「じゃ、続きはまた今度ね」ミライは立ち上がった。
「あ、ディスク忘れてるよ」
「いいの・どうせここで見るんだから・・それとも私と見るの嫌?」
「そ、そんな事無いよ」
「じゃ、お休み!」
「お休み」
ドアが閉まったのを確認して、僕はベッドの上に乗った。
「ふぅ・・」
{シンイチ・・}
{{兄さん・どうしたの?}}
{ミライが見てたのは只の夢じゃ無い・・気を付けろ・・アヤからも目を離すなよ・・}
{{兄さん・・}}
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 02C
第2話【二人の乙女のコンチェルト】Cパート
そして、翌朝 AM10:00
「ふわぁ」僕はあくびをかみ殺して、顔を洗っていた。
「あ、おはよう シンイチ!」ミライが外出着に着替えていた。
「おはよう・・朝からそんな格好してどこいくの?」
「鈴原さんのところにね お昼には戻るから」
「うん いってらっしゃい」
僕は居間に顔を出した。
「碇先生・・じゃなくて父さん・・まだ帰って無いのかなぁ・・」
「おはようございま・・ってアヤさんもいないや」
僕は誰もいない、キッチンでぼーっとしていた。
「まだ寝てるのかな・・僕ももう一眠りしよう・・ふわぁ」
とんとんとんとん
瞼が半分閉じた状態で、僕は階段を上がっていた。
「はぁはぁ んっ 誰か・・」その時アヤさんの部屋からうめき声が聞こえた。
僕の脳裏に、昨日の兄さんの言葉が浮かんだ。
ガチャリ
小学校を卒業してからは、初めて入る、アヤさんの部屋であった。
「助けて・・誰か・・」アヤさんのうめき声は続いていた。
僕は、アヤさんの眠るベッドに駆け寄った。
「アヤさん!アヤさん!」肩を掴んで揺するが、目を覚ます気配は無かった。
薄手のTシャツを着て寝ているアヤさんの上半身は汗に浮いていた。
身体は左右に震えてさえいた。
「アヤさん! 目を覚まして!」僕は呼びかけ続けたが、反応が無かった。
「昨日・・ミライの時に見えたイメージ・・もしかして・・」僕は昨日の出来事と照らし合わせていた。
「シンイチ君! 助けて・・シンイチ君・・」アヤさんのうめき声が高まって来た。
「アヤさん・・ごめん・・」
僕はアヤさんを片手で抱き起こし、唇を重ねた。
「んっ」
僕の脳裏に、手が何本もある巨大な化け物に追いかけられるアヤさんのイメージが見えた。
身体が触れ合っているので、アヤさんの想いも伝わってきていた。
(助けて・・シンイチ君・・)
僕はアヤさんの身体を抱きしめて念じた。
「目を覚ますんだ!アヤさん・・アヤ!」
「んんっ」
目を覚ましたのに、まだ苦しそうにしているので、僕は抱きしめる力を強くした。
Tシャツごしのアヤさんの胸の感触が今ごろ感じられて来た。
「アヤ! アヤ! 目を覚ますんだ!」
「ん・・」アヤさんはようやく目を覚ましたようだ。
「シン、イチ君?」アヤさんは目を潤ませていた。
僕はアヤさんの意識が回復したのを知り、唇を離した。
「よかった・・もう二度と目を覚まさないんじゃないかと・・」
堪えていた涙が頬を伝い、アヤさんの額に落ちた。
「シンイチ君・・今のは何だったのかしら・・」
「化け物に追いかけられてたんでしょう!」
「ええ、そうよ・・どうしてそれが・・」
「昨日・・ミライも同じように苦しみはじめて、目を覚まさなかったんです・・
肩を揺すっても大きい声で呼んでも・・それで・・」
「今の私のように・・してくれたのね・・」
「その時・・手が何本もある大きい化け物に追いかけられているミライの姿が見えたんです・・」
「そっか・・それで昨日・・シンイチ君の唇にピンクのルージュがついてたのね・・」
「し、知ってたんですか・・」
「けど・・安心したわ・・」
「ありがとう・・シンイチ君・・私を何度もアヤって呼んでくれたでしょ・・
夢の中で、シンイチ君が手を伸ばして私の名前を呼ぶのが見えたの・・」
「僕・・父さんやアスカさん・・アヤさんやミライにも秘密にしている事があるんです・・」
「人の想いを読み取る事が出来るって事でしょ」アヤさんの微笑みが僕の心を埋めてくれた。
「知って・・いたんですか・・」
「なんとなくね・・私がこうしてほしいなっとか想ったら、すぐ実行に移してくれるんだもん・
私とミライの見ていた夢まで見えたって聞いて確信したけど・・あなたを責める気は無いのよ・・
一人で、そんな秘密を抱え込んで・・辛かったでしょう・・私には・・教えてくれたのね・・」
アヤさんは僕の背中に手を回して、僕を抱きしめた。
「ア、アヤさん・・」
「想いが読めるあなたなら・・私の気持ち・・気付いているわよね・・」
「・・・・」
「そう・・シンイチ君は、私の弟ってだけじゃ無くなってたのよ・・・
好きよ・・シンイチ君・・
(私の想い・・もう一度キスしてくれたら、その秘密は黙っててあげる・・)」
