「をを! 我らの悲願がついに叶う時が来たか」
ゲンドウはシンジと共にその映像を見て感歎の言葉を漏らした。
だが、光の先端がもうすぐヨグ・ソトースに命中しようとしていた時、
一時的な従属命令の呪文が解けたのか、ヨグ・ソトースは再び上昇を始めたのだ。
「そんな馬鹿な!」 シンジとゲンドウは同時に言い放って同じように机を叩いた。
「シンイチ君! 早く地上に出て迎え撃ってね!」
アヤはシンイチに指示したが、その時すでにシンイチは最初来たゲートの元へと走っていた。
このままの上昇速度なら30分後には地表に姿を現すだろう。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22X

最終話【魂(こころ)の帰る場所】Xパート


ジオフロント

「地上まで直通のルートは無いんですか?」 シンイチは初号機を駆りながら通信を開いた

「まだ……整備中で一度ケイジに戻る必要があるわ」
アヤはコンソールを操作しながら答えた。

「じゃ急いで戻りますから、用意しておいて下さい」
シンイチは初号機をスロープを駆け上がらせながら言った。


司令所
「住民の避難は完了している筈だなっ 地上への浮上地点がどこにあるか計算するんだ」
シンジはオペレーターに指示を下した。

「解析出ましたっ 芦の湖の北岸附近です」
日向が振り向きざま叫んだ。

「そのまま直上まで進路を変えずに上昇した場合だな……初号機を二子山の射出口から
出撃させるように準備をしておけっ」 シンジもキーボードを叩きながら答えた。

「ゼーレの押え込みは今の処問題無いわ 委員の8割までを押さえたから、キール議長
もそうそう無茶な事は出来ない筈よ」 アスカが司令所に駆け込んで来て伝えた。

「こんな時にゼーレに邪魔をされてはかなわんからな……
 アスカ君 他国の機関との接触も続けておいてくれたまえ」
 ゲンドウが司令室から出てきて言った。

「司令! ロンギヌスのメンバーが協力を申し出ているそうですっ」
日向がヘッドセットを外しながら叫んだ。

「彼等の武器ではヨグ・ソトースにかすり傷も負わせる事が……」
シンジは首を捻って呟いた。

「ヨグ・ソトースが目覚めた事で倦属が活性化する恐れがある。
 初号機のバックアップとしてなた意義があると思うが……」
一応今の司令はシンジなのでゲンドウが少し控え目に提言した。

「なるほど……だけどもう彼等のシャトルは無い……地上待機ではあまりにも……」
シンジはロンギヌスの情報を画面に映し出して呟いた。

「そんな時の為に……って訳じゃありませんけど、倦属への急襲用に大気圏内・外
を航行可能なシャトルを作っておきましたの……建前はNASDAとの合同研究ですけど、
パイロットを向こうで調達したら10分で第三新東京空港まで来させる事が出来ますわ」

突然赤木リツコが司令室に駆け込んで来て言った。
どうやら司令室の会話をモニターしていたようだ。
真田かいっ

「それも父さんが命じておいたの?」 シンジがじと目で背後のゲンドウに振り向いた

「いや……私は知らんぞ 前にNASDAと共同研究をする事になったと言う報告だけは
受けた事があるが、シャトルの建造など知らん」 ゲンドウは汗を拭いながら言った。

父さんでも御しきれないのか…… では至急シャトルを向かわせるように要請してくれ」

「では、ロンギヌスのメンバーを第三新東京空港に向かわせますっ」
日向がキーを叩きながら叫んだ。


地下ケイジ

その頃シンイチはようやく地下ケイジに辿りついていた。

「シンイチ君 前に使った事のある二子山へのルートを使うわっ 作業員の指示に従って
頂戴」 マヤはケイジ内を見渡せる部屋でシンイチへ回線を繋いだ。

「了解しましたっ」 シンイチは回線を切り、淡いオレンジ色の卓球のラケットのような
ものを振る作業員の誘導に従ってケイジ内を移動していた。

少しして、初号機は射出機にまたがり、二子山への地下道を高速で突き進み、
二子山の麓に着地した。

「シンイチ君 ヨグ・ソトースの浮上予測地点を紅いマーカーで表示するように設定した
から、レーダーに従って移動して頂戴っ 予測ではあと14分で地上に出るわよっ」
アヤは手早く情報をまとめてシンイチに指示していった。

