「シンイチを……守るのが……私の指命」
イクコは力を振り絞って、零号機に突き刺さっていたトライデントを引き抜いた。

だが、先端が鉤形になっていた為、零号機の肉体の破損も激しかった。
シンクロしているイクコも相当のダメージを受けた筈だが、イクコは引き抜いた槍を
杖にして零号機を立ち上がらせようとしていた。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22G

最終話【魂(こころ)の帰える場所】Gパート


「それでは出撃します」 シャトル”スピアー”の中で降下前の喧騒の中、
ロレンスは司令であるローラ・ローレンツを司令室の椅子に座らせながら宣言した。

「ロレンス……死なないでね あなたはムッターを助け出す作戦にも必要なんだからね」
ローラは涙を堪えて、部屋を出て行くロレンスに語りかけた。

「解ってますよ……我らがコマンダー」 ロレンスはローラに正式な敬礼をし、
ローラはその答えに満足したのか、椅子に背中を預けた。

「私だ……」
ロレンスはシャトルのコクピットに回線を開いた。

「我々の降下が完了したらNERVの指定する場所に着陸したまえ。
 君たちには司令を亡命させると言う任務がある事を忘れるな……いいな」
「ヤー」 コクピットの中の三人は声を揃えて答えた。

ロレンスはパイロット達の返事に安心したのか、シャトル最下部に向かった。

最下部の降下兵士射出所にはすでに49人の精鋭の降下兵が左右に別れて座っていた。
手に特殊対戦車ライフルを持ち新開発のN2弾頭ののカートリッジを身につけている隊員が
めいめいに装備の最終確認をしていたが、ロレンスが入って来るや否や全員立ち上がった。

「諸君 腰を下ろしたまえ」
その声に一斉に49人の降下兵は腰を降ろした。
その時背中に抱えているジェット噴射ユニットが椅子に当る音があちこちから聞こえた。

「我々にとって、これほどの大規模戦闘は無論初めての事ではあるが、諸君らの日々の訓練
の過酷さを目の当たりにしている私にとって不安要素は見当たらない。
さぁ飛び立とう!

ヤー!

「降下準備!」
49人の降下兵の目に迷いは見受けられず、ロレンスは胸を張って宣言した。
「降下予定時間まであと10秒」
天井のライトが平常時の薄い緑色から赤に代わり、コクピットから報告が入った。
「9」
「8」
「7」

その頃、シンイチは降下予定地点の掃討を終え、上空を見上げた。

「6」
「5」
「4」

NERV司令所でも秒読みは続いていた。
「噂に聞くロンギヌスの力……見せて貰おう……」
イクコの出撃と危機を知らされ、驚いていたシンジではあったが、
どうにか平静を取り戻し、画面に見入っていた。

「3」
スピアーは逆噴射をかけ、そして機首を上げ 意図的な失速を作り出した。
「2」
「1」
ゴー!

次の瞬間降下兵が背を向けていたハッチが同時に開き、
射出装置により降下兵の指揮官であるロレンスを含めた50人が大空に撒き散らされた。

背中に背負っていた噴射ユニットがそれぞれ噴射を初め、降下兵達はライフルを構えたまま、
空中で分隊に別れて降下を初めていた。

「クェェー」 奇声を上げてバイアクヘー 十数体が降下兵に群がろうとしたが、
降下兵が持つ 対戦車銃を改造し、N2弾頭を使用出来るように強化したライフルから
放たれたN2弾頭がバイアクヘーの身体に穴を穿き、次の瞬間には爆発していた。

二斉射で近づこうとしていたバイアクヘー十数体は身体を飛散させられた。


シンイチ操る初号機も降下予定地点の敵の掃討を続けていたが、隠れていた場所からでは
無理になったので、待避用のビルから躍り出て攻撃を続けていた。
途中数度も深き者どもがトライデントを投げたものの、初号機の装甲に弾き返されるだけで
あった。

「シンイチ君 そこはもういいわ イクコさんの所に行ってあげて!」
「了解しました!」
シンイチはマヤからの指令を聞くや否や、初号機を駆り三段跳びのように徐々に高いビルの
屋上に飛び上がり続け、最も高いビルからバーニアをふかしながらジャンプした。

結界の周りを取り巻いていた深き者どもの上空を飛び越え背後に回ったシンイチは、
一途 イクコの待つ発電所に向かった。



「くっ」
その頃、イクコは零号機から引き抜いたトライデントを手にダゴンに戦いを挑んでいたが、
零号機の損傷とシンクロしているイクコが感じる傷みのせいか、一進一退が続いていた。
もう一度トライデントがダムの外壁に刺さろうものなら、今度は持たないだろう事を
イクコは実感として感じ、ダムを背にして闘っていた。

ぶんっ
武器を失ったとはいえ、その腕の一降りだけでビルの一つや二つ薙ぎ払うだけの威力を持って
いるので、イクコは攻撃を避けながらもトライデントで牽制してダムを守りつづけていた。

