裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22M

最終話【魂(こころ)の帰える場所】Mパート

「第三新東京国際空港から入電! 時間より早くスピアーの自爆命令が
発せられたものの、碇アヤ作戦本部長代理と初号機パイロット 渚シンイチにより、
無事 スピアーを無力化したそうです」 通信担当の職員が立ち上がって叫んだ。

「そうか……」 
シンジはその報告を聞き、これまで呼吸を堪えていたかのようにして吐息を漏らした。

逐次状況は知らされて来ていたものの、一つ間違えればロンギヌスの自爆に巻き込まれる
恐れのある所に娘を行かせた事に、多少の後悔をも感じていたのであった。

「結界周辺の残存勢力も、ロンギヌスの隊員の尽力により、壊滅しました。
司令……外出禁止令を解きますか?」 副司令の一人 日向がシンジに具申した。

「そうだな……だが、何故外出禁止令が発せられたのか……その説明が必要だな……」

「イタカが消滅する際に発せられた波動はカンのいい人なら数日は悪夢を見る程の
影響力があるでしょうし……うすうすは気づいてるんじゃ無いでしょうかねぇ」


「司令! 大変です」
その時、碇アスカが緊迫した表情で司令所の中に走り込んで来た。

「外交筋で何かあったのか?」
妻であり、副官でもあるアスカの表情を見てシンジは多少驚いていた。

「スクリーンに民間放送のチャンネル5を映して!」
アスカは息を整える間も無く、オペレーターに向かって叫んだ。

「NERVの存在が……明るみに出るのも時間の問題です……」
アスカはシンジの脇に移動して、スクリーンを指差した。


画面にはいつも昼からやっている奥様向け番組のスタジオが映っていた。
だが、画面下に”み○も○たの ちょっと聞いてよ 生電話”のテロップの代わりに
”第三新東京市に襲来した、謎の生物の正体とは!!”と書かれていたが、
番組は始まったばかりでスポンサーの紹介が流れていた。

「何故だ!外出禁止令を守らなかった社があるのか……」
日向は思わず爪を噛んだ。
実務部門のトップとして、シンジの命令である緊急事態宣言と外出禁止令を
日本政府に通達し、強権を発動させたのに、今回のような事になったのを
心底嘆いているようだ。

「おい、日向 このテレビ局は松代が本拠地だぜ 緊急事態宣言も外出禁止令も
第三新東京市と隣接區域だけだぜ おまえに責任は無いよ」
青葉は小声で日向に囁いた

「始まるわよ……」 アスカはさりげなく青葉と日向に注意した。


「えぇ〜〜本日は第三新東京市に現れた謎の生物について緊急レポートしています」
70歳も半ばを越した今も主婦のアイドルであるタレントが真剣な顔で
マイクを握り締めていた。

「今朝7時ごろ 第三新東京市に非常事態宣言と外出禁止令が発せられました
政府筋からはその理由について何の解答も得られなかったのですが、
偶然 早雲山の早朝の風景を撮影に行っていた取材班が、
第三新東京市が非常事態宣言を出す事になった理由と思われる存在を発見しました。
それでは、その時のVTRをどうぞ」


「え〜 今朝は早雲山からお送りしております レポーターの橋口です」
男性のレポーターが早雲山のケーブルカーの駅を背後にして立っていた。

「橋口さーん こっちを見て下さいよ ほら、アジサイが咲き乱れてます」
女性レポーターの声と共に画面が切り替わった。

画面には早雲山頂上付近から強羅方面を望む風景が映し出されていた。

「セカンドインパクトが起きる前は7月から9月だけに咲いていたアジサイなんですが、
現在では一年中咲き乱れており、この辺りでは花屋向けのアジサイの出荷が年中行われて
るんですよ〜 で、遠くに見えますのが、強羅ダムです 水面が輝いていて奇麗ですね」

