裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22L

最終話【魂(こころ)の帰える場所 】 Lパート

   総集編 その1
        (アニメでも13話ぐらいに総集編入るよね(^^;)



時に西暦2042年 第三新東京市は嘗て無い脅威に晒されていた。
地を埋めるがごとく進軍を続ける深きものども(Deep Ones)
深きものどもを統べる海獣ダゴン (Dagon)

空を駆けるはバイアクヘー(Byakhee) 青空が黒く陰るがごときの大軍である。
そして、”風にのりて歩むもの”風の王イタカ(Ithaqua)の襲来である。

NERVは第三新東京市に張り巡らせた結界で侵入を防ごうとするが……



1.襲来

AM5:00 第三新東京市の東の空に太陽がその姿を現しはじめた
整然と区画整理のなされた街並の殆どの家では
地下で起こっていた事など知らずに未だ眠りについていた……
遠隔地への通勤なのか眠そうに眼を擦り首を鳴らしながら駅へと向かう
40代の一人の男がふと西の空を見上げて動きを止めた。
「ん?……」男は眼をもう一度擦りヤニを取り除いてから再び顔を上げた。
数秒の間 男は西の空を見上げ続けていたが、
男は突然その場に座り込みうわごとのように妻と子の名を繰り返し呟きはじめた。
その男は何を見たのであろうか……

そして、NERV本部でもパニック状態になっていた。

「この時間ならまだ家の中に殆どの住民がいる筈だ 外出禁止令を発令しては!」
「こういう場合は外出禁止令じゃ生ぬるい! 非常事態宣言を出すべきだ!」
「何!? だがどこに逃げろと言うんだ 下手に家から出て卷族に狙われでもしたら……」
副司令の一人 青葉と実務部門でのトップ日向は互いに持論をぶつけあっていた。

「こういう時にこそ落ち着かないでどうする!」
その時、アスカとアヤに支えられた碇シンジが発令所に姿を現した。
「まずは他国の機関への報告と救援要請! そして住民には非常事態宣言を出すと共に、
戸外への外出を禁止! そして国連軍と内閣に報告だ!」
「ゲージに移動している赤木博士を呼び出し、エヴァンゲリオンの出撃準備を!」
シンジは発令所内の職員に的確に指示を出していった。

この時点での侵攻側の残存兵力(深きものども:300 バイアクヘー(200) ダゴン イタカ) 


2.エヴァンゲリオン初号機 出撃


地下ケイジにて、シンイチが乗るエヴァンゲリオン初号機は、高機動バーニアと

銃身のサイズのフィールドを作り出しそのフィールド内の物質をディラックの海と呼ばれる
虚数空間を経由させて遥かな外宇宙にまで放り出すと言う兵器を装備し、出撃の時を迎えた。


「今だ! エヴァンゲリオン発進!」

シンジは立ち上がったまま司令所の隅々まで聞こえる程の大声で司令を出した。

同時刻 最下層1番ゲージ
「シンイチ君 発進命令が下ったわ 5秒後にカタパルトより発射します!」
「了解!」 シンイチはついに自らの存在理由を得た喜びもあってか堂々としていた。
「碇シンイチ君……日本は君の双肩にかかってるわよ……頼んだわね」
「碇?」 最後に言い残したリツコの言葉の真意を問いただす暇も無く、
エヴァンゲリオンを載せたリニアカタパルトは動作し、操縦席にいるシンイチに数Gの
衝撃を与え続けて地下に掘られた通路を時速100kmで進んでいた。

5分後 双子山の左側の山がスライドし、十数年ぶりにエヴァンゲリオンがその姿を現した。

「エヴァンゲリオン初号機パイロット 碇シンイチ出撃します」
次の瞬間初号機はカタパルトごと空中に飛び出しバーニアが点火され
カタパルトを山腹に落としながら高度500mまで上昇していた。

3.エヴァンゲリオン零号機 出撃

その頃 第二コントロールルームでは、エヴァンゲリオン零号機のコクピットにいる
綾波レイのクローン体とリツコが出撃前の会話を初めていた。
「聞こえる?」 「ええ」 「ところであなたの呼称だけど……付けられた名前は無いの?」
「名前……NO19……それが私に割り振られた番号……」
「じゃこちらで勝手に付けるわね……そうね19だから綾波イクコでどう?」
非情のマッド・サイエンティストと陰口を叩かれているさしものリツコも先程の台詞には
多少ショックを受けていたのか、まるで猫に名前を付けるかのような安易さではあったが、
いくぶん愛情のこもった目で綾波イクコを見ながら言った。」

