裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 02A

第2話【二人の乙女のコンチェルト】Aパート

時に西暦2039年4月7日

まだ、世界は沈黙を守っていた。

だが、それは、かりそめの沈黙でしかなかった。



「じゃ、シンイチ! 家に帰っててよ」

土曜の昼下がり、僕達は家路についていた。

「うん。いいけど どうかしたの?」


「アネキとね、約束があるんだ じゃ!」

そういってミライは駆け出して行った。


「ようシンイチ! ミライと喧嘩でもしたのか?」

ムサシが背後から声をかけてきた。

「そんなんじゃ無いよ・・ムサシ」

「なら、いいけど」


僕はムサシと別れ、一人で家路についていた

「よく考えたら、こうして一人で帰るのは久しぶりだなぁ・・」

僕は呟きながら校門を出ようとした。

「渚先輩っ」



僕は誰かに呼び止められた。

「ん?」

僕は声の主を探した。

すると、校門の側の木の下に、図書委員会で何度か顔をあわせた事のある、
1年生の女の子が立っていた。

「えーと 君は・・」

ばか! 一度会った女の子の名前は覚えとけ! あの子は山際シズカちゃんだろ

「えーと一年の山際シズカさんだよね」

「はい! 名前を覚えてくれてたなんて、嬉しいです」

「はは、大袈裟だなぁ」

「ホントですよ!渚先輩」シズカちゃんは、頬を少し染めて下を向いた。

黄色かかった、ポニーテールの頭に、くりっとした可愛い瞳と、少し丸顔だが、愛敬のある女の子だ。

「今日は、委員会無かったよね・・たしか」

「ええ、来週の土曜です(来週の土曜・・また渚先輩に会える・・)」

「そうだったっけ じゃ、また来週ね!」僕は声をかけて校門に向かった。

「あの!」

シズカちゃんが、再び声をかけた。

「どうかしたの?」

おまえバカか?あの子の心も読めただろ! あの子・・おまえに気があるんだろ・・

だから、無下に断ったり、無視なんかしたら嫌われるぞ


{{兄さん・・今日はどうしたの・普段は、3日に一回ぐらいしか声かけてこないのに}}

おまえを見てるといらいらするんだよ・・ま、それがシンイチらしいって事だろうけど

「あの先輩・・えーと・・一緒に帰りませんか?」シズカちゃんは、頬を染めながらも言い切った。

「うん・・いいけどシズカちゃんは 何町なの?」

「ハイ 私は、手縄町の山の上です」

「山の上? あ、そうか、神社なんだね なら近いね じゃ帰ろうか」

「ありがとうございます! 渚先輩!」

「渚先輩だなんて、堅苦しい呼び方しなくていいよ シンイチでいいよ」僕は苦笑した。

「じゃ、シンイチ先輩ですね」

「はは、そうだね」

僕とシズカちゃんは、家に向かって歩いていた。

「明日は日曜ですねぇ シンイチ先輩!」

「うん・・全国的に日曜だね 明日は」

「もう シンイチ先輩ったら」

「そういえば、昔、境内で遊んだなぁ・・」僕は昔の事を回想していた。

「ミライと、鬼ごっこをしてて、泣きながら仲間に入れてくれってしがみついた 女の子がいたっけ」

「先輩・・それ私です・・」

「えっ? けどかなり小さい子だったけど・・」

「私、小学4年から急に背が伸びて来たんです・・私、あの時から、先輩の事・・」

「あら、シンイチ君じゃない! どうしたの?」


後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。

「伊吹先生!お久しぶりです」僕は振り向いて挨拶した。

伊吹マヤ先生は、僕が一年の時に、担任であり、国語の教師でもあった。



「あれ、横にいるの、シズカちゃんじゃない?」伊吹先生がシズカちゃんに声をかけた。

「あ、はい 伊吹先生」シズカちゃんは、いたずらが見つかった子供のように、振り向いた。

「家が同じ方向なんで、話しながら帰ってたんですよ」

「あらそう? シンイチ君はそう想ってても、シズカちゃんはそう想って無いかもよ・・
私に、何度もシンイチ君の事聞き出そうとしてたしねぇ」

「いっ伊吹先生!」シズカちゃんは、耳まで真っ赤になってしまった。

「シンイチ君も大変ねぇ 黙ってても女の子に好かれるタイプだし」

「そ、そんな事無いですよ」

「そう?(私だって、10才若かったら・・)」

「じゃ、送ってあげてね! 変な事したら、ミライちゃんや、アヤちゃんに告げ口しちゃうぞ!」

「しませんよ」

