CHAPTER 04D
第4話【湖畔に響くシンフォニー】Dパート
そして、翌朝
服を着て、下に降りると丁度父さんがレンタルしていた大型のエレカが到着した所だった。
「おはようシンイチっ!」
ミライが嬉しそうに荷物を玄関にまとめていた。
「まだ運ぶものあるかな?」
「もう少しあるみたいよ」
「じゃ手伝って来るよ」僕はリビングに移動した。
「おはようございます!アスカさん アヤさん」
「おはよう!シンちゃん」アスカさんが答えた。
「お母さんったら、おはようシンイチ君」
「運ぶもの無いですか?」
「じゃ、そのクーラーを持って行ってくれる?」
「わかりました」僕はクーラーバッグを下げて、玄関先に移動した。
数分後
「この、エレカ・・タイヤ付いてるんですか?」
僕はタイヤの付いたエレカを見たのは初めてだったので、少し驚いた。
「シンイチは見た事無かったかい?昔の車には全部付いてたんだよ」
「これ、じゃガソリン車ですか?」
「そうじゃ無いけど、収納可能なタイヤだからね・・どうしても悪路の場合、
車体に傷が付きそうな時には役に立つんだよ」
「向こうじゃ、タイヤの付いた車多かったよ」ミドリさんが言った。
「そうだね ジャングルでは、エレカは役に立たないからねぇ」
「なるほど!」
「さ、積み込みましょ」
10人は軽く乗れる、キャンピングタイプのエレカに、荷物を積み込んだ。
「じゃ、集合場所まで行こうか」
僕達は乗り込んだ。
運転席と助手席 そして一列目から3列目のシートには3人ずつ座れるので充分だった。
「私・・酔うから後ろの端・・いいですか?」ミドリさんが後ろの端のシートに座った。
「昨日は疲れてたからだと思うよ!気分悪くなったら窓を開けたらいいよ」僕はミドリさんに助言した。
「じゃ、そうします」
1列目の奥にはミライが座っていた
「ほらシンイチ!座りなさいよ、後ろ開けとかないと後から来た人座りにくいでしょ」
「そうだね」僕はミライの横に座った。
「ミライったら」アヤさんが笑みを浮かべて、僕の横に座った。
運転席には父さんが座り、助手席にはアスカさんが座った。
「それじゃ、集合場所に急ぐか」
ヒューーン 反重力エンジンがかかり、車体が少し浮き上がり、
メインエンジンがかかり、エレカは動きはじめた。
全てのエレカは、交通センターのマシンとリンクしていて、
事故防止の為に、強制ブレーキなどを行う事もあるが、交通事故で亡くなる人は、大幅に減ったそうだ。
エレカは、ほぼ時間どおりに、学校の裏手のガソリンスタンドの近くに止まった。
ガー 扉が開いて、ムサシ・ケイタ・鈴原さん・風谷さん・山岸さんが入って来た。
二列目に男二人と山岸さんが座り、三列目に女性二人が座り、ミドリさんを含めて三人が並んでいた。
「碇先生!今日はお招きありがとうございます!」ケイタが父さんに頭を下げた。
「おいおい今日は、教師じゃ無くて、単なる保護者だよ!
但し、酒なんか飲んだら、教師に早変わりするかも知れんがな」父さんが笑った。
「まぁ初めての人もいるだろうし、自己紹介でもするか・・私は碇シンジ。」
「私が碇アスカよ、宜しくね」アスカさんが微笑んだ。
「若けー ホントに、アヤさんとミライを産んだんか」ムサシが呟いた
「私は、ミライの姉で、碇アヤです。高等部の二年です よろしく」
「私は、次女の碇ミライです。」
「僕は、碇先生の家にお世話になっている、渚シンイチです」
「シンイチ君は、アヤとミライの従兄弟なんだ。まぁ息子みたいなもんさ」父さんがフォローしてくれた。
「あ、1年A組の、山際シズカです。よろしくおねがいします」シズカちゃんが挨拶した。
「あ、僕は浅利ケイタです。シンイチ君にはいつもお世話になってます」