シンイチが操る初号機は民家を避け、スラスターを噴射しジャンプと着地を繰り返して
ヨグ・ソトースの浮上予定地点に急いでいた。


その頃 ジオフロントでは……

「地上に移動して、初号機の支援に回りましょう」冬月が指揮車のゲートを開け、
ミドリ・シズカ・ヨシコ の三人の術者を乗せようとしていた。

「結局私たちでは押さえきれなかった……」 ミドリは泡と消えた綾波レイのクローン体
の滴が地面に均等に並んでいるのを見て呟いた。

「まだ終わってません 私たちが生きてる限り……」 シズカも悲痛な顔で答えた。

「今度こそは……命をかけてでも……押え込んでみせる」
ヨシコは右手を握り締めながら呟いた。

「綾波レイって人のサルベージが成功したのはあなた達のおかげです……気を落とさない
で下さい」 冬月ヨシオは綾波イクコ いや綾波レイを抱きしめている渚カヲルと
それを見守るイリーネとコウジを見て呟いた。

「急ぎましょう!」 ミドリは少し生気を取り戻して叫んだ
「ええ!」 シズカは霊剣を握り締めて答えた
「まだ終わった訳じゃ無いのよねっ」 ヨシコも前方を見据えて答えた。

四人を乗せた指揮車は冬月ヨシオの運転で地上へと向かう最短ルートを選び走り始めた。

ヨグ・ソトースが目覚めた地では綾波レイを腕に抱いたカヲルとそれをイリーネとコウジ
が見守っていた。

「彼女の事を頼むよ……」
カヲルはまだ目覚めない綾波レイの身体をイリーネに預けて言った。

「あなたはどうするつもりなの?」 イリーネは戸惑いながら答えた。

「僕がヨグ・ソトースと直接対決する事は出来ない……ある意味 僕とヨグ・ソトースは
同じものだからね……対消滅の危険を孕んでいるんだ……だから僕は君との約束を果たすよ」
カヲルは十数年来の痛みからようやく解放されたせいか、晴れ晴れとした表情だった。

「キールを殺してくれるの? だけどゼーレは我々のような存在を倒す為の組織よ……
生きて還れる自信はあるの?」 イリーネはカヲルの真意を知るべく問いただした。

「キールを殺す自信はあるが……生きて還れるかどうかは分からない。
ゼーレが最近国内の倦属を駆逐した理由として ジャマーを開発した事が有力視されている。
キールを殺した次の瞬間にはジャマーが作動して……
僕は普通の人間と同じになるかもしれない だけど君との約束はそれよりも重いからね……」
イリーネの気持ちを利用した事を恥じているのか、カヲルは悲痛な表情を浮かべて言った。

超人ロックかいや(古っ)

「私が一緒に行けば……私はネクロノミコン等に書かれていた呪文が使えるだけで、
普通の人間とある意味同じだわ……キールを殺した後私があなたを連れて転移の呪文
を使えば生きて還れるかも知れない……」
イリーネはカヲルに縋り付くような目をして囁いた。

「同じ事だよ ネクロノミコンの呪文は旧支配者の力を借りて行われるものだ……
だから転移の呪文も当然使えなくなる……君も一緒に殺されるだけだよ
それに君にはヨグ・ソトースを押さえると言う大事な役目があるじゃ無いか……
これは遺言だよ……君は人間として生きるんだ いいね」
その言葉を残し、渚カヲルは音も無く姿を消した。

