裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 02B

第2話【二人の乙女のコンチェルト】Bパート

「行ってらっしゃい 父さん」

僕は碇先生・・いや父さんを見送った。


父さんは、幾分嬉しそうだった。


僕は居間でテレビを見ていた。


”えー ただ今入りました情報によりますと、
連続殺人事件の行われた 尾長山付近で、新たな目撃者が、現れたようです。
えー身長190CMぐらいで、ぶあついロングコートを
着ていた男性がうろついているのを、思い出したそうです”

TVは、再び、今第三東京市を震えさせている事件を伝えていた。


トントン

ドアをノックする音が聞こえた。

「ん?お客様かな」僕はTVを消して立ち上がった。

「はい! 碇ですが」僕は扉を開けた。

「あ、碇シンジさんはいらっしゃいますか?」

そこには、水色の長い髪をたなびかせた、

僕と同年代ぐらいの少女が立っていた。


「あ、父さんは鏡水館って所に、学校の会議だって言ってましたけど」

僕は、どぎまぎしながら答えた。

(可愛い人だな・・僕より少し上かな? 父さんの知り合いなんだろうか)

「あなた・・碇シンジさんの子供さんですか?」その少女は風にたなびく水色の髪を手で押さえた。

(この人・・目が紅い・・僕と同じだなぁ・・)
セカンドインパクト以降、紅瞳を持つ人間は増えたそうだけど・・

「えーまぁ、親戚なんですけど、似たようなもんです・・」僕は頬をかいた。

(もしかして、先生の教え子かな?)

「そ、そうなの・・じゃ、失礼します」

そういって、その少女は頭を下げて立ち去った。

「どうしたんだろう・・さっき・・涙が零れてたけど・・父さんの愛人かな?

いや、まさか碇先生にかぎって・・はは・・まさかね」


僕はドアを閉めた。

「しかし・・父さんと呼ぶの・・みんなの前だと少し恥かしいかな・・まぁいいや・・

父さんといる時は呼んであげよう・・ふっアヤさんと同じだな・・」


僕が席についた時

ガチャリ

「ただいまぁ〜 シンイチ君お待たせぇ」

「はぁ疲れた・・もうアネキったら・・」

二人が居間に入って来た。

「おかえり!アヤさん ミライ」

「あ、シンイチ君! あなたの誕生パーティ明日する事になったからね」

「そうですか・・ありがとうございます・・アヤさん」

「月曜じゃ、ちょっとね!」ミライも重い荷物をテーブルの上に置いた。

「今、そこでムサシ君に会ったから、ケイタ君も連れて来るって言ってたわよ」

「ありがとうございます!」

「もう・・シンちゃん そんな他人行儀な事言わないでよ」アヤさんが笑った。

「あ、そうそう鈴原さんにも声かけたけど、いいよね シンイチ」ミライが僕に声をかけた。

「ミライの親友だもんね 鈴原さんは」

「あ、父さん 今夜帰って来ないって言ってたよ」

「あっそうなの? シンイチ君」

「今、あんた父さんって言わなかった?」ミライが僕の方を見た。

「あ、今日・・碇先生とちらっと話したんだよ・・

碇先生は、僕を養子縁組で、息子にしたいって言ったんだ・・

それは遠慮したんだけど・・僕・・今日・・碇先生の事・父さんって

初めて言ったんだ・・父さんも僕の事”シンイチ君”じゃなくて・・”シンイチ”って呼んでくれたんだ・・」


「そうだったの・・シンイチ君」

「そりゃいい事ね!あんたがそう呼ばない限り、ホントの家族にはなれなかったのよ・・」

「ありがとう・・アヤさん・・ミライ」僕は二人にその事を認めて貰って嬉しかった。

「かと言って、私の事・・姉さんだなんて言わないでよ!」

「アネキ・・どうして?」ミライが不審そうな顔をした

「・・・・」僕は言葉を一瞬無くしていた。

「だって、兄弟じゃ結婚出来ないもんね シンちゃん」

「ア、アヤさん・・からかわないで下さいよ」僕は顔を真っ赤にしてしまった。

「アネキが冗談を言うなんて、10年ぶりじゃないの?」

「アハっ そうかもね」アヤさんが、微笑んだ。

「もうアネキったら」


僕達は談笑していた。


数時間後


明日の誕生パーティの準備もほぼ終わり、僕達は夕食を食べていた。

「そういえば、僕達だけで晩御飯食べるの・・久しぶりじゃないかな」

僕は冷たい麦茶を飲みながら呟いた。


「そういえば、そうね・・」

「ごちそうさま」僕は箸を置いた。

「あ、そうだ・・父さんに、今日は戸締まりを確認しておいてくれって言われてたんだ」

「あぁあの事件の事ね」

「もう物騒な世の中ね」

「じゃ、見て来るよ」


僕は家のあちこちの扉の鍵を閉めて行った。

「一応全部閉めたよ 窓開けて寝ない方がいいかもね」

僕は居間に入っていった。

「シンイチじゃあるまいし、エアコン付けるわよ」

「だって、エアコンだと風邪引くから・・」僕はエアコンが苦手であった。

二階には3つの部屋があるが、エアコンを付けて無いのは、シンイチの部屋だけであった。

「扇風機を上に向けて、回してても、十分涼しいよ」

「あの扇風機もどこから拾って来たのよ・・」

「あれは、押し入れの中にあったから・・」


「さ、洗い物も終わったし・・もう寝ましょうか」

アヤさんが手を拭きながらキッチンから出て来た。

「じゃ、お休みなさい」僕は二階に上がって行った。

「ふぅ・・さすがに窓を開けないと少し暑いかな・・」

僕は扇風機を部屋の隅で回した。

「昔は、四季があって、年中暑く無かったんだよな・・」

僕は寝間着に着替えてベッドに腰をかけた。

数分後・・

コンコン

部屋を誰かがノックしていた。

「どうぞ」

「シンイチぃ!あんたのビデオ使わせてよ」

ミライが、ビデオディスクを手にして立っていた。

「何見るの?」

「あんたも前見たいって言ってたでしょ?リメイクじゃ無い、昔のジェネQのビデオよ」

「へぇ よく見付けたねぇ」

「アネキと買い物してて、見付けたのよ」

「じゃ、見ようか」

(しかし・・なんて格好だよ・・)