それだけ言って、伊吹先生は、曲がり角で、別れて行った。

「・・・」顔を真っ赤にしたまま、シズカちゃんは僕の横を付いて来ていた。

「ここが、僕がお世話になっている家だよ」僕はシズカちゃんに話しかけた。

「お世話になっている?」

「うん・・僕はここの子供じゃ無いんだ・・」

「そういえば、ここ社会の碇先生の家ですね 」

「じゃ、家まで送って行こうか?」

「いいですよ 近いですし」

「そう?」

「先輩・・」

「何?」

「今度遊びに来てもいいですか?」

「うん・・別に構わないけど」

「そうですか・・じゃ、さよなら!」
そういって、シズカちゃんは駆け出して行った。

僕は鍵を開け、家に入った。

「碇先生・まだ戻って無いみたいだなぁ」
僕は家の中を見回した。

「そういえばお腹空いたな・・」
僕は台所に向かった。

そこには、アヤさんが作ってくれたらしいサンドイッチと、
メモが置いてあった。

”ミライと用事があるから、お昼にはこれでも食べててね”


僕はサンドイッチの乗った皿と、ジンジャーエールの缶を持って、食卓に置いた。

そして、リモコンを操作して、テレビの電源を入れた。

”えー尾長山町で起こった、3人の犠牲者を出した、不可解な殺人事件の捜査は難航しており
今後、新たな物証か、証言でも無いかぎり、容疑者を見つけ出すのも困難なようです。
警察では、この事件についての、目撃者を求めています。
心当たりのある方は、最寄りの警察署にお願いします。”

「物騒な事件だなぁ・・しかし死体はほんの一部しか残って無いだなんて・・」

そう、二ヶ月前に起こった長尾山町での殺人事件では、三人の犠牲者がでながらも、
現場に残ったのは、顔の断面・・足首など・・尋常でない殺しかたをしているのだ。

これは多分・・何かに食われたんだな・・

{{何かって何なの?兄さん 動物園から、虎かライオンでも抜け出したかな・・}}

はぁ・・まだ気付かないのか? まったく

{{何が言いたいんだよ兄さん・}}

僕はサンドイッチを口に放り込んだ。

「そういえば、アヤさんとミライはどこに行ったんだろ・・」

ガチャリ

ドアが開く音がして、碇先生が入って来た。

「お帰りなさい」

「これ、お昼だそうですよ」僕はサンドイッチの皿を寄せた。

「サンドイッチか・・うまそうだな」

”尚、新第三東京市内の、全警察署は、緊急警戒に当たるそうです。

皆さんも外出の際は、一人で出歩かないで下さい”


碇先生はTVに見入っていた。

僕は冷蔵庫から、碇先生の好きな、六条麦茶の缶を持ってきて、手渡した。

「今日、飯を食ったら、また出ないといかんのだ・・この事件の事でな・・
学校を休校にする事もあるかもしれん」

「えっそうなんですか?」

「ああ・・まだ死体は上がっていないが、行方不明者が増えてるんだ・・

こんなに大量に家出する訳も無いだろうし・・」


「そうなんですか・・」

「だから、今日は朝まで、学校の近くの鏡水館で会議だな・・

だから、戸締まりをきちんとしておいてくれよ!」


「はい! わかりました」

僕と碇先生は黙々と食事をしていた。

「なぁ・・シンイチ君・・」

「はい・・」

「名字を・・碇に変えないか・・」

「どういう事です・・」

「君を僕の子供として、養子縁組したいんだ・・」

「どうしてですか?」

「これは、レイ・・君のお母さんの望みでもあると想うんだ・・」

「そうですか・・」

「ま、中学を卒業してからでもいいと思うんだがね・・」

「ありがとうございます・・そのお心だけ頂いておきます・・」

「そうか・・だが、君の名字を碇にする方法は他にもあるんだよ」

「どういう意味です?」

「アヤかミライ・・私は絶対嫁にはやらんぞ・・君が碇の家を継いでくれよ」

「先生・・」

「君になら、任せる事が出来るよ・・」

「そんな・・買いかぶりです」

「何があろうと・・僕は君を息子だと思っているよ」

「だから・・ここは君の家なんだ・・もっと堂々としてていいんだよ・・シンイチ」

「父さん・・」僕は長い間、呼びたかった尊称で答えた。

「シンイチ・・」碇先生はそれだけ言って僕の手を両手で包み込んでくれた。

僕はようやく、本当に碇先生の家族になれたような気がする。

僕は捜し求めていた存在理由を、碇先生に与えられたんだ・・


第2話Aパート 終わり

第2話Bパート に続く!


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