「情報部です エージェントを急行させましたが伊吹コウジ氏の姿は見つかりませんでした」
「どういう事?」
マヤは悪寒を感じて思わず背中の気を逆立たせた。
「現場には伊吹コウジ氏のものと思われる血痕が散乱していました……調査を続けます」
「まさか……そんな……」
マヤは受話器を置きながら呟いた。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 22H
最終話【
魂(こころ)の帰える場所
】Hパート
「まだか……」
シンイチはレーダーを見ながら、イクコの零号機を現す光点の元に初号機を向かわせていた。
最大戦速で向かってはいるものの、まだ零号機の光点はレーダーの角の方で輝いていた。
「ひどいな……」
シンイチの眼下には深きものどもの進軍した時に破損したと思われる国道添いの家々が映っていた。
国道もアスファルトが裂けている所があり、地上でエヴァを走らせるのは危険だと判断したシンイチは
地上走向と空中滑空を交互に行い続けていた。
「う……」 少し行くとまるで掴んで投げられたのか20階建のビルの壁の中程に戦車の残骸が壁を突き破り、
戦車の砲塔が今にも下に落下しそうになっていた。
{そろそろ警戒しろ シンイチ}
{{わかったよ 兄さん}}
いつしか遠くで聞こえていた戦闘へりの爆音も止んでおり、シンイチは焦燥感に駆られた。
「マヤさん 零号機周辺に残存する国連軍の戦力はあとどれぐらいですか?」
シンイチは回線を繋いだが返事はすぐに帰って来なかった。
「あ、ごめんなさい……残り戦力は戦闘ヘリ3機 MLRS2機よ ビーコンを発し続けている機体の数だから
戦闘能力を全ての機体が保持しているとは限らないわ もう少しよ 急いであげて」
「わかりました!」 シンイチは回線を切り最短ルートを探す為にレーダーとGPSを交互に切り替えながら
ダゴンの背後を突き急襲すべく攻撃地点を選択していた。
「見えたっ!」 ビル街を抜け開けた平野部に出た時、ダムの手前で対峙しているイクコ操る零号機とダゴンの姿
をシンイチは視認する事が出来た。
更に歩を進めると、足元にポジトロンライフルを落とし、三叉の槍でダゴンと戦う零号機の胸から体液が血のように
流れ続けているのに気づき シンイチは激昂し初号機を大きくジャンプさせバーニアを吹かした。
横や後ろから狙い撃てば零号機を巻き添えにしてしまうとの判断であろうか……
どちらにせよ 瞬時のその判断は誉められるべき類のものであった。
{{いけぇ〜〜}} シンイチはバーニアをフルバーストまで噴射させてダゴンの上空に向かっていた。
{打ち合わせ無しにいきなり飛びやがって……出力不足か……仕方無いな……}
そのままではダゴンに体当たりしそうになっていたが、数秒後に限界出力より数十パーセント程上ましされ、
どうにかダゴンの上空コースを取る事が出来た。
{{兄さん……照準固定モードの補足をしてよ……兄さん?}} だが返事が無かったのでシンイチは震える手で
スティックを握りしめて、照準をダゴンの頭頂に合わせて 上空を通過した瞬間に引き金を引いた。
次の瞬間 迸る七色の虹にダゴンは頭頂上から胴体を打ち抜かれ、ダゴンを構成していた核(コア)は
ディラックの海を経由して外宇宙に放り出され、ダゴンの身体の残骸は崩れ落ちていった。
同時刻 NERV司令所
「やった! ダゴン消滅です!」 「よし、零号機と共に残存する深きものどもの掃討に当たるよう指示しろ」
シンジは矢継ぎざまに指示を出し終えて、深々と椅子に腰を埋めた。
いくぶん落ち着きを取り戻した司令所の中で、シンジはミサトと加持の訃報を思い出し、少し青ざめた顔で呟いた。
「この戦闘が終わった後……NERVの存在は明るみに出るかも知れないな……
「超法規的措置で通るんじゃ無いの? お父さん」 コンピュータの前で今回の戦闘で死んだ職員の親族にシンジが走り書き
で書いた手紙をコンピュータに転記していたアヤがキーボードの手を止めて言った。
大学を卒業したらNERV入りする事が密かに決定していたので、司令所の雰囲気に馴染ませる為にシンジはアヤを側に
置いていた。 アスカもNERVの副司令であるのでシンジの側にばかりもいれないので、
いまだ背中を痛めているシンジには手となり足となる存在が必要でもあったのだ。
「NERVの存在を明かすと言う事は人間とほぼ同じ姿で世界に大勢の倦属が潜んでいる事を公開すると言う事だ……
報告によれば東の術者詰め所の中にも倦属がいたのが葛城・加持夫妻の死因だそうだ……
我々にも見分けがつきにくいものが一般大衆にわかると思うかね? アヤ
旧支配者の降臨よりも恐ろしい事態だとまで私は思っているよ……」
