第三新東京市で一番高いビルの屋上に二つの影があった。
ムサシ・リー・ストラスバーグと浅利ケイタの二人であった。

「皆が逃げ出した割には何も起らないじゃ無いか……」
ムサシは双眼鏡で周りを見渡しながら呟いた。

「まぁ何も無いなら無いでいいんじゃ無い?」
ケイタは警察無線を盗聴しながら返事をした。

「おいっ あれ何だよ」 ムサシは第三新東京駅の方を向いた時大声で叫んだ。
今まさに 第三新東京駅の構内からヨグ・ソトースがその姿を現す処だった。


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 22Y

最終話【魂(こころ)の帰る場所】Yパート


ヨグ・ソトースは禍々しい光を放ちながら 構内の上空で静止していた。

「こりゃ 皆を避難させたのも無理無いな……」
ムサシは頬を引きつらせながら呟いた。

「ムサシっ 早く逃げよう ここはもうすぐ戦場になるんだからっ」
ケイタは荷物を手早くまとめてムサシを連れて屋上を去ろうとした。

「あ……ああ わかったよ」
ムサシはようやくヨグ・ソトースから目を離して、ケイタと共に屋上から離れた。

「エレベーターはまだ最上階にいる筈だから今なら間に合うよ」
ケイタはエレベーターのあるフロアへと走りながら叫んだ。

「想像してたのより20倍はヤバそうな相手だな……シンイチは大丈夫かな」
ムサシはちらっと後ろを振り向いて呟いた。

「やった 屋上からエレベーターは動いて無いよ」
エレベーターフロアにムサシ達が上に上がる時に使った一基のエレベーターが
ガラス越しに見えた。

「忘れ物は無いよね ムサシ」 ケイタはそう言いながらエレベーターのボタンを押した。

だが、エレベーターの扉は開かなかった。

「中見てみろよ 明かりがついて無いぜ」
ムサシはガラス越しに見えるエレベーター内の照明を指差して言った。

「最後に避難した人がブレーカーを落としたのかっ 地震じゃ無いってのに」
ケイタはエレベーターの扉を叩いて言った

「こうなったら仕方ない……階段で降りようぜ」
ムサシはエレベーターホールの脇にある非常階段への扉を指差して言った。

「ここが何階だか分かって言ってるの? ムサシ」
ケイタは青ざめた表情のまま、エレベーターの階数表示を見た。

「そこで待ってても無駄だ それに階段を上がる訳じゃ無いって」
いい終わるやムサシは非常階段の扉を開けて駆けだした。

「待ってよムサシ 降りる時の方が足腰への負担が大きいって聞いて無いか」
ケイタは腹を据えて非常階段の扉を押し開けて外に出た。

その途端強い風が吹きつけて来て、ケイタは目をかばった。
風に押された非常階段の扉は風で強く叩きつけられ変形していた。

もう退く事は出来ないと観念してケイタは階段を駆けおりはじめた。

「ムサシぃぃ ちょっと待ってくれよぉ〜」
2フロア分ほど先行しているムサシにケイタは叫びかけた。

だが、勢いがついているので、ムサシも簡単に止まる事は出来ず、
10フロア分程降りた処にある踊り場でようやく足を止め、
胸に手を押さえて息を整えていた。


「はぁっ はぁっ」 かなり遅れてケイタも踊り場に到着した。

「大丈夫か? ケイタ」 ようやく胸の痛みが治まったムサシがケイタに話しかけようと
した時、ムサシは顔を引きつらせた。

「ん? どうかしたの?」
ケイタは苦しそうに途切れ途切れに息を吐きながら問いかけた。

「あれ……何だよ」 ムサシが凝視している対象物は段々と大きくなってきていた。
紫色の巨体……そうエヴァンゲリオン初号機である。

「大きいなぁ」
ケイタはムサシ程驚かずにこっちに向かって駆けて来る初号機を見て言った。

「あれにシンイチが乗ってるのかよ……」 
ムサシは呆然とした表情で近づいて来る初号機を見つめていた。

「エヴァンゲリオンってのが近づいて来たって事は戦闘が間近って事だろ?
早く逃げなきゃ」 先に冷静になったのはケイタであった。

「そ、そうだな」

二人は再び非常階段を駆け降りはじめた。


初号機

「間に合ったかっ」 シンイチは視野にヨグ・ソトースを認めて叫んだ。

ヨグ・ソトースは初号機が到着しても、何の動きも見せなかった。
初号機を脅威とすら思っていない……
その態度がヨグ・ソトースの秘めた力の為だと理解し、
戦況をモニターしていたアヤを戦慄させた。、


