遅い昼食を食べ終えた時には、時計の針が三時を差していた。
「ごちそうさま」僕は食器を流しに持って行って、麦茶を補給して、席に戻った。
「しかしアネキもやるわねぇ〜シンイチをベッドに引っ張り込むなんてさ」
ミライが麦茶を飲みながら言った。
「そ、そんな言い方しないでよ・・そういうミライはシンイチ君のファーストキス
貰ったんでしょう? 羨ましいな」アヤさんがミライに切りかえした。
「・・・」ミライは頬を染めて、それをごまかすかのように、麦茶を飲んだ。
「しかし、おまえたちの見た夢・・それは、重大な意味を持っているかも知れんな」
父さんが呟いた。
「何か知ってるの?パパ」
「私も気になるわ・・教えてお父さん」
「教えてやろうか・・その意味とはな、夢の中で化け物に追いかけられる夢とは・・
前世紀の心理学者の言に依るとだな・・性的欲求不満だそうだよ」
父さんが微笑んだ。
「もう〜パパったら・・」
「お父さんには今晩ケーキ食べさせてあげませんからね」
「すまんすまん けどこれは本当の事なんだぞ」父さんは苦笑した。
「けど・・大声出しても、肩を揺すっても、目を覚まさなかったんですよ・・その理由は・・」
「それは・・わからないな・・」父さんは、話してる途中で、僕だけに分かるようにウインクをした。
「さて、私は書斎にいるから・・」父さんは立ち上がって書斎に向かった。
「ごちそうさま」僕は席を立ち、トイレに行く振りをして、父さんの書斎に向かった。
トントン
僕は書斎の扉を軽く叩いた。
「入りなさい」
「失礼します」
僕は書斎に入って、背後の扉を閉めた。
「僕にだけなにか話があるんですか?」
「うん・・あの二人にはまだ、言いたく無いからね・・」
「率直に言うよ・・あの二人は何者かに狙われているんだ・・
そう・・産れた時からね・・」
「そ、それはどういう事ですか?」
「驚くのは分かるが、最期まで聞いてくれたまえ・・
これまで二人は狙われてはいたものの、
ある人が、二人を守ってくれてたんだ。
その名は渚カヲル・・そう君の父親だ」
「生きてたんですか・・」僕は小声で呟いた。
「君の父親は・・・厳密に言うと人間では無いのだよ・・
太古から受け継がれている、ある特殊な
遺伝子を身体に持ち、特殊な力を使う事が出来たんだ
その特殊な力で、私の娘二人は命を脅かす存在から
逃れる事が出来ていたのだが・・彼は力を失いつつあるのだ・・
その時・・あの二人を守る事の出来るのは・・君だけなんだ・・」
「・・・」僕は何と言っていいのかわからず、呆然としていた。
「頼む・・あの二人を守ってやってくれ・・この通りだ・・」
父さんは頭を下げた。
「父さん・・親が子供に頼み事をするのに、頭を下げる親はいませんよ」
「シンイチ・・ありがとう・・」
数分の間、僕と父さんはお互いを見詰め合っていた。
その時
「シンイチくーん どこぉ? お客様よ〜」アヤさんの呼び声が聞こえた。
「それじゃ・・失礼します」
僕は席を立って、玄関に向かった。
「アヤさん・・お客様って?」僕はアヤさんに声をかけた。
「ああ いたいた 可愛い女の子が玄関に来てるわよ・・」
僕は不審に思いながらも玄関に顔を出した。
「えへへ・・来ちゃいました」そこには、シズカちゃんが、恥かしそうに立っていた。
「シズカちゃん・・どうしたの?」僕は訳が分からず混乱していた。
「昨日先輩に言ったでしょ・・今度遊びに来てもいい?って」
「そりゃ聞いたけど昨日の今日だとは思わなかったから びっくりしたよ」
「シンイチ君・・何なら5時からの シンイチ君の誕生パーティに出席して貰ったら?」
柱の影から見ていたらしい、アヤさんが声をかけた。
「今日・・碇先輩の誕生日なんですか? 」
「うん・・そうなんだ」
「私が来てもいいんですか?」
「大丈夫よ 余裕もあるし・・ね! シンイチ君」アヤさんが微笑んだ。
「うん・・じゃ5時からだから」僕はシズカちゃんに言った。
「わっかりましたぁ そうと決まれば早速家に帰っておめかしして来ます!」
言うやいなや、シズカちゃんは玄関を出て、家の方に走っていった。
「アヤさん・・」僕はアヤさんに声をかけた。
「いいじゃない・・可愛い子じゃないの・・よく校門の横の木から、シンイチ君を見てるのよ・・あの子」
「本当ですか? 知らなかったなぁ」
「けど、それをどうしてアヤさんが知ってるんですか?」
僕は首を傾げた。
「えっ・・あの・・その・・もうシンイチ君に隠し事は出来ないわね・・」
「どういう事です?」僕はまだ訳がわからなかった。
「もう・・シンイチ君のいじわる・・そんなに私の口から言わせたいの?