「どうして?」
「魔女狩りと言う言葉を知っているだろう? 倦属が大勢潜んでいるとなれば人間の恐怖心が暴走し、
疑いがあると思われる人間が片っ端から殺される危険があると思っているんだ……密告制度など復活させようものなら
マンションの隣の部屋の人物もよくわからないような都会に住んでる人で疑われない人はいないだろう……
旧支配者の降臨による死よりも、混乱した市民による同士討ちの方が心情的に恐いと思うのだがね……」
「なんとなく言おうとしてる事わかるけど……NERVの司令の言葉じゃ無いと思うわ」
アヤは苦笑しながら言った。
「報告します 第三新東京空港に緊急着陸したシャトル スピアー号のパイロット3名と、司令のローラ・ローレンツ
嬢が亡命を求めているので面会したいそうです。」
「わかった 丁重にもてなすように伝えてくれたまえ……折衝にあたる担当は決まっているのかね?」
「はぁ それなんですが、ローラ・ローレンツ嬢と面識のある人物を向こうが指定しているんですが、
惣流副司令は現在外交筋から国連や他機関との折衝で手が回らないようでして……」
日向はアヤをちらちら見ながら答えた。
「ふむ……私は動けんし……あと面識があって動けるのはアヤだけか……」
「補佐として誰か付けますので、お願い出来ませんでしょうか……」
「少し早いがいずれはNERVの中枢を担う事になる事だし 経験を積ませるのも悪く無いな……」
シンジはアヤの横顔を見ながら呟いた。
「何分人材不足でして……」 日向は汗を拭きながら呟いた
「私……行くわ お父さん……シンイチ君も戦っているのに、何もできない自分が嫌だったの……」
アヤは立ち上がって言った。
「すまんな…… あ、日向君 誰か呼んでNERVの公式の礼服を用意してやってくれ」
「え……と手が空いてる女性は……あ、総務の小林女史を連れて来ますのでしばしお待ちを」
日向はバタバタと足音を立ててどこかに走っていった。
「NERVの存在が明るみに出る事でいい事もあるかも知れないわよ お父さん」
ため息をつきながら日向を見送るシンジにアヤが囁いた。
「ほう……それは何だい? アヤ」
「堂々と求人が出来るって事よ」 アヤは椅子から立ち上がり胸を張って言った。
シンジは笑いを堪え切れずに失笑してしまった
「いや、失礼…… 確かに物事を悪い方ばかりに考えるのが私の欠点だな……」
その後 総務の小林女史に連れられアヤは礼服に着替えに行った。
「司令……」 アヤと入れ代わりにアスカがシンジの前に現れた。
「どうかしたのか? 忙しいのに通信でなくわざわざ出向くとは……」
シンジはアヤに頼んで打って貰った遺族への手紙の続きを書きながら振り向いた。
「アヤをゼーレ……いえロンギヌスの乗員との折衝に向かわせるって本当?」
司令室の前まで走って来たのかアスカの胸は激しく鼓動を打っていた。
「ああ……ローラ・ローレンツ嬢との面識がある人物を向こうが要求していたからな……
おまえに黙って指示したのは悪かったが、何か不都合な事でもあるのか?」
シンジは最後の方は小声で呟いた。
「こっちの方でもゼーレとのコンタクトを取ってたんだけど、彼ら……ロンギヌスの乗員はゼーレを裏切り逃亡したとして
もしこちらがその逃亡の手助けをしたり匿う事があれば、対使途機関の国際会議で訴えるとまで言って来たのよ……」
「ふむ……だがそのくらいは彼らを受け入れると決めた時に覚悟はしていたが……」
シンジは顎に手をあててアスカの顔色を伺いながら答えた。
「現ゼーレの議長のキール・ローレンツの孫娘のローラ・ローレンツ嬢を今日の正午までに国連の日本参事官経由で
ゼーレに引き渡さなければ、シャトル”ロンギヌス”の核融合エンジンを遠隔操作で爆破させるとまで言って来たわ
問合わせてみたんだけど、着陸した段階でエンジンを切っているのよ……ゼーレの特殊部隊の使用するシャトルは
エンジンを入れる度に司令官のキー入力が必要なの……マリコ・ローレンツ……ローラ嬢のお母さまはキール氏に
会う前に司令官としてパスコードを入手していたからアイドル状態にさせておく事が出来たんだけど……
だからスピアーを飛ばして安全圏で脱出する事も不可能……解体する事も不可能……要求を飲むしか無いわ……
第三新東京空港を爆心地とすれば第三新東京市なんてかけらも残らないわね……」
「と言う事は……」 シンジは言葉につまったのか青ざめた顔で答えた。
「つまり、ローラ嬢およびロンギヌスの全乗員を引き渡すか 或いはゼーレの要求をブラフと信じて匿うか……
二つに一つね……」
「それ……どういう事なの? お母さん! キールって人はローラちゃんのお爺さんじゃ無いの?
