同時刻……第三新東京市から南に数十キロ離れた地点にある崖の地下2万5千メートル……

「ようやく ヨグ・ソトースの封印を解く時が来た」
ほのかに青い光の中 渚カヲルは深遠まで続いているかのような穴を見下ろしながら言葉を紡いだ。

「準備はいいな……」
カヲルが呟くとどこから現れたのか穴の左右に綾波レイのクローン体がずらりと並んだ。

「レイ……君を取り戻す為なら何でもする……あの時誓った言葉は嘘では無い……
 今 ヨグ・ソトースの封印の為 永き眠りに入っている君の眼を開かせる為なら…… この身体が消滅しようと悔いは無い」
渚カヲルは自らの左の手首に右手の爪を這わせた。 次の瞬間左の手首から鮮血がほとばしり、
その血を一滴も零すまいと深遠へと続くかのような穴に注ぎ込んだ。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22I

最終話【魂(こころ)の帰える場所 】Iパート


「時は来たれり!」
渚カヲルがそう叫びながら手を振ると流れていた血はぴたりと止まった。

そして、いずこから手に入れたのか魔道書ネクロノミコンを取り出し、ページを開いたまま足元に置いた。
渚カヲルが纏っている赤黒い血の色のようなマントに、先程自らが流した血が少し染みついたが、
数秒としない内に見分ける事も出来なくなっていった
やはり黒猫も必要か……某先輩のように


「太陽と土星が定められた星辰につき、ひとつにして全てのもの・全てにしてひとつのものたる、

全ての時空の接するところに存在する時空世界の王たる ヨグ・ソトースの封印 いまこそ解かん!」
渚カヲルは呪文を口ずさむかのように朗々と話しながら右手を上げた。

次の瞬間地面を炎が走り、穴を中心とする炎の五芒星が形成された
そして、まわりを囲む綾波レイのクローン体は魔道書ネクロノミコンにのみ記された古の呪文を詠唱しはじめた。

少しして地鳴りと共に何かがせりあがって来るような音を聞きながらカヲルは満面に笑みを浮かべていた。



同時刻 ダム付近の国道

シンイチの駆る初号機と、ポジトロンライフルを手にした零号機は足取りの遅い零号機の速度に合わせて、
結界周辺に残っている敵に向かっていた。

「だから、イクコさんはその銃で後方から援護してよ 僕が危ないからって絶対出てきちゃダメだよ」
「私の使命は渚シンイチ……あなたを守る事……」
シンイチとイクコは通信を開いてミーティングを行っていた。

「僕の前に立ちはだかって守る事より、後方から僕の援護をする方が効果的に守る事が出来る時もあるんだよ」
「そこまで言うのなら……指示に従うわ」

生体兵器故か、零号機の腹の出血は止まってはいたが、腹を槍で貫かれた疵は深かった。
シンイチはイクコに後方からの援護だけに専念する事をようやく承認させて、安堵のため息をついた。

「始まったようね……」 通信を切った後イクコはそっと囁いた。


すでに結界の東端付近の戦場では、ロンギヌスの隊員の猛攻もあり、あらかたの掃討が終わっていた。

「マヤさん……結界内への進入は無いんですね」 シンイチは回線を開いてマヤに呼びかけた。

「北東と南東の方から国連軍の地上部隊が封鎖をほぼ完了しているので、その周辺に残っている数十体しか残って無い筈よ」

「そうですか……なんとか光明が見えて来ましたね」

「ええ……そうね」 マヤはコウジの事を言うべきか一瞬悩んだが、戦闘中のシンイチに要らぬ心配をかける事を恐れて言葉を濁した。


その頃、アヤは黒塗りのネルフの公用車に乗っていた。
TVのように白抜きでNERVなんて書いてません
「信号も意味無しか……」 人気の無い街並みを車窓から覗き見ながらアヤは後部座席で呟いた。

「定刻までには余裕で着きますよ 碇作戦本部長代理」
アヤの呟きを耳にしたのか運転をしている冬月がバックミラーを覗きこんで囁いた。

「あら、もうその事が伝わってるの? 辞令を受けたのは10分ぐらい前よ」
冬月はアヤとほぼ同年代の若い男性で、NERVの儀礼用の背広を着込んでいた。
アヤは冬月の事を運転手だと思っていたが、日向が補佐として誰か付けると言ってたのを思い出し、口を開いた。