「こちらNERV 駅前附近は戦場になります 待避して下さい
尚、この回線を保持しておきますので、状況の変化がありましたら連絡下さい」
アヤは警察への通信回線を開いて叫んだ。

その内容を階段を駆け降りているケイタが盗聴している警察無線で耳にしなければ……
世界は終焉を迎える事になったかも知れない



「それでは攻撃を開始します 宜しいですか?」
シンイチは初号機の持つ兵器の照準を空中に静止しているヨグ・ソトースに合わせた。



「出来れば術者が到着してからの方が良かったのだが……まだ到着しないのかね?」
シンジは青葉に話しかけた。

「連絡があり、現在急行中だそうですが5分以上かかるとの事です・
青葉は即座に答えた。

シンジは一瞬考え込んだが、ゲンドウの方を向いて意見を聞こうとした。

「時空震が始まる前に始末せねばならん 撃てぇっ」
ゲンドウは司令所で腕を振り下ろした。

アヤは攻撃開始OKのコールをシンイチに送った。

{{兄さん……行くよ}}
{ああ 出力は充分だ}

シンイチはヨグ・ソトースを凝視しながら引き金を引いた。

虹色の光は再びヨグ・ソトースに伸びていったが、ヨグ・ソトースに命中する寸前
ヨグ・ソトースは射線上から姿を消した。

「何っ」
いきなり凝視していたヨグ・ソトースが姿を消したので、シンイチは驚愕していた。

その一瞬の隙を狙って、ヨグ・ソトースは初号機のすぐ側に実体化した。

「うわっ」 その瞬間初号機が手にしていた兵器は火花を上げて炸裂した。
炸裂と共に初号機の右腕も肘から先が消滅していた。


NERV司令所

「何だっ 一体何が起ったんだ」
パニック状態に陥ったゲンドウはコンソールを操作して、ヨグ・ソトースが姿を消す瞬間
の画像を表示させようとしていた。

だが、シンジは赤木博士への回線を開いていた。
「あの兵器が破壊されましたが、予備はありますか?」
「こちらでもモニターしてたわ……まだ開発段階ですが もう一基あるにはあります。
ですが、銀の鍵を回収する必要があります。」
赤木リツコは少し青ざめた表情で言った。

まさか使徒と接触しただけで破壊されるとは思っていなかったのだろう……


初号機の腕と兵器が破壊される直前……

建物の外だと危険なので、館内の階段を駆け降りていたムサシとケイタは
ようやく一階に辿りついていた。

「逃げるったってどうするんだよ」
ムサシは外への扉の鍵を内側から解除しながら言った。
「近くの地下鉄にでも潜り込もう シェルターが設置されてる筈だから」
ケイタはポケットから手帳を取り出して言った。

「とにかく出よう」
二人がビルの外に出ようと扉に手をかけた時、轟音と共に何かが落下して来た。

それは先程破壊された初号機の兵器と初号機の右手の一部であった。

「なっ 何だよ もうここで戦闘が始まってたのか」
風圧で押し開けられそうになったドアに身体を押しつけながらムサシは叫んだ。

「現地警察及びロンギヌスのメンバーへ 落下した初号機の兵器のブラックボックスに
銀色の鍵が入っていますので、至急取り出して連絡して下さい」
盗聴していた警察無線が イヤホンが外れた為ケイタの鞄の中から流れ出した。