私もあの子もよくあの木に隠れてシンイチ君を見てたのよ・・」アヤさんが頬を染めて言った。
「そ、そうだったんですか?全然気付かなかった・・」
「あ、いけない オーブンにケーキ入れてるんだった」
アヤさんはそう言ってキッチンに走って行った。
僕は首を傾げながら、自分の部屋に向かった。
扉を開けて、部屋に入ると、ミライがベッドの上で座っていた。
「どうしたの?」
「これ・・渡したくて」ミライが小さな包装紙に包まれ、リボンの付けられた包みを手渡した。
「あ、ありがとう・・」僕はその包みを手で包み込んだ。
「ほら・・開けてみなさいよ」
「うん・・じゃ失礼して・」
僕は包装紙を開いていった。
包みの中には、・・櫛が収められ、ケースの裏側には鏡が仕込まれている小さなケースが入っていた。
「いつもシンイチの寝癖が気になってたのよ・・」
「ありがとう・・ミライ」
「昨日・・2時間もかけて選んだのよ」
「僕の為に・・ありがとう」僕は感慨もひとしおであった。
「あんた・・泣いてんの? もう・・シンイチは涙脆いんだから・・」
「嬉しくて・・」
「後がつかえてるから・・じゃね・」ミライは部屋を出ていった。
僕はハンカチで涙を拭った。
「シンイチ君・・」入れ違いにアヤさんが入って来た。
「15才の誕生日・・おめでとう」アヤさんは少し大き目のラッピングされた包みを渡してくれた。
「開けてみて・・」
「ありがとうございます」
僕はアヤさんに貰った包みを開けた。
中から、銀色に淡く光るハーモニカとハーモニカのポケットサイズの入門書が出て来た。
「こ、これ・・欲しかったんです ありがとう・・アヤさん」
「シンイチ君が小学校の時・・ハーモニカだけは得意だったって、ミライが言ってたから・・」
「ありがとう アヤさん・・」
「こらっ! 二人きりの時はアヤって呼ぶように言ったでしょ」
アヤさんがはにかんだ。
「じゃ、ケーキ・・お楽しみにね」そう言ってアヤさんが部屋から出て行った。
「シンイチ・・」
「父さん・」
「15才と言えば、もう大人だ・・大人なら時間には厳しくならんといかん・・
と言う訳で・・これがプレゼントだ」
父さんは、本皮のベルトの付いた、腕時計を僕に手渡した。
「それでだな・・何かあったら、このボタンを押すんだ・いいね」
「・・わかりました・・ありがとうございます」
「じゃ! そろそろ着替えといた方がいいぞ」
父さんはそう言って部屋を出た。
僕はズボンのポケットにミライに貰ったケースを入れて、
父さんに貰った腕時計を腕につけた。
「あっ 楽譜も載ってるんだ・・」
僕はハーモニカの入門書に載っていた曲を吹いた。
パー パラララー パラララーララララー
この人の作曲した楽譜集・・今度買いに行こう・・
僕は入門書を見ながら呟いた。
入門書のサンプルを吹いているうちに、時間を忘れ、僕は熱中していた。
「シンイチ! みんな来たわよ」ミライの呼び声が聞こえたので、
服を着替えて下に降りて行った
リビングのテーブルには、 父さん・ミライ・アヤ・ムサシ・ケイタ・シズカちゃん・鈴原さんが座っていた。
「おそいぞ!シンイチ」
「ごめんごめん」
「あ、シンイチ先輩・・これ・・プレゼントです・・」
シズカちゃんが、僕に包装紙に包まれた包みを手渡した。
「ありがとう・・」僕は包みを開けた
中には、僕の好きなアーティストのディスクが入っていた。
「よく、好みが分かったね ありがとう!嬉しいよ」
「はい!シンイチ君! 君の唯一苦手な英語の参考書だよ・・僕のオススメだよ」
