「本日 日本政府及び国連の正式な機関となった特務機関NERVの司令 碇シンジです。
本日未明より始まった戰闘 そしてこれから始まる戰闘についての説明を始める前に
我々が闘っている相手について説明を致します」
シンジはビデオカメラの前で演説を始めた。

NERVの各部署でもシンジの演説は流されていた。
発足からこれまで秘密機関として守るべき国民にも知られず、
倦属や崇拝者と死闘を繰り広げていた事を皆思い出しながら、
黙々と作業をこなしていた。

今 まさに決戦の幕が降りようとしていた。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22W

最終話【魂(こころ)の帰る場所】Wパート



ジオフロントでは カヲルにイリーネ そして伊吹コウジが加わり、
ヨグ・ソトースの召還が佳境を迎えようとしていた。

ずらりと並ぶ綾波レイのクローン体の後ろに 三方向に分散して
術者である 山際シズカ・三谷ヨシコ・樹島ミドリが控えていた。


それを見守る初号機のシンイチ そしてカヲルの側に立つイクコ
二人はそれぞれ別の考え事に耽っていた。

母であるレイが命をかけて封印したヨグ・ソトースが今呼び覚まされようとしている事

もうすぐ自分の自我が消え、オリジナルであるレイにとってかわられる事

二人の一抹の危惧と裏腹に、今まさにヨグ・ソトースは呼び覚まされようとしていた。


{上がって来るぞ……気を張って無いと飲まれるぞ}

{{わかったよ 兄さん}}

シンイチは少し汗ばんだ手でレバーを握り締めた。

「第三新東京市の市民はあらかた避難を終えたわ」
アヤがシンイチへの回線を開き話しかけて来た。

アヤが話しおわった途端、ジオフロントは地響きに包まれた。

そして鈍色の光を発する 輝く球体の集積物のようなものが五芒星の中心である
裂け目からジオフロントにその姿を現さんとしていた。


「太陽は第五宮にはいり、土星は三分一対座し、地には炎の五芒星輝く」

カヲルは朗々と召還の最後の呪文を唱えた

「虚空の門の守り手にして 混沌の媒介 全にして、一なる者よ」

それに続いてイリーネが言葉を続けた。

「汝の名はヨグ・ソトース! {Yugsoggoth}」

半ばトランス状態になっているコウジが言葉を続けた

「イア ヨグ・ソトース」 カヲルと共に十数体の綾波レイのクローン体
そしてイリーネ・コウジが 召還呪文の最後の言葉を捧げた。


鈍色の光が銀色の光に変わり、輝く球体の集積物としてその姿を現した
ヨグ・ソトースはその身を一度だけ揺らし、鋭い光が一瞬 ジオフロントを照らした。


NERV司令所

「駄目です モニター出来ません!」
これまでカヲル達を写していたモニターから一瞬の閃光が走った途端、
モニターには何も表示されなくなっていたので、
オペレーターは半ばヒステリックな声を上げて報告した

「こっちもです 予備を含めて二系統用意したCCDも駄目です!」
青葉が出力したチェックリストを手にシンジに報告した。

今やNERV司令所はパニックに陥ろうとしていた。

「シンイチ君……いや、初号機の外部カメラは?」
アヤは作戦本部長としての職務を果たす為、
数少ないデータの中でも混乱せず、部下に指示を出していた。

「駄目です光学系のモニターは全部死んでます!」

「パイロットおよび術者の制服から定時発信されているデータによれば
生命維持に関するダメージは無いようです」

そう……術者の三人と綾波レイのクローン体……彼女達の生命は無事であったが、
一瞬にしてジオフロントを照らし出す程の光源のすぐ側にいたせいで、
一時的に視力を奪われていた。


それはすなわち、召還されたヨグ・ソトースを縛る存在が今無い事を示していた。


ジオフロント

カヲルだけはその閃光に一瞬気を取られただけであったが、
普通の人間であるイリーネやコウジ
そしてイクコも閃光のせいで昏倒していた。


「みんな大丈夫だろうか……」 シンイチは初号機の外部カメラが即座に壊れたので、
あまりダメージを受けてはいなかった。

シンイチは兄のビジョンによる知覚で外の様子を見はじめていた。
その時、シンイチの目の前でヨグ・ソトースはゆっくりと浮上を始めた。

「逃げるつもりか?」 シンイチは銃口をヨグ・ソトースに向けたが、
まだ 母のサルベージが終わっていない事を思い出してトリガーから指を外した。

カヲルは一人でヨグ・ソトースを一時的に従属する為の呪文を唱えはじめたが、
一人で押え込む事に無理があるのか、
ヨグ・ソトースはカヲルの呪文を無視してふわふわと浮き上がりはじめた。