「問題ありません……」
無表情で言葉を返すイクコではあったが先程までの張り詰めた表情はいくぶん和らいでいた。
「私の出撃は……まだですか?」 イクコは少し所在なげにリツコに問いかけた。
「どうかしたの? 出撃準備に少し時間がかかってるから少し待ってね
(碇司令にすぐ解るような出撃させる訳にはいかないものね……)」
「渚シンイチは……無事ですか……」 聞き取りにくい程の小声ではあったが、
リツコはヘッドセットを耳に押し当ててイクコの言葉を聞いた。
「出撃したばかりだし、まだ結界を突破した卷族はいないからまだ戦闘は始まって無いわ」
リツコは怪訝そうにモニターでイクコを見ながら答えた。
「……右のコントロールパネルの左から二つめのボタンを押してみなさい……」
リツコの言葉を聞き、イクコはコントロールパネルに即座に手をやった。

「え……通信?」 少しして操縦席に座っているシンイチの姿がコントロールパネルの
画面に映し出された。
「君は……」 「私……名前を貰ったわ 綾波イクコ……それが私の名前よ」
「イクコか……いい名前だね……」
「出撃準備が整ったからあと1分よ」 その時、リツコが会話に割り込んで来た。
「あなたは……私が守るから……何があっても……例えそれが私に埋めこまれている
命令だとしても……」 イクコは言いおわるとコントロールパネルの先ほどのボタンを 押して、
シンイチとの会話を終了させた。

「本当にルート23からの出撃でいいんですか?」
「ええ……」 ・だってエヴァが通れそうなプールも滝も無いんですもの

数分後 綾波イクコの乗る零号機がリフトによって第三新東京市を少し出た所にある
第三新東京市の電力の3分の1をまかなう水力発電所のあるダムの放水口の下のゲート が開き、
その中からエヴァンゲリオン零号機がその姿を現した。
「そこは結界に守られていないから、もう少ししたら卷族の一派が押しかけて来ると
思うから、そのダムと発電所を死守するのよ!」
リツコはイクコに指示を出して、ようやくコーヒーが飲めると思ったのか、
猫のロゴ入りのマグカップを手にとった。


4. 結界突破

NERV司令所
「碇司令!結界を突破した卷族がビヤーキーの三倍の速度で高々度より接近中だそうです」
日向は血相を変えてシンジに報告した。
「迎撃体制は整ってるな その卷族を超超望遠カメラで補足出来ないのか!」
「今やってます! スクリーン写します!」 少しして司令部の巨大なスクリーンには曇天の中 
獣のような黒い輪郭が映し出され、 イタカの目の部分の鮮紅色の二つの星が輝いた瞬間、
その画面を見ていたNERVの職員全員が昏倒し、ばたばたと倒れていった。

「切れ! 今すぐ画面を消すんだ!」
シンジは即座に寄り添っていたアスカとアヤに目を 瞑るように指示してから叫んだ。
レーダーを見続けていたので画像を見ていなかった職員が咄嗟に画像を消したものの、
いまだに半数以上の職員が起き上がって来なかった。

「あれが……もしかして……肉眼だったら即死だったわね」
消えた事をシンジに教えられてアスカは目を開いた。
「おい しっかりしろ!」 「うう……」 手の開いている職員が昏倒した職員を解放している間にも、
レーダーに映し出された イタカを示す光点がシンイチ操る初号機上空に近づきつつあった。
「シンイチに通達! 外部カメラを切るように伝えろ!」
「了解!」 シンジも完全に無事では無かったのか肩を振るわせながら指示を終え、椅子に背を預けた

「お父さん……さっきのは何だったの?」
「そは 風にのりて歩み死を運ぶもの 大いなる白き沈黙の神……風の王イタカ……
あの伝説は本当だったのか……」 シンジは声を振るわせながら言った。


