「けど……誤解しないでね……今回の事は……いわば種痘みたいなものなの
だから、決まった訳じゃ無いのよ ミライ」
「六分儀家の血って私たちも受け継いでるんだよね……」
「そうよ……それがどうかしたの?ミライ」
「いや……何でも無い……何でも無いわよ」
ミライは左腕の血管に指を添えて言った。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 22Q
最終話【
魂(こころ)の帰る場所
】Qパート
NERV司令室
ミライからの電話を切り、シンジは懊悩とした表情で腕を組み何かを考えていた。
内線のランプが青く点滅しているのを見て、シンジは受話器を取りボタンを押した。
「こちら司令室……」
シンジは憮然とした表情で話しはじめた。
「私です……」
電話の相手は彼の妻であり、組織のNO2である碇アスカであった。
「何か状況の変化でもあったかね?」
シンジはこれ以上悪くはならないだろうと言いたげに苦笑を押さえつつ答えた。
「首相官邸から電話があったと聞いたんだけど……こっちには情報来てないんだけど……」
「今、家がレポーターに囲まれているよ……それがその答のようだ。」
「まさか……」
電話の向こうでアスカが息を飲んだ。
「内閣が何を考えたか、情報を一部漏らしてしまったらしい……
自宅の住所まで教えるとも思えんから、それはゼーレの差し金だろう……
あるいは、精神を支配されていた響教諭が報告でもしていたのかな……」
「アヤやミライ達はどうしてるの?」
手元でコンソールを操作して情報を得ながらアスカはシンジに話しかけた。
「別ルートで碇家の地下に移動させたから大丈夫だと思う……」
「先程報告を受けたが、さすがに見た目は普通の家だからガセネタじゃ無いかとの説が
テレビ局内ではびこっているそうだ……今日は仕方無いかも知れんが、
明日以降 自宅へ詰めかける事は無いだろう……
未だ外出禁止令が発効しているから、彼らを警察を使って解散させる事も考えたが、
彼らの事だ……これが証拠と言わんばかりに追求を深める事だろう……」
「今調べたんだけど……第三新東京市だけだと視聴率は70を越してるそうですわね……」
「外出禁止令で外に出れないからテレビに噛りついているからだろうな……
しかし、こうなってしまっては、どこが敵でどこが味方なのか分からんな……
ゼーレ……内閣……彼らは敵では無いかも知れないが味方とは言えないだろう……」
「こうなると中学教師も廃業かな……私や君はいいが、アヤやミライ そしてシンイチの事がな……」
「取り敢えず他の対倦属機関との協力要請は取りつけたので、目下の処ゼーレと内閣の動向だけを
注意して行けばいいでしょう……悪い要素だけじゃ無いですわ あなた」
アスカは最後の一言に妻としての思いやりを込めて通話を切った。
「ふぅ……」
シンジはアスカとの通話を終えため息をひとつついた。
「忘れていた……外出禁止令と緊急事態宣言はもう解除するべきだった」
シンジは再び受話器を取って、副司令の一人 青葉を呼び出した。
「青葉副司令……碇です 外出禁止令と緊急事態宣言の解除をお願い出来るかな」
「承りました……あの 碇司令……シンイチさんに密命を与えたと言うのはどのような事でしょうか……
現在の処では明かせない事柄でしたら口を挟みませんが……」
「密命? どういう事かね?」
シンジは訳が分からず問いただした。
「地下ケイジの伊吹主任から電話がありまして、初号機パイロットのなぎさ……失礼 碇シンイチ氏が
司令の密命だと言う事で、零号機パイロットの綾波イクコを連れてNERVから姿を消したとの事なんですが」
青葉はシンジの答えに驚き、慌てて説明を始めた。
「私は何もシンイチに命令していないし、第一シンイチとはここ半日会って無いんだが……」
「あの……捜索の手配は……どうされますか?」
「シンイチの考えあっての事だろう……静観しよう 何か零号機パイロットから重要な情報を得た可能性もあるしな……
尚、この事は私と青葉さん……青葉副司令しか知らない秘密と言う事で、対外的には私が密命を下したらしいといった
情報を流しておいて貰えませんか」 シンジはいつしか司令としての口調では無く、息子のフォローを頼む父親と化していた。
年齢的には一回り上の青葉副司令と言う事もあって、シンジが大学生時代の司令赴任から世話になってるせいか、
シンジは上意下達的な命令をする事は少なかった。
「分かりました そのように……」
「では……」
シンジは電話を切って再びため息を漏らした。
「シンイチ……何を考えているんだ……」 シンジは三度目のため息を押し殺して司令としての業務を再開した。
その頃……シンイチとイクコはNERVの広大な地下施設から自然に出来たと思われる洞窟を抜けて、
斜め下に下って行く洞窟に抜けてどこかを目指していた。
「ヘックシ」 シンイチは強烈なクシャミをして鼻を啜った。
「寒いの?」 前を歩いていたイクコが振り向いて言った。
「いや……今ごろ父さん 怒ってるかな……」 シンイチは洞窟の天井を見て呟いた。
シンイチはマヤに問い詰められた時、咄嗟に父の名前を出した事を思い出した。
シンイチは足を滑らさないように気をつけながら先導するイクコの後をついていった。
「どうしてこんな地下に洞窟があるんだろう……」
「ここ第三新東京市にはもともと旧支配者の一柱を崇める倦属がいたそうだから、
その倦属が掘った穴だと思うわ……ショゴスを使って通路を作ったのではないかって聞いたけど……」
イクコは振り返らずに洞窟の天井を撫でながら言った。
「ショゴスって建設用にイスの偉大なる種族が使役したってヤツだよね……
岩盤を溶かす事も出来るんだ……」