どうして孫娘を殺すだなんて事を言うのよ……私 許せない」
その時 先程の二人の会話を聞いていたのか、NERVの正装の金色の襟つきのスーツを身に纏ったアヤが現れて言った。
「アヤ……」 シンジとアスカは振り向きざまにユニゾンで呟いた。
「私……大学卒業まで待てないわ……私をNERVの一員にして お父さん……お母さん」
「どういう事? アヤ」 ショックでシンジは押し黙ったのでアスカが答えた。
「私……直接そのキール・ローレンツと言う人と話がしたいの
前にシンイチ君を殺そうとした時にも腹がたったけど、今度の事はもっと酷いわ」
「いいだろう……元々NERVは六分儀家の私財で作られたものだ……多少の無理は効く……
おまえを空席になった作戦本部長代理として迎える事にしよう……
卒業するまでの間は代理として実務を積んで貰う……
また、今回の折衝についてはNERVの全権大使として当たって貰う……それでいいな」
シンジは傷む背を庇いながらもまっすぐと立ち、アヤの肩に手を置いて言った。
「送迎用の車の用意出来ました!」
「それでは、行って来ます!」
アヤはシンジとアスカ そして司令室の全員に頭を下げて司令室を出た。
「ほんとにシンジは娘に甘いわね……」
シンジの机の前に資料を置きながらアスカが呟いた。
「僕たちだって大学在学中からNERVの司令と副司令だったじゃ無いか……
アヤがその気になったのなら止める必要は無いさ……シンイチもいる事だし……」
「その話なんだけど……あの部屋……使用した跡があったみたいよ……」
「…………姉と弟か……まぁ……大丈夫な日だったんだろ?」
「それはまあそうだけど、そんな単純な問題じゃ無いと思うんだけど……」
「ところでミライの姿が見えんがまだ手術は終わらんのか?」
「手術は無事終わったそうよ ミライを守ってくれた葦田君に今は付きっきりのようね」
「ミライの処置を何とかしないといかんな……」
「今すぐは無理よ……それにどうするつもり? 血縁関係が無くて六分儀の血を引いてる人間なんていないわよ」
「赤木博士とも相談する必要があるな……彼女なら何らかの代替案を考えられるかも知れないしな……」
「あなた……いえ司令を裏切ったあの女をまだ信用している訳?」
「信用なんてしてはいないさ……科学者としての腕に信頼はしているがね」
「渚カヲルの動きが無いのも不穏ね……」
「……ダゴンにイタカ……この封印の地に封印を破るものが立て続けに現れたとあっては、
恐らくヨグ・ソトースを押え込むだけで必死だろう」 シンジはうつむき加減に呟いた。
「仕事を残してるから部署に戻るわ……何かあったら連絡頂戴」
「ああ……」
シンジはアスカが司令室を出るのを見送り、机の上のノート型パソコンのキーを叩き始めた。
「渚カヲルがヨグ・ソトースを押さえきれない時は…………考えるのはよそう……」
同時刻……第三新東京市から南に数十キロ離れた地点にある崖の地下2万5千メートル……
「ようやく ヨグ・ソトースの封印を解く時が来た」
ほのかに青い光の中 渚カヲルは深遠まで続いているかのような穴を見下ろしながら言葉を紡いだ。
地上では日も高くなりビルのコンクリートの壁がジリジリと熱せられているこの時間だと言うのに
地下2万5千メートルのこの場所はひんやりとした冷気に包まれていた。
「準備はいいな……」
カヲルが呟くとどこから現れたのか穴の左右に綾波レイのクローン体がずらりと並んだ。
「レイ……君を取り戻す為なら何でもする……あの時誓った言葉は嘘では無い……
今 ヨグ・ソトースの封印の為 永き眠りに入っている君の眼を開かせる為なら……
この身体が消滅しようと悔いは無い」
渚カヲルは自らの左の手首に右手の爪を這わせた。 次の瞬間左の手首から鮮血がほとばしり、
その血を一滴も零すまいと深遠へと続くかのような穴に注ぎ込んだ。
渚カヲル……
彼の流す血は 彼の贖罪の涙なのか……その真意を知る者はこの世にはいなかった。
御名前
Home Page
E-MAIL
ご感想
今のご気分は?(選んで下さい)
忘れた頃に鬼引きかい
イクコの見せ場は終わりかいや
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
Zパートまでかかるのに3000点!
志保15枚目(謎)
最終話Hパート 終わり
最終話Iパート
に続く!
[もどる]
「TOP」