5.術者
結界を維持するのに必要なものは術者と電力である。
第三新東京市の四方に 術者と術者をガードする者が結集していた。

シズカ

「お父さん……私 行って来るから」
山際シズカは手回りの荷物を詰めたサイドバッグを手に二階の自室から降りてきた。
「私がおまえの祖父である私の父のような力があれば、可愛い娘には行かせないのだが」
山際シズカの父であり、この神社の禰宜である山際オサムは娘の肩を抱いて言った。
山際シズカの祖父である山際ミチオはサードインパクトの際NERVに馳せ参じ、
旧支配者の一柱の封印をしようとしている所を、深きものども(ディープワンズ)に 殺されたのであった。
「この霊剣を持って行きなさい……きっとおまえを助けてくれる事だろう……」
山際オサムはつい先刻までこの神社の神体として設置されていた脇差程の大きさの
霊験あらたかな霊剣を手渡した。

ミドリ


「あ、ごめんね……樹島ミドリさんが志願して敵が攻めてくる方向の結界を維持する為の
術者として前線に赴くらしいの……」 マヤはシンジに淡々と伝えた。
「ミドリさんが前線に?」
「ええ……NERVでナンバー1だったパイロットの操縦するハリアーmk3で前線に向かう そうよ……」
「シンイチ君 ミドリちゃんは俺がちゃんと送り届けるから心配するなよ」
その時、シンイチとマヤの会話に何者かが割り込んで来た。
「その声は……加持さんですか? もしかして」
「ああ……腕は鈍っちゃいない筈だ ミドリちゃんも挨拶したかっただろうけど、
もう瞑想に入ってるんでな……じゃ、お先に失礼」
通信機の向こうからジェットの推進音が聞こえはじめ、そして回線は切断された。
「僕だけじゃ無いんだ……みんな みんな……戦ってるんだ」

護る者たち……

「よりによってあんたまでもがここに来るとはねぇ……」
作戦本部長の葛城ミサトは隣に座っている夫である加持リョウジを見て呟いた。
「ま、人手不足だからねぇ こんなロートルでも最前線って訳さ」
加持は術者の精神集中を妨げる為に禁止された煙草が恋しいのか、
口に9m弾を咥えて 銃の整備をしていた。

「いまどきそんな銃を使うなんて……ほんとロートルね」
ミサトはNERVの制式銃のエネルギーパックの予備を点検しながら言った。
「なぁにこいつは特別でね エルダーサインの護符をつぶして作った弾丸なんだよ」
加持は咥えていた銃弾を装填しながら言った。

「どうでもいいけど、足 引っ張らないでよね」 「おまえもな」
二人はお互いの顔を見て不敵な笑みを浮かべた。

6.初号機 vs イタカ 前哨戦

エヴァンゲリオン初号機操縦席……

{{聞いたよね……兄さん}}
{ああ……外部カメラは全部切っているのはこちらでも確認済みだ……}
{{そうじゃ無くて目隠しで戦闘なんか出来る訳無いじゃ無いか……}}
{どうやらカメラを切れって事はイタカのようだな……肉眼でその影を見た者は死に、
カメラ等でも昏倒してしまう程の卷族……いや旧支配者の一柱と言ってもいい程の存在だ}
{{じゃ、ビジョンではどうなの?}}
{やってみないと解らないが、肉眼で視るよりも影響は大きいかも知れん…… }
{{方位と高度は解るから大体の狙いを付けての射撃しか無いよね……サポートしてよ}}
{ああ……} シンイチは通信を開き、作戦をマヤに伝え イタカの来襲を待ち受けた。

そして……

{もう覚悟は出来てるんだな? 準備は出来てる……  だが5秒以上直視するのは危険だぞ}
{{うん……やろう 兄さん!}}  数秒後シンイチは兄からのビジョンで周りを見渡した。
{イタカは3時の方角だ 振り向きざまの一撃で決めろ! チャンスは一度だけだぞ!}
{行くよ! 兄さん} シンイチはエヴァの胴体を捻らせながら向かって来るイタカに銃身を向けた。

7.加持リョウジ・葛城ミサト 壮絶な死

イタカが結界を突破する少し前……
第三新東京市の東端近くにあるマンションの一室を 利用しての術者詰め所では、
樹島ミドリと山際シズカと古参の術者の三人が結界の呪文 の詠唱を続けていた。
加持とミサト そして数人のNERVのエージェントが隣の部屋で待機していた。

