「おまえさえ、生き残れば良かったんだ・・偽善者と思うかも知れんが・・偽らざる気持ちだ・・」
「それなら・・シンイチ・・おまえを傷つけなくて済む・・・」
父さんのかまえた拳銃は、風谷さんに向いたままだった。
裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 07A
第7話【夕暮れに一人】Aパート
「父さん・・・駄目だよ・・そんな事・・」
「おまえの記憶も操作させてもらう・・その方がシンイチ・・おまえの身の為だ・・」
「辛い事・・哀しい事を、そんな事で忘れるのは、卑怯だよ・・それに・・彼女も僕も・・人間じゃ無いって事では同じだろ?
なら、彼女を殺すのなら・・僕も殺してよ・・父さん」僕は風谷さんの上に覆い被さった。
「シンイチ・・」父さんは銃を降ろした。
「父さん・・」
「わかったよ・・彼女はNERVで保護しよう・・だが、彼女の記憶は消させて貰うぞ・・・自分がハストゥールの精を受けた母から
産れた事など、知らぬ方が彼女の為だろう・・その力も時間はかかるかも知れんが・・封印しよう」
「ありがとう・・父さん」
僕達はヘリに収容されて、長野を離れた。
「父さん・・生存者はいなかったの?」ヘリの中で、僕は父さんに問い掛けた。
「今確認中だが、全員死亡と見て、間違いないだろう・・
衛星軌道上からの対地レーザーの前には人間なんて、脆いものだ・・」
父さんは、少し哀しそうに言った。
「私の義父さんも・・妹も・・」風谷さんが、両手を震わせながら言った。
「我々NERVも・・眷族や、旧支配者に仕える者だからと言って、無差別に攻撃している訳じゃ無い・・
旧支配者を召喚して、平和を乱そうとする者や、邪悪な儀式を行う者以外に関しては、監視しているだけだ・・」
「・・・」僕は何と言っていいのかわからず、困惑した。
NERVにて
「シンイチ・・彼女が最期におまえと話したいそうだ・・」父さんが、NERV内の病院の控え室にいた僕の元に歩いて来た。
帰り着いて、ヘリから降りた瞬間、足の筋肉がつり、先程まで、足の筋肉の治療をしていたのであった。
肩の傷は、たいした事は無く、消毒とテーピングをしているだけだった。
「・・・」僕は父さんの後をついて、部屋を出た。
「あまり時間はやれんが・・お別れを言って来るんだ・・シンイチ」父さんが部屋の扉を開けた。
部屋の中には、病服を着た風谷さんがベッドの上で座っていた。
後ろでドアの閉まる音がして、室内には、僕と風谷さんだけが残された。
「私・・あなたの事を忘れてしまうだろうけど・・あなたを守れた事だけは忘れたく無い・・」
「風谷さん・・・」
「いいの・・何も言わないで・・・もし、私とどこかで出会ったら・・その時は・・よろしくね・・
きっと・・あなたの事・・わかると思うの・・」そういって、風谷さんは顔を背けた。
「ありがとう・・風谷さん・・」
その時、扉がノックされた。
「僕も・・君の事は忘れないよ・・」僕は哀しみを堪えて微笑んだ。
「渚君・・」
シュッ
背後の扉が開いた。
「記憶操作は早く行なわないと・・完全な処置が出来ないんだ・・シンイチ」父さんが医師と一緒に入って来た。
「うん・・・さよなら・・風谷さん・」僕は目元を押えて、部屋を出た。
・・・・・・・・・・・・・
僕は長椅子に座って、ぼーっとしていた。
僕の命の代りに彼女は、彼女を連れ戻しに来た人の元に戻った・・・
戻ったから、裏切りの代償として、いけにえにされそうになった・・
そのせいで・・彼女の義父や妹さんを・・・・
僕は、昨日聞いたミライの言葉が無ければ、僕の心は壊れていただろう・・
僕は、ミライの言葉を思い出した。
”風谷さんの事・・気にしないでとは、私は言えない・・
でも・・風谷さんが自分から出ていったのは、
シンイチに死んで欲しくなかったからだと思うの・・”
僕は、その言葉を何度と無く、頭の中で繰り返した。
でも・・割り切れないものが残るのは仕方が無かった・・
彼女の記憶は失われるが・・彼女の人間性まで失われる訳では無いと自分に言い聞かせていたが
何を、どう言っても、気休めにしかならない事はわかっていた・・
実際に、風谷ミツコは消えるのだ・・恐らく別の名前と別の記憶が与えられるであろう・・
それは、風谷ミツコの人格が死ぬ事と同意味では無いのだろうか・・・
僕の肉体が滅ぶのと、彼女の心が失われるのと・・どちらが・・良かったんだろう・・
僕は、再び暗い想念に囚われ初めていた。
その時
「シンイチ君・・」背後から、アヤさんの声がした。
「アヤさん・・どうかしたんですか?」
「父さんがね・・シンイチ君は足の筋肉を傷めてるから、エスコートするように言われたの」
「そうですか・・すみません・・」
「帰りましょ・・私達の家に・・・」
「はい・・」
僕はアヤさんに肩を貸して貰って、父さんが回してくれた、黒塗りの車に乗り込んだ。
「ミライはどうしてるの?」
「家で料理してるわよ・・大丈夫かしらね・・まぁお母さんもいるけど・・」
「失礼ですが、ブラインドを降ろします」運転席の男が声をかけると、
車の前と後ろを遮る板が出て来て、完全にどこを走っているのかわからなくなっていた。
暗闇になった車内で、僕とアヤさんは、乗り込んだ姿勢のまま、身体を寄せ合っていた。
(シンイチ君・・心配したんだから・・朝起きたらシンイチ君いないし・・)
「すみません・・」
「怒ってるんじゃ無いのよ・・私もミライも、今日は勉強どころじゃ無かったわ・・
けど・・私達だけじゃ無くて、大勢の人を救ったんでしょう・・私・・シンイチ君の事・誇りに思ってる」
「アヤさん・・」
「私は悔しかったの・・シンイチ君が危険な目にあっているのに・・私は無事に帰って来るのを祈る事しか出来なかった・・」
「僕は・・アヤさんや、皆を守る事が、僕を育ててくれた、父さん・・それに母さんや、アヤさんとミライへの恩返しだと・・」
「シンイチ君・・そう言ってくれるのは嬉しいけど・・出来るだけ・・危険を避けてね・・」アヤさんの手は震えていた・・
「明日・・ゆっくり話をしましょ・・酷い筋肉痛って聞いたから、担任の先生には、もう連絡したの・・」アヤさんが微笑んだ。
「私は・・シンイチ君さえ無事でいてくれたら・・他に・・何も望まないわ・・」
車が止まって、しきりが降りはじめた時、アヤさんが僕の手を握り締めて言った。
「アヤさん・・」
僕達は車を降り、アヤさんの肩を借りて、家の中に入っていった。
{シンイチ・・アヤの言葉の真意がわかるか・・}
{{どういう事?そのままの意味じゃないの?}}
{それじゃ、アヤが可哀相だな・・おまえが、例えミライと付き合おうが、
アヤはおまえが無事でさえいてくれたら、他に何も望まないって言う意味なんだぞ・・}
{{アヤさん・・}}
アヤさんは、そこまで僕の事を想ってくれている・・けど僕はアヤさんに何を求めているんだろうか・・
その夜・・僕は、アヤさんの真意の事が頭について離れなかった。
第7話Aパート 終わり
第7話Bパート に続く!
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