作戦により、無力化したと思われる零号機を無視し、
国連軍のMLRS車両等を踏みつぶしていた。

ヘリから発射されるミサイルもダゴンには表面に張りついた海藻を取り除く事
ぐらいしか出来なかった。

「シンイチを……守るのが……私の指命」
イクコは力を振り絞って、零号機に突き刺さっていたトライデントを引き抜いた。

だが、先端が鉤形になっていた為、零号機の肉体の破損も激しかった。
シンクロしているイクコも相当のダメージを受けた筈だが、イクコは引き抜いた槍を
杖にして零号機を立ち上がらせようとしていた。




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最終話Fパート 終わり

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