「イタカは直視しちゃいけないのに、どうやって戦ってるのかしらね」
ミサトが戦闘服の膝の上に落ちた栄養補助食品の粉を払いながら言った。
「ま、シンイチ君の事だ 何とかしてるんじゃ無いかな……」
「凄い希望的観測ね……まぁ、そうでなきゃこんな状況で正気を保てないわね」

裏切り……
「なんか身体がだるく無い? 身体の反応が悪いって言うか……痺れてる感じ」
「俺達ももう年だからかな……緊張の連続に堪えられなったらロートルどころか、 引退なんだが……」
「これから正念場だ 気を引き締めろよ」

部屋の隅ではガード役のエージェントが集まりミーティングを行っていた。
「それでは点呼する 1!」 「2!」「3!」「4!」「5!」「6!」「7!」「8!」「9!」「10!」「11!」
「ん? 私の隊は10人の筈なのに……11人いる!」
ガード役の隊長が異変に気付いた時、惨劇は始まった。
一番外側にいたエージェントの中で一番若い男性が肩からかけていたライフルで、
部屋の隅に密集していた10人のエージェントめがけて乱射したのだ。
悲鳴と怒号が渦巻く中、異変に気付いた加持とミサトは立ち上がろうとしたが、
身体が麻痺したかのように動かず、銃を取る事しか出来なかった。

だが、その一瞬が勝敗を分け、3連射であらかたのエージェントを血の海に静めた若い男が
振り向きざまに脇に釣っていたNERVの制式拳銃を 
今にも照準が合わさりかかっていた ミサトに向けて頭に二発心臓に二発の計4発を放ったのである。
ミサトは重い身体を引きずり横っ飛びした為、頭への命中は避けたものの右胸と腹に一発 づつ命中し、
ミサトは銃を取り落として床に崩れ落ち、灰色の戦闘服はあっと言う間に、 血の赤い花が咲き乱れた。

そして……

「リョウジ……あの子達を守ってあげて……私はもう助からないわ……」
「勝手に通りやがれ……」 加持は足で自分の銃を蹴り飛ばしながら言った。
「リョウジ!」 ミサトはリョウジの行動に驚き、血の泡を吹きながら叫んだ
「いい心がけですね」 謎の青年は後ろずさりしながら、術者のいる部屋へと続くドアへと近づいていった。
「ん? 鍵はかかって無い筈だが……」 謎の青年は自動小銃を肩にかけて、右手で制式銃 を持ち、
左手を背中に回し後ろ手でドアノブを回そうとしていた。

「命の為に卷族の要求を飲むなんて、死んでも出来ないよな ミサト!」
その瞬間 加持リョウジは麻痺しているとはとても思えない程のスピードで立ち上がり、
ドアを背にしている謎の青年に突進した。
虚を突かれた為 一瞬反応が遅れたものの、謎の青年は制式銃の引き金を三度引き絞った。
次の瞬間 撃たれながらも突進を続けた加持は謎の青年にタックルし、ドアに押しつけた。

「シズカちゃん 今だ!」 タックルした後も腹に銃を押し当てられて二度三度と引き金を絞られたにも
関らず、加持は大声で扉の向こうにいる山際シズカに叫んだ。
シズカは詠唱を二人に任せて二人を守る為に父から預かった霊剣を手にして扉の前にいた。
状況が完全に掴めなかったものの、加持の叫びを聞くと同時に霊剣を扉に向けて垂直に
全身全霊を込めて突き出した。

まるでバターを切るかのようにすっぱりと剣は柄の辺りまでドアに刺さっていた。
その時 ドアの反対側では、謎の青年の心臓とリョウジの胸の中央をも霊剣が突き刺し、 リョウジの背中には剣が生えているかのように剣先が顔を出していた。

そして……

「リョウジ……よくやったわね……」 ミサトはもう殆ど見えていない目で加持を見ながら嬉しそうに呟いた。 「馬鹿……喋るなよ……何も言わなくても………俺達は夫婦……」