MLRSなどの車両もすでに全壊しており、搭乗者は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。



その頃 第三新東京市の上空には国連軍の戦闘機数十機がバイアクヘーへの攻撃を続けていた

時間はもう10時になろうとしており、住民は上空や周りで巻き起こる戦闘の音に脅え
家の中に閉じこもっていた。 ただ一人を除いては……

伊吹コウジは人気の無い第三新東京市をひた走っていた。
昨夜から帰らぬ叔母のマヤ……そして三谷ヨシコの身を案じる余り家にじっとしていられなく
なったのであった。
無論 治安維持の為に出動している国連軍や警官に見つかれば家に帰されてしまうので、
彼は少々迷いつつも小路を辿りながら目指すヨシコのいる店へと近づいていた。
商店街のアーケードに入りコウジの乾いた靴音が響いていた。

「ここだ……」
コウジは息を整えながら、ヨシコの家であるイタリア風料理の店のドアを叩いた。

些か乱暴に戸を叩いているので、店の奥まで音が届いている筈なのに誰も姿を現さなかった

「ん?」 コウジは磨りガラスの向こうの店内が乱れているのに気付き、ドアノブに触れた
鍵がかかっていなかったのか、ドアは軋音を上げて開いた。

「いったいどうしたんだ……」
店内ではテーブルや椅子がまるで戦闘でもあったかのように乱れていたのであった。

「誰かいませんか?」 コウジは叫びながら店の奥に入っていった。

「誰だね」 調理場のテーブルに突っ伏していた男……
三谷ヨシコの父親がコウジに気付いて起き上がった。

「こっちに転校する前から同級生だった伊吹です……ヨシコさんは……いるでしょうか」

「君か……覚えているよ……NERVの伊吹マヤの甥っ子だったな……」
ヨシコの父親……正確にはヨシコの義父は痣だらけの顔で振り向いて言った。

「姉を……知ってるんですか? NERVっていったい……」
コウジはヨシコの義父に告げられた事に驚愕していた。

「ヨシコがよく食事の時に君の事を話していたよ……NERVの関係者の子弟なら構わんか……
ヨシコはNERVに連れていかれたよ……」

「何ですって?NERVって何なんですか……ヨシコさんは……」

「そうか……今 第三新東京市が卷族の侵攻を受けている事も知らんのだろう……
これも何かの縁だ……君に真実を伝えるとしよう……」
イクコの義父はイクコ……いや記憶を消された風谷ミツコの義父としてこれまで
保護して来た事……そして卷族に対して有効なカードとしてNERVに保護された事
そしてその際それを拒否して強制的に連れ去られた事などをコウジに伝えていった。

「教えて下さり、ありがとうございます……姉に連絡してみますので」
コウジは一礼して店を飛び出した。

コウジは来る途中で見かけた公衆電話のボックスに飛び込み、マヤの携帯フォンの番号を
入力した。


なかなか電話に出なかったが2分程して電話が繋がった。
「誰? コウジ?」 どうやらトイレで電話をしているのか音が少し反響していた。
「うん……そうだよ」
コウジは出来るだけ冷静的に話を始めた。
「仕事で戻れないって言っておいた筈だけど……どうかしたの? 私は無事よ」
「そこに……NERVに三谷ヨシコさんがいるんだろ? マヤ姉さん」
「えっ…………」 突然の事にマヤは驚きごまかす事すら忘れていた。

「無理矢理連れ去ったそうじゃ無いか! マヤ姉さん達にどうしてそんな権利があるんだよ」
コウジは怒りを押さえきれずつい口調を荒げてしまった。

「答えないとマスコミにばらすぐらいはやりそうね 兄さんと同じで直情的なんだから……」
「返事はどうなんだよ マヤ姉さん 答えてくれよっ」

「解ったわ……全部説明するから……けど電話じゃダメよ エージェントをそちらに向かわ
せるから、そこでじっとしてなさい いいわね」

「解ったよ……」 コウジは受話器を置いてため息を一つついた。


コンコン その時、アクリルのボックスを叩く音がしたのでコウジは振り向いた。

「待たせちゃった?」
私の名前は GUNG−HO−GUNSの1 ってのは嘘
灰色のドレスを身にまとったうら若き女性が妖艶な笑みを浮かべて言った。


第一コントロールルーム

「すみません」 マヤは席に付きながら横にいるリツコに詫びた。
「もう少しでシンイチ君が零号機の所に到着するわよ」
リツコは画面から顔も上げずに答えた。

「何とか持ちこたえてるけど、ポジトロンライフルはもう使えないから、
初号機の武器にかけるしか無いわね……」

「ねぇ先輩…… 私たちにあの子達を弄ぶ資格……あるんでしょうかね……」
マヤは 過労で倒れて椅子で寝ている風谷ミツコを横目で見ながら呟いた。

「さぁ…… だけど私は自分に出来る事なら何だってするつもりよ……それを他人に押しつ
けるつもりは無いけど……無意識ではそれを期待してるのかも知れないわね……」

「伊吹主任 情報部より内線です」
通信担当のオペレーターが立ち上がりマヤに向かって叫んだ。

「繋いで」
「はい」

「情報部です エージェントを急行させましたが伊吹コウジ氏の姿は見つかりませんでした」
「どういう事?」
マヤは悪寒を感じて思わず背中の気を逆立たせた。

「現場には伊吹コウジ氏のものと思われる血痕が散乱していました……調査を続けます」

「まさか……そんな……」
マヤは受話器を置きながら呟いた。




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最終話Gパート 終わり

最終話Hパート に続く!



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