「NERVの職員の殆どは世襲ですからね……私も死んだ叔父が副司令やってたもので大学卒業後にNERVの外務部に配属されたんですよ」
冬月は苦笑いを浮かべながら説明を始めた もっとも視線は前方を見つめたままなので、アヤは独り言を聞いているような感覚であった。

「確か私の祖父にあたる碇ゲンドウが司令をしていた時の副司令ですよね……」
「ええ……サードインパクトで死んでしまいましたけどね……叔父には子供がいなかったので私に白羽の矢が立ったんですよ……」

「ところで、シャトルの核融合エンジンを止める方法は何かあるのかしら……技術部の人は同行してないみたいだけど……」
「ブラックボックスもいい所でしょうからねぇ……ロンギヌスの隊員には技術者がいないようですし……
どうやら今回のような事態を想定してか、乗員に隠している機能とかもかなりあるようで……あ、技術部の人間は向こうで調査に入ってます」

「同じ目的を持つ組織なのに、どうしてゼーレはそんなに猜疑的なのかしら……」
アヤは今回のゼーレの要求を思い出し、表情を曇らせた。

「倦属を狩る能力を持つ者は、言い替えれば倦属と同等以上の戦力を有している訳ですから、洗脳されたりとか
精神汚染を受けた時に刃が自らの元へ返って来るのを恐れているんでしょうね……」
「酷い話ね……守るべき人間(ひと)にすら信用されないなんて……」

二人は少しの間押し黙っていた。

「打ち合わせをしておかないといけないわね……ちょっと疑問なんだけど遠隔操作って事はやはり衛星を経由してるんでしょうね……
ゼーレの衛星はどれぐらいばらまかれてるのかしら……」
アヤは手元の資料を見ながら冬月に話しかけた。

「NERVでさえ対地レーザーを装備した俗に言うキラー衛星を2基 情報収集用の衛星を4基を所持してますからねぇ……
ゼーレは範囲が広いだけに数倍の衛星を所持してるでしょうし、国連を介してアメリカの軍事衛星を使う事も出きるでしょう」

「NERVが衛星を打ち上げる時ってどうしてるのかしら……」 アヤは首をひねって疑問を口にした。

「CS放送の衛星が打ち上げしても軌道に乗らないとかで失敗する事がよくあるじゃ無いですか……
あの時は失敗と言いながら実はNERVの衛星を放出してるんですよ ハナっから放送衛星をH3に積み込んでなんか無いんですよ」

「そんな方法使ってたの……おおっぴらに出来ないからと言って……」

「おっと もうすぐ着きますよ」 
冬月の運転するNERVの公用車は第三新東京空港のゲートをくぐった。

ゲートをくぐる時、アヤはそっと東の空をかいまみた
今もシンイチが戦っているのだと言う事を確認するかのように……



その頃、シンイチとイクコは残敵の掃討を終了し、シンイチは報告の為に回線を開いていた。

「掃討 終わりました 深きものどももバイアクヘーも残っていません 国連軍による死骸の回収も始まっています」

「シンイチ君 イクコさん お疲れさま ちょっと待ってね司令所から新しい指示が届いたみたいだから」

「取り敢えず結界内に入って待機します」

「もうすぐこちらから連絡するまでお願いね」

「赤木先輩戻って来ないな……指示書が届くなりどこかに行ったけど……」
マヤは指示書を読みながら呟いた。


同刻 第三新東京空港

ハブ空港として存在している第三新東京空港発着の便が全便欠航となった為、
各社の旅客機が駐機している第三新東京空港の片隅に、シャトル”スピアー”はその黒光りのする機体を晒していた。
溢れんばかりに駐機されている旅客機をすり抜けて、冬月の運転するNERV公用車がスピアーの近くにあるNERVに接収されたフロアーの前に
止まり、作戦本部長代理 碇アヤと外務部主任の冬月ユウジが降り立った。

