「私の事 何も知らないお医者さんが……おめでとうございますって言ってくれたの」
「ええ?」 シンイチは訳が分からず混乱していた。
「私たちは普通の人間とDNA構造が一部違うって説明されたけど……
こういう事だったみたい」
「私たちは姉弟だけど……産まれて来る子供には罪は無いわよね」
アヤはうっすらと涙を滲ませながらシンイチを抱きしめていた。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 22U
最終話【
魂(こころ)の帰る場所
】Uパート
「シンイチくーん コクピットの最終調整するそうだから、出て来てね」
下の方からマヤさんの声が響いて来た。
アヤさんはその声にはっとしたのか、身体を離した。
「じゃ、先に出るわね」 アヤさんはそう言って操縦室から出ていった。
もう操縦席の出入りも二度目なので、アヤさんは頭を打つ事も無かった。
僕は少しの間 思考がまとまらず少しほうけていたが、アヤさんの履いている
ハイヒールが鋼鉄製のリフトに当たる音が連続的に聞こえたので、
外に出なければいけない事を思い出した。
まだアヤさんの体温が身体に残っているような昨夜の晩に身体を交わして、
今日すでに妊娠が発覚している事を告げられ、僕は運命を一瞬呪った。
何故呪ったのか…… これから始まる戦いで僕が生還出来る確立が低い事か……
それとも、異母兄弟がそれと知らずに愛しあい、その後にそれを知る事か
いや、恐らくは産まれ出ずる罪無き子供のこれからの運命を決める者に対してだろう
そんな事を考えながらキャットウオークを歩いていたので、
僕は一瞬立ち眩みに似たような感覚を感じた。
そして僕はアヤさんが待っていてくれたリフトに乗り、初号機の足元まで降りていった。
・
面倒だな 指パッチンで乗り込めないのか?
・
「碇司令からの命令で、私はジオフロントに搬送する指揮車に乗る事になりました
碇作戦本部長は司令所にて待機との事です。」
僕たちを待っていたアヤさんの副官が姿勢を正して言い放った。
「わかりました 冬月さんも気を付けて下さいね」
アヤさんはかすかに微笑んで言った。
僕はアヤさんとケイジから上へと上がるエレベーターに向かって歩いていた。
10人は軽く乗る事が出来るエレベーターに乗り、僕は今のフロアから2つ上
アヤさんは上から4つ目のフロアのボタンを押した。
地上近くの1番フロアからこの最深部の10番フロアまで2分で降下出来る程の
スピードを持つエレベーターだと言うのに、
たった2フロア上がるだけなのに、なかなかその時がやって来なかった。
だが、僕に取ってはさっきアヤさんに言われた事の返事を考えるのに丁度良かったのだが、
とめども無い感情ばかり溢れて来て言葉にならなかった。
そして扉が開く時まで僕は考えがまとまってはいなかった。
ふと横を見ると、アヤさんがエレベーターを開けた状態にしておくボタンに手を触れていた。
僕はエレベーターの入り口附近に人がいるかどうかも確かめず、
下を向いて僕の答えを待っているアヤさんをそっと抱きしめた。
「もう……こんな思いをする人がいなくなるようにする為……戦って来るよ
僕たちの子供のためにも……」
僕は先程まで考えていた言葉とは全く違う言葉が僕の口を通して出てしまった。
だが……これも僕の言葉だ……アヤさんは僕が話す間涙を堪えていたが、
僕がアヤさんから離れ、エレベーターを出て振り向いた時…… 一筋の涙を流した。
「あ、来た来た」 コントロールルームに入ると、マヤさんが僕を見つけて近寄って来た。
「出撃は何分後ですか?」
「背中のスラスター用の燃料の換装が残ってるからあと15分て処よ
それより、新型のプラグスーツが届いてるからシャワーでも浴びてから着替えたら?」
マヤさんはプラグスーツが入っている袋を僕に渡して言った。
「そうします……」 僕は袋を手にしてコントロールルームを出て、
シャワールームのある更衣室に向かった。
男用の更衣室の前まで来た時に、隣の女性用更衣室の扉が開き女性が三人出てきた
三人とも僕の知っている人であった。
「あ、渚先輩」 最初に気づいたのは山際シズカさんであった。
「シズカちゃん シンイチ君は碇シンイチに名前が変わったそうよ
久しぶりね シンイチ君」三谷ヨシコ(風谷ミツコ) さんは笑みを浮かべて言った。
彼女が記憶を取り戻してからそんな笑顔を見せるのは初めてだったので、
正直 僕は少し驚いた。
だが、NERVの一員としてなら彼女の力を異端視するものもいない事を考えると