「あれ? ちょっとカメラさん あれ、強羅ダムですよね……ズームにして貰えますか?」

「山田さん どうかしたんですか?」
男性レポーターが”打ち合わせに無いぞ”と言う声で叫んだ。

「あ、もうちょっと右上……そこをズームして……あれよ!
画面には、強羅ダムを背にしてポジトロンライフルを乱射している零号機が映っていた

「何だ ありゃあ……」

「見て、小さいけど妙な生物が沢山いるわよ!」

「映画の撮影か?」
「馬鹿言うな!」
「おい……ちょっと誰か強羅ダムに電話してみろよ」

「ダメです 通じません」
「おいおい〜冗談じゃねえっての」
「いっそ、あれ無視して撮りなおすか?」
「生放送じゃ無くて良かったな……」

「おい……」 一人のスタッフが震える声で呟いた
「どうかしたか?」
「あれ……見ろよ」
「あれ? 山じゃねーの? ゲッ動いた」

「な、何だよありゃ〜」
画面にはダゴンがズームで映し出されていた。

「おいっ 本社に電話したら、朝から第三新東京方面は緊急事態宣言と
外出禁止令が出てるそうだぜ! 撮影止めてすぐ帰って来いってさ」
プロデューサーらしき男が携帯フォンを畳んで言った。

そして、画面は再びスタジオに戻された。

「先程の映像は決して作り物ではありません……
現在も第三新東京市は緊急事態宣言と外出禁止令が解除されていません。
通常の電話回線は不通でしたが、携帯フォンで第三新東京市駐在の記者と
連絡が取れました それでは、駐在記者の池口さんにいくつか質問してみます。

「え〜 現在の状況はどうなってるんでしょうか」
「さっきまで銃撃の音とかも聞こえてましたが、今は止んでます」
「では、今朝からの事を順序だって話して貰えますか?」
「ええ……今朝6時ごろに起きて出社しようと外へ出たんですが……」
何かを思い出したのか、語尾を振るわせながら記者が言った。

「東の空から空を飛ぶ大きな鳥のようなものが上空を飛んで来たんです
で、私 驚いて悲鳴を上げたんです すると隣の家の人が顔を出して、
外出禁止令になってるって言うじゃ無いですか……実際何が起こってるのか
良く分からなかったので、そのお隣さんに話を聞いたんですよ」

そうしてる内に今度はズシンズシンって音が響いて来たんですね……
で、隣の家の二階に上がらせて貰って窓から外を見たんですが、
紫色の巨人が飛び跳ねながらこちらに向かって来るじゃ無いですか……
私は夢でも見ているのかと思ったのですが、先程の巨大な鳥のようなものと
その巨人が戰闘を始めまして、隣の家の家族の方は危険だと言う事で下に降りた
んですが、私はその模様をずっと見ておりました。

少しした頃、周りが薄暗くなりまして……空を見上げたら……紅く光る二つの星の
ような物が見えたんですが、次の瞬間には失神していまして、
1時間程前 隣の家の人に起こされるまで目が覚めませんでした。」

「わかりました……どうもありがとうございます」

皆さん……どう思われますか? 司会者はゲストの数人に向かって言った。

「私には何とも……」 元相撲取りの大物タレントは困惑した表情で首を振った。

「私の次男が第三新東京市にある大学に通う為、一人暮しをしてるんですが、
いまだ連絡がつきませんの……ですから 私には今回の事が他人事では……」
地方の酒造メーカーのCMを数十年手がけた事でも有名な有名女優は心配そうに言った。
別に土佐鶴と書いた訳じゃ無いから邪推しないでね(爆)

「そこで今回は特別ゲストとして、作家の麻末賢さんをスタジオにお招きしております」

「どうも……麻末です」
「それでは、早速麻末さんの見解をお伺いしたいのですが……」

「私には今回の事のような事がいつか起こりうると以前から考えておりました。」

「ほう……では、その根拠は……」

「年配の方なら記憶に新しいセカンドインパクト そしてサードインパクト……
特にサードインパクトは被害規模こそ少ないものの、第三新東京市周辺で起こりました

「政府発表のセカンドインパクトの原因が事実から遠くかけはなれている点については
最近その関係の本も増えて来てますから、ご存じだと思いますが、
サードインパクトの原因は 恐らく今回と同様の事が起こったからだと思います。
その時にも紫色の巨大なロボットを見た等の証言が出ましたが、
現在では闇に葬られております。」