「加持さん 加持さん! そうと知ってたら……そうと知ってたら……」
目の光を失った加持を見てシズカは泣き叫んだ。

「先に…いっちゃったのね……シズカちゃん……リョウジは使命を果たしたのよ……
誉めてあげてね……」 ミサトはその言葉が遺言となった。

だが非情にも術者が一人に減ったが為に東方の結界がゆるみ、
兄のビジョンにて イタカに攻撃をかけようとしたシンイチに多大な影響を与えてしまった事に
二人は未だ気付いてはいなかった。


8.初号機 vs イタカ 決着

そしてシンイチが視界内にイタカをおさめ、引き金を引こうとしたその瞬間!
先程術者が減ったが為に結界を突破して来たバイアクヘー十体が左方から初号機に突進し、
銃身がイタカからそれてしまい、シンイチは引き金から指を離した。
イタカの両眼の中心を狙う為4秒程かけて狙っていた為、これ以上は危険だと感じた兄が
強制的にビジョンを切った。
{{兄さんっ }} シンイチは何故止めたとばかりに兄に呼びかけた。
{あと二秒も見てたら良くて失明下手すりゃ死んでたぞ}
そうしている間にもバイアクヘーは初号機に体当りを敢行し続けていた。
{せめて機体が揺れなければ、観測機と連動しているコンピューターからデータを貰えるんだが、
こうもぶつかられちゃ無駄撃ちにしかならんっ}

そして……

「どうやら無視界でイタカを狙い撃とうとしてるようですが、バイアクヘーの妨害にあっているようです」
マヤはコンソールの画面を見ながら叫んだ
「先輩 第二コントロールルームから通信です」  「すぐ出るわ」

ヨシコはその様子を身体を振るわせながら聞いていたが、ついに決意し呪文を発した。
イア イア ハスター! ハスター
クフアヤク ブルグトム ブグトラグルン ブルグトム アイ アイ ハスター!


本来ならバイアクヘーを呼び寄せるのに呪文など必要としないヨシコではあったが、
イタカの指揮下にいた為、もっとも上位の存在であるハスターに働きかける為に、
バイアクヘー召喚の呪文を唱えたのであった。

そして……

{{{止めなさい!}}}  その時 シンイチは三谷ヨシコ……いや風谷ミツコの声を聞いた。
次の瞬間には初号機を苛み続けていたバイアクヘーが離れて行き、
シンイチはようやく自由になった初号機を駆り、イタカの波動から逃れた。
{{兄さん もう一度頼むよ}}  {いや、危険だ 別の方法を考えよう}  {{別の方法?}}
{さっき波動を発していたのはどうやら狙っていたイタカの両眼の中心のようだ}
{ {って事は波動を辿ってその発信源を撃てばいいんだね!}}
次の瞬間 シンイチは兄が止めるのも聞かず 再びイタカの発する波動の中に身を置いた。

{無茶しやがって まったく骨が折れるぜ}  {{ん 掴んだ 撃つよ 兄さんっ!}
シンイチは引き金を引き絞り、銃身から発せられた光はイタカの両眼の間を貫き、
数秒後にはこの世のものとは思えないような響きの叫びが第三新東京市を包んだ。


9.たった一人の反乱……

シンイチとイクコが決意を固めていた頃……
ゼーレの現議長であるキール・ローレンツの私邸では、
実行部隊”ロンギヌス”の司令官とゼーレの議員を兼任しているマリコ・ローレンツが
義理の 父であるキール・ローレンツに詰め寄っていた。

「義父様 何故日本への支援を行わないのですか! NERVがもし壊滅するような事があれば
日本は卷族どもの格好の隠れ場所となり、NERVやゼーレの存在が明るみに出る可能性も、
否定出来ません その際には卷族に対抗する組織でありながら何故傍観したのかの責任を
問 われる事ぐらいおわかりでしょうに!」
彼女は火を吐くような勢いで話し続けていたが、聞いているキールは涼しげな表情のままで あり、
事体の深刻さに気付いていないかのようであった。

キールはマリコの説得に応じず、更に恐ろしい計画を口にした。

「……私が息子を殺された事を忘れる? はっ そんな事がある訳無かろう……
幼い頃より私の後を継がせる為に英才教育を施し、ゼーレの誰もが文句を言えない程の実績 を上げ、
数年後には代替わりする筈だった息子を殺された事を忘れるなんて事ありはしない
それどころか、私は息子を殺した卷族をこの手で殺せる事の喜びに打ち震えているのだよ」
キールは段々と恍惚そうな笑顔始めたが、その笑顔は狂気と言っても差し支えなかった。