彼女もNERVに入った事で救われたのかも知れなかった。
そんな中、樹島ミドリさんは少し違った反応を見せた。
「私……後悔してませんから……」
そう一言言い残して、彼女は一人足早に去っていった。
「ミドリさんどうしたのかしら ところでこの服似合うかしら」
ヨシコさん達はNERVの術者の戰闘用の制服を着ていた。
シズカちゃんは更に日本刀を背中に括り付けていた。
・
銃は最後の武器だっ<違う
・
「二人とも良く似合ってるよ」
「私たちも支援するから……頑張ってね」
最後に少し真剣な表情でヨシコさんは呟いた。
僕は三人と別れて、更衣室に入りシャワーを浴びた。
少し温度が低く設定されていたが、今の自分には心地良かった。
が、身体を拭いている内に寒気を感じはじめたので、
最後に熱いシャワーを浴びるべきだったかなと僕は後悔した。
そして、僕はそんな自分がおかしくてたまらなくなった。
もうすぐ死ぬかも知れない戦場に赴くのにこんな事を考えている自分……
どんな立場におかれてもどんな逆境に晒されても 人間は人間……
その事は変わらない 人間の本質と言うか本分を見失ってはいけないんだと……
古来から昨今まで人間の価値観は変わったが、人間の本分は変わっていないと思う
この国で遥か昔に起った最後の戦争……
何かの記念日の度に放映されるその映像で、これから死地に赴く息子や夫を見送る
女性達が一糸乱れずに息子や夫を送り、送られる側も自分が愛する者を守る為に
文句一つ言わずに出征して行く映像を見て、僕は不思議に思っていたのだ。
彼等は何故あんなにも冷静なのか……いくら国家がそういう教育をして来たからと言っても
内心ではきっと別れを悲しんでいる筈だろう……そう思いながら僕はフィルムを見ていた。
彼等の心情が理解出来ずにいた時、父さんの授業でとある漢文を教えて貰った時、
僕は彼等の心情を少し理解出来たと思う。
士は己を知る者の為に死し、女は己を説(よろこ)ぶ者の為めに容(かたち)づくる
・
SS作家は感想をくれる者の為に書く(のかもしれない)
・
現実世界では異端者たる僕やミツコさん達も己の力を必要としてくれる者の為に戦う
そう……それだけの単純な事なのだと僕は認識してプラグスーツを着替えて部屋を出た。
「もうちょっと髪を拭いておいた方が良かったかな……」
僕は生乾きの髪に手を突っ込んで呟いた。
そう……これから始まる事は何でも無い日常なのだと自覚する為に……
コントロールルームに入ると、マヤさんが僕を見つけて振り向いた。
「シンイチ君 そろそろ操縦席で待機してて貰える?
それと、こちらで初号機の状態をモニターはするけど、
直接指揮するのは、司令所からになるから」
マヤさんは少し寂しげに笑った。
「あと5分ぐらいですか?」 僕は腕時計を見て言った。
「そうね……」 マヤさんは何かを言いかけたが、それを飲み込み僕を黙って見送った。
先程のエレベーターでケイジに向かうと整備員が忙しそうに走り回っているのが見えた。
少しでも僕が無事に戻れるようにする為、彼等は出来うる最大の事をやってくれているの
だろう…… 僕はリフトで操縦席まで上がる間、各所で作業をしている整備員を見ていた。
僕は操縦席に座り、各種の装備を身に付けて精神を統一していった。
初号機から聞こえる微音が兄さんの息づかいのように感じられた頃、
発進命令が下された。
「4番ゲートよりジオフロントまで移動!」
アヤさんの声と共に、4番ゲートに向かう為の通路に灯が灯っていった。
「
エヴァンゲリオン初号機 リフトオフ!
」
次の瞬間 ケイジに固定されていた初号機は解除され僕のコントロール下にあった。
僕は初号機を歩かせ、4番ゲートのスロープを降りはじめた。
5分程歩いて行くと、ジオフロントのゲートに辿りついた。
「
ゲートオープン!
エヴァンゲリオン初号機 出撃!
」
アヤさんは少し悲痛な声で、僕を戦場へと送りだした。
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どう感想書いていいか分からん話だ
よくやったな・・シンジ
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どうもありがとうございました!
最終話U パート 終わり
最終話Vパート
に続く!
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