「俺は、ムサシ・リー・ストラスバーグ 面倒くさいので、ムサシと呼んでくれ」
「あ、私は樹島ミドリです。碇先生の所にご厄介になってます」
「ちょっと事情があって、ご両親が日本に帰るまで、預かってるんだ」
「私は、鈴原キヨコです 宜しくお願いします」鈴原さんが頭を下げた。
「風谷ミツコです。引っ越して来たばかりですが、宜しくお願いします」
「風谷さん、もっと涼しい格好すればいいのに」鈴原さんが風谷さんに言った。
彼女は、僕達みたいな半袖で無く、長袖の厚目の生地の服を着ていた。
「それじゃ、出発するよ!2時間ぐらいで着くと思うから」父さんがエンジンを始動させた。
車は、第三新東京市を抜け、郊外に向かっていた。
「ねぇねぇパパ!どんな所に行くの?」ミライが運転席の父さんに声をかけた。
「丁度、私と、アスカとレイが、中学二年だった時にね・・父さんと母さんに連れられて行った場所なんだ。」
「もう、24年も前なのに、まるで昨日の事のように思うわね」
「そうだったの、じゃお父さんとお母さんの思い出の地なのね」
「そんなものかもね」
約、2時間後
エレカは、山の麓の駐車場に滑り込んだ。
「さぁ30分程歩いて上がるからね」父さんが宣言した。
「皆で手分けして荷物を持ってね!女の子は軽い物を!」
数分後
僕はクーラーボックスの紐を肩にかけて、山を登っていた。
「いい天気でよかったわね・・シンジ」
「そうだね・・アスカ」
「あらら、パパとママったら、いきなり昔の思い出にトリップしてる」ミライが呟いた。
「今日はそっとしておいてあげましょうね・・ミライ」アヤさんが笑った。
20分後
「ここの曲がり道を左に少し行くと沢があるんだよ」父さんが説明した。
30分後
「ふわぁ〜こりゃ奇麗な所だなぁ」ムサシが感嘆した。
小高い山の上は開けていて、一部は更に高い山に連なっていて、まるで張り出したバルコニーのようだった。
「奇麗な湖まである」鈴原さんが呟いた。
「変わって無いわね」アスカさんが少し悲しい目で風景を見ていた。
「うん・・」父さんも、遠い目をしていた。
「さて、シートを広げましょう」アヤさんが持って来た、シートを、皆で広げて敷いていった。
一通りシートを引き、荷物を置いて僕達は座り込んだ。
「気持ちいい・・」ミドリさんはシートの端の方の木に背中を預けて目を閉じていた。
「ボートもあるから、お昼を食べたら乗ったらいいよ」
「喉乾いたなぁ」
「冷たい水ならあるわよ」アスカさんが答えた。
「えーとどこに置いたかしら あ、あった」アスカさんは冷水を入れた大き目のウオータークーラーを手に取った。
「軽い・・あ、栓が緩んでる・・」
「空になってるわね・」
「ごめんなさい・・私が運んだんです・」
「いいのよ、水なら下の沢で汲めばいいし」
「じゃ、水を汲んで来るよ」僕は立ち上がった。
「場所・・わかるわね」アスカさんが僕に空になったウオータークーラーを手渡した。
「あの・・私も責任あるんで・一緒に行きます」
「そんなに気に病む事無いのに・・ じゃ行こうか」
僕と、風谷さんは山を降りて行った。
「すみません・・渚さん」
「いや、いいんですよ・・僕の事はシンイチとでも呼んで下さい」
10分後
「ここから入って行けばいいのか」
僕達は、分かれ道を辿って、沢のある方に歩いて行った。
せせらぎの聞こえる沢に僕達は辿り着いた。
岩から、少し身を乗り出して、手を伸ばさないと水をタンクに入れるのは無理なようだ。
「危ないから、僕がやるよ」
僕は岩の上を這って腹から上を川の上に乗り出して、手渡して貰ったウオータークーラーを水の中に漬けた。
「ふぅ」
ウオータークーラー一杯、水が溜り、風谷さんに手渡した。
「さて」僕は乗り出していた身体を元に戻そうとして身体を捻って上を向いた、その時!