「あれがそうみたいだね」 ケイタは先程ドアの向こうに落下した初号機の兵器の残骸
を指差して言った。

「どうせ外に出たって逃げられっこ無いし……協力して少しでも生存確率を高めるか」
ムサシも同意して、扉を蹴り開けた。

その頃、初号機は決めての武器を失い、一進一退の攻防を続けていた。

「こちら民間人ですが、我々の目前に該当する兵器らしきものが落下しました。
その鍵を取り出す方法を教えて下さい」 ケイタは警察無線に割り込んだ。

「それでは、技術担当に変わります」 アヤは赤木博士への回線も開いた。

「聞いてたわ……赤と黄色の斜線の入った四角いボックスが見えないかしら」

ムサシはシャッターの開け閉めに使う金属製の棒をどこかから持ち出して、
半壊している初号機の兵器の外板を取り外していた。

「あ、それらしいものが見えて来ました」 ケイタはムサシの作業を見ながら言った。

「数字を入力するパネルがある筈よ パネルの右の非常用の赤いボタンを先に押してから
数字を入力するパネルに4ケタの暗証番号を打ち込めば、銀の鍵を取り出す事が出来るわ
その暗証番号を知っている人を呼び出すから、番号を入れる事の出来る状態にしておいて」
赤木博士はそこまで言って回線を切り、司令所へ繋ぎなおした。
「冬月元副司令に連絡して暗証番号を聴くように 碇ゲンドウ元司令に連絡して頂戴」


「これでいいみたいだな」
ムサシはパネルの上のカバーを剥がしながら言った。

その時、冬月ヨシオと三人の術者の乗る指揮車がムサシ達の前に急停車した。

「叔父さんから暗証番号を聞いたよ 番号は0313だ」
冬月ヨシオは指揮者から飛びおりて叫んだ。

「了解っ」 ムサシは赤いボタンを押し、パネルに光が灯るのを確認してから
暗証番号を入力した。

 0313……私の誕生日(笑)

すると中から銀色の鍵が刺さったソケットが押し出されて来た。


「銀の鍵の回収完了しました」 ミドリが通信回線を開いて報告した。

「すぐこっちに持って来て頂戴 換えの兵器に換装するわ」
赤木博士が即座に答えた。

「いえ、その鍵は僕に渡して下さい」
その時、第三者がその会話に割り込んだ。

「その声は……シンイチさん?」 ミドリは周りを見渡して言った。

「ヨグ・ソトースの波動が高まっています このままだと無理やり時空の門を潜られて
しまいます そうなったら第三東京市……いや日本は……」

「どうするつもりなの? シンイチ君」
赤木博士は青ざめた顔で叫んだ。

「僕と兄さん……いや初号機が鍵を使って時空の門を開き、ヨグ・ソトースの転移による
時空震を出す事無しに消滅させます。

ミドリ達が立っているビルのすぐ近くに初号機が着地し、無事な左手を差し出して来た

「事情は良く分からんが シンイチぃ おまえに任せるっ」
ムサシは銀の鍵をひったくり、初号機の掌の中に駆け上がった。

「ムサシ……どうしてここに」 シンイチは左手をコクピットの前まで寄せながら呟いた

シンイチは初号機のコクピットを開き、手を伸ばした。

「俺にはこんな事しか出来んっ 頼んだぞ」
ムサシは腕を伸ばしてシンイチに銀の鍵を手渡した。

「そのビルの屋上にでも降ろしてくれ 時間が無いんだろ?」
ムサシは初号機の左手の上に戻って叫んだ。

「すまない」 シンイチはビルの屋上にムサシを降ろし、
今 まさに時空の門をこじ開けようとしているヨグ・ソトースに立ち向かった。

「私たちも支援するから」
指揮車から通信が入り、ミドリの声が初号機のコクピットに響いた。


{{兄さん……行くよ}} シンイチは銀の鍵を握り締めて呟いた。
{ああ……} シンイチの兄は多くを語らなかった。


シンイチ 何をする気だ シンイチっ
ようやくシンイチの目的に気づいたシンジがマイクを掴んで叫んだ。




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どうもありがとうございました!

最終話Yパート 終わり

最終話Zパート に続く!



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