裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 04A

第4話【湖畔に響くシンフォニー】Aパート


「明日よねぇ ママが帰って来るの」
ミライがトーストを手に持ってアヤさんに言った。

「そうね 今度のは永かったからねぇ」

「パパも、ママが帰って来て嬉しいでしょ」

「そりゃまぁな」

「あ、パパ照れてる」

「さ、そろそろ時間だね・・おいシンイチ君どうした?
この間から、いつも表情が暗いぞ」父さんが僕を覗き込んだ。

「・・いや何でも無いです」僕は鞄を持って立ち上がった。


昼休み

僕はミライと屋上で弁当を食べる為、座っていた。

「今日はサンドイッチなのよ はい」

「ありがとう」僕は弁当を受け取って、蓋を開けた。

「頂きます」僕はサンドイッチを食べながら、青い空を見ていた。

・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・

「ねぇシンイチ」

「何?」

「私にも教えてくれないの? こないだから変よ・・シンイチ」

「・・・・・」僕は何と言っていいか分からず、くちごもった。


「私にも言えないの? ねぇ・・シンイチ」

少し視線をそらそうとした僕の顎に手を触れた。


「・・・・」

「ねぇ・・あなたシンイチよね・・そうだと言ってよ・・いつもみたいに、笑ってよ」

「ミライ」

「なんだか・・あの日から・・シンイチじゃ無くなったみたい・・」

「私の気持ち知ってるのに・・何も言ってくれないし・・私も不安なのよ・・分かって欲しいな・・」

「ごめん・・」

「そうよね・・・アネキの方が女らしくて、いいよね・・
私はいつも口うるさいだけ・・私なんか・・」

「ミライ・・」

「アネキの学校・・3日前は休みなんかじゃ無いのよ・・朝、お兄さんが高等部に行ってる子に聞いたのよ・・」

「それ・・ホント?」

「シンイチにウソ言ってもしかた無いじゃ無いの・・」

「3日前・・何があったの・・あの真面目なアネキが学校休んだのよ・・何かあったんでしょ・・シンイチ」

「何も無かったよ・・」

「嘘よ」

「どうして・・」

「私見たのよ・・シンイチの事が気になったから、お昼休みに学校抜け出して家に見に行ったのよ・・
ドアの隙間から、アネキとシンイチが抱き合ってる所が見えたのよ・・」

「あれは・・」

「私は見てるのが辛くなったから、学校に戻ったのよ・・」


「別に責めてる訳じゃ無いけど・・私の気持ちに何の答えも出してくれないのに・・」

「ごめん・・」

「謝らないでよ・・私が惨めになるから・・謝らないでよ

「だけど・・僕はミライの事・・決して嫌いじゃ無いよ・・それは分かってくれるだろ・・

好きか嫌いか? と言われたら 好きだと答えると思う・・僕はまだ心の整理が付いて無いんだ。

だから・・そういう意味では、ミライもアヤさんも同じなんだよ・・ただ・・この前は・」

「言い訳なんか聞きたく無いわよ・・シンイチのバカっ」

ミライは立ち上がって、駆け出して行った

キーンコーンカーンコーン

昼休みの終了のベルが鳴り始めたので、僕は弁当箱を袋に入れて、教室に向かった。

「今は・・何を言っても無駄だな・」ミライの性格を知り尽くしている僕は、呟いた。

午後の授業も終わり、僕達は家路についていた。

ミライはあれから、一度も口を聞いてくれなかった。


「どうしたの? 夫婦喧嘩でもしたの?」

お互い、無言のまま歩いていると、後ろから声がした。

「教頭先生」

「葛城教頭先生!」

僕達は少し驚いた。


「まぁまぁ、外ではミサトでいいわよ」

「で、今日の夫婦喧嘩は何が原因なの?」

「そ、そんな・・」

「シンイチと私はそんなんじゃ無いわよっ」

ミライはそう叫んで走って行った。

「あらら・・これは大変ねぇ」

「何言っても聞いてくれないんですよ・・」

「アスカの子供ねぇ〜 よく似てるわ」

「追いかけないの?」

「どうせ家でしょう・・」

「どうしたの?浮気でもしたの?」

「だから、そんなんじゃ無いんですよ・・」

「血は争えないわね・・ホントに・・」葛城教頭先生が呟いた。

「あ、そうそうシンジ君は国語の先生達のミーティングよ 遅くなるかもね」

「シンジ君ですか・・あっそうか 父さんも教え子なんですよね」

「いくつになっても、シンジ君は変わらないわ・・強くはなったけどね・そう・・家族を守る・・そういう強さよ

「あ、そうだ!こないだシンイチ君誕生日だったの、伊吹先生が聞いて、残念がってたわよ」

「どうしてですか?」

「はぁ〜 あなたも鈍いわね・・マヤはね・・ショタコンなの・・だからあの年で結婚・・」

「コホン」

すぐ後ろで咳払いが聞こえた。

「あ、あら伊吹先生・・奇遇ね」葛城教頭先生は急に態度を変えた。

「教頭先生・・・ちょっとお話があるんですが・・」

「あ、こんにちわ 伊吹先生」

「それじゃね シンイチ君・・」

伊吹先生は僕に微笑みながら、葛城教頭先生をどこかに引っ張って行った。