「ならば何故……はっ……まさか……」
「君の想像の通りだよ 第三新東京市に数え切れない程の卷族が押し寄せてるそうじゃ無 いか……
こんなチャンスは二度と無い……私の息子を間接的に殺したNERVへの報復も出 来ると言うものだ……」

キールは引き出しを開け引き出しの中のコンソール群の下の鍵穴に、懐から取り出したキ ーを差し込みながら言った。
「まさかN2弾頭仕様のICBMでは……」 数年前に実用段階になったものの、
あまりの威力に使用を控えていた兵器がマリコの頭に浮かんだ。

マリコは最後の手だてとして娘とロンギヌスのメンバーを独断で日本に向かわせたのであった。


「君をロンギヌスの司令職から解任すると共に事が終わるまで監禁させて貰う……残念な 事だがね」
キールが手をさっと振ると控え室から黒服のエージェントが二名現れ、
マリコ・ローレンツの左右から近づき拘束しようとしていた。
「ローラ……聞いてたでしょう ロンギヌスはあなたに任せたわ副官のロレンスと相談して事を運びなさい
さぁ、日本へお行きなさい!」
キールと話している間も電話が繋がっていたのか、マリコはエージェントの手から逃れて
受話器を押し当てて早口で喋った。

「マリコくん……き……君は自分が何をしたのか解っているのかね」
死んだ息子の一粒種であり、ローレンツ家とゼーレの次期議長を継ぐ筈の孫娘 
ローラ・ ローレンツが死地に向かうと聞き、狂気めいた顔つきから覚め今では青ざめていた。
「ゼーレの議員でありロンギヌスの司令としての権限が残っている今日の朝7時を持って、
ロンギヌスの司令をローラ・ローレンツに委譲しました。 何の問題も無い筈です」
マリコ・ローレンツは黒服のエージェントに多少手荒に保護されながら叫んだ。
「自分の孫娘を殺す決断が出来たのなら、そのキーを回すがいいわ」
マリコは呆然としているキールを横目で見ながら連行されていった。


その後 イタカを倒した初号機と日本に到着したロンギヌスのメンバーが合同で
結界の周りの掃討を始め、かなりの数の深きものどもを倒し、初号機は零号機の元へ急いだ。

この時点での侵攻側の残存兵力(深きものども:150 バイアクヘー(100) イタカは消滅 ) 


10.零号機 vs ダゴン

「赤木博士……敵が現れました」
発電設備の前で仁王立ちしている零号機のコクピットにてイクコは通信回線を開いていた。
レーダーには不吉を告げるかのように赤い光点が多数瞬いていた。

そして、零号機の元に深きものども100体とダゴンが押し寄せて来た。


またたく間に一体は二体となり、数え切れない程の深き者どもが零号機の前に終結しつつあった。
イクコは武器として与えられたポジトロンライフルの銃口を下に下げて、第一射を放った。
最初の一撃で10体程の深き者どもを蒸発させたものの、残りの90体程が密集隊形から
10体前後ごとの小隊に別れ、多方向からダムに向かいはじめたのだ。
途中にある川もものともせず、ひれのついた足でぴちゃぴちゃと進んで来る姿は異様だった。

ある時は零号機の足で踏みつぶし、ある時はポジトロンライフルの斉射でなぎ払い、 獅子奮迅の働きを続けていた。 深き者どもの掃討をほぼ終え、イクコが通信回線を開こうとしたその時 背後から巨大なトライデントが途中にあったビルを突き抜けてイクコの乗る零号機に 風を引き裂いて飛来して来た。

零号機はトライデントの勢いに押され背中から槍を突き出したままダムの外壁に衝突した。
幾重にも渡る衝撃吸収装置が無ければその段階でイクコは死亡していたであろう……
武器を失ったにも関らず先程巨大なトライデントを放ったダゴン……
深き者どものサイズを数十倍し、零号機よりすこし大きなその巨体がビルの影から 現れるのを、
ダムの外壁に縫い付けられた零号機の中でイクコは青ざめた顔で見ていた。