その言葉で会場につめかけた主婦はざわめいた。
いつもうんうんと頷くだけの存在とは思えぬ程緊迫した表情を一様に浮かべていた。

「その巨大なロボットはどのような指揮体系で動いているのかを私は研究して参りました
日本政府が絡んでいる事は間違い無いのですが、何と国連も噛んでいるようなのです。
先程の特派員の方が言っていた紫の巨人と、サードインパクトの時に現れた存在は
同一のものだと思います そのように巨大な物を緊急事態があった時にすぐに出動させら
れる存在……自衛隊の基地からは遠く、さらに航空関連の基地と地上部隊の基地しか
周辺にありません あれだけ巨大な兵器の管理をするには、相当なスペースが必要です
現在公開されている情報では該当する存在が見当たりません」

「ほう……」
司会者は所在なさげに机にもたれたり起き上がったりしながら言った

「ですが、以前よりその方面の調査をする人の前に現れる謎のエージェントの存在が
逆に我々が真実に近づいている事を確信する事になりました。
私が想像するに、第三新東京市の紫の巨大ロボット そして強羅ダムに
現れた青いロボットは、第三新東京市のどこか……恐らく地下だと思われますが、
間違い無く第三新東京市近辺にあると思います そして超法規的な存在も確信出来ます。」

「えー本日はコマーシャル 及び他のコーナーは中止して、
この問題を追ってみたいと思います。」


「もういい……切ってくれ」
シンジは懊悩の表情を浮かべて言った。

「私の部署で録画はさせてありますわ……」
アスカはシンジの背中をそっとさすりながら囁いた。

「あの麻末とか言う作家はサードインパクトの時もうろちょろしていて、
記憶の操作を行ったと思うんだが……執念深いな……」
シンジは先程まで画面に映っていた作家の顔を思い出そうとしていた。

「その問題に足を突っ込む時に、黒い服を来たNERVのエージェントを思い出すように
記憶を調整したのが、裏目に出たようね……彼に限らず、深入りした人には同じ処置
をしてはいるけど、あそこまで思い出されたのは初めてね」

「外出禁止令と緊急事態宣言……解除するの? あなた」
そう問うアスカの顔の目尻には疲れのせいかクマが出来かけていた。

「ちょっと考えさせてくれ……」
シンジは背もたれに背を預け、右手で両眼を覆いながら呟いた。

その頃……第三新東京国際空港では……

「これで大体片づいたわね……」
アヤは初号機の操縦席の中で画面を見ながら呟いた。

「旅客機も通常の位置に戻って来ましたし、これでほぼ解決ですか アヤさん」
背中に密着しているアヤにシンイチは顔を動かさずに言った。

「さて……ローラちゃんやロンギヌスの人の宿舎の手配とかあるし、下に降りるわ」

「わかりました」 シンイチは初号機をかがませて、初号機の右手を胸の所に広げた

「いいわ 開けて」 初号機の操縦席からアヤは初号機の右手に乗り移った。

そして、初号機の掌に跪いてシンイチに向かって手を振った。

地上すれすれまで下ろされたエヴァの掌からアヤは飛び降りた。

「うっ」 だが、アヤは数歩歩いて跪いた。

「アヤさん! どうかしたんですか?」 シンイチはアヤの様子に気づいてマイクに
向かって叫んだ。

「大丈夫よ……ちょっと乗り物酔いしただけみたい……車とエヴァは違うしね」
アヤは青い顔をシンイチにみせまいと、そのまま立ち上がり振り向かずに右手を振った。

「まさか……そんな筈無いわ……だって……」
アヤはその症状に思い当たる事があったのか、悲壮な顔をしていた。

「シンイチ君は……私の……弟……なのに」
アヤのその言葉はアヤ自身を締めつけた。




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どうもありがとうございました!
マジにZパートまで行くかも……


最終話Mパート 終わり

最終話Nパート に続く!



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