「カヲルぅー」 イリーネは先程までカヲルがいた空間に手を伸ばしたが、
そこには唯……風が漂っているだけだった。

「彼女を安全な場所に連れていってあげて……」
イリーネは涙も拭わず振り向いてコウジに綾波レイの身体を託した。

「まさかあなたも後を追うんじゃ無いでしょうね」
コウジは綾波レイをなんとか支えながら叫んだ。

「カヲルの遺言は守るわ……ヨグ・ソトースを押え込む為 シンイチのサポートに
回るわ…… 彼女が目覚めたら……命を賭しても彼女を蘇らそうとした……
渚カヲルと言う名の人間がいた事を教えてあげてね」
そう言ってイリーネも転移の呪文を口早に唱えてコウジの前から消え去った。

「イリーネさん……」 コウジは一人残され……いや綾波レイを託されて一人佇んでいた


10分後……


冬月ヨシオ操る指揮車は明らかに道路とは思えないような洞窟を走らせていた。
「本当にこんな処通って地上に出れるの?」 三谷ヨシコは後部座席で運転席の背もたれ
にしがみついて叫んだ。 すでに傾斜は60度を軽く越えており、何故こんな坂を登れる
のか彼女には理解出来なかった。

「この車はウニモグを改造した特殊車両なんですよ こんな坂なんて坂の内に入らないんですよっ」 ヨシオは後ろも振り向かずに答えた。

「50メートル程上がった処を右に曲がって下さい」 ミドリはコンソールを叩いて
通るルートを調べながら叫んだ。

シズカは後部座席で 一人霊剣を肩にもたせかけて瞑想していた。

「うっ ヨグ・ソトースの瘴気を感じます 近づいて来るっ 
この地点の地上はどこになりますかっ」 シズカはかっと目を開いて叫んだ。

「この地点だと……第三新東京駅附近だわっ 芦の湖に浮上せずに斜めに浮上しているのね
早くシンイチ君に知らせないとっ」 ミドリはヘッドセットを手繰り寄せて頭にかぶるのも
もどかしく回線を開いた。

「こちら指揮車の樹島ミドリですっ ヨグ・ソトースは芦の湖北岸では無く、
第三新東京市の中心部 第三新東京駅附近に浮上すると思われます
初号機への連絡をお願いしますっ」
司令所への回線が繋がり、ミドリは早口でまくしたてた

司令所
「何っ 分かった また連絡するっ」 青葉はミドリとの回線を切った。

「ヨグ・ソトースは芦の湖北岸では無く第三新東京市の中心部の駅附近に浮上する
と指揮車の アタッカーの副隊長 樹島ミドリから連絡がありましたっ」
青葉はコンソールを操作し、全部署に届くようにセットして叫んだ。

「何っ 何故第三新東京市に……どんな理由があると言うんだっ」
シンジはその放送を聞いて狼狽した。

「恐らくは時空の門を開き、奴らの元いた世界に帰る為、星辰の都合上 第三新東京市
が適しているのだろう だが、時空の門を開かれたら時空震により日本は壊滅するっ
何としても阻止するんだっ」 ゲンドウが真っ青な顔をして叫んだ。

「シンイチ君っ ヨグ・ソトースは第三新東京市の中心部の駅附近に浮上するそうよ
急行してっ」 アヤは悲痛な声でシンイチに指示した。


第三新東京市で一番高いビルの屋上に二つの影があった。
ムサシ・リー・ストラスバーグと浅利ケイタの二人であった。

「皆が逃げ出した割には何も起らないじゃ無いか……」
ムサシは双眼鏡で周りを見渡しながら呟いた。

「まぁ何も無いなら無いでいいんじゃ無い?」
ケイタは警察無線を盗聴しながら返事をした。

「おいっ あれ何だよ」 ムサシは第三新東京駅の方を向いた時大声で叫んだ。
今まさに 第三新東京駅の構内からヨグ・ソトースがその姿を現す処だった。



裏をかかれたNERV そしてエヴァンゲリオン初号機よ
ヨグ・ソトースは 燃える町にあと僅かだ
轟く叫びを耳にして帰って来るのだエヴァンゲリオンっ(をい)




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どうもありがとうございました!

最終話X パート 終わり

最終話Yパート に続く!



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