「口は災いの元・・か・・」

僕は一人で家路についた。

「ただいまぁ〜」僕は玄関の中に入った。

「ミライの靴はある・・よかった・・」

「お帰りなさい シンイチ君」

「ミライは?」

「帰って来てから、自分の部屋に行ったけど・・喧嘩でもしたの?」

「アヤさん・・」

「どうかしたの?」

「3日前・・学校休みじゃ無かったと言うのは本当ですか?」

「・・・そうよ・・シンイチ君が気になったから・・嘘付いたの・・」

「そ、そんな・・」

「そんなに気に病まないでよ 私が好きでした事なんだから・・」

「もうご飯出来たから、ミライを呼んで来てね・」アヤさんはキッチンに戻って行った。


とんとんとんとん

僕は階段を上がって、二階についた。

自分の部屋で、鞄を置き、服を着替えて、部屋を出た。

コンコン

「ミライ・・いるんだろ・・ご飯だよ」

「わかってるわよ・・」

「・・・・」

僕は刺激したく無かったので、下に降りて、アヤさんを手伝った。

準備が出来て食卓に料理が並んだ頃、ミライは少しはれぼったいまぶたのまま現れた。

(泣いてたのか・・)

僕は心が痛んだ。

「さ、食事にしましょ」

重苦しい雰囲気の中で、僕達は黙々と食事をしていた。


そして食事が終わり、後片づけをアヤさんがしている間・・

僕はリビングで本を読んでいた。

ミライはTVを見ていた。

「さぁ洗い物は終わったし・・シンちゃん お風呂入ったら?」

「ん〜今日はいいです」

「シンちゃん・・ね」ミライが視線を合わさずに呟いた。

「じゃ、ミライ入りなさいよ」

「ねぇ・・お姉ちゃん・・・一緒に入ろう・・」
ミライが珍しく”アネキ”と言わずに、少し上目遣いでアヤさんを見ていた。

「いいわよ はいりましょ」

「うん」


「じゃ・・僕は部屋にいます」僕は階段を上がって行った。

「・・・・」僕はベッドの上で、横たわって精神を集中していた。

手の中には、ミライとアヤの髪の毛を握っていた。

風呂の排水溝の網にかかっていた、短めのミライの髪の毛と黒くて長めのミライの髪の毛・・
兄さんに言われて、取っておいた その媒体・・

二人の会話が僕の頭の中に聞こえて来た。


「ねぇ お姉ちゃん・・お姉ちゃんの胸・・大きいね・・
男って・・やっぱり大きい方がいいのかな・・」

「やっ くすぐったいわよ ミライ」

「触らせてよ」

「ミライだって、中学生なのに、結構育ってるじゃないの・・」

「あんっ」

「いい形だと思うわよ・・」


悶えるシンイチ by Hiroki
あまりの言葉に、僕は精神集中が途切れそうになっていた。


「ねぇ・・シンイチはやっぱり・・お姉ちゃんの方がいいんだね・・

私から見てもお姉ちゃんはスタイルいいし、可愛いし家事も得意だし・・

お姉ちゃんに比べたら、私なんて・・・」

「何言ってるのよ・・ミライ・・泣いてるの?」

「私なんか・・私なんか・・シンイチに嫌われても仕方無いのよ」

「シンちゃんはそんな子じゃ無い事ぐらい分かってるでしょ」

「一度したら・・シンちゃん呼ばわりするんだね・・前はシンイチ君って呼んでたのに・・」

「なっ 何言ってるのよミライ! そ、そんな事して無いわよ」

「嘘・・」

「どうして・・そういう事言うの?」

「私見ちゃったんだもん・・シンイチと抱き合ってる所・・」


アヤとミライ by Hiroki

「・・・シンイチ君も不安なのよ・いろいろとね・・」

「だから、身体許したの?」

「ちょっ もう誤解しないでよ・そりゃ、シンイチ君が私の胸で泣いた事は認めるけど

そこまでは、いって無いわよ・・」


「ホントにホント?」

「私は身持ちが固いのよ・・・・・相手がシンイチ君なら別だけど」

「やっぱり、お姉ちゃんもシンイチの事好きなんだ・・」

「高等部で言い寄って来る男の子は一杯いるけど、どうも趣味に合わないのよ・

と言うか、身近にシンイチ君みたいな気になる子がいたら、無理無いけどね」


「後で、あの時は惜しい事したかなっとは想ったけどね

 もうちょっと押せば落とせたかもね・・

けど・・そんな感じじゃ無かったのよ・・あの時は・・あまり言えないけど、

私の事が好きだって言うより・・お母さんの影を追ってるのよ・・わかる?」


「シンイチはマザコンだったの?」

「お母さんの顔も知らないし、14年も会って無いのよ 無理無いでしょ」

「それもそうね・・」

「そっか・・よかった・・お姉ちゃん大好き」

「もう・ゲンキンねぇミライは」

「さ、背中流してあげるわ」

「ありがと お姉ちゃん」


僕は、ようやく安心して、髪の毛をしまい、眠りにつこうとした。


だが・・あんな会話を聞いてすぐに眠れる中学生がいたら見て見たいものだ・・

それは、シンイチにとっても例外では無かった。


「ホントに最低だ・・・俺って」


第4話Aパート 終わり

第4話Bパート に続く!


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