ケイタが英語の参考書を手渡してくれた。
「ありがとう!ケイタ君」
「シンイチ君・・おめでとう これ私が焼いたの・・」
洞木さんは手作りのクッキーの詰め合わせをくれた。
「次は俺や!」ムサシが僕にバラの花束を手渡した。
「これ・・ムサシが買ったの?」
「ああそれはアネキに頼まれたんだよ・・
渚シンイチ非公認ファンクラブの会長だからな・・あのアネキ」
「これは俺からや」
ムサシが紙袋をくれた。
「何だろ・・」僕は袋を開けようとした。
「ああ待てぇ・・それは今開けなくてもいい・・」
「そう? じゃありがたくいただくよ」
「ありがとう・・ファンクラブって・・そんなのあったの?」
「おまえ知らないの? 3年の女子の4分の1の人数を誇るあのファンクラブを」
「うん・・」
「シンイチ君はもてるねぇ 羨ましいよ」父さんが笑った。
「あら、お父さん! お母さんに言いつけちゃうぞ」アヤさんが笑った。
「あ、母さんから、今郵便で届いたんだ」父さんが小包のような物を僕に手渡した。
「ありがとうございます」僕は小包を開けた。
「こ、これ・・」中から、英語で書かれた男性誌が出て来た。
「もう・・アスカさん・・僕をからかったな・・」僕は頬を染めて怒った。
「これ、無修正か? シンイチ よかったじゃないか」
「他にも何かあるわよ」ミライが小包の中身を開けた。
「あ、ほんとだ」
中には、小型サイズの、つや消しの黒い、SDATデジタルオーディオテーププレイヤーが入っていた
「こっちがメインで、あれは冗談か」僕は胸を撫で下ろした。
「いかんな・・これはシンイチ君には刺激が強すぎるよ・・これは私が没収しよう」
父さんが男性誌を懐にいれるモーションをした。
ワハハハハハ
「もうお父さんったら」
「パパのえっち」
「碇先生がそんなに面白い人とは思わなかったなぁ」
「さーて、ケーキのおでましよ!」
「をっこれはすごいなぁ」
白いデコレーションケーキには、チョコを使ったらしい、ハッピーバースデイ シンイチの文字が見えた。
「さっ ロウソクも15本あるし、火・・付けるわね」
アヤさんがマッチをすって、ロウソクに火を灯していった。
「さっ電気消すわよ」ミライがリモコンを操作して、部屋の電気を消した。
ケーキについている、15本のロウソクだけが、僕達を照らしていた。
僕は、昼間父さんに言われた言葉を思い出した。
『あの二人を守る事の出来るのは・・君だけなんだ・・』
ロウソクを消そうとして顔を近づける僕を、皆の優しい視線が包んでいた。
僕は、僕の愛する人たちを守りたい・・僕はそう実感した。
ふっ
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 02D
第2話【二人の乙女のコンチェルト】Dパート
ロウソクの火は消えた。 そしてそれは、新たなる時代の幕開けであったかも知れない
奇しくも、今シンイチの脳裏に浮かんだその言葉は、24年前にシンジが発した言葉と同じであった
電気が付き、盛大なパーティーが始まった。
第2話Dパート 終わり
次回予告!
シンイチに自分の想いを伝えたアヤとミライ・・
だが、シンイチからは未だに確かな返事を、
貰っていない二人は、あせりを感じる・・
その想いが、運命を捻じ曲げてしまった。
次回 裏庭セカンドジェネレーション
第3話【心の闇に潜むもの】Aパート!
第3話Aパート に続く!
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