アヤさんの想いがいやおうなく伝わって来た。
「・・」僕はアヤさんの唇に、自分の唇を重ねた。
(ありがとう・・シンイチ君・・)
僕はようやく、正気に帰り、アヤさんから離れた。
「あ、そうだ・・タオルどこですか?」
「その引き出しの上から二番目よ・・」
「ここですか?」
僕は引き出しを開けた
「こっこれは・・」
「アヤさん!」僕は顔を真っ赤にして振り向いた。
その引き出しの中には、アヤさんの下着が詰まっていたのだ・
「ごめん その上だったかな」
「もう・・アヤさん・・からかわないで下さいよ・・」
僕は少し名残惜しくはあったが、引き出しを閉め、その上の引き出しを開けた。
僕はタオルを一枚取り出して、アヤさんに手渡した。
「ありがと」
「それじゃ・・」僕はアヤさんに背を向けようとした。
「待って!シンイチ君」
「ごめん・・今一人になるのが恐いの・・ここにいてくれる?」
「いいですけど・・」
「じゃ、そっち向いて座っててくれる? 汗拭くから・・」
僕は絨毯の上に座った。
「もういいわよ・・ね・・シンイチ君・・ここで寝てて・・
シンイチ君が横にいてくれたら、私・・安心して眠れるから」
アヤさんがベッドの端の方に寄って言った。
「そっそんな!」
「大丈夫よ・シンイチ君を襲ったりしないから」
「シンイチ君とゆっくり話したい事もあるの・・ね」
「女に恥をかかせるもんじゃないわよ・・シンちゃん(この部屋出ていったらケーキ焼いてあげないぞ)」
「・・・・僕・・自分に自信無いですよ・・これでも男ですから」
「私のファーストキス・・・奪ったんだからそれぐらいのお願い聞いてよ」
「ふぁ、ファーストって・・アヤさん・・恋人いないんですか? 17才でしょ」
「あ、そーいう事言うのはこの口か?この口か?」
「いらひ いらひ ほへんなはい」
「そういえば・・昔はアヤさんも僕の事結構おもちゃにしてたんだよな・・」
幼稚園の頃・・
冷蔵庫に一個だけあったプリン・・ミライと僕がどっちが食べるか揉めてた時
さりげなく、冷蔵庫のプリンを取り出して、食べはじめたのだ・・
「あ、おねーちゃんずるい」
「・・・」
「こうすれば、あなた達が喧嘩するの見なくていいでしょ」
「ね・・11時までいてよ・・」
「わかりましたよ」
僕はしぶしぶアヤさんの隣に寝転がった。
数分後・・
僕は眠りについていた。
なんだろ・・なんだかあったかいなぁ・・
何かに優しく包まれているような気がした。
僕はようやく目を覚ました。
「んっ・・ あれ身体が動かないや・・あれっ」
僕の身体は、背中からアヤさんに抱き着かれていて、身動き取れなかった。
「アヤさん・・もう・・」僕はようやく、アヤさんの手を引き剥がして拘束から逃れた。
アヤさんはまだ眠っていた。
僕はアヤさんの寝顔を見つめていた。
「ただーいまぁ そこでパパと会っちゃってさ・・アネキぃ いないのぉ?」
とんとんとん
「アネキぃまだ寝てんの?」
ミライが階段を上がって来る音がした。
「まずいっ・・こんな所を見られたら、誤解されてしまう・・」
僕はアヤさんのいるベッドから出て、扉に向かって忍び足で歩いていった。
そして、ドアノブに手を伸ばそうとした時!
ガチャリ
「アネキぃ お昼だよ」ミライが言いながら中に入って来た。
「シンイチ・・なんであんたがここにいるのよ・・」
ミライは目を丸くして、寝間着姿の僕を見詰めた。
「も、もうお昼なのに、起きて来ないから、起こしに来たんだよ・・けど起きないんだ」
「そ、そうなの・・もうお昼なのに・・アネキったら・・」
「頼むよ・・」
僕はミライの後を付いていった。
「ア〜ネ〜キ〜」
とんとんとん
父さんも上がって来た・・
「どうかしたのかい?」父さんが部屋を覗き込んだ。
「アヤさんが起きないんです・・」
「ん・・シンイチ君・・どこ・どこに行ったの・・」
アヤさんがベッドの上で、僕を手繰り寄せるかのような手つきをした。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
永劫に続くかと思われた沈黙もミライが振り向く事で終わりを告げた。
「シ〜ン〜イ〜チ〜」
「ご、誤解だ!僕は何も!」
「シンイチ君・・私はどちらかと結婚して欲しいとは言ったが、
何も今すぐで無くてもよかったんだが・・それに君はまだ中学生だ・・」
「誤解なんですよぅ」
「どこ・・シンイチ君・・」だが、アヤさんの寝言とジェスチャーは続いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
父さんとミライの視線が痛かった。
事情を説明し、二人を納得させた時には、すでに時計の針が2時を差していた。
第2話Cパート 終わり
第2話Dパート に続く!
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