シンジは兄に覚えさせられた事を思い出して言った。
その頃……第三新東京市から南に数十キロ離れた地点にある崖の地下2万5千メートル……
渚カヲルを中心に綾波レイのクローン体がずらりと穴を囲んでいた。
「ヨグ・ソトースはまだ目覚めませんの?」
灰色のドレスの女性はカヲルの集中を乱さないように小声で呟いた。
「段々と意識が表層に近づいて来つつはあるが、慌てるとセカンドインパクトの再現だ……」
「あの少年を放りこめば多少は速度が速まるのでは……」
灰色のドレスの女性は気を失っている伊吹コウジの方に首を振って言った。
「ネクロノミコンを教団から持ち出してくれた事はありがたいと思っている……
だが、ここは私のやり方でやらせて貰うよ」 カヲルは眉を潜めて呟いた。
「郷に入りては郷に従え でしたかしら……分かりましたわ」
灰色のドレスを着た女性はどこからもって来たのかパイプ椅子を広げてカヲル達が見える場所に陣取った。
「汗で髪が気持ち悪いわね……」 彼女は美しいロングの銀髪に手櫛を入れて呟いた。
年の頃は20前後……細面の整った頬には無残にも、小さい焼き印が押されていた。
彼女が髪を長く伸ばす理由はその辺りにあるようだ……
椅子に背をもたせかけて休んでいる内に彼女は眠りの世界へと誘われていった。
彼女の生まれ故郷のギリシアは年中夏の日本と違い、一年中冬のせいか 彼女は汗を流していた。
だが、脂汗まで流れはじめ彼女の動悸は激しくなった……悪夢でも視ているのだろうか
「イリーネや……年明けには迎えに来るからね」
「私……いい子でいるから……早く……」
イリーネと呼ばれたまだ12歳前後の少女はか細い声で答えた。
「大丈夫よ ここは全寮制だし、何でもシスターに相談するといいわ」
イリーネと呼ばれた少女の母親らしき女性はアーチの向こうに見える花壇の白薔薇に包まれた校舎を見た。
「イリーネや……入学試験で満点を取り、奨学制度で入ったんだから胸を張っていいのよ」
「うん……お父さんを迎えに行って……戻って来たら また三人で暮せるよね?」
「勿論だとも イリーネ さ、入学式が始まりますよ」
イリーネは母親に背中を押されて校舎に入って行った。
最初の二ヶ月はさしたる問題は無かった……
寄宿舎の同室の生徒とも仲良くなり、イリーネは心安らかに勉強をしていた。
そして、一学期の中間テストが始まった……
元より天才肌と言うよりかは努力家のイリーネは同室の生徒の邪魔にならないように、
深夜でも明かりの付くトイレの中でまで勉強を続けた……
・
モンキーターンかい
・
そして、イリーネは中間テストでトップになったのである。
それが彼女の不幸の前奏曲であった。
基本的に良家の子女が集まるこの学校で、至って普通の家で育ったイリーネが
高得点を取る事は、良家の子女達の怒りを買う事になってしまった。
執拗な苛めが続いたが、イリーネはひたすら努力し続けた。
だが、イリーネの同室の生徒が学校にいる神父に、
イリーネがテストで高得点を維持し続けているのは、悪魔と契約したからだと告げたからだ。
ギリシアではセカンドインパクト以降、倦属が跳梁し続けていると言う土地柄のせいか
それとも太古の昔の魔女狩りか……これが普通の学校なら良かったのだが、
この学校の神父が属している派は倦属や悪魔に魅入られた者は断罪すると言う方針であったのだ。
その噂が広まると、イリーネは更に苛められる事となった。
そしてある日……まとわりついてしつこく嫌がらせをする生徒を腕で振り払った時、
偶然その生徒が足を滑らせ、机の角に頭をぶつけて重傷を負ってしまったのだ。
結果、イリーネは魔女裁判にかけられる事になり、
魔女なら疵が付くが普通の人間には疵が付かないとされている焼きごてを
イリーネの頬に押し当てたのだった。
無論焼きごてを押し当てられて火傷しない者はいない……
彼女は悪魔に魅入られた者として、学校の地下にある牢獄に放り込まれてしまったのだ。
食事だけは与えられるものの、本部から対倦属用の人間 エクソシストが来るまでの命であった。
そんなある日、牢獄の隅に隠し扉のようなものを見つけ 彼女はその扉を潜った。
そこは現在使われていない図書館であり、多数の本が置いてあった。
そして、偶然 ギリシア語版のネクロノミコンの完全版を手に入れてしまったのだ……
イリーネが人間の皮で装丁されたその本を見つけるのに2日かからなかった……
セイレムのピックマン家に一冊だけあったこの本がどんな経緯でこの地に来たのかは不明だ
だが、皮肉にも魔女狩りで有名なセイレムの地にあった本を手に入れてしまったのだ
そして、彼女の復讐が始まった……
「ん……」
悪夢を見続けていたせいか、彼女……イリーネの顔は汗にまみれていた。
「最近見なくなったんだけど……」 彼女はハンカチで汗を吹きながら呟いた。
「けど……母さんの顔……思い出せなくなってたけど……夢で……会えて良かった……」
彼女は涙を隠すかのように俯いていた。
「この子も……私と同じなのかも知れないわね……」
イリーネは失神している伊吹コウジの方を見て呟いた。
・
http://www.jaist.ac.jp/~x-suzuki/Cthulhu/necromap.html
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こりゃZパートでは終わらんな
やっと名前がついたか……
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
最終話Qパート 終わり
最終話Rパート
に続く!
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