初号機と合流 そして……


「シンイチを……守るのが……私の指命」
イクコは力を振り絞って、零号機に突き刺さっていたトライデントを引き抜いた。
だが、先端が鉤形になっていた為、零号機の肉体の破損も激しかった。
シンクロしているイクコも相当のダメージを受けた筈だが、
イクコは引き抜いた槍を 杖にして零号機を立ち上がらせようとしていた


いつしか遠くで聞こえていた戦闘へりの爆音も止んでおり、シンイチは焦燥感に駆られた。
「マヤさん 零号機周辺に残存する国連軍の戦力はあとどれぐらいですか?」
シンイチは回線を繋いだが返事はすぐに帰って来なかった。
「あ、ごめんなさい……残り戦力は戦闘ヘリ3機 MLRS2機よ ビーコンを発し続けている機体の数だ
から 戦闘能力を全ての機体が保持しているとは限らないわ もう少しよ 急いであげて」
「わかりました!」 シンイチは回線を切り最短ルートを探す為にレーダーとGPSを交互に切り替えなが
ら ダゴンの背後を突き急襲すべく攻撃地点を選択していた。

「見えたっ!」 ビル街を抜け開けた平野部に出た時、ダムの手前で対峙しているイクコ操る零号機とダ
ゴンの姿 をシンイチは視認する事が出来た。  更に歩を進めると、足元にポジトロンライフルを落とし、
三叉の槍でダゴンと戦う零号機の胸から体液が 血のように 流れ続けているのに気づき 
シンイチは激昂し初号機を大きくジャンプさせバーニアを吹かした。

{{いけぇ〜〜}} シンイチはバーニアをフルバーストまで噴射させてダゴンの上空に向かっていた。
{打ち合わせ無しにいきなり飛びやがって……出力不足か……仕方無いな……}
そのままではダゴンに体当たりしそうになっていたが、数秒後に限界出力より数十パーセント程上まし
され、 どうにかダゴンの上空コースを取る事が出来た。

{{兄さん……照準固定モードの補足をしてよ……兄さん?}} だが返事が無かったのでシンイチは
震える手で スティックを握りしめて、照準をダゴンの頭頂に合わせて  
上空を通過した瞬間に引き金を引いた。

次の瞬間 迸る七色の虹にダゴンは頭頂上から胴体を打ち抜かれ、
ダゴンを構成していた核(コア)は ディラックの海を経由して外宇宙に放り出され、ダゴンの身体の残骸は崩れ落ちていった。


その後 初号機と零号機は結界周辺に戻り、結界周辺の敵の掃討を終えた。
その後、アヤと初号機はロンギヌスのシャトル”スピアー”の除去に成功していた。



そして…………

第三新東京市から南に数十キロ離れた地点にある崖の地下2万5千メートル……

「ようやく ヨグ・ソトースの封印を解く時が来た」

ほのかに青い光の中 渚カヲルは深遠まで続いているかのような穴を見下ろしながら言葉を紡いだ。
地上では日も高くなりビルのコンクリートの壁がジリジリと熱せられているこの時間だと言うのに
地下2万5千メートルのこの場所はひんやりとした冷気に包まれていた。

「準備はいいな……」
カヲルが呟くとどこから現れたのか穴の左右に綾波レイのクローン体がずらりと並んだ。
「レイ……君を取り戻す為なら何でもする……あの時誓った言葉は嘘では無い……  
今 ヨグ・ソトースの封印の為 永き眠りに入っている君の眼を開かせる為なら……  
この身体が消滅しようと悔いは無い」
渚カヲルは自らの左の手首に右手の爪を這わせた。

次の瞬間左の手首から鮮血がほとばしり、
その血を一滴も零すまいと深遠へと続くかのような穴に注ぎ込んだ。



シンジ達はヨグ・ソトースを押え込んでいると信じている渚カヲルが、

その裏ではヨグ・ソトースを目ざめさせようとしていた……

だが、その事をシンジ達NERV職員も シンイチ達も知る由も無かった。

第三新東京市は一体どうなるのか……明日は……まだ見えない。




御名前 Home Page
E-MAIL
ご感想
          内容確認画面を出さないで送信する

どうもありがとうございました!


最終話Lパート 終わり

最終話Mパート に続く!


[もどる]

「TOP」