スピアーのまわりにはNERVの技術部の特殊車両が鈴なりになっているのを横目で見ながら、アヤはフロアーに入っていった。

二人はNERVの職員に案内されて急ごしらえの会議室に歩いていった。

会議室の周りはNERVのエージェントが封鎖しており、アヤと冬月は氏名と所属を述べて中に入った。

「アヤお姉ちゃん!」 会議室の椅子で所在なげに下まで届かぬ足を揺らしていたローラはアヤの姿を見つけるや喜色をあらわにして叫んだ。

「お久しぶり 一年ぶりかしらね ローラちゃん」
アヤはローラが緊張の連続であっただろう事を思い、笑みを浮かべてローラの元に歩いていった

ローラはアヤに抱きつこうかと一瞬考えたが、今の自分の立場を思い出し踏みとどまった。

「初めまして ロンギヌスの副司令のロレンスです」
ロレンスは流暢な日本語でアヤと冬月に挨拶をした。

「日本語がお上手ですね 私は作戦本部長代理 碇アヤと申します。 今回の折衝においては全権を任されて来ました」
その後、冬月を始めとするNERVや国連の職員が挨拶を始めた。


早速、技術部の派遣された技術者の代表を加えた現状の説明が始まり、会場の雰囲気は緊張に包まれていた。

「こちらでも調査してみましたが、遠隔操作を行っていると思われる装置は複数ありまして、更に下手に装置を取り外すと
外部からの遠隔操作を待たずして、核融合エンジンを暴走させて爆破するトラップの存在がある事が判明しました。
もっとも常にそのような危険な状態では無いようなのですが、すでに一度遠隔操作にて外部からの干渉を排除する設定になっているようです」
NERVの技術者の代表がホワイトボードにエンジンルームの写真を張りつけ、指差しながら説明をしていた。

「国連軍が所有する巨大輸送機で出来る限り解体してエンジン部分のみを搭載し、太平洋上で爆破させる案もありましたが、
エンジン部分の取り外しをトラップの調査をしながらするのでは到底間に合いません」

「船体を分解する事は危険に過ぎる……他の案を考えて貰いたい」

「なら彼らとローラ嬢を引き渡せとでも言うのかね」

「別にそうしろとは言っておらんよ」

会議室は喧騒に包まれていた。

「発言……よろしいでしょうか」 アヤは手を上げて立ち上がった。
「どうぞ」 議長役をしている冬月が答えた。

「今回のゼーレの処置に関して、NERVとして屈伏をしない事を全権を委任された者として宣言します。
人類を倦属や旧支配者から守るのが目的の国際機関が今回のような要求を出して来る事は許しがたい事です。
また、我々を信じて救援に訪れてくれたロンギヌス全乗員の為にも、ゼーレの要求を跳ね返す義務があります。

「碇作戦本部長代理殿……ではどのような方法をお取りになるのですか?」
国連の日本参事官がアヤに問いかけた。

「来る途中 考えたのですが、この事態を収める事が出来るのは、エヴァンゲリオンによるスピアーの無力化しか無いと思います」

「をを……エヴァンゲリオンが現存すると言う噂は真実だったか……」

「具体的にはどうされるのですか!?」
数人の出席者が口早に質問した。

「残念ながら資料をお渡しする事は出来ませんが、私にアイディアがあります。
エヴァンゲリオン初号機がイタカとダゴンを消滅させた兵器による破壊です。」

「馬鹿な! どこで破壊すると言うのだ まさかここでなどと言うんじゃ無かろうな」
日本政府からの出席者が椅子が倒れるのもかまわず立ち上がって言った。

「ここ、第三新東京国際空港においてです」 アヤは胸を張って答えた。
会議室は一瞬の後に喧騒の渦となった。


同時刻 第三新東京市から南に数十キロ離れた地点にある崖の地下2万5千メートル……

地下の洞窟に不似合いなヒールの音が鳴り響いていた。

「サードインパクトで ヨグ・ソトースが降臨した時に母親がヨグソトースの精を受ける事によって産まれた男を連れて来ました」
灰色のドレスを着たうら若い女性が説明的な台詞を吐きながらカヲルの後ろに歩いて来た。

「姿が見えんと思っていたが、まだそんなものを探していたのか……
カヲルは振り向きながら、灰色のドレスの女性に叱責するかのような口調で怒鳴った。

「ところで、その男はどうした 姿が見えんようだが……」

「さっきまで立って歩いていたのですが、先程意識を失いました」

灰色のドレスの女性が指差した先に伊吹コウジが肩から血を流しながら青ざめた顔で床に倒れていた。




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どうもありがとうございました!
今回はやばかった 思わずIパートをミッシング・リンクにしようかと思いました(爆)


最終話Iパート 終わり

最終話Jパート に続く!



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