「みんな……起きて このままじゃ大変な事になっちゃう」
一番最初に立ち上がったシズカはミドリやヨシコに向かって叫んだ。

「うっ…… ごめんなさい」
ヨシコもほうほうの体で何とか起き上がった。
「始めましょう」
壁にもたれ掛かっていたミドリは目を開いて宣言した。

「地上に出したら厄介だ 頼む!」 カヲルはミドリ達の方をちらっと見て言った。

「凄い瘴気ね……彼女たちがすぐに起きられない筈だわ」
ミドリは未だ倒れている綾波レイのクローン体を見回して言った。

「私たちだけでも……」
シズカは霊剣を抜き両手で持ちながら言った。

「やるしか無いのよ」
ヨシコも身構えて何かを口誦しはじめた。



ヨグソトースを三方から押さえにかかった彼女達をものともせず、
少しスピードが落ちたものの、ヨグ・ソトースは上昇を続けていた。

ジオフロントの天井まであと400メートル……天井に辿りつく前にヨグ・ソトース
から綾波レイをサルベージし、その後消滅させないと……
地上がどうなるかは想像するまでも無かった。

初号機の中ではシンイチと兄が対応を論じていた。

{{兄さん 何か牽制する事は出来ないの?}}
{他に固定武装は無い それに通常兵器では傷一つつけられんよ}


「あと300メートル……」
カヲルは上を向いて呟いた。

ヨグ・ソトースそのものが光を放っているので視認出来るものの、
本来なら地上の篝火しか無いジオフロントでは視認出来ない程上昇していた。

「ごめんなさい」 至近距離にいてショックが大きかったイリーネもようやく起き上がった。

「うう この後はどうすればいいんだよ」
伊吹コウジも立ち上がって言った。

「イリーネは私と一緒に呪文の詠唱 コウジ君は彼女たちを起してくれないか」
カヲルは二人に指示をして、再び詠唱を続けた。

イリーネは即座にカヲルに合わせて詠唱を始め、
コウジはすぐ側に未だ倒れていたイクコを起した。

「私……気を失っていたの?」 イクコは目をしばしばさせながら呟いた。

「ああ これから他のみんなも起して来るよ」
コウジはそう言って穴の周辺に倒れている綾波レイのクローン体を起して回った。

なんとか全員を起しおわった頃ヨグ・ソトースは天井まであと100Mまで上昇していた。

「もう少しだ もう少しで……」 カヲルはじりじりしながらも冷静に呪文を詠唱した。

そして、あと50メートルを割った時点でヨグ・ソトースはその歩みを止めた。

「よし! 綾波レイのサルベージの開始だ」
カヲルはイクコを差し招いて 今度は別の呪文を唱えはじめた。

一時的な従属の呪文は未だ効力を発しているのか、ヨグ・ソトースは空中で静止していた。

カヲルは人間には恐らく発音出来ないような声で、どこの言葉かも分からないような
呪文を詠唱し続け、最後にイクコの頭頂を指差した。

すると、蒼い幽体のようなものが上空から舞い降りて来て、
イクコの頭頂部に吸い込まれていった。

その途端イクコはカヲルの腕の中で気を失った。

次の瞬間には他の綾波レイのクローン体が崩れ落ちてシュウシュウと異音をたてながら
泡と化して消えはじめていた。

ヨシコとミドリとシズカはその様子を見て声を失っていた。

だが、最初からその結末を知っていたのか、カヲルは平然としていた。


{{{シンイチ! サルベージは完了した ヨグ・ソトースを消滅させろ!}}}
カヲルは意念によってシンイチに命令した。


いくよ 兄さん!
すでに照準はぴたりとヨグ・ソトースに向けられていたので、
シンイチは出力を担当する兄に声をかけた。


「ヨグ・ソトースよ 消滅しろ!」

シンイチはトリガーを引き絞った。

銃口から発せられた七色に輝く光はヨグ・ソトースめがけて伸びていった。

その姿は指揮車からハンディカメラを取り出して来た冬月ヨシオの手によって、
司令所にも送られていた。

「をを! 我らの悲願がついに叶う時が来たか」
ゲンドウはシンジと共にその映像を見て感歎の言葉を漏らした。

だが、光の先端がもうすぐヨグ・ソトースに命中しようとしていた時、
一時的な従属命令の呪文が解けたのか、ヨグ・ソトースは再び上昇を始めたのだ。

七色の光に一瞬照らされながらも、ヨグ・ソトースは何事も無く上昇を続け、
ジオフロントの天井の岩盤に吸い込まれていった。

「そんな馬鹿な!」 シンジとゲンドウは同時に言い放って同じように机を叩いた。


「シンイチ君! 早く地上に出て迎え撃ってね!」
アヤはシンイチに指示したが、その時すでにシンイチは最初来たゲートの元へと走っていた。

このままの上昇速度ならヨグ・ソトースは30分後には地表に姿を現すだろう。

頑張れシンイチ 負けるなNERV 地球の命運は君たちの双肩にかかっている!
なんかすげぇベタな感じ




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どうもありがとうございました!

最終話Wパート 終わり

最終話Xパート に続く!



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