ミライはぶかぶかの白い肩の所までしか布の無いシャツを上に着て、

下にはジョギングパンツをはいただけであった。

僕の視線に気付いたのか、

「シンイチの部屋は暑いんだから 仕方無いでしょ」


「はは そうだね」

僕はベッドを背にして、絨毯の上に座った。

「じゃ、再生するわよ」

「アヤさんは?」

「下で粉をこねてたわよ 誘ったんだけどね」

僕とミライは、ジェネQを見入っていた。

このテープに収録されている、4つのエピソードの内、3つを見終わった時・・

僕の肩に、ミライの頭が乗っていた。

(ふぅ・・自分が見るって言ってたのに・)
僕は起こすべきか、悩みながら、ミライを見た。

ドクン

(おいおい・・・ブラジャーぐらいつけてくれよ・・)僕は内心頭を抱えた。

汗ばんだシャツから、突起が二つ見えていた。

しかも、ぶかぶかな上、肩までしか無いシャツなので、横からちらちらと見えてもいた・・

「ん・・」

ミライは夢でも見ているのか眉を寄せていた。

(黙ってたらミライ・・可愛いんだよなぁ・・普段とのギャップが・・)

今日は、薄いピンクのルージュを引いていたので、普段以上に可愛かった。

兄さんは、ビデオを見始めた時に、寝るっていってそれいらい、反応が無かった。

「今・・起こすのはかわいそうかな・・」

「しかし・・」僕は目のやり場に困っていたが、ミライから視線を外さなかった。

「ん・・助けて・・シンイチ・・」ミライはうなされはじめていた。

異変を感じた僕は、背中から手を回してミライの右肩を揺さぶった。

「ミライ! ミライ!どうしたんだ」

「や、やめて・・助けて・・シンイチ」

夢にうなされて、僕の名を呼び続けているミライは、
普段とは違い、華奢に見えた。

「ミライ! どうしたんだ!」

だが、いくら揺さぶっても、目を覚まさなかった。

「おいミライ・どうしたんだ」
僕はミライを抱きしめて、呼びかけ続けていた。
僕の名前を連呼しているから、僕はここにいる・・と伝えたかったんだ・・

「ど、どうすればいいんだ・・」僕の脳裏に、白雪姫のストーリーが頭に浮かんだ。

(な、寝ているんだぞ・・)僕は頭を振って、その考えを吹き飛ばそうとしていた。

だが、抱きしめているミライを見ていると、僕はとてもいとおしく感じていた。
「シンイチぃ・・」

「僕を呼んでいるんだ・・」僕は意を決して、唇を合わせた。

「んんっ・・」

その瞬間、僕の脳裏に、巨大な化け物に襲われて逃げ惑うミライの姿が頭に浮かんだ。

(ミライ・・)僕は唇を合わせたまま、ミライの身体を抱きしめた。

(目を覚ましてくれ・・)


僕は至近距離で見えるミライの瞳に目を奪われていた。

「んんっ!」ミライは思いっきり息を吸い込んだ。

「ふぅ・・」ミライは、ようやく目覚めたようだが、目の焦点があっていなかった。

「ミライ!大丈夫か?ミライ」僕はミライに呼びかけ続けた。

「シンイチ・・?」

「もう大丈夫だよ・・」

「私・・恐い夢を見たの・・」

「化け物に追いかけられる夢?」僕は何気なく言ってしまった。

「そうよ・・なぜわかったの?」

「なんとなくね・・」

「な、何してんのよ シンイチ!」

ようやく、今自分が置かれている状態が分かったミライは声を上げた。

「あ、ごめん・・」僕はミライの背中に回してた手を少し緩めた。

「何よ・・その口についてるのは」ミライが僕の唇を指でなぞった。

「こ、これ私の口紅じゃないの・・シンイチあんた・・まさか」

「ごっ ごめん・・苦しそうにしてて、何度も揺さぶったんだけど

起きなかったんだ・・で僕の名前を何度も呼ぶから・・」


僕は、爆弾が破裂すると思って覚悟した。

「そっか・・ 私を呼び戻してくれたのね・・シンイチ」

「ミライ・・怒らないの?」


「あの夢・・すごく恐かった・・何度も何度も夢の中で・・

シンイチの名前叫んだんだ・・私・・シンイチの事が・・」


「ミライ・・」

「シンイチの事・・好きよ・・」


コンコン

僕は慌てて、ミライの身体から離れた。

ガチャリ

「はーい アイスティ出来たわよ・・」

「もう私も寝るから、あんまり夜更かししちゃ駄目よ」

アヤさんが、アイスティの二つ乗ったトレイを置いて、部屋を出た。

「びっくりした・・」ミライが苦笑していた。

「僕も・・」

「3番目の最期まで見たから、続きはまた今度にしようか・・」
僕はアイスティを飲みながら言った。

「そうね・・」


その時・・ドアの向こうでは、アヤが立ち尽くしていた。
(シンイチ君の唇に・・ピンクのルージュが・・)


第2話Bパート 終わり

第2話Cパート に続く!


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