裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 07D
BGM:夕暮れに一人
第7話【夕暮れに一人】Dパート


そして、翌日・・

「シンイチ君・・本当に大丈夫?」
朝食を終えた、アヤさんが立ち上がった。
「ええ、アヤさんは学校行って下さいね・・」

「シンイチ・・無理しちゃだめよ」ミライも一言言って席を立った。

「お昼ご飯は冷蔵庫に入れてるからね」アヤさんとミライは家を出ていった。
「お大事に」ミドリさんもミライ達の後をついていった。

「片づけでもするかな・」僕は朝食で使った食器の洗い物を始めた。

僕は洗い物を終え、居間のテレビを付けた。

”それでは、次はこの体操をしてみましょう 1、2、3、4”ピッ
”げぼげぼ ひろき君のお絵描き教室”ピッ
”それでは、次はこの漢詩を役して見ましょう・・”ピッ
”サダエル・テレビショッピング! 今日の商品はとても便利な、この高枝切り鋏です
2Mの高さの枝でも、ほらこんなに・・”ピッ

僕はテレビを消した。

「一人でテレビ見るのが、こんなに、つまらないなんて・・」僕は立ち上がった。

僕は、何か一人だけ取り残されたような感覚に襲われていた。

「・・昼まで寝ようかな・・」僕は階段を上がって自室に入った。

僕はベッドに横になったが眠気は襲って来なかった。

片手を伸ばして本を一冊抜き出して、ぱらぱらと眺めていたが、本の内容は見ていなかった。

「そりゃそうだよな・・あんな非現実を目の当たりにして・・現実にすぐに溶け込める訳無いか・・」

僕は本をしまって、指で目頭を押えた。

「風谷さん・・もう・・風谷さんは新しい記憶を与えられたのかな・・僕なんかの為に・・あんな・・」

僕はまだその事が気にかかっていた。

実際ミライやアヤさんの言葉や励ましが無ければ、僕は壊れていたかも知れなかった・・

「けど・・考えても仕方無いか・・彼女の命は救う事は出来た・・
辛く・・哀しい過去を忘れて・・幸福になれるかもしれないんだし・・」
僕は自分にそう思い込ませるかのように、その事ばかりを考えていた。

「母さん・・僕は何の為に産れて来たんだ・・何を為せばいいんだろう・・
 幼い僕をここに預けて・・母さんは何を望んでいたんだろう・・


「そういえば・・あの髪の青い少女はどうしたのかな・・母さんに似てる・・少女・・」

僕はとりとめの無い事を考えている内に、眠ってしまっていた。


目が覚めるともう、日が落ち初めていた。

「そうだ・・散歩して来ないと・・」僕はタオルを首にかけて下に降りた。

冷蔵庫の中から、昼ご飯を出して、一人で食べていた。

「何故・・こんなにまで・・脱力感が・・広がるんだろう・・大事な何かを無くしたからかな・・」

僕はもそもそと食べ終えて、箸を置いた。

「昨日は・・アヤさんがいてくれたけど・・」僕は寂寥感を振り切って、家を出た。


ほんの数日前までと同じ町並みが、今の僕には少し違って見えた。

公園で遊ぶ子供達・・それを見守る母親を見ているだけで、何故涙が零れ落ちそうになるのか・・

道行く人々は皆、自分が感じたような哀しみを胸に刻んで生きているのだろうか・・

いつしか、街灯も付き始めた頃・・僕はまだ彷徨していた。

扉が開き、家族の暖かい声に迎えられる者達・・

だが自分は偽りの仮面を被り、偽りの家族と暮らしていると言う事・・

それらが僕の胸を締め付けていった・・



僕は導かれるかのように、手縄山に登っていた・・

あの日以来、姿を見ない、青い髪の少女・・その痕跡のようなものを探しに来たのかも知れない・・

だが、探しても、求めても、その姿は見当たらなかった。

ベンチに腰かけて、西に沈む夕日を見つめていると、何故か涙が後から後から流れていった・・

 父さん・・そして母さん・・アヤさんやミライ・・皆僕を迎え入れてくれる・・
 けど・・僕は本心からは家族に溶け込んで無かったのかも知れない・・・
 いつか迎えに来ると信じていた、本当の家族を待ち続けていただけなのかもしれない・・

僕は首にかけたタオルで涙を拭った。

 せめて・・本当の親など・・知らなかったら・・父さんや母さんを本当の親だと思えていたら・・
 どんなに心が楽だっただろうか・・母さん・・あなたは今・・どこにいますか・・

「僕には・・皆を守る力があったから・・父さんも母さんも育ててくれたのだろうか・・
 力をもし無くしてしまったら・・あの家には、誰も迎えてくれる人は・・」


そんな事を考えていた時・・

「シンイチくーん」

「シンイチぃ〜」


アヤさんとミライの呼び声が背後から聞こえて来た。

僕がここにいるのが、何故わかったのだろうと、僕は内心驚いていた。


「良かった・・探したのよ・・シンイチ君・・」

「もう日が暮れるわよ・・かえりましょ・・シンイチ・・」

「うん・・ありがとう・・けどどうして・・」

「シズカちゃんのお母さんが、シンイチ君を見たんだって・・それで連絡してくれたの」

「そうだったのか・・」

「何よ・・シンイチ・・・泣いてたの?」

「いや・・何でも無いよ・・何でも無いんだ・・」

「シンイチ・・無理しなくていいよ・・哀しい時には泣けば・・少しは楽になるからさ・・」

「今、お母さんが シチュー作ってくれてるから、早くかえりましょ」

僕はアヤさんとミライの暖かい声に励まされて、少し心が楽になっていくのを実感した。


「奇麗な夕焼けね・・」アヤさんが、石段を降りながら、西を向いた。

「夕焼けっていいよね・・一日の少しの間しか見えないけど・・私は夕焼けが好き」ミライもうっとりとした目で夕焼けを見ていた。

「その・・ありがとう・・二人が来てくれなかったら・・」僕は二人に声をかけた。

「いいのよ・・私達・・家族でしょ・・」アヤさんが笑みを浮かべて振り向いた。

「そうよ・・哀しい事も嬉しい事も分け合うものでしょ・・」ミライも、いつになく少し神妙な顔で微笑んでいた。

「・・・」僕は何と言っていいかわからず、只・・胸に暖かい何かが込み上げて来るのを感じた。

「さ、皆待ってるわ・・帰りましょ・・」


僕はアヤさんとミライと手を繋いで石段を降りていった。


その間・・三人の心は繋がりあっているのを感じた。

僕は、今日の事を忘れる事は無いだろう・・



次回予告


心の傷が少し癒え始めたシンイチの前に、立ちはだかる者・・
その者の胸に去来する思いは・・愛か・・無くした夢か・・
それとも・・復讐か・・

次回、第8話【幼姫

らぶ米の次はシリアスっても、某所とは違うんだよ(笑)
シリアスの中にもらぶ米有り・らぶ米の中にもシリアスあり(ホントか?)

ここで一句”裏庭や らぶ米無ければ 読まないぞ 何はなくとも 三角関係”(笑)


第8話Aパート に続く!


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