僕は胸を、風谷さんに押さえつけられ、頭が水の中に押し込められてしまった。
ごぼっごぼっ
僕は必死になってもがいていた。
だが、元々不安定な体勢だったので、起き上がる事は出来そうに無かった。
唯一の脱出方法は足を蹴って水の中に飛び込むしか無いのだが、数メートル先に、
滝になっているのを、来る時に見ていたので、それは危険に過ぎた。
僕は息が詰まり、頭に血が登って来た。
こんな所で・・死ぬのか・・
僕は最期の力を振り絞って、両手で、風谷さんの腕を掴み、足で風谷さんの腹を蹴り上げて、
柔道の巴投げのように、風谷さんを川の方に投げ飛ばした。
「キャッ」
僕はようやく空気を吸い込み、身体が流されないように岩のでっぱりを掴んだ。
「風谷さんは・・」
「嫌ぁーー」風谷さんは、川に流され、滝の方に流されていた。
「・・見殺しにする訳には・・」僕は岩から手を離し、川の流れに身を任せた。
風谷さんは、水を飲んだのか、滝の少し手前にある、川から突き出た、岩のでっぱりに引っかかっていた。
僕は、川の端の岩の出っ張りを片手で掴み、片手を、風谷さんに伸ばした。
「片手じゃ・・引き上げられない・・」
僕は腰を落として、急流に負けないように、少しづつ、風谷さんのいる場所に近づいて行った。
流れは強いが、幸い水は腰から少し下ぐらいだったのが幸いであった。
僕は彼女を背負い、川岸に運んで行こうとした。
だが、その歩みは遅々としてなかなか、進まなかった。
数分後
僕は彼女を川岸の岩の上に寝かして、腹を押した。
グッ グッ 数度押す内に、水を吐き出したので、風谷さんの鼻をつまんで、口から息を吹き込んだ。
「けほっ」
「これで・・大丈夫だな・・」僕は岩の上に座り込んだ。
「こんなずぶ濡れじゃ風邪引くな・・」僕はズボンとポロシャツを脱いで、水を絞った。
「彼女もあのままじゃまずいな・・」
風谷さんの水に濡れた、スカートを脱がせて、水を絞り、
厚手の上着を、苦労して脱がせて、水を絞り、
服を彼女に押し付けて、下着の水分を少しづつ取り除いた。
「血が・・」風谷さんの右肩に、まだ新しい刺されたような傷があった。
服を再び絞って、風谷さんにかけてあげた。
「ふぅ・・」僕はため息をついて岩の上で寝転がった。
20分後
「んっ」風谷さんが目をようやく覚ました。
「大丈夫?」僕は起き上がって側まで歩いて行った。
「私・・」
「ごめん・・つい投げ飛ばしちゃって・・滝の手前で君がおぼれてたんだ」
「きゃっ」ようやく、自分の姿に気付いた風谷さんが声を上げた。
「水に濡れてた服を脱がせただけだよ」
「・・・・」風谷さんは、服を身体に押し付けていた。
「何もしてないよ・・」
「昨日・・僕を襲ったのも・・君だね・・」
「・・・・」
「僕は、君に殺されるような理由が思い付かないんだけど・・」
「理由?簡単よ・・あなたが人間じゃ無いからよ・・・」
「・・・・僕は自分の事・・・人間だと思ってるんだけど・・
君がそう言うのなら、そうじゃ無いのかも知れないね・・」僕は昨日のシズカちゃんの脅えた顔を思い出した。
「僕の家族・・父さん・・アスカさん・・アヤさん・・ミライ・・
僕の家族に手さえ出さなかったら、僕は殺されても文句言わないよ・・多分・・」
「だけど・・むざむざ無駄死にはしたく無いんだ・・」
「心まで、化け物じゃ無いのね・・私・・誤解してたかも知れない・・」
「そんなに、化け物かな・・寒い・・ちょっと・あっち向いててくれるかい?」
「どうして?」
「下着はまだ水絞って無いんだ」
「・・わかった」
僕は彼女に背を向けて、まずシャツを脱いで水を絞り、トランクスを脱いで、水を絞った。
足元の焼けた岩の上に下着を乗せた
「奇麗・・」
僕はその声に驚いて、つい振り向いてしまった。
「ご、ごめんなさい・・」風谷さんは、顔を赤く染めて下を向いてしまった。
「父さん・・いや碇先生が言ってたんだ・・ヒトとは違う遺伝子を持つ者も、
ヒトと同じように、涙を流すし、血も流す・・そしてヒトの心を持っているって」
「僕は人間だ・・人間でいたい・・」僕はそう言ってうずくまった。
つい、流れ落ちた涙が、焼けた岩の上で、音を立てて蒸発した。
「泣いてるの?・・」
「好きで・・こんな力を持って産れた訳じゃ無いんだ・・」
「私もそうよ・・私は18才になれば、ハスターに捧げられる運命なのよ・・
その為だけに育てられたのよ・・本当の人間じゃ・・無いわ」
川のせせらぎの音だけが、二人を包んでいた。
シンイチと、ミツコは言葉も無く、佇んでいた。
第4話Dパート 終わり
敵であった、風谷ミツコも、シンイチの涙を見てからは、攻撃しては来なかった。
だが、彼女の、シンイチ暗殺失敗は、新たな局面への呼び水となった。
次回第5話 【人の形心のカタチ】
何をもって、人とそうで無いものを分けるのか・・
刻の涙を知る者こそが、その答えを知っているのかも知れない。